GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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THE ROLE OF COLONOSCOPY IN THE MANAGEMENT OF CHRONIC CONSTIPATION
Makoto SANOMURA Kazuhide HIGUCHI
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2021 Volume 63 Issue 1 Pages 7-17

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要旨

便秘症は一般診療で遭遇する機会の多い疾患であり,近年,慢性便秘症が生命予後に影響することが示され,便秘症診療が注目されている.慢性便秘症と大腸癌の関係について,便秘という要因だけで大腸内視鏡検査を施行した場合,大腸癌など有意所見の発見率は増加しない.大腸黒皮症患者では,大腸内視鏡検査による大腸腫瘍の発見率は増加する.また慢性便秘症と大腸憩室症について有意な関連はないとされている.慢性便秘症診療における大腸内視鏡検査は,大腸癌をはじめとする器質的疾患および大腸黒皮症,孤立性直腸潰瘍症候群/粘膜脱症候群,宿便性潰瘍など便秘症に関連する大腸疾患の診断に有用である.また内視鏡的バルーン拡張術,大腸ステント留置術,内視鏡的盲腸瘻造設術など便秘症に対する内視鏡治療の役割も担っている.

Ⅰ はじめに

慢性便秘症診療ガイドライン 1の発刊,ルビプロストン 2),3,リナクロチド 4),5,エロビキシバット 6,ポリエチレングリコール(polyethylene glycol:PEG) 7),8など新しい治療薬の登場により,本邦の便秘診療は大きく変貌した.慢性便秘症は一般診療で遭遇する機会の多い疾患であるが,これまであまり重要視されていなかった.近年,便秘症は生活の質や労働生産性に影響を及ぼす 9だけでなく,生命予後にも関与すること(Figure 1 10が報告された.この原因として,心血管疾患死亡リスクとの関連 11,慢性腎臓病の累積発生率の増加 12などが指摘されており,慢性便秘症診療が注目されている.

Figure 1 

便秘症の有無による生存率の比較.

調査対象:20歳以上の米国人3,933例.調査方法:消化器症状評価を用い生存状況を15年間追跡調査(文献10より一部改変して引用).

慢性便秘症診療における大腸内視鏡検査は,大腸癌をはじめとする器質的疾患や便秘症に関連する大腸疾患の診断,便秘症に対する内視鏡治療などの役割を担っている 13.本稿では,慢性便秘症および大腸内視鏡検査の位置付けについて概説する.

Ⅱ 慢性便秘症

1)疫学

平成28年(2016年)国民生活基礎調査による本邦の便秘の有訴者率は,男性2.5%.女性4.6%と明らかな性差を認める.特に50歳以下の若年層では女性に多く,男女とも加齢に伴い有訴者率は増加し,70歳以上では男女比がほぼ1:1となっている.欧米における有病率は15%程度とされ,男女比は1:2で本邦と同様に加齢とともに有病率が増加している 14

2)診断

慢性便秘症診療ガイドライン2017において,便秘は「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義された 1.またRome Ⅳの診断基準 15では過敏性腸症候群を除外しているが,実際の日常臨床では慢性便秘症の原因のひとつとして過敏性腸症候群があると考えた方が合理的である.そのため慢性便秘症診療ガイドライン2017の慢性便秘症の診断基準(Table 1 1ではRome Ⅳに記載されている「過敏性腸症候群の基準を満たさない」と「下剤を使用しないときに軟便になることはまれである」の条件は除外されている.

Table 1 

慢性便秘症の診断基準(文献1より一部改変して引用).

便の性状については,ブリストル便形状スケール(Figure 2 1),16)~18が頻用されている.慢性便秘症患者において,便形状および排便頻度はQOL(Quality of Life)の向上に関連し,ブリストル便形状スケールType 4の正常な便形状が特に重要な因子である 19

Figure 2 

ブリストル便形状スケール(文献11618より一部改変して引用).

