先ず毎日のデータを使って,冬の日本海から大気に供給される熱量及び水蒸気量を大気の熱収支から求めた6前の論文(12)で日本海に寒気の吹き出しが卓越するときの変質を議論したが,ここでは同じ計算を冬全体について行った結果を述べる。従って,エントロピー及び水蒸気の流入量流出量の計算,放射冷却及び凝結の潜熱の解放量等の見積り法の詳細は前の論文(12)を参照されたい。前にも述べた様に,周辺を密な観測網で囲まれた日本海はこの種の研究にはもってこいの場所であろう。得られた結果を簡単に述べる。
1955年1月及び2月について顕熱供給量を得たが平均約555cal/cm
2/dayで相当大きな値である。これは放射によつて逃げる熱量或いは凝結の潜熱発生量の数倍になる。尤も前に求めた典型的な吹き出しの時(1554年12月下旬)の顕熱供給量1030ca1/cm
2/dayに比べればずっと小さい。この事は又気象状態に応じて供給量がかなり大きく変動する事を暗示している。
一方同じ冬について平均蒸発量を計算した。即ち約5.6mm/dayでこれを熱量に換算すると約340cal/cm2/dayとなる。ここで興味ある事は,顕熱供給量が潜熱供給量を遙かに上廻つているという事である。この傾向が水温と気温との差の更に大きい典型的吹き出しの時一層顕ちょになるという事は前の論文(12)を参照すればわかる。ところがこの期間の日本海での平均ボーエン比を計算して見たが,吹き出しのときと同様ほぼ1に近い。この違いは,冬の日本海の様な不安定なところでは,恐らく対流が非常に盛んで熱と水蒸気とが必ずしも古典乱流論で仮定した,ように同じメカニズムで供給されていない事を暗示している様に思われる。
次に上の計算結果を確かめるため,冬の日本海水の熱収支の計算を行った。既にW.Jacobs氏(10)及び宮崎氏(13)は,海の一年間の熱収支をもとにしてエネルギー交換量の経験式を出したが,ここでは冬期について収支計算を行った。従って冬期の水温変化のデーターを用いたが,この点が彼等の場合と違う点である。その結果大気の熱収支から得られた全エネルギー供給量に近い値を得る事ができた(約880cal/cm2/day)。ここで気付いたのは,エネルギー供給係数が安定度によつてかなり違うらしく,従ってJacobs氏或は宮崎氏が年平均のエネルギー供給係数を使って求めた値は,冬の日本海の様な不安定な場所では,かなり実際より小さいらしいという事である。
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