Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Update on histopathology of adrenal malignancy; adrenocortical carcinoma and pheochromocytoma/ paraganglioma
Yuto YamazakiYasuhiro NakamuraFumitoshi SatohHironobu Sasano
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2018 Volume 35 Issue 4 Pages 232-239

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抄録

副腎皮質癌,褐色細胞腫は副腎に発生する悪性腫瘍であり,専門性の高い診療,病理診断が求められる領域である。WHO分類2017の刊行により,副腎皮質癌では好酸性細胞型亜型,肉腫様亜型,粘液型亜型の3つが新たな組織亜型分類として認識されるようになり,褐色細胞腫では全ての症例において悪性のポテンシャルを有する腫瘍と定義付けられた。それに加え,副腎皮質癌ではENSATの診療ガイドライン(2018)が改訂され,診療方針の変遷が注目されている。近年,副腎腫瘍の領域においても病態発生に関与する遺伝子変異が数多く報告されてきているが,副腎皮質癌では治療標的因子や予後因子となるような遺伝子異常は未解明なままである。一方,褐色細胞腫ではここ数年で,病態に関与する遺伝子異常が数多く発見され,genotypingの重要性が注目されてきている。本稿では,副腎皮質癌と褐色細胞腫・傍神経節腫に焦点を当てて,両疾患における病理・病因の最新の知見を概説する。

1.副腎皮質癌の病理と病因

・はじめに

副腎皮質癌は100万人当たり,約0.5~2人程度の頻度であり,極めて稀かつ悪性度の高い腫瘍である[]。未だ有効な治療法は確立しておらず,治療の選択肢は数少ない。従って,副腎皮質腫瘍の良悪性の鑑別および悪性度を診断する事は適切な治療選択において極めて重要となる。本稿では副腎皮質腫瘍の実践的な病理診断と注意すべき組織亜型,更には昨今,注目されている治療標的因子や予後マーカーについて併せて解説する。

・病理組織診断(形態学的所見の評価)

副腎皮質腫瘍の形態学的所見に基づく良悪性の鑑別指標は1984年に提唱されたWeissの診断基準が現在,最も汎用されている(表1)。Weiss の診断基準には9項目が挙げられており,3項目以上が悪性,3項目未満が良性と判断される[]。しかしながら,Weissの診断基準は診断者間のinterobserver varianceが問題になる事も多く,経験豊富な内分泌病理専門の病理医であっても一致を見ない事も少なくない。これまでに2002年にはAubertらのWeiss revisited score,2015年には形態学的所見に加え,Ki-67標識率を併せたPennanenらのHelsinki scoreなどの代替案が提唱され,遠隔転移の有無に基づく良悪性の鑑別に対しては,Weissの基準(感度:100%,特異度:90.2%)に比してWeiss revisited score(感度:100%,特異度:96.9%),Helsinki score(感度:100%,特異度:99.4%)と良好な成績を収めている(表1)[,]。しかしながら,注意すべき点として,遠隔転移を伴う例の多くは高悪性度の腫瘍であり,上記のscoreも高値である事が多く,診断上問題になる事は少ない。一方で,副腎皮質腫瘍の良悪性の鑑別の際に問題となる症例の多くは局所限局例(切除可能例を含む)であり,良悪性および悪性度によって術後治療の選択肢が変わる。このような点や全組織亜型に応用できるような点を踏まえた上で,十分にvalidation がなされた指標は現時点では未だないと言わざるを得ない。

表 1 .

副腎皮質腫瘍の良悪性の病理診断に用いる基準

WHO分類2017では好酸性細胞型亜型(Oncocytic variant),肉腫様亜型(Sarcomatoid variant),粘液型亜型(Myxoid variant)の3亜型が新たな組織亜型分類として認識されるようになった[]。従って,診断に際し,これらのcomponentの有無については慎重な判断が求められる。好酸性細胞型亜型(Oncocytic variant),小児副腎皮質癌においてはWeissの診断基準で過大評価となる傾向がある一方,粘液型亜型(Myxoid variant)については過少評価となる事も多いため,十分な注意が必要である。これら各々の亜型に対して考案された指標も報告されており,診断の際には参考となる。Oncocyticな腫瘍の場合はLin-Weiss-Bisceglia(LWS)の診断基準(表2)が提案されており,小児副腎皮質癌症例についても,Wieneckeの基準が報告されている(表2)[,]。しかしながら,いずれの病理組織学的診断基準においても十分なvalidationが行われていないのが現実であり,Weissの診断基準との併用や臨床情報との十分な比較検討が必要である。特に小児副腎皮質癌症例については,術後のmitotane療法が成長期のホルモンバランスに影響を及ぼす事から,その必要性を含め,良悪性の診断基準については臨床-病理間の十分なコミュニケーションが必要と考えられる。

表 2 .

