【はじめに】橈骨遠位端骨折患者の関節可動域における、橈骨手根関節と手根中央関節可動角度および運動割合を健常者と比較、検討した。その制限因子を靭帯の働き、手根骨の運動性に着目し考察を試みた。【対象と方法】対象は橈骨遠位端骨折患者8例(男性2名、女性6名、平均年齢67.3歳。保存的療法4名、創外固定4名。発症より5週以上経過した者)とした。方法は、対象に対し手関節最大背屈および最大掌屈位を側面(橈側)よりX線撮影を行なった。角度の測定は1.橈骨手根関節(橈骨関節面に対する月状骨の角度変化:計測は橈骨遠位関節面の掌側端-背側端を結ぶ線および月状骨同点を結ぶ線によりなす角度)(以下radiocarpal joint:RCJ)2.手根中央関節(月状骨に対する有頭骨の角度変化:計測は月状骨遠位関節面の掌側端-背側端を結ぶ線に対する有頭骨同点を結ぶ線によりなす角度)(以下midcarpal joint:
MCJ
)とし、それぞれの角度変化およびその運動割合について計測した。比較対照群として健常成人10例(男性3名、女性7名、平均年齢28.7歳)について同様の計測を行なった。【結果】1.最大背屈および最大掌屈位におけるRCJ、
MCJ
の角度変化および運動割合について1)最大背屈位でのRCJ対
MCJ
の角度変化(割合)は疾患群で27.9°(61.1%):17.0°(38.9%)、対照群で30.5°(44.4%):38.7°(55.6%)であり、疾患群および対照群の
MCJ
の角度で有意な差を認めた(p<0.01)。 運動の割合についてはRCJおよび
MCJ
で差を認めた(p<0.05)。2)最大掌屈位でのRCJ対
MCJ
の角度変化(割合)は疾患群で13.0°(36.3%):23.6°(63.7%)、対照群で23.4°(36.5%):43.4°(63.5%)であり、両者のRCJおよび
MCJ
の角度で差を認めた(p<0.05)。2.1)および2)からみる手関節可動域においては疾患群背屈44.9°、掌屈36.6°、対照群では69.2°、66.8°であり疾患群でのROMの低下を認めた。【考察】橈骨遠位端骨折後の関節拘縮は、橈骨手根関節および手根中央関節についての運動性を考慮する必要がある。正常運動における両者の可動原理は複雑であり、多くの関節運動が関与する。本研究における結果では最大背屈・最大掌屈の際、RCJ に比し
MCJ
でその制限の要素を多く示した。背屈および掌屈における遠位手根列間に至る力源は、橈骨月状骨靭帯・舟状骨月状骨靭帯・背側橈骨手根靭帯らを通じて、また手根骨の形態学的特性を介して近位手根列間へ伝達される。これらの運動性リズムの破綻が関節運動性低下を誘起したと考えられる。
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