本研究の第1報および第2報を通じて明らかにした溶接アークの最大長さと風速の関係を定量化するため,若干の関連因子をパラメータとする実験式を提唱し,その誘導をはかった.また,溶接アークに対する風の阻害作用の極限として,アークの発生を不能にする限界風速を定義し,実験的にその特性を明らかにし,次のような結果を得た.
(1)被覆溶接におけるアークの最大長さと風速の関係は,風速がほぼ1m/sを越えると双曲線的に変化することが判明し,それにもとづき実験式が誘導された.実験式の係数は電流,被覆剤厚さによって異なる.風速が1m/s以下になると,実験曲線は実験式の示す双曲線からはつれる.
D4303の場合,
120Amp.ではL=23ν
-0.508200Amp.ではL=31/ν
-0.436裸心線の場合,
120Amp.ではL=10.5ν
-0.330200Amp.ではL=17ν
-0.333を得た.
(2)アークの最大長さと被覆剤厚さの関係は,被覆剤厚さtと心線半径rとの比t/rを数変とする場合,放物線的に変化することを確かめ,実験式が誘導された.この場合t=0(心線のみの場合)に近づくにしたがい,実験曲線は実験式の示す放物線からはつれる.
ν=0m/sの場合,
120Amp.ではL=22.71(t/r)
0.174200Amp.ではL=25.70(t/r)
0.170ν=8m/sの場合,
120Amp.ではL=6.31(t/r)
0.226200Amp.ではL=8.49(t/y)
0.217を得た.
この場合,被覆剤厚さについての変数をどのように設定するかで関数関係が若干異なって誘導され,有効な実験式の導入が困難になることが判明した.
すなわち,t/γならびに研削後の被覆剤断面積と最初の被覆剤断面積の比を変数とすれば,実験式はともに放物線を示すが,研削後の被覆剤厚さtと最初の厚さt
maxとの比t/t
maxを変数とした場は,片対数目盛上で直線となり,実験式として複雑になり適用しにくい結果を得た.
(3)アークの最大長さの風による減少比[L
(ν)/L
(o)]と風速の関係は,ほぼ双曲線的関係を示す.裸心線は電流にかかわらず,実験風速の全領域(データ上からは2.5m/s以上)において双曲線に沿うが,被覆剤のある場合は,総体的に双曲線的変化を示すが,厳密さを加えれば,低電流域(120,160Amp.)では高速側または低速側において部分的に双曲線に沿う,若干の変動が見られた.
しかし,高電流域(200Amp.)では裸心線と同様,全風速域で双曲線的変化が得られ,有効な実験式の誘導が可能なことが判明した.
(4)アークの最大長さの減少比と被覆剤厚さの関係は電流をパラメータとした場合,放物線に近似した曲線を画くが,高電流域が曲線の上限を,低電流域が下限を形成した.上阪曲線は風速にかかわらず放物線形状を維持するが,下限曲線は風速が増大すると形状が崩れ,低風速域とは異なる形となる.この場合は有効な実験式の誘導には至らなかった.
(5)風によって溶接アークがかく乱される極限条件として,アークの発生が不能となる限界風速を定義し測定観察した結果,限界風速は通常の被覆溶接棒の使用状況でほぼ30m/sであることが判った.限界風速は電流の増大,被覆剤厚さの増加,電極一母板間距離の短縮によって高い値を示す,被覆剤厚さが減少する初期の段階では限界風速の低下はゆるやかで,曲線的であるが,ある厚さ以下になると直線的に急激に下降する.
電極一母板間距雛が一定の場合,限界風速は溶接棒保持角に依存し,Θ=π/4の方がΘ=π/2の場合より高い限界風速が得られた.これは著者の研究を通じて提起したπ/4保持角の風に対する有効性を立証したものといえる.
抄録全体を表示