大造の第XI染色体の一方をK遺伝子を有する他の系統の第XI染色体と置換し, その染色体に関しヘテロで維持している大造K系統を用いて, K遺伝子と2, 3量的形質との関係, 特にそのヘテローシスに及ぼす影響について研究を行なった。
大造K系統を雌として, これに大造の雄を交配し, 分離するコブ個体(K/+) と正常個体(+/+) との5令起蚕体重および全繭重などを比較すると, 常に前者が10~20%大である。このような差異は第II(pS), III(Ze), IV(L), VI(EKP), IX(Ia) および測 (U) 染色体を置換した大造系統ではみられず, 第IX(K)染色体の特異的現象と考えられる。大造K系統に種々の正常系統を交配した組合せについて, 分離したK/+と+/+個体の体重比をみると, 大造を交配した組合せよりもそれが大なるもの, 同程度のもの, およびやや小なる場合があり, これは雄に用いた正常系統の第IX染色体と大造のそれとがヘテロになった場合のヘテローシス程度の差によるものと思われる。
そこで大造K×大造および大造×大造Kの2種の組合せをつくり, 分離するK/+と+/+個体の体重や全繭重などを比較した結果, 前者の組合せでは例外なくK/+>+/+であるのに,後者の組合せでは蛾区によってK/+が+/+に比してやや大なる場合と, ほとんど差異がない場合があった。このような結果は大造K系統にみられるヘテローシスの現象が第XI染色体のK遺伝子座位以外に存在する遺伝的要因によって生起されているように考えさせられる。しかし上記2種の組合せにおける標準偏差および変異係数には相違がみられないこと, ならびに上述した大造×大造Kの組合せでK/+個体の体重の平均が+/+のそれよりも大なる場合があることなどから, このヘテローシスにK遺伝子座位が全く無関係であるとはいいきれない。
さらに大造K系統の同蛾区内交雑から分離した+/+, K/+およびK/K個体の間で相互交雑をつくり, 体重の比較を行なった結果, +/+を母親とした交雑から分離したK/+よりもK/+あるいはK/Kを母親とした交雑から分離したK/+個体の方が体重がやや重く, 母体の影響があることがわかった。
以上の実験結果からカイコの第XI染色体には体重のヘテローシスに関係するいくつかの遺伝的要因が座位しており, それはK遺伝子座位以外にもあるものと推定され, またそれらの遺伝的要因は卵細胞質にも影響を及ぼし, それとの関連において発現されるものと考えられる。
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