1. はじめに<BR> 大学の地理教育において、巡検は座学のみでは実感しにくい自然環境や地域構造などを理解させるための役割を有している。巡検に参加する学生は、興味を持ったことや教員の解説の内容などのメモを取ったり、写真を撮影したりする。本研究では、撮影された写真などの現地で記録されたデータを用いて、巡検の評価を行うための手法を検討する。これまでも巡検終了後のアンケート調査などから、その学習効果に言及する研究は存在したが、巡検が行われている最中にも刻々と変化する興味や関心を測定するためには、現場で得られる情報を利用する必要がある。そして、参加者が興味や関心を抱いている対象を明らかにできれば、より学習効果の高い巡検を組み立てることができるだろう。<BR><BR>
2. 利用するデータ <BR> 巡検の行程中には、引率をする教員や参加者である学生からいくつかのデータを得ることができる(表1)。 <BR> まず、巡検の移動ルートに関しては、教員にGPSロガーを持たせることによって、1秒単位で移動経路を記録することができる。同時に
IC
レコーダー
を持たせることによって、教員による解説の内容も記録することができる。さらに、これら2つの情報を組み合わせることで、教員がどの地点で解説を行ったのかも明らかにできる。<BR> 次に、参加者の関心を示すものとして、巡検中に撮影された写真がある。参加者に撮影してもらった写真を分析する手法はVEP(Visitor-Employed Photography, 写真投影法)と呼ばれ、公園の管理や観光地の景観の研究に利用されてきた。本研究では、参加者にGPS付きのデジタルカメラを利用してもらうことによって、それぞれの写真をどの地点で撮影したのかを明らかにすることができる。また、写真だけでなく、参加者がメモを取るのに利用したフィールドノートや、提出されたレポートの内容を分析することによって、学習の程度や効果を測定することもできると考えられる。以上のほか、巡検中に調査者がその様子をビデオカメラで録画することで、巡検のルートの周辺環境や参加者の隊列などを記録することができる。<BR><BR>
3. 撮影された写真と解説地点の関係<BR> 巡検の評価手法を検証するために、本研究では、首都大学東京都市環境学部自然・文化ツーリズムコースの講義の一環で行われた2つの巡検を対象に調査を行った。巡検の1つは2014年12月7日に埼玉県所沢市の狭山丘陵周辺で行われ、もう1つは2015年7月12日に東京都世田谷区の成城地区で行われた。ともに教員1人に対して20人ほどの学生が約3時間の行程で地域をまわるものであった。 <BR> 所沢市の巡検において、学生によって撮影された全1,223枚の写真の撮影地点について、カーネル密度推定を行った結果、教員による解説が行われた地点における写真撮影密度が高いことがわかった。また、解説が行われている間と行われていない間に参加者1人が1秒間あたりに撮影する写真の平均枚数を比較すると、解説が行われている間は7.88×10
-3枚(2分7秒間に1枚)、解説が行われていない間は6.13×10
-3枚(2分43秒間に1枚)であり、空間的にみても時間的にみても教員の解説は学生の視覚的な関心を高めていたといえる。<BR> 以上のほか、解説内容やレポートの記述を分析した結果などを本発表で報告する。本研究における巡検の評価をするためのデータは、機器などが揃っていれば巡検の行程にほとんど影響を与えることなく容易に取得できるものであり、参加者の関心を直接的に反映したものであるといえる。単なるアンケートによる調査だけでなく、種々のデータを組み合わせ分析を継続することによって、現場レベルでの教育活動の改善につながると考えられる。
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