Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Preliminary study for safety and effectiveness of lenvatinib used for RAI refractory recurrent and/or metastatic differentiated thyroid carcinoma
Toshiro ShimoKatsuhide YoshidomeMasayuki Tori
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2017 Volume 34 Issue 1 Pages 57-60

Details
抄録

新規チロシンキナーゼ阻害薬レンバチニブの放射性ヨウ素抵抗性分化型甲状腺癌初期使用経験から有効性と安全性について検討した。経過観察期間中央値12±0.7カ月の時点で,奏効率33.3%,病勢抑制率88.9%,臨床的有用率72.2%であった。奏効までの期間の中央値は1±0.3カ月であった。背景因子別効果判定において,他TKI前治療歴に拘わらず有効性を認めた。用量強度が9mg/day以上維持できた例は治療成功期間の有意な延長を認めた。一方,安全性については,全例副作用を認め,特に高血圧は発現率100%であった。しかし,投与開始時の「入院クリニカルパス」のもと予防的対策を含めた加療により重篤な副作用を回避できた。この経験を礎に症例を積み重ねる予定である。

はじめに

甲状腺癌再発転移により切除不能な分化型甲状腺癌(Differentiated thyroid carcinoma:DTC)には放射性ヨウ素内用療法にて病勢制御をはかるが放射性ヨウ素治療抵抗性・難治性DTC(Radioiodine refractory DTC:R-DTC)が存在し治療に難渋し予後不良な転帰をとる。

R-DTCを対象とする第Ⅲ相試験(SELECT試験)[]でレンバチニブの有効性や副作用について報告された。当院では2015年6月からレンバチニブの使用開始しており初期使用18例の有効性と副作用対策を踏まえた安全性について評価した。

対象と方法

投与開始後6カ月以上経過した18例のR-DTCを対象に後方視的に検討。レンバチニブ投与適応基準は,「①組織学的/細胞学的にDTCと確定,②Response Evaluation Criteria in Solid Tumors(RECIST)により病勢進行が確認,③RAI抵抗性,④画像により直径1cm以上の病変を有する,⑤文書による同意可能,⑥最低6カ月以上の予後が期待できる」とした。導入は2週間のクリニカルパスにて副作用管理・教育入院を行っている。クリニカルパスには,「①血圧は治療開始前から1日4検行い日内変動測定し治療開始は収縮期血圧120mmHgとし,降圧不十分であれば心血管リスクや高血圧の程度に応じARB,Ca拮抗薬を併用する。②手足症候群は保湿保護や各種軟膏をあらかじめ処方し塗布を開始し連日観察を行う。③蛋白尿・血小板減少などを含め定期的に検体検査を週に2回行い必要に応じ追加する。④その他,食事指導(減塩食)や退院後の生活指導や副作用出現時の対処法を指導する。」ことをもり込んだ。

使用開始量は24mgとした。治療効果判定は,RECIST v1.1に基づき評価した。治療成功期間(Time to treatment failure:TTF)(イベント:死亡・PD・有害事象による中止)はKaplan-Meier法にてCox-Mantel検定を用い検討した。副作用はCTCAE ver4.0で評価した。高血圧発現時間(収縮期血圧が30mmHg以上の上昇を認めるまでの時間),高血圧回復時間(中止後収縮期血圧改善までの時間)を計測した。用量強度(dose intensity:DI=薬剤総投与量/総投与期間)を計算し治療効果との相関を検討した。便宜的に前期(2015年6~9月)と後期(2015年10~12月)に分類し,後期群では高血圧には①減塩食徹底,②レンバチニブ導入前収縮期血圧120mmHg前後,③降圧剤を用量限度量まで使用,④降圧剤血中濃度が定常状態となるまでは安易なレンバチニブ減量を避ける,⑤自宅で高血圧が発現すれば1~2日休薬し改善したら再開する。などにより血圧調整を厳格化した。他,⑥肝機能障害には肝庇護剤を併用する,⑦血小板減少Grade2があれば1週間休薬し再開する,⑧蛋白尿2+は継続,3+は腎機能障害や浮腫・尿量減少があれば1週間休薬し再開するなど工夫した。前後期の用量強度を比較検討した。

結 果

患者背景:年齢中央値70歳で全例甲状腺乳頭癌にて甲状腺全摘術施行した。DFI中央値3.5年であった。全例に肺転移,9例にリンパ節転移,3例に骨転移,1例に肝転移を認めた。放射性ヨウ素内用療法は全例施行した。TKI既治療はソラフェニブ8例,バンデタニブ2例であった。TKI未使用例8例であった(表1)。肺転移は肺門部や多発病変が1cm以上の場合で,かつ直近の3カ月でPDが確認されている症例であった。リンパ節転移は重要血管近傍や縦隔,特に反回神経走行部位に局在する症例であった。経時的な画像的比較からやや進行が早まり,転移部位による症状を呈すると予測される患者群であった。

表1.

患者背景

治療効果:経過観察期間中央値12±0.7カ月でのレンバチニブ最良治療効果は完全奏効complete response(CR)0例,部分奏効partial response(PR)6例(33.3%),安定stable disease(SD)10例(55.6%)で内7例(38.9%)long SD[23週以上SD持続],進行progressive disease(PD)0例であった。奏効率(CR+PR)33.3%,病勢制御率(CR+PR+SD)88.9%,臨床的有用率(CR+PR+long SD)72.2%で奏効までの期間の中央値は1±0.3カ月であった(表2)。治療開始から2016年6月まででDI中央値9.1±0.8(3.1~14.4)mg/日であった。TKI治療歴有無による効果の差は認められないが,DI9mg/日以上を維持した群で有意にTTF延長(p=0.0366)を認めた(図1a,b)。副作用対策を強化すると前期症例のDI中央値が11.1±1.5mg/日であるのに対し後期症例は13.1±1.1mg/日と有意差は認められないものの若干のDI改善を認めた。

表2.

