【目的】哺乳類において排卵後に形成される黄体は,妊娠が成立しなかった際に機能と構造を急速に失う (黄体退行)。Matrix metalloproteinases (MMPs) の主な作用は細胞外基質 (ECM) の分解であり退行期に黄体組織中の MMPs 発現が増加することが知られているが,MMPs の産生源,発現調節機構,さらに MMPs の生理的役割は不明である。我々は黄体退行時に黄体細胞がリンパ管を介して卵巣外へ流出することで黄体が急速に消失することを報告したが (PLoS One, 2014),その機構は明らかでない。黄体細胞がリンパ管へ流出するためには黄体細胞が黄体組織から分離される必要があることから,本研究では黄体細胞が MMPs を産生分泌し,ECM を分解することでリンパ管へ流出するという仮説を立て,黄体細胞における MMPs 発現ならびに黄体退行因子の及ぼす
MMPs mRNA 発現への影響を検討した。【方法】黄体退行因子として prostaglandin F2α (PGF), 腫瘍壊死因子 (TNF) および interferon-γ (IFNG) に着目した。中期黄体より酵素的に単離した黄体細胞 (2.0×10
5 cell/ml) に PGF (0.01, 0.1, 1 μM),TNF (0.05, 0.5, 5 nM) および IFNG (0.05, 0.5, 5 nM) を添加し,24 時間後の
MMP-1,
MMP-2,
MMP-9 および
MMP-14 mRNA 発現を real-time RT-PCR 法を用いて調べた。【結果】黄体細胞における
MMP-1 mRNA 発現は PGF ならびに IFNG によって有意に刺激された。
MMP-9 mRNA 発現は PGF (0.01 μM) 添加区において濃度依存的に有意な上昇がみられた。PGF,TNF ならびに IFNG は
MMP-2 および
MMP-14 mRNA 発現に影響しなかった。本研究により黄体細胞に
MMPs mRNA 発現が確認され,その発現は PGF ならびに IFNG によって刺激されることが明らかとなったことから,黄体細胞由来の MMPs が黄体細胞周囲の ECM を分解することで黄体細胞のリンパ管への流出を促進し,急速な黄体消失に貢献している可能性が示された。
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