われわれは通常飼育近交系マウスの口腔で
Enterococcus faecalisが最も優勢な細菌種で, しかも本菌はマウスにおける齲蝕原因菌であることと,
Staphylococcus xylosusが次に優勢な常在菌であることをすでに明らかにしている。
そこで, 本研究では, 無菌近交系マウス (齲蝕感受性; BALB/cA, 齲蝕抵抗性; C 3H/HeN) に, 通常飼育マウス口腔に優勢な細菌種 (
E. faecalis,
S. xylosus) を単独, あるいは2種混合して接種したモデルを作成し, 細菌の口腔内への定着に系統差があるかどうかを検討した。その結果,
E. faecalisは単独, あるいは
S. xylosusとの混合接種にかかわらず, 口腔内では歯に特異的に定着しやすいことが明らかとなった。また, マウス系統間では
S. xylosusの定着パターンに差はないが,
E. faecalisはBALB/cAにおいての方が定着しやすいことが示された。さらに, Hydroxyapatite (HA-) beadsに吸着する両系統マウスの唾液タンパク質をSDS-PAGEで比較したところ, HA-beadsに結合する複数のバンドが検出された。これらのうち, 45kDa付近のものが最も吸着性が強いと思われ, C 3H/HeNの方がBALB/cAよりもわずかに分子量が大きかった。次に唾液吸着HA-beadsで菌体付着試験をしたところ, BALB/cA唾液タンパク質の方に付着しやすい傾向が認められた。したがって, HAに吸着する唾液タンパク質が
E. faecalisの付着および定着に関与していることが示唆された。また, 唾液存在下における
E. faecalisの菌体凝集反応は, 両系統の唾液においてもみられるが, BALB/cAにおいての方が凝集反応が強いことが観察された。さらに, 無菌マウスの唾液を用いて,
E. faecalisを培養するとBALB/cAの唾液の方が菌の増殖が著明であった。以上の結果からC 3H/HeNよりもBALB/cAの唾液の方が,
E. faecalisにとって定着・増殖に有利に働くことが示唆された。
抄録全体を表示