Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Evaluation of basic performance and clinical utility of the new KL-6 reagent “LZ Test ‘Eiken’ KL-6”
Masahiro KIKUCHITosinori TANAKAHarumi KOKUZAWASaori YAMADAJyunko TAKAHASHIOsamu YAMAMOTOYasuo HASUMI
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2017 Volume 66 Issue 1 Pages 47-55

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Abstract

新規の抗KL-6抗体を用いたラテックス凝集免疫比濁法を測定原理とするLZテスト ‘栄研’ KL-6について基礎性能と臨床的有用性について評価を行った。LZテスト ‘栄研’ KL-6は精密性,直線性など基礎性能試験はいずれも良好な成績を示し,従来法との相関性も回帰式y = 0.987x − 15.8,相関係数r = 0.975と良好であった。参考基準範囲は118~397 U/mLとなり従来法と近似しており,間質性肺炎の診断および他の疾患との鑑別性能も従来法と同等の性能を示していた。以上より,本試薬は日常診療において有用と考えられた。

I  はじめに

KL-6は1985年に河野ら1),2)によって発見されたシアロ糖蛋白抗原であり,分子量100万以上である糖蛋白の一種で,膜通過型の非分泌型ムチンであるMUC1ムチンに属している。KL-6は健常肺では呼吸細気管支上皮細胞,II型肺胞上皮細胞,気管支腺細胞に発現しており,II型肺胞上皮細胞が主な産生細胞である。間質性肺炎では,肺胞上皮が障害を受けた場合,剥離した上皮層を被覆するために再生してきたII型肺胞上皮細胞によるKL-6産生が亢進しているうえに,肺胞毛細血管関門の透過性亢進や破たんも加わり肺胞内のKL-6が血中に漏れ出るため上昇する3),4)。KL-6は間質性肺炎で上昇し,健常者や細菌性肺炎,肺気腫などではほとんど上昇しないため,間質性肺炎のマーカーとして非常に有用である4)。また,特発性肺線維症の急性増悪において臨床上細菌性肺炎と鑑別が困難であるが,KL-6の急激な上昇は急性増悪を示唆する有用な情報となり得る4)。間質性肺炎と診断したときにKL-6の値が1,000 U/mL以上の特発性肺線維症患者は1,000 U/mL未満の患者と比較して有意に予後が不良であるとの報告もある5)

これまで,KL-6は,電気化学発光免疫測定法(ECLIA法)や化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)によって測定されるため,専用装置が必要であった6)。その後,生化学自動分析装置に適応し,迅速な結果報告が可能となったラテックス凝集免疫比濁法によるKL-6測定試薬が発売されている6)~8)。2016年2月に栄研化学(株)より新規抗体を用いたラテックス凝集免疫比濁法を測定原理とする測定試薬『LZテスト ‘栄研’ KL-6』が発売され,基礎性能と臨床的有用性について評価を行ったので報告する。

II  対象及び方法

1. 対象

当院検査科に提出されたKL-6測定依頼のある患者血清を試料として用いた。試料は当院倫理委員会の承認を受け(25-5),「臨床検査を終了した検体の業務,教育,研究のための使用について―日本臨床検査医学会の見解―」に基づいて,患者の同意を得たものを使用した。

2. 試薬及び測定機器

検討試薬にはLZテスト‘栄研’KL-6(栄研化学‍(株):以下LZ)を用い,比較対照試薬にはナノピア®KL-6エーザイ(エーディア(株):以下ナノピア)を用いて測定を行った。分析装置には,TBA200FRNeo(東芝メディカルシステムズ(株))を用いた。

測定パラメータはメーカーの推奨するものに準拠し,標準物質は0,500,1,000,2,000,4,000,6,000 U/mLの6濃度を使用した。

3. 測定原理

本試薬は,ラテックス凝集免疫比濁法を測定原理とした汎用KL-6測定試薬である。LZに用いられている抗体は,新たに取得した新規の抗KL-6抗体であり,その点についても確認を行った。