副腎皮質腫瘍の特殊組織亜型の病理診断に用いる基準

粘液型亜型は核異型,びまん性増殖,類洞侵襲などの所見を過小評価してしまいがちになるため,Weissの基準ではunderdiagnosisになる事が知られており,慎重な診断が求められる。しかしながら,粘液型亜型に適した有用な診断基準は未だ提唱されていない。粘液型亜型では,腫瘍の間質においてalcian-blue陽性の粘液腫状基質の沈着を見る事が特徴である(図1)。その割合は腫瘍全体の5~90%と非常に種々の割合で見られるため,該当成分がある際には病理診断報告書に明記する必要があり,切除可能例では術後の慎重なフォローアップが求められる[]。

図 1 .

副腎皮質癌,粘液型亜型の病理組織像

・免疫組織化学的評価

前述の如く,Weiss の指標は副腎皮質腫瘍の良悪性の鑑別に最も有用と考えられているものの,判断に迷う症例も実際のところ少なくない。Weiss の基準に含まれる評価項目のconfirmatory examinationとして,CD31の免疫組織化学による「類洞侵襲の有無」,Type Ⅳ collagenないしは Reticulin 染色による「びまん性増殖の有無」の評価に際し,有用とされている(図2)。

図 2 .

形態学的所見を補助する有用な免疫染色

また,免疫組織化学的補助診断マーカーとして最も有用な指標はKi-67(MIB-1)である。Helsinki scoreでは形態像に加えて,Ki-67標識率がscoringの計算式に取り入れられている。Ki-67の有用性は良悪性の鑑別のみならず,予後因子としても非常に重要な役割を有している事が報告されている。2007年のENSAT(European Network for the Study of Adrenal Tumors)の診療ガイドラインでは完全切除可能な副腎皮質癌の中でKi-67標識率10%以上の症例をhigh riskとして,mitotane(opʼ DDD)に加えてEDP(Mitotane+etoposide-doxorubicin-cisplatin)などの細胞障害性の抗がん剤の併用が推奨されていたが,2018年に新たに作製されたENSATの診療ガイドラインでは,細胞障害性の抗がん剤の併用治療の負担が見直され,mitotaneのみによる術後化学療法に変遷している(図3)[]。

図 3 .

切除可能な局所進行副腎皮質癌に対するENSATの診療アルゴリズム(2018年)[]より

未だにKi-67標識率の測定方法については決まったものは存在しないが,副腎皮質癌はintratumoral heterogeneityが顕著な腫瘍であり,腫瘍内でのKi-67標識率はhot spotか腫瘍全体かで有意に異なる事が報告されている[10]。また,それゆえinterobserver varianceも測定場所によっても大きくなる可能性が指摘されており,heterogeneityを反映しえる広域を解析しえて,更に再現性の高い結果を得られる自動解析による測定方法の有用性も提唱されているが,今後均霑化が待たれる[11]。

・内分泌学的評価

副腎皮質腫瘍の良悪性の鑑別では形態学的所見,免疫組織化学的所見の他に,腫瘍の内分泌学的機能に基づくステロイド合成酵素の発現動態も重要な要素となる。副腎皮質癌の約60%は機能性であり,複数種のステロイド合成を伴い,副腎皮質癌に特有のステロイドホルモン産生(Combined Steroidogenesis)が見られる事が特徴である。最も多いパターンとしてはコルチゾールとアンドロゲンの共産生である。このような病態は通常の良性腫瘍(副腎皮質腺腫)で見られる事はなく,成人小児を問わず副腎皮質癌の特徴的所見である。これは病理組織学的にも重要な所見であり,正常の層構造で見られるステロイド合成動態から逸脱した合成酵素の発現動態(Disorganized Steroidogenesis)が腫瘍内に見られる[12]。

