高血圧と左室肥大のある冠動脈疾患例では突然死の頻度が高いとされるが, 高血圧性心肥大と突然死の原因とされる急性心筋梗塞発症直後の致死性不整脈との関連について検討した報告は少ない.われわれは高血圧性心肥大と急性心筋梗塞発症直後に出現する致死性不整脈との関連を明らかにする目的で高血圧自然発症ラット (SHR) を用いて覚醒下に冠動脈結紮を行い, 結紮後早期の不整脈の発生状況を同週齢の正常血圧ラット (WR) と比較検討した.また結紮後の心電図変化も分析した.対象は16-18週齢のSHR20匹, 同週齢のWR21匹で血圧を測定後, 人工呼吸下に左側開胸し, 左冠動脈近位部に結紮糸を掛け, その両端を体外に出し閉胸した.数日後, 覚醒下に冠動脈を結紮し, 標準肢誘導心電図を結紮後20分間記録した.冠結紮24時間後, 心臓を摘出し病理標本を作製した.梗塞部位はmyoglobin染色にて同定し, 梗塞サイズは左室全面積に対する梗塞面積の比率で表した.出現した不整脈の分析は心室期外収縮 (PVC) , 心室頻拍 (VT) の出現率と出現個数, 心室細動 (VF) の出現率について行った.心電図は第I誘導のQR間隔, R波高, ST上昇の程度, ST交互脈の出現率を単位時間毎に検討した.平均血圧はSHR 176mmHg, WR 109mmHgで冠結紮前心拍数はSHR477/分, WR447/分で冠結紮後30秒でSHR平均22/分, WR13/分増加し, 以後減少した.心筋梗塞サイズはSHR39%, WR33%でSHRが大きい傾向であった.冠結紮後の不整脈はSHRでは1分以内, 3分以後の2相性に出現し, WRも同様の傾向を認めた.1分以内のPVCとVTの出現率はSHRがWRに比し有意に多く, 1分以内のVFはSHRのみに認められた.また冠結紮後1分以内のPVC数, VT数はSHRが有意に多かった.冠結紮後, 両群ともにQR間隔の延長, R波高の増高, STの上昇, ST交互脈が直後から認められた.R波高の増大率, ST上昇の程度はいずれもSHRがWRに比し有意に大きく, QR間隔の延長率はSHRが大きい傾向にあった.ST交互脈の出現率はSHRがWRに比し有意に高かった.冠結紮直後の心室性不整脈がSHRに高率に出現する理由は冠結紮後の心筋虚血の程度がSHRでWRより強いことが示唆され, その機序には心筋梗塞サイズ, 心拍数の影響その他が考えられた.
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