III  検討内容及び結果

1. 日差再現性

メーカー指定のコントロール試料(2濃度)を用い10日間,1日2回2重測定し,その結果を元に一元配置分散分析を行い,総合精密度(測定内,測定間,日内,日間精密度)を評価した。低濃度試料では平均値524 U/mL,総合精密度(95%信頼区間)0.99%(0.81~1.27%)(Table 1),高濃度試料では平均値1,072 U/mL,総合精密度0.76%(0.63~0.98%)であった(Table 2)。

Table 1  Precision of low level
Variance SD CV 95% confidence interval
χ20.025 χ20.975
Within-run 20.400 4.52 0.86% 0.7% 1.3% 93.0%
Between-run 0.000 * * 0.0%
Within-day 1.540 1.24 0.24% 0.2% 0.3% 7.0%
Between-day 0.000 * * 0.0%
Total 26.644 5.16 0.99% 0.81% 1.27% 100.0%
Table 2  Precision of high level
Variance SD CV 95% confidence interval
χ20.025 χ20.975
Within-run 53.400 7.31 0.68% 0.5% 1.0% 93%
Between-run 0.000 * * 0%
Within-day 4.224 2.06 0.19% 0.2% 0.3% 7%
Between-day 0.000 * * 0%
Total 66.972 8.18 0.76% 0.63% 0.98% 100%

2. 希釈直線性

1,200 U/mL及び6,000 U/mLの直線性用試料からの10段階希釈系列をそれぞれ2重測定した結果,5,967 U/mLまでの直線性を確認した(Figure 1, 2)。

Figure 1 

Dilution linearity (low level)

Figure 2 

Dilution linearity (high level)

3. 検出感度

盲検及び250 U/mLの試料からの10段階希釈系列をそれぞれ10重測定した結果から,2.6SD法によって検出限界濃度を求めたところ実測値19 U/mL,理論値25 U/mLであった(Figure 3)。

Figure 3 

Detection limit (error bars are ±2.6SD)

4. プロゾーン

約20,000 U/mLのプロゾーン用試料からの4段階希釈系列をそれぞれ2重測定した結果,何れも測定上限以上となった(Figure 4)。さらに,分析装置による自動10倍希釈再検の結果も妥当であった。

Figure 4 

Prozone

5. 共存物質の影響

KL-6を添加した2濃度の血清を用い,干渉チェック・Aプラス,及び干渉チェックRFプラス(いずれもシスメックス(株))を用いてビリルビンF,C(20 mg/dL),ヘモグロビン(500 mg/dL),乳び(2,000 FTU),リウマトイド因子(500 IU/mL)について測定への影響を確認した。添付文書に従って希釈系列を作製し,各濃度について2重測定を行い1.96SE法にて評価した。ビリルビン,ヘモグロビン,乳びでは干渉は確認できなかった。しかしリウマトイド因子においてRFが500 IU/mLに対してKL-6値が40 U/mLの正誤差が認められた(Figure 5)。リウマトイド因子の正誤差が日常検査で問題になるか確認するため,リウマトイド因子陽性患者群(n = 29)と陰性患者群(n = 137)をLZとナノピアで測定し得られたKL-6値から両群間の回帰式の同一性を共分散分析(analysis of covariance)を用いて評価した。その結果,リウマトイド因子陽性患者群の回帰式y = 0.803x + 65.9(Figure 6a)とリウマトイド因子陰性患者群両群の回帰式y = 0.872x + 43.3(Figure 6b)の同一性が確認できた。

Figure 5 

Effects of interfering substances

Figure 6 

Correlation between Nanopia® KL-6 and LZ test ‘EIKEN’ KL-6 in RF positive or negative serum samples

6. 相関性

患者血清を用いてナノピアとの相関性を確認した。測定全データ(n = 332)における回帰式はy = 0.987x − 15.8,相関係数r = 0.975,寄与率95.1%であった(Figure 7)。また,KL-6値2,000 U/mL未満(n = 295)における回帰式はy = 0.979x − 10.0,相関係数0.965,寄与率93.2%であった(Figure 8)。

