1. 合成清酒の生酸腐敗菌は釀造清酒又はその酒母 (水素イオン濃度を適當に調節した場合) に益んに増殖するがこれらが合成清酒の一部として使用された場合は適當な窒素源の補給を缺いても前者では製品合成清酒に對し40%以上, 後者では30%以上を含む時は菌の旺盛な増殖がみられる。即ち合成清酒の配合に清酒, 酒母のやうな釀造物を多量に配合ずることは腐敗の危險がある。混和酒と稱して多量の清酒を合成清酒に混合する場合も勿論である。
2. 合成清酒にペプトンのやうな細菌の榮養に好都合な窒素源が配合されてゐる場合も, これと同時に清酒, 酒母, 糖醗酵液, 葡萄酒, 酵母自己消化液, 糠エキス, オリザニンのやうな補助物質が添加されぬ限りは菌の盛んな増殖はみられない。逆に窒素源が十分補給されてゐる場合はその増養液 (合成清酒) にごく少量の生長促進性の補助物質例へば2~5%等ごく少量の清酒が添加されただけで菌の増殖が甚だ活溌となる。即ち菌の發育には生長素が重要な素因をなしてゐることは確實であつて, その爲合成清酒製造にあたつて生長素を多量に合む物質- 例へば糠等を原料とした調味劑を應用することは危險である。
3. 菌の生長素は清酒, 酒母液の外酵母自己浩化液, 糖醗酵液, 葡葡酒, 赤糠エキス, オリザニンなどにも合まれこれらを培養液 (合成清酒) に添加するときは火落菌類の増殖が盛んとなる。故に古清酒粕 (此は酵母の自己浩化が行はれてゐる), 糖醗酵液, 糠などを合域清酒の調味劑として多量に配合することはよほどの注意を要する。
4. 只, 生長素が補給されてゐる培養基 (合成清酒) でも窒素源としてペプトンを使用せす, ペプトンの硫酸にする加水分解物, グルタミン酸ソーダの軍用等の場合には菌の増殖鳳甚だ緩慢となる。
5. 以上の各項から菌の完全な増殖の爲には適當な窒素源と生長素的補助物質の二元的の素因が必要であることが明である。
6. 生酸腐敗菌増殖の適温は25~35°附近である。
7. 生酸腐敗菌増殖の水素イオン濃度に關する好條件はpH45~5.5程度である。
8. 生酸腐敗菌の増殖は酒精によつて阻害され, その濃度が20%(容量) 附近では困難であるが16-18%程度では未だ盛んな増殖をみる。
9. 以上の事實から生酸腐敗菌の増殖困難な (火持の良い) 合成清酒を製造するには配合する窒素源の質と量とを吟味し, 又菌の生長素の混入を極力防止することが肝要である。尚この研究は山田正一博士の御懇篤な御指示と御指導とのもとに行つたものである。こゝに謹んで深甚の謝意を表する。
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