本研究は,高温環境(33°C)と快適環境(26°C)に馴化したラットにγアミノ酪酸(GABA)のアゴニスト,ムシモール(muscimol)を投与して刺激された採食に対するアミノ基転移酵素阻害剤,エタノールアミン-O-硫酸塩(EOS)の影響を調べたものである.ムシモールを側脳室内(250ng)に投与すると,両環境下で採食行動の誘発が観察された.ムシモールを側脳室内に投与した場合,高温環境下の採食量は快適環境下の採食量よりも少なかった.また,GABAアンタゴニスト,ビククリン(bicuculhne)を側脳室内に投与すると両環境下で採食行動が刺激されたが,高温環境下の採食量は0.68g(n=14)であり,快適環境下の採食量1.36g(n=14)よりも少なかった(p〈0.01).快適環境下において,EOSとムシモールを側脳室内に投与されたラットの採食量の平均値は4.4g(n=5)であり,ムシモールのみを投与されたラットの採食量2.8g(n=5)よりも多かった(p〈0.05).高温環境下においては,EOSとムシモールを投与された群とムシモールのみを投与された群の間に採食量の差はなかった.高温環境下において,EOSとムシモールを側脳室内に投与されたラットの採食量は2.6g(n=4)であり,快適環境下よりも少なかった(P〈0.01).これらの結果は,ムシモールがアミノ基転移酵素で分解されること,および,高温環境と快適環境間の採食量の差は,少なくともムシモールによって刺激される採食行動に関する限り,アミノ基転移酵素活性の変化によるものではないことを示唆している.さらに,環境温度の変化に対して採食量を調節する機構には,GABAニューロンとは独立したニューロンが関与している可能性がある.
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