3)分類

慢性便秘症の診断において,まず二次性便秘(Table 2 1),20の鑑別を行う必要がある.慢性便秘症はその原因から器質性・機能性に,症状から排便回数減少型・排便困難型に,病態から大腸通過正常型・大腸通過遅延型・便排出障害に分類される(Table 3 1.器質性便秘とは,大腸の形態的変化を伴う便秘であり,狭窄性と非狭窄性がある.機能性便秘とは,大腸の形態的変化を伴わない便秘であり,排便回数減少型と排便困難型がある.大腸通過正常型は大腸が糞便を輸送する能力が正常で,大腸通過遅延型はその能力が低下している.機能性便排出障害は機能的な病態により,直腸にある糞便を十分量かつ快適に排出できない便排出障害のために,排便困難や不完全排便による残便感を生じる便秘である 1

Table 2 

二次性便秘を引き起こす疾患(文献120より一部改変して引用).

Table 3 

慢性便秘症の分類(文献1より一部改変して引用).

Ⅲ 慢性便秘症における大腸内視鏡検査

1)大腸内視鏡検査の適応

医療面接では,症状(排便回数,便性,腹部症状,肛門症状など),病歴,併存疾患,内服薬,既往歴の聞き取りを行う.特に下剤,坐剤,浣腸使用の有無を確認し,排便リズム,朝食摂取の有無,トイレ環境について聴取する.警告症状と危険因子(Table 4)について確認し,大腸内視鏡検査または注腸X線検査や血液検査などの検査を施行して(Table 5),腫瘍性疾患や炎症性疾患を鑑別する 1),13)~22

Table 4 

警告症状と危険因子(文献1より引用).

Table 5 

慢性便秘症患者に対する大腸内視鏡検査の適応(文献22より一部改変して引用).

米国消化器内視鏡学会(ASGE:American Society for Gastrointestinal Endoscopy)のガイドライン 13では,直腸出血,便潜血陽性,鉄欠乏性貧血,体重減少,腸閉塞徴候のある便秘症患者に対して大腸内視鏡検査が推奨されている.大腸癌による閉塞,狭窄,壁外性圧排の診断にも大腸内視鏡検査が考慮される.またHirschsprung病の診断には,直腸粘膜生検による神経線維の増生と神経節細胞の欠如の確認が有用である.

大腸内視鏡検査の前処置不良の要因として,年齢,男性,入院患者,糖尿病,高血圧,肝硬変,麻薬常用者,便秘,脳卒中,三環系抗うつ薬服用者が挙げられる 23.通常の前処置では便秘症患者の1/3以上が前処置不良となり,ブリストル便形状スケールType 1,排便中の直腸肛門痛なし/軽度,PEG服用から初回排便までの時間(4時間以上)が独立したリスク因子とされている 24.排便習慣の検討では,排便回数(0-2回/週)と排便時のいきみが前処置不良と関連している 25

2)慢性便秘症と大腸疾患

a)慢性便秘症と大腸癌

慢性便秘症が大腸癌発生のリスクを増加させるかどうかについては不明である 1.大腸癌リスクが上がるとする報告 26)~28や下剤使用により大腸癌発生リスクが上昇するという報告 29があり,後方視的コホート研究 30では1年後の大腸癌罹患率は便秘群2.7%に対して非便秘群1.7%と便秘群で有意に高かった.一方,機能性便秘の患者は大腸癌リスクを増加させないとする報告もある 31.Powerら 32による28件のメタ解析(横断研究8件,コホート研究3件,症例対照研究17件)の検討のうち,横断研究(オッズ比0.56,95%信頼区間0.36-0.89)とコホート研究(オッズ比0.80,95%信頼区間0.61-1.04)の解析から,便秘症患者において大腸癌の発生は増加しないとしている.大腸癌患者は便秘症を有するリスクはあるが,便秘という要因だけで大腸内視鏡検査を施行した場合,大腸癌など有意所見の発見率は増加しないと報告されている 33)~35

b)慢性便秘症と大腸黒皮症

大腸黒皮症(melanosis coli)は,大腸粘膜のアポトーシスが誘発され,粘膜固有層にリポフスチン(黄褐色色素顆粒)を貪食した組織球が出現し,びまん性に黒色の小斑が多発して大腸粘膜が褐色から黒色調を呈する状態をいう(Figure 3).便秘症治療薬であるアントラキノン系緩下剤に起因することが知られており,原因薬剤を中止することにより改善する.大腸黒皮症により重篤な病状が出現することはないが,アントラキノン系薬剤の長期服用により筋層間神経叢が障害されて腸管機能が低下するといわれている 36),37.また腫瘍細胞には色素沈着がないため,大腸黒皮症患者では背景とのコントラストにより,大腸内視鏡検査による大腸腫瘍の発見率は増加する 38)~43.低異型度腺腫は増加するが,大腸癌では有意な関連性はない 42),43という報告もあるが,アントラキノン系薬剤が長期間,大量に投与されれば,大腸腫瘍の発生リスクを高める可能性は否定できない 1

