新潟県中越地方は典型的な活褶曲地帯であり,地殻変動が激しい.このうち,魚野川流域では段丘地形が発達しており,信濃川との合流地点で低位段丘の発達が著しい.一方,2004年新潟県中越地震において斜面変動が集中した芋川流域にも段丘が部分的に存在するが,発達状況は良くない.筆者らは同地区において,段丘編年のため幾つかのテフラ分析を行ったので,その結果を報告する.芋川流域では上から1面~8面の段丘が存在し,芋川3面のローム層中から火山ガラス,角閃石などが検出された(小荒井ほか:2011).Choi et al.(2002)が破間川の段丘でテフラAb-t1を検出した層準のテフラを分析したところ,芋川3面のテフラと主成分化学組成が一致したため,芋川3面のテフラはAb-t1に対比される.芋川1面のローム層の中段からは立川ローム上部ガラス質火山灰(
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)と同様の主成分化学組成を示すテフラが検出された(小荒井ほか,2012).幡谷ほか(2006)は魚野川のLf4面から浅間-草津火山灰(As-K)を報告しているが,筆者らが同層準のテフラを分析したところ,
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に対比可能な主成分化学組成値が得られた(小荒井ほか,2012).As-Kも
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も共にほぼ同時期に浅間火山から噴出したテフラと考えられる.そのため,As-Kの模式露頭である群馬県吾妻郡長野原町の浅間大滝(竹本,1996)において採取した軽石を分析した.本露頭では2層の顕著な降下軽石層が確認され,下位が板鼻黄色軽石(As-YP)で層厚が約20cmあり,上位が草津黄色軽石(As-YPk=As-K)で層厚が1mある.芋川1面のテフラ,魚野川Lf4面のテフラ,
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の標準試料,As-YP,As-YPkの主成分化学組成は類似しており,主成分化学分析からは
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とAs-Kを区別することは難しい.一方,榛名山南麓の高崎市中室田の露頭では,同様に2層の降下軽石層が確認でき,下位の軽石層は層厚が40cm,上位の軽石層は厚さが連続せず離散的である.2層の軽石層は化学組成的には区別が難しいが,顕微鏡下での観察では下位の軽石と上位の軽石とで鉱物組成の量比的な違いが明瞭である.下位の降下軽石As-YPは浅間火山から東方に厚い分布軸を持つのに対し,上位の降下軽石As-YPk(=As-K)は北方に厚く分布することから(町田・新井,1992),魚野川周辺で小荒井(2012)が化学組成から
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に対比したテフラは,As-Kの可能性が高いと考えられる.
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