種子発芽を向上させることは農作物を生産する上で極めて重要である. 従来, 塩類溶液や親水性高分子化合物など高浸透圧液および植物生長調節剤による物理的あるいは化学的処理方法が種子の発芽を向上させるために用いられてきた. しかし, これらの方法は長時間を要し, なかには複雑な毒性評価試験等を必要とするものもあるので, より安全で有効, しかも簡便な処理方法の開発が望まれている.
古くから, 高電圧環境が植物に及ぼす影響, 人為的な電気刺激が植物の生育や生理機能などに及ぼす影響あるいは植物の電気的特性に関する研究がある. そのほか, 植物に対する
電場
処理という方法も考えられるが, これに関する報告は少ない. Sidaway•Asprey(1968) は直流
電場の下で植物の呼吸が印加電場
の極性によって変化し, 特に正よりも負の
電場
の方が呼吸をより刺激する傾向が見られると報告した. またHart•Schottenfeld (1979) は
電場
処理中において植物先端からコロナが発生することや葉が枯れることを認め, 過度な刺激は生育にマイナスであると報告した.さらに水耕温室でトマトへ電気刺激を与えると早く収穫でき, しかも収穫量が増すとの報告もある(Yamaguchi•Krueger, 1983).
最近, 種子の発芽に対する
電場
の影響に関する研究も見られる. Wheatonら (1971) はトウモロコシおよびダイズの種子を数秒問, 直流正
電場
あるいは交流
電場
で処理した結果, これらの種子の50%発芽に到るまでの時間と
電場
強度との間に負の直線的関係が存在することを指摘した. また近藤•桜内 (1983) はイネ種子の発芽率は印加電圧と付与回数に関係し, 種子に与える単位時間のエネルギー総量の影響を受けると述べている. さらに松尾•坂田 (1994) はニンジン種子を用いて各種
電場
処理が吸水種子の発芽と初期生育に及ぼす影響について検討した結果,
電場
の種類, 強度および処理時間に関係なく, 処理区は対照区に比べて高い発芽率と発芽勢を示したと述べている. これらの研究から, 種子の発芽の向上に
電場
処理方法を利用できる可能性が十分あると考えられる. しかし, これまでの研究は, 数種類の種子に限られ, また用いられた
電場
強度の範囲も少なかった. 特に種子を長時間異なる
電場
強度下で暴露させながら, その発芽力を研究した報告はまだ見当たらない.
本研究では高圧
電場
による野菜種子の発芽率を向上させるため, 周波数60Hzの高圧直流正負
電場および高圧交流電場
を使って,
電場
強度18kV•m
-1から105kV•m
-1までの6段階の
電場
強度を作り, 断続的処理が数種類の野菜種子の発芽に与える影響を検討した.
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