急速な少子高齢化に伴う医療・介護需要の一層の増大が見込まれるなか,「団塊の世代」が全て75 歳以上となる2025 年を1 つの目安として,「地域医療構想」や「地域包括ケアシステム」の構築,医療・介護人材の確保・養成の強化といった医療・介護の提供体制改革が進められている。
こうした改革を支える新たな財政支援制度として,2014 年度に各都道府県に設置されたのが「地域医療介護総合確保基金」である。この基金は,都道府県が医療・介護の総合的な確保のために実施する事業の経費を支弁するために造成され,医療分として約904 億円,介護分として約724 億円が,それぞれ毎年積み立てられている。しかし,医療分の対象に,病床の機能分化・連携に関する事業だけでなく「医療従事者の確保に関する事業」も加えられ,医療従事者の確保・養成に関わる多数の国庫補助事業が,新しい基金で引き続き実施可能であるとして廃止されたことは,この新しい基金の性格を曖昧なものにしてしまっている。
本稿では,このような現状を踏まえ,各都道府県が公表している事業計画を分析し,次の2 つの知見を得た。第一に,医療分のみが実施された2014 年度計画では,看護師確保対策に重点的な予算配分がなされ,医師確保対策の約2 倍に当たる26.0%の予算が充てられていた。第二に,国庫補助からの継続事業が識別可能な10 都府県分の集計では,2014 年度計画分予算の34.2%が継続事業に割り当てられていた。
このように,継続事業への予算配分は全体の約3 分の1 を占めており,国が国庫補助事業から基金に振り替えられた事業の規模として事前に説明した額(274 億円,904 億円の約30%)が実際に確保された。しかし,2015 年度以降は医療分予算を病床の機能分化・連携に関する事業に重点配分していく方針が示され,国庫補助継続事業は事実上の縮小・廃止を迫られている。国は,地域医療介護総合確保基金で対応可能であるとして国庫補助の廃止された事業の取り扱いについて明確な説明が求められる。
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