・遺伝学的因子

副腎皮質癌は特に小児例においてBeckwith-Wiedeman症候群(IGF-2遺伝子変異),Li-Fraumeni症候群(TP53遺伝子変異)の他,Brazilではp53遺伝子のgermline mutation(p.R337H)が関与している事が報告されている。近年,次世代シークエンスによる遺伝子解析の発展により,成人例においてもgenetic profile が明らかにされてきた。p53の遺伝子変異は小児例のみならず,成人例においても約1/3の症例において検出されている。β-cateninタンパクをコードするCTNNB1遺伝子の変異は約40%の副腎皮質癌に検出されるが,ほぼ同頻度で良性の皮質腺腫においても検出される。また,TERTCDK4ZNRF3RB1などの遺伝子変異も約30%の症例に検出されており,CDK4RB1はmyxoid variantにおいて高頻度に検出される。一方,oncocytic variantでのmutation burdenは他の組織亜型に比して低い事が報告されている[1314]。この中で,p53/Rb1経路はKi-67との相関性が報告されているものの,いずれも治療標的因子や予後因子としての可能性までには至っていない。現時点でWeissの基準に代表される形態学的所見やKi-67標識率を上回るような遺伝子異常は同定されておらず,今後の更なる検討が望まれる。

・おわりに

副腎皮質癌では未だ治療標的因子,予後因子になり得る遺伝子異常は未解明であり,2018年の最新のENSATの診療ガイドラインを見てもmitotaneがkey drugである事に変わりなく,低リスク群への術後投与の必要性や細胞障害性の抗がん剤投与の負担の見直し等がなされてきている。同ガイドラインでは副腎皮質癌の病理診断,治療共に高度の専門技術・知識が求められる事から,十分な経験のある専門施設での診療を推奨している。診断に迷う症例や治療が困難と予測される症例の場合は専門施設への迅速な紹介を検討する必要があると考えられる。また,本疾患の診療方針の決定に当たっては悪性度の評価,臨床経過等を総合的に考慮する必要があり,臨床-病理間の十分なクロストークが必要である。今後の新たな治療標的因子や治療薬の開発が待たれる。

2.褐色細胞腫の病理と病因

・はじめに

褐色細胞腫(PCC:Pheochrmocytoma)/傍神経節腫(PGL:Paraganglioma)は各々,副腎髄質,傍神経節細胞より発生する腫瘍であり,100万人あたり10~30症例程度の頻度に生じる。褐色細胞腫・傍神経節腫の良悪性の鑑別および悪性度を予測する指標は少なく,未だ困難な状況と言える。WHO分類2017では全ての褐色細胞腫・傍神経節腫を転移の可能性のある,すなわち,malignant potential を有する腫瘍として取り扱う事で合意がなされ,ICD-O(International Classification of Diseases for Oncology)分類上もICD-O-3(malignant tumor)のカテゴリに分類されるようになった[]。本稿では実際の診療で汎用されている病理組織学的良悪性の鑑別指標の他,褐色細胞腫・傍神経節腫の病態において重要と考えられる遺伝子異常,および,カテコラミン合成動態についても概説を行う。

・病理組織診断(形態学的所見の評価)

褐色細胞腫・傍神経節腫は病理組織学的良悪性の鑑別(転移するpotentialを有する腫瘍か否か)が非常に困難な腫瘍である。これらの腫瘍の良悪性の鑑別に有用な単独因子は存在せず,形態学的所見や増殖能を反映するKi-67標識率,腫瘍径等,様々な因子を総合的に考慮する必要がある。これまでに提唱されている汎用性の高い病理組織学的良悪性の鑑別指標としては2001年にThompsonらが報告したPASS(Pheochromocytoma of the Adrenal Gland Scaled Score)と2014年にKimuraらが提唱したGAPP Scoreの二つが挙げられる(表3)[1516]。PASSでは4点以上が malignant behaviorであると診断されるものの,形態学的所見のみの評価項目によって構成されている事から,診断者間の相違は非常に大きい。GAPP Scoreでは形態学的所見に加え,カテコラミン産生能やKi-67標識率が取り入れられており,現時点では腫瘍の悪性度を最も反映する指標として,WHO分類2017年においてもGAPP Scoreによるリスク分類を行う事が推奨されている[16]。

表 3 .

