ネットワーク中立性に関する規制は各国で異なるが、日本においては、共同規制的なアプローチが採用されることがネットワーク中立性に関する研究会等で確認され、現在に至るまで、モニタリングや指針の作成をマルチステークホルダープロセスで行ってきている現状にある。米国においては、ネットワーク中立性規制がオバマ政権で強化され、トランプ政権下においては緩和され、バイデン政権で新たに規制強化される可能性が高くなっている。EUにおいては、ネットワーク中立性の維持が重要な課題とされ、特にゼロレーティングサービスについても厳しい欧州司法裁判所の判決が出ている。
本稿は、ネットワーク中立性規制に関連した米国の現状とEUの規制の展開をみた上で、ネットワーク中立性の維持は大事であるが、それに対するアプローチは各国で異なっていてもよいことを確認している。また、各国とも規制の背景事情が異なり、日本においては、通信の秘密という制約があるために、それほど問題となってきていないこと、かかる規制の現状はユニークだということもできるが、このような規制体系のうち、有効なものは国際的な議論の遡上に乗せることも可能ではないかということを提案している。
すなわち、ネットワーク中立性の問題を考えるにあたっては、これまで検討されてきた我が国の原則だけに拘泥する必要はないが、インターネットへのアクセスを維持することが、なによりも、民主主義の基礎を支える言論の自由にもかかわる重要な問題であることを常に意識して検討を進めていく必要がある。この観点からは、国際社会に対してインターネットへのアクセスを保障することの重要性を、日本において検討するネットワーク中立性規制の方向性とともに国際的に発信していくことも重要である。
また、ネットワーク中立性問題と関連して、プラットフォーマーに対する規制をどうするのかといった新たな問題も生じている。これらについては、ネットワーク中立性の重要性と合わせて引き続き考えていく必要がある。
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