レンバチニブの最良治療効果

図 1 .

a:TKI前治療別治療成功期間(TTF) b:DI別の治療成功期間(TTF)

安全性:10%以上の頻度で認められた副作用は高血圧(100%),蛋白尿(61.1%),手足症候群(58.3%),肝機能障害(50.0%),血小板数減少(16.6%)であった。Grade3以上では高血圧(94.4%)と手足症候群(8.3%),蛋白尿(8.3%),下痢(8.3%)であった(表3)。高血圧が発現した18例中15例は降圧剤2剤以上での管理し,3例は降圧剤1剤で管理した。全例休薬減量を要し投与中止に至った症例は2例(11.1%)で1例は播種性紅斑型薬疹が出現し休薬中止。1例はC型肝炎治療歴のあるGrade3血小板数減少例で,改善後に減量再開しても再増悪し中止。病勢進行で中止した症例は3例(16.7%)であった。

表3.

レンバチニブの有害事象

副作用としての高血圧の特徴:高血圧発現時間中央値は32時間(8~136時間)であった。治療開始前降圧剤既使用例11例で高血圧発現時間は55.2±13.6時間に対し降圧剤未使用例7例で15.3±4.9時間と後者で有意に短かった(p=0.0383)。全例高血圧により休薬し高血圧回復時間中央値は42時間(8~66時間)であった。降圧剤既使用例38.0±6.3時間,降圧剤未使用例36.0±13.7時間と有意差を認めなかった。

考 察

SELECT試験の日本人の治療成績,有害事象と比較し,当院でのレンバチニブの成績は総じてほぼ同様の成果が得られる可能性が高いと考えられた。最良治療効果において奏効率はSELECT試験63.3%に対し当院33.3%と低率であったが,病勢制御率90%(SELECT)対88.9%,臨床的有用率83.3%(SELECT)対72.2%とほぼ同等であった。当院ではPR33.3%ではあるが,SD26.7%(SELECT)対55.6%で,23週以上の長期SDは20.0%(SELECT)対38.9%で,副作用管理を行いながら長期に病勢制御を行う再発転移甲状腺癌における治療原則を満たす結果であろう。背景因子別解析では,TKI治療歴有無で治療効果に有意差は認められず,55.6%がTKI前治療歴を有していたにもかかわらずレンバチニブが有効であった。SELECT試験でも,約20%にTKI前治療歴を有し治療歴の有無で有効性に差はないと報告されている。NCCNガイドラインでレンバチニブがR-DTCに対する治療オプションと記載されている[]。どの程度の用量強度が得られれば効果を確保できるかは極めて重要である。用量強度とTTFとの相関を検討した。SELECT試験での日本人のDIが10.9mg/日であるのに対し,当院ではDI 9.1mg/日を維持していた。DI 9mg/day以上で有意にTTF延長を認めたことから,レンバチニブ用量は少なくとも10mg以上で効果・副作用含め管理することが好ましいと考える。

副作用については,SELECT試験での日本人有害事象発現頻度や休薬減量率よりやや多かったが,後期症例に適用した様々な工夫により管理上の改善が得られた。高血圧には①減塩食徹底,②レンバチニブ導入前収縮期血圧120mmHg前後,③降圧剤を用量限度量まで使用,④降圧剤血中濃度が定常状態となるまでは安易なレンバチニブ減量を避ける,⑤自宅で高血圧が発現すれば1~2日休薬し改善したら再開する。他,⑥肝機能障害には肝庇護剤を併用する,⑦血小板減少Grade2があれば1週間休薬し再開する,⑧蛋白尿2+は継続,3+は腎機能障害や浮腫・尿量減少があれば1週間休薬し再開する,ことが挙げられる。血圧日内変動の結果から,高血圧発現時期の目安として1~4日目までに多い。降圧剤未使用例で高血圧が早期に発現したが,その機序は不明である。血管内皮細胞のリモデリングなどの関与が示唆される[]。当院ではARBにアジルサルタン,Ca拮抗薬にアムロジピンベシル酸塩を使用した。定常状態までの時間は薬物動態からアジルサルタンが約8日,アムロジピンベシル酸塩が約7日に対し,レンバチニブは15日で定常状態に達する[]ことから,まず降圧剤の追加調整を行い用量維持に努めるべきと考えられる。高血圧回復時間は1~2日と考えられるため,自宅で高血圧による頭痛やふらつきなどがある場合は1~2日休薬し,血圧改善を確認しレンバチニブ同量で再開。それでも高血圧が頻回に出現する場合は一段階減量することを患者教育の一つとして考慮される。

以上の工夫で後期症例でのRDIが改善したことから,クリニカルパスを基礎とした各種副作用に対する厳格かつ綿密な対策によりRDIを維持することがTTF延長に貢献すると考えられる。

おわりに

レンバチニブはR-DTCに対し腫瘍縮小効果が得られ,適切な副作用管理や減量休薬により安全性が担保できる薬剤である。本論文の要旨は第28回日本内分泌外科学会総会(2016年5月,横浜)において発表した。

【文 献】
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top