Figure 3 

大腸黒皮症.

a:大腸黒皮症の内視鏡像.

b:大腸黒皮症に合併した大腸ポリープ(低異型度腺腫).

c)慢性便秘症と大腸憩室症

本邦の大腸憩室の保有者の割合は25.8%で,年齢とともに増加する 44.若年の大腸憩室保有者では多くが右側結腸に発生するが,加齢とともに左側結腸の発生率が増加する 45.また便秘症と大腸憩室症についての関連性はない 46)~49とされている.部位別の検討において,左側結腸の大腸憩室では便秘症の頻度が少ないとする報告 48),49もある.

d)慢性便秘症と孤立性直腸潰瘍症候群/粘膜脱症候群

孤立性直腸潰瘍症候群(solitary rectal ulcer syndrome:SRUS)は残便感による過度のいきみ,血便,排便に長時間を費やすなどの排便障害を伴い,直腸に潰瘍,隆起あるいは発赤を認め 50,病理組織学的に粘膜固有層に線維筋症(fibromuscular obliteration)を認める症候群である.便形状が正常から軟便であるにもかかわらず,SRUSの患者は慢性便秘症を有し,しばしば機能性便排出障害の病態を呈する 51.出血例にはアルゴンプラズマ凝固法が有用とされているが,長期経過の検討が必要である 52

本邦ではSRUSが必ずしも潰瘍性病変ではないことから,SRUSと深在性嚢胞性大腸炎を総称して,病因を強調した粘膜脱症候群(mucosal prolapse syndrome:MPS)の名称が広く受け入れられている(Figure 4).MPSは平坦型,隆起型,潰瘍型に分類され,隆起型は肛門管に近い直腸下部に,潰瘍型は中Houston弁の前壁側に好発する.

Figure 4 

粘膜脱症候群(平坦型).

e)慢性便秘症と宿便性潰瘍

宿便性潰瘍は,高度の便秘で腸管内に停滞した糞便塊が粘膜を圧迫し,血流障害を来すことにより発症する褥瘡潰瘍である(Figure 5).好発部位は直腸,S状結腸であり,腸管穿孔の発生部位はS状結腸が多い.症状は血便,腹痛であり,浣腸や摘便などの機械的刺激が発症の契機となることが多い.穿孔は突然の急性腹症で発症し死亡率が高い.潰瘍は単発ないし多発の類円形ないし不整形である.境界は比較的明瞭であり,潰瘍面は周囲粘膜より陥凹するが潰瘍の辺縁隆起はみられず,周囲粘膜の炎症所見も乏しい.急性出血性直腸潰瘍とは異なり,通常歯状線近傍には発生しない 53

Figure 5 

宿便性潰瘍.

直腸Rbに便塊と多発性の宿便性潰瘍を認めた.

f)慢性便秘症と巨大結腸症/慢性偽性腸閉塞症

慢性便秘症の中で,病的な腸管拡張があるものとして,巨大結腸症(megacolon)(Figure 6)と慢性偽性腸閉塞症(chronic intestinal pseudo-obstruction:CIPO)がある.これらは器質的原因がないにもかかわらず慢性的に腸管の病的拡張を生じ,蠕動低下から腸管内容物の輸送障害が引き起こされる疾患で,大腸の病的拡張を示すものが巨大結腸症で,主に小腸の拡張を認めるものがCIPOである.巨大結腸症は便秘,腹痛,腹部膨満感の症状を来し 54,内科的治療で改善が乏しい症例,S状結腸軸捻転を繰り返す症例では外科的治療が考慮される 55.なお慢性特発性偽性腸閉塞症は厚生労働省指定難病に認定されている 56

Figure 6 

巨大結腸症.

a:腹部単純X線検査(臥位正面).

b:腹部単純CT検査(横断面像).

c:腹部単純CT検査(冠状断面像).

d:大腸内視鏡検査所見.