Figure 7 

Correlation between Nanopia® KL-6 and LZ test ‘EIKEN’ KL-6 (All measurement range)

Figure 8 

Correlation between Nanopia® KL-6 and LZ test ‘EIKEN’ KL-6 (All measurement range less than 2,000 U/mL)

7. 基準範囲

職員健診の結果からγ-GTP,AST,ALT,クレアチニンに異常を認めなかった男性94名(38.2 ± 11.3歳),女性106名(39.0 ± 10.9歳)の200例を対象に統計ソフト「StatFlex Ver.6(アーテック)」によってノンパラメトリック法で基準範囲を求めた結果,118~397 U/mLであった(Figure 9)。

Figure 9 

Distribution of serum KL-6 in healthy group

8. 感度及び特異度の算出

ROC解析からCut Off値を設定した。健常群と間質性肺炎群でCut Off値を450,550 U/mLとした時の正診率は共に96.4%と最も高かった。さらに非間質性肺炎の対照疾患群と間質性肺炎群ではCut Off値を500 U/mLとした時に正診率が78.7%と最も高かった(Figure 10, Table 3a)。Cut Off値を500 U/mLとして求めた感度,特異度,正診率は,間質性肺炎群(n = 70)に対し,健常群(n = 267)対照でそれぞれ85.7%,99.3%,96.4%であり,非間質性肺炎群(n = 94)対照ではそれぞれ,85.7%,73.4%,78.7%であった。一方,ナノピアにおいて同一の検体を用いて求めたCut Off値500 U/mLでの感度,特異度,正診率は健常群対照でそれぞれ84.3%,99.6%,96.4%であり,非間質性肺炎群対照ではそれぞれ84.3%,76.6%,79.9%となり,LZはナノピアと同等の感度,特異度を有していた(Table 3b)。

Table 3 

Sensitivity, specificity and diagnosis accuracy

(a) LZ test ‘EIKEN’ KL-6・Interstitial pneumonias (IP) vs healthy
Cut Off Sensitivity Specificity Diagnostic accuracy
550 U/mL74.3%99.3%94.1%
500 U/mL85.7%99.3%96.4%
450 U/mL87.1%98.9%96.4%
・Interstitial pneumonias (IP) vs patients without IP
Cut Off Sensitivity Specificity Diagnostic accuracy
550 U/mL74.3%78.7%76.8%
500 U/mL85.7%73.4%78.7%
450 U/mL87.1%70.2%77.4%
(b) Nanopia® KL-6 EISAI ・Interstitial pneumonias (IP) vs healthy
Cut Off Sensitivity Specificity Diagnostic accuracy
550 U/mL80.0%99.6%95.5%
500 U/mL84.3%99.6%96.4%
450 U/mL90.0%99.6%97.6%
・Interstitial pneumonias (IP) vs patients without IP
Cut Off Sensitivity Specificity Diagnostic accuracy
550 U/mL80.0%78.7%79.3%
500 U/mL84.3%76.6%79.9%
450 U/mL90.0%71.3%79.3%
Figure 10 

ROC analysis on diagnostic utility of KL-6

Left panel indicate interstitial pneumonia group and healthy group.

Right panel indicate interstitial pneumonia group and patients without interstitial pneumonia group.

9. 疾患別測定値の比較

確定診断のついた401例を対象に,疾患群別の測定値の比較を行った。尚,有意差検定にはDunn検定を用いた。間質性肺炎群1,062 ± 691 U/mL(MEAN ± SD)は健常群200 ± 81 U/mL(p < 0.01),慢性関節リウマチ(RA)群377 ± 363 U/mL(p < 0.01),肺腺癌(AC)群700 ± 1,028 U/mL(p < 0.01)に対し有意に高値を示した(Figure 11)。また,慢性閉塞性肺疾患(COPD)群271 ± 112 U/mL,肺扁平上皮癌(SCC)群400 ± 231 U/mL,非結核性抗酸菌症(MAC)群357 ± 263 U/mLについては,例数不足のため検定を行っていない。

Figure 11 

Serum levels of KL-6 in healthy group and patients with disease (The horizontal line represents the mean of each group)

