哺乳類のハーダー腺を次のように定義する: 内腔の広い管状胞状の終末部をもち, 脂質を開口分泌によって分泌する眼窩腺である.
ハーダー腺は有袋類, 真獣類を問わず, 多くの哺乳類にある. しかしその研究はほとんど
齧歯目
, 兎目のみで行なわれており, 今後これ以外の目, とくに有袋目, 食虫目での研究が望まれる.
ハーダー腺は, 原則として, 内眼角の第三眼瞼に近く, 1本の導管を開く. ただし鯨目は例外であって, 内外2個のハーダー腺があり, その各々が複数の導管を有す.
齧歯目
, 兎目では, 眼窩静脈洞がよく発達して眼窩内容のほとんどをおおい, そのためハーダー腺の表面は平滑である.
ハーダー腺の終末部は管状胞状で広い内腔をもち, 導管系はきわめて発達が悪く, 通常の組織切片ではほとんど見ることができない.
齧歯目
ではしばしば2種類の腺細胞が同一腺房内に現われるが, その意義は不明である.
ハーダー腺は脂質を開口分泌によって分泌する唯一の例である. 脂質を含む分泌空胞が細胞内で形成される過程は, いまだに不明である.
ハーダー腺の脂質は,
齧歯目
および兎目の場合, おもにグリセリル-エーテル-ジエステルないしワックス-エステルであり, 皮脂の成分に近い.
齧歯目
にしばしば見られるポルフィリンの意義は不明である.
ハーダー腺の機能は, 哺乳類の中でもおそらく様々であって, たとえば水生哺乳類では眼の保護,
齧歯目
や兎目では皮脂腺あるいは誘引臭腺としての機能が考えられる.
哺乳類ハーダー腺の系統発生に関しては, この腺の形態や発生, また下等動物の組織像との比較から, この腺が哺乳類になって成立したものと推測される.
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