3)大腸狭窄を来す疾患の内視鏡所見

慢性便秘症の分類(Table 3)では,原因分類として器質性と機能性に大別され,器質性は狭窄性と非狭窄性に分けられる.器質性,狭窄性の慢性便秘症として,大腸癌や虚血性大腸炎などが挙げられる(Figure 7 .大腸狭窄を来す疾患の注腸X線造影所見と大腸内視鏡所見の形態学的特徴を示す(Table 6 57

Figure 7 

狭窄を来す疾患の大腸内視鏡所見.

a:びまん浸潤型大腸癌.

b:腸管子宮内膜症.

c:虚血性大腸炎.

d:大腸憩室炎.

Table 6 

大腸狭窄を来す疾患の注腸X線造影所見と大腸内視鏡所見(文献57より一部改変して引用).

4)慢性便秘症と内視鏡治療

a)内視鏡的バルーン拡張術

内視鏡的バルーン拡張術は,内視鏡を介して誘導したバルーンカテーテルを用いて消化管狭窄を拡張する治療手技である.基本的には悪性疾患に伴う狭窄は適応外で,良性疾患による狭窄が適応となる.良性狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術の適応は,①狭窄に伴う臨床症状,②狭窄径10mm未満,③狭窄長が3cm以内,④狭窄部位に活動性潰瘍がない,⑤狭窄部位に瘻孔,膿瘍がない,⑥狭窄部位に強い屈曲がないなどの基準が一般的に用いられている 58)~60.主な合併症は出血と穿孔であり,穿孔の頻度は数%とされる.

b)大腸ステント留置術

大腸ステント留置術は,大腸狭窄に対して自己拡張型の金属ステントを留置する手技である.適応は,大腸癌術後の吻合部再発,転移再発,狭窄症状を伴う切除不能の大腸癌を含めた悪性疾患による狭窄(緩和治療)および,腸閉塞症状を呈する大腸癌で緊急手術回避目的(BTS:Bridge to Surgery)である.穿孔または切迫穿孔を伴うもの,長大または瘻孔などの複雑な狭窄,出血や膿瘍などの炎症を伴っているもの,出血傾向の強いもの,肛門縁に近い下部直腸の狭窄については適応外である.留置時の穿孔率は5%,留置後の穿孔率4%,再閉塞率10%である 61),62.なお大腸ステント安全手技研究会 63から大腸ステント安全留置のためのミニガイドラインが公開されている.

c)内視鏡的盲腸瘻造設術

順行性浣腸法は保存的治療が無効か継続困難な高度の便秘症に対して,人工肛門や大腸切除などの手術を回避するための治療法である.虫垂瘻もしくは盲腸瘻を造設し,そこから順行性に浣腸して大腸を定期的に空虚にすることにより,便失禁や便秘症などの便排出障害を改善する 1.その方法として,本邦において保険適応はないが,大腸内視鏡と胃瘻用キットを用いて盲腸瘻を造設する内視鏡的盲腸瘻造設術が簡便かつ低侵襲で合併症も少ない 1),64),65

d)内視鏡的便塊除去術

慢性便秘症の治療開始にあたり,便塞栓(fecal impaction)が存在する場合,維持治療の効果が得られにくいため,まず便塊除去(disimpaction)を行うことが重要である 66.便塊除去には安全性と有効性からPEGが第一選択とされており 67,浣腸や坐剤も有効である.便塊除去における大腸内視鏡の役割は大きくない 13が,大きな便塊に対して生検鉗子,把持鉗子,スネア鉗子,三脚鉗子,ガイドワイヤーを使用した報告,外殻石灰化を伴う直腸糞石に対してコカ・コーラ療法が有用であった報告もある.

Ⅳ おわりに

慢性便秘症診療における大腸内視鏡検査は,器質的疾患や便秘症に関連する大腸疾患の診断,便秘症に対する内視鏡治療の役割を担っている.今後,大腸内視鏡検査において器質的疾患以外の点にも着目することにより,慢性便秘症や過敏性腸症候群のメカニズムの解明が期待される.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:佐野村誠(マイランEPD合同会社)

文 献
 
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