褐色細胞腫の病理組織学的悪性度の評価指標

また,これら褐色細胞腫・傍神経節腫の診断の際には,他の神経原生疾患と鑑別する事も肝要である。Composite pheochromocytomaは全褐色細胞腫の約3~9%程度に経験されるが,遠隔転移や完全切除後の再発のリスクは通常の褐色細胞腫に比較して低い。混合成分はganglioneuroblastoma,neuroblastoma,peripheral nerve sheath tumorなど,多岐にわたるが,これらの成分の有無を慎重に評価する必要がある。

・遺伝学的因子

近年の遺伝子解析の発展により,褐色細胞腫・傍神経節腫の発生に関連する遺伝子が20種類程度(VHLRETNF1SDHDSDHAF2SDHCSDHBSDHATMEM127MAXEPAS1EGLN1EGLN2FHMDH2KIF1BMEN1IDH1HRASATRXなど)報告されてきている[1718]。従来,褐色細胞腫・傍神経節腫は「10% disease」として,家族性の症例は約10%と考えられてきたが,上記の遺伝子の胚細胞遺伝子が検出される症例は約30~40%である事が判明してきており,これら遺伝子異常と密接な関わりがある事が示唆されてきている。Sporadicな症例およびHereditaryな症例における遺伝子異常の頻度は(図4)に示す通りである。これらの遺伝子はマイクロアレイ解析による遺伝子発現プロファイリングにより,二種類の「Cluster1」,「Cluster2」に分類される[1719]。「Cluster1」はHIFs(Hypoxia-induced factors)に関連したpseudo-hypoxia clusterであり,VHLの他,Krebs-cycleに関連したSDHX familyFH, HRASなどが含まれる。一方,「Cluster2」はチロシンキナーゼ受容体に関連した経路であり,RETNF1TMEM127MAXKIF1Bなどが含まれる。「Cluster2」は主に分化した(副腎内の)褐色細胞腫に検出されるタイプであり,「Cluster1」に比較するとGAPP scoreは低い傾向にある。一方,「Cluster1」の症例では副腎外の傍神経節腫に検出され,GAPP scoreは高い傾向にある[17]。以上のように,近年では褐色細胞腫・傍神経節腫におけるgenotypingの臨床像との関連性が判明してきつつある。

図 4 .

Sporadic/Hereditary褐色細胞腫・傍神経節腫における遺伝子異常の頻度[]より

・免疫組織化学的評価

上記の遺伝子の中でSDHXMAXなどの遺伝子については免疫組織化学での評価が試みられており,特にSDHBの免疫組織化学については変異検出にあたり,100%の感度,84%の特異度を有する[20]。SDHB変異例では転移のリスクも高い事から,SDHBの免疫染色は簡便かつ有用な検査法として認識されてきている。ただし,免疫染色にて変異が示唆される(陰性である)場合には,約2割は偽陰性である可能性があるため,シークエンスにより変異の有無を確認する作業が必要である。

・内分泌学的評価

病理組織像(形態学的所見),遺伝子異常の他にカテコラミン合成動態の評価も,病変の悪性度の評価のみならず,カテコラミン過剰産生に伴う臨床症状の治療において非常に重要である。臨床的にアドレナリン産生腫瘍は(副腎原発の)褐色細胞腫と考えられ,副腎外の傍神経節腫はノルアドレナリン産生腫瘍である。ノルアドレナリン産生腫瘍はアドレナリン産生腫瘍に比較して,転移のリスクは(副腎内)褐色細胞腫では2倍,(副腎外)傍神経節細胞腫では3倍高い[17]。病理組織学的にはカテコラミン産生能を合成酵素(TH:tyrosine hydroxylase,DBH:dopamine beta hydroxylase,DDC:dopa decarboxylase,PNMT:phenylethanolamine N-methyltransferase)の発現動態を評価する事が可能であるが,臨床像とは必ずしも一致しない事もあるため,注意が必要である。

・おわりに

WHO分類2017で述べられている通り,褐色細胞腫・傍神経節腫は全症例において悪性のpotentialを有している腫瘍と考えるよう概念が変遷してきた。近年の遺伝子解析の目覚ましい発展により,従来10%程度と考えられていた遺伝性疾患の頻度は約30~40%である事が解明されてきている。本腫瘍では病理組織学的所見のみならず,genotypingが臨床予後に関連する見解が解明されてきており,コンパニオン診断が求められる。他の悪性腫瘍同様,precision medicineに向けて今後の治療標的因子の解明が待たれる。

【文 献】
 

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