ラットを用い,虚血時および再還流時の坐骨・脛骨神経の血流変化と後肢運動機能について検討した。腎動脈より末梢の腹部大動脈遮断では,遮断時の坐骨・脛骨神経の血流量は半減するものの,後肢の機能障害はないか軽度で,2時間の阻血後,血流再開により機能は完全回復した。再還流中の神経血流は坐骨神経の遠位部と脛骨神経で,正常より増加していた。一側の総腸骨動脈と大腿動脈の同時遮断では,後肢の重篤な機能障害を来した。同部位で3時間血行遮断した後再還流した群では,血流再開1時間後の後肢機能は部分的に回復した。阻血中の脛骨神経血流量は,4匹中3匹で動脈結紮中3ml/min/100g以下と著しい減少を来し,再還流後は平均29.4ml/min/100gと正常の約2倍にまで増加した。阻血中の血流がもっとも減少した脛骨神経で再還流時の血流増加がもっとも多かった。一方,坐骨神経近位部では阻血中の血流の減少,再還流中の血流増加ともに変化が軽度であった。虚血後再還流中に末梢神経の血流増加がみられたとの報告はこれまでになく,きわめて重要な知見と考えられる。今後,血流遮断後の神経障害を論ずるには,本研究のように虚血中と再還流時の神経血流を定量し,血流変化を証明したうえで,運動機能や神経伝達速度などの臨床的指標との関係を検討していく必要がある。
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