東京都と千葉県に所在する常緑広葉樹林において,外生菌根菌の子実体発生状況に関する調査を行った.また子実体を確認した調査日から子実体形成に関係する温度条件を推定し,調査地間また種間の子実体形成温度条件の差異に関する解析を行った.
調査は2000年から2003年にかけて国立科学博物館付属自然教育園(東京都港区),千城台北(千葉県千葉市若葉区),東京大学付属千葉演習林(千葉県君津市)において行った.さらに2006年に
高滝神社
(千葉県
市原市
),坂戸神社(千葉県袖ヶ浦市)および諏訪神社(千葉県館山市)においても同様の調査を行った.
子実体の発生が確認された調査日より前20日間の平均気温を子実体の形成に関与する温度条件と仮定し,同一の種について調査地間の平均気温の差異と,複数の種について種間の平均気温の差異を分散分析(ANOVA)によって解析した.
複数の調査地に発生が確認されたシロハツモドキ(
Russula japonica),コテングタケモドキ(
Amanita pseudoporphyria)およびキニガイグチ(
Tylopilus ballouii)に関して気温条件に有意な差は示されなかった.また、子実体発生が確認された調査日が4日以上あったシロハツモドキ,ニセクサハツ(
Russula pectinatoides),コテングタケモドキ,キニガイグチ,チチタケ(
Lactarius volemus)およびケショウハツ(
Russula violeipes)に関して,ニセクサハツの子実体形成気温条件はキニガイグチおよびコテングタケモドキの子実体形成気温条件よりも有意に低い傾向が示された.
以上の結果から常緑広葉樹林内において外生菌根菌は調査地の所在にかかわらず特定の子実体形成温度条件を備えており,その温度条件が種によって異なっていることが示唆された.
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