これまでの癖,生活環境,過用,不良姿勢,誤った運動パターンに加え,既往歴(外傷,障害,手術)が複雑に絡み合い,筋膜機能異常が生じます。
筋膜機能異常とは,筋膜高密度化・基質のゲル化・ヒアルロン酸凝集化の3つが原因として生じます。筋膜は,膜に強度と形態を与えるⅠ型コラーゲン(膠原)線維と,形態記憶性と伸張性を与えるエラスチン(弾性)線維からなり,これらは,いずれも姿勢と運動のコントロールにとって重要な要素です。
筋膜マニピュレーションは,一方向の筋力が収束する筋外膜上の点である協調中心(Centre of Coordination:CC)と,幾つかの深筋膜(腱膜筋膜)の単位の力が収束するより幅広い領域または点としての融合中心(Centre of Fusion:CF)を治療対象とします。
このCCとCFは,イタリアの理学療法士Luigi Steccoを中心に発見された点で,解剖学・生理学的なエビデンスも示された明確な点です。このCCとCFが存在する分節は,体幹に5分節,下肢に4分節,上肢に5分節あります。筋外膜からは筋線維の一部が深筋膜に入り込みます。そのことによって,深筋膜がこれらの14分節をつなぎ合わせます。その配列は,CCによる6通り,CFによる対角線4通り,螺旋4通りの合計14通りの配列になります。そのどの配列に問題があるかが,治療においては重要になります。
そのため,まず問診にて,診断名,手術歴,X線・MR所見,疼痛部位,急性か慢性か反復か,疼痛を伴う運動,異常感覚,随伴疼痛,時系列での既往歴を聞き取ります。その問診内容から,治療を必要とする配列と,治療に重要な分節の仮説を立てます。この仮説を検証するために,運動検証と触診検証(比較触診)を行い,全身14通りのどの筋膜配列に問題があるかを明らかにした上で,その配列に沿って何カ所かの治療を行います。
治療は,動筋と拮抗筋のバランスを取り,筋膜全体のバランスを回復することが大切になります。治療によって筋膜を正常な配列に再構築することで,筋・筋膜痛解消,筋出力・柔軟性・ブルンストロームステージ・運動パフォーマンス・ADLの改善に効果が生じることになります。
今回は,これらの基礎的な内容に加え,治療例についても講演いたします。
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