森林基本法では、わが国の森林政策として森林の多面的機能の発揮が求められている。森林・林業基本計画では森林を大きく3つに分け、そのひとつである「森林と人との共生林」は550万haが見込まれている。また、森林のレクリェーション機能に対する国民の期待も高まり、国有林あるいは地方自治体では、レクリェーションの森の整備や里山を利用した保健休養施設などの整備が各地で進められているところである。森林に入ると、ひんやりした空気と木々の発する香りに包まれ、さらに緑の光景に囲まれ、小川のせせらぎや鳥のさえずりなど森林内の音に浸り、生理的にも心理的にもリフレッシュされる。中でも音に関しては、最近、音を中心とした周りの環境を考えるサウンドスケープ(
音風
景)の概念が生まれてきている。そこで、本研究では森林と人との共生林におけるサウンドスケープを考慮した新たな森林管理の構築を目的として、森林の
音風
景である小川のせせらぎが人間に与える心地よさを生理的な面と心理的な面から分析した。
小さな滝、小川、渓流の3種類の
音風
景について、それぞれ音のみと映像付きの2種類の刺激を作り、5分間の暴露試験による主観的印象をSD法で、また、生理的反応を心拍RR間隔の心拍変動性指標で評価した。
SD法の分析結果から、「心地よい」と「不快な」の形容詞対では、滝(音のみ)が「不快な」に偏り、映像をつけることで「心地よい」側に改善された。また、小川が中間、渓流が「心地よい」に偏った結果となった。
心拍RR間隔変動を分析した結果、周波数分析による両対数グラフの回帰直線の傾きは、個人差がみられるものの、音のみの場合よりも映像つきの方が緩くなる傾向が見られた。また、滝よりも渓流の方が傾きが緩くなる傾向もあり、主観的印象との関連が確認された。
高周波域(0.15__から__0.40Hz)の比率は、個人差がかなり大きいが、渓流の音のみと滝の映像つきで高くなる例が見られた。しかし、低周波域(0.05__から__0.15Hz)/高周波域の比率は、これらの条件で反対に低くなっている。これは副交感神経系が活発になり、反対に交感神経系が鈍くなっていることを示し、落ちつきあるいはやすらぎを感じていると評価される。滝の音は、音だけの刺激では無機質な固いイメージを受けたのに対して、映像をつけることによって、その音を認識することができ、音に対する印象がかなり改善されている。この結果から、人間の音に対する認知能力は絶対的なものではなく、かなり情緒的なものが含まれていると考えられる。それゆえ、人間が音を正しく認識するためには、視覚情報が大きな役割を担っており、森林の音を扱う場合には風景も含めた総合体としての
音風
景を考える必要性が確認された。
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