コンピュータシミュレーションを用いて太陽熱冷暖房の経済性を検討し,経済的に成立するための要因を明らかにしてゆくための研究である.しかし,経済性を論ずる前に,まず太陽熱冷暖房が省エネルギ効果を発揮するためには,どのようなシステムや機器が開発されるのが効果的であるかを調べ,つぎにそれらが経済的に成り立つかどうかを検討してゆくのが筋道であると考えた.検討対象システムとしては,割合一般的であると思われる吸収冷凍機を用いた二つのシステムを選んだ.その一つは蓄熱そうを持たない方式で,太陽集熱量が不足のときは補助ヒータで夏は再生器への温水を加熱し,冬は温水を加熱するシステムである.もう一つは高温側蓄熱そうをもつ方式で,その出口側に補助ヒータのあるシステムである.まず大局をつかむ必要があること,またシステム用機器は今後大幅に改良されてゆく期待のあることから,シミュレーションモデルとしてはかなり理想化されたものを用いた.建物の負荷を求めるためには,レスポンスファクタ法による非定常熱負荷計算を用い,夏期・冬期各々一ヵ月間の時々刻々の値を算出した.またシステム側は設定冷温水温度,蓄熱そう容量,集熱面積,集光度を変動要素とし,また機器の改良要素としては集熱器の効率向上,蓄熱そうの改良,冷凍機のCOPの向上,冷却塔の性能向上(改良要素の検討はほとんどつぎの機会にゆずった)を主に考え,結局冷房92ケース,暖房32ケース,計124ケースのシミュレーションを実行し,太陽依存率やシステム成績係数などを求め,およそつぎのような結果を得た.(1)暖房の省エネルギ効果についてはi)蓄熱そうのない閉ループ形のものでは,システム成績係数が1をわずかに超える程度で,太陽熱依存率も20%程度であり,大きな省エネルギ効果は期待できない.ii)蓄熱そうがあり,集熱器も負荷に対して十分な大きさのある場合は,システム成績係数が3.0を超すことが可能である.(2)冷房の省エネルギ効果についてはi)特殊な設計をしない限り太陽熱依存率は50%に近づかない.すなわち太陽熱が冷房の主エネルギとはなり難く,システム成績係数は併用される熱源の効率に強く支配される.ii)集光形および選択面をもつ平板形集熱器以外の場合,システム成績係数は1.0内外である.第1報においては,2.1節において検討対象として取り上げた空調システムの概要と運転条件を述べ,2.2節において集熱器,吸収冷凍機などの機器の数学モデルを説明し,2.3節では対象建物の概要を記している.シミュレーションは,二つの目的のために二つの手順を用意した.一つは空調全負荷累積値のうち太陽熱で処理したい割合の目標値を設定した場合,どの程度の集光面積を必要とするかをみるためのシミュレーションであり,一つはシステム内の各要素の値が太陽熱で処理される負荷の割合-太陽熱依存率,システム効率(建物内に加えられる冷房または暖房効果kcalをシステムにインプットされた外部エネルギ(購入するもの)kcalで割ったもの)に及ぼす影響を調べるシミュレーションである.第3章では,以上二つのシミュレーションの計算手順を述べている.シミュレーションの結果を整理したものは,紙面の関係で第2報に記載する.なお本研究は,通産省のサンシャイン計画の委託研究として空気調和・衛生工学会の太陽熱暖冷房委員会が行った研究の一部である.
抄録全体を表示