台風の衰弱機構を解明するため,1961年10月中国大陸に上陸し急速に衰弱した台風6123号(Tilda)の資料を用い,定量的解析を行った.
この台風の衰弱期において,上層のwarm core型の温度場は著しく変型する.台風の運動エネルギーを生成するためには,warm core型の温度場が維持されねばならないのであるから,このwarm coreの前壊は,台風の衰弱の大きな要因であると考えられる.台風を含む気柱について計算した凝結の潜熱の解放量は,温度場の変形に伴い,減少する.これよりwarm coreの崩壊は,台風域内の対流活動の消長と密接に関連していると推定される.この解析の主たる目的は,上記のwarm coreの崩壊と台風域内の対流活動の消長との関係を解明することである.
このため,熱力学第一法則と水蒸気の連続関係をそれぞれ独立に用いs熱及び水蒸気の収支を計算し,衰弱期においては,熱及び水蒸気の対流による上方輸送が著しく減少していく事を確認した.
次に潜熱の解放の垂直分布を決定しようと試みた.この解析によりs上層(500mb以上)の解放量がwarm coreの崩壊に伴い,著しく減少する事が注目された.上層に於ける主たる熱源は,hot towerと呼ばれる非常に背の高い積乱雲であると想定されるので,この結果は,衰弱期においては,この積乱雲が急速に減少し,その結果warm coreを維持する事が不可能となることを示すものと考えられる.最後にこの積乱雲の活動の消長が,下層の流入層における水蒸気の移流により支配されている事を示す.
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