10. 抗体の分析

既存試薬および新規試薬にそれぞれ用いられている抗体の認識する分子について検討を行った。KL-6高値の血清に新規抗KL-6抗体,既存の抗KL-6抗体(ルミパルスプレストKL-6エーザイ,抗体結合粒子)を添加し免疫沈降した。その後,新規抗KL-6抗体,既存の抗KL-6抗体(ルミパルスプレストKL-6エーザイ,酵素標識抗体)を用いてウエスタンブロッティングを行った。また,KL-6高値の血清(間質性肺炎例)に新規抗KL-6抗体を添加し,免疫沈降した後の上清KL-6値をLZおよびナノピアで測定した。

新規抗KL-6抗体で免疫沈降したものも既存抗KL-6抗体で免疫沈降したものも新規抗KL-6抗体を一次抗体としてウエスタンブロッティングすると,同じ泳動度で同じパターンのバンドが検出された(Figure 12)。同様に既存抗KL-6抗体を一次抗体としてウエスタンブロッティングした場合も両沈降物で同じバンドが検出された。どちらの1次抗体で検出したバンドも全て同じ泳動度,パターンのバンドであった。

Figure 12 

Western blot (WB) analysis of immuno­precipitation (IP) product

Lane 1: IP: LZ KL-6 antibody, WB primary antibody: LZ KL-6 antibody.

Lane 2: IP: Original KL-6 antibody, WB primary antibody: LZ KL-6 antibody.

Lane 3: IP: LZ KL-6 antibody, WB primary antibody: Original KL-6 antibody.

Lane 4: IP: Original KL-6 antibody, WB primary antibody: Original KL-6 antibody.

また,新規抗KL-6抗体で免疫沈降した後の上清ではKL-6値が大きく低下していた(Figure 13)。

Figure 13 

Levels of KL-6 in supernatant of serum after immunoprecipitation

IV  考察

新規KL-6測定試薬LZテスト‘栄研’KL-6の基礎的検討を行った。本試薬は新規の抗KL-6抗体を用いたラテックス凝集免疫比濁法を測定原理とする測定試薬である。

日差再現性では低濃度域,高濃度域ともに1.5%未満(危険率5%)の精度が確認された。精度の変動要因においても日間誤差は認められず,多くを測定内誤差が占める結果となり十分な精度を有していると考える。今回の検討において,直線性を測定上限の6,000 U/mLまでしか確認できなかった。しかし,プロゾーン試験の結果から,20,000 U/mLまでプロゾーンは認めず,10倍希釈再検において直線性が認められたこと,また,当院において2015年1月から12月までの1年間で6,000 U/mL(ナノピアにて測定)を超える症例は約0.25%と,日常検査において遭遇することは稀であり,20,000 U/mLを超える症例については1例も認めなかったことから日常検査において問題になることは少ないと考える。

共存物質の影響では,リウマトイド因子において正誤差が認められた。しかし,リウマトイド因子陽性患者群と陰性患者群の回帰式の同一性が確認できリウマトイド因子による正誤差はin vitroによるものと推測された。また,その後の改良でリウマトイド因子の影響を抑制する処方へ変更したとの報告を受けている。

間質性肺炎とは,肺の間質を炎症の場とする疾患の総称であるとされている。間質性肺炎のマーカーとしてKL-6やSP-D,SD-Aが用いられている。しかし,日常診療においてこれらのマーカーをどのように組み合わせ,使い分けを行うかはまだ不明である9)。KL-6は間質性肺炎の疾患活動性が高いほど数値・陽性率が高く,予後を予測し得るマーカーであることも示されており病勢を反映している可能性が強く示唆されている4)。現在汎用試薬として測定可能な項目はKL-6のみである。ナノピアは汎用KL-6測定試薬であり,その性能評価も報告されているが,LZは新たに取得した新規の抗体を用いた汎用試薬であるため,ナノピアの基準範囲をそのまま使用することは難しいと考え,LZにおける基準範囲の検討を行った。

ナノピアの基準範囲は河野ら10)が105~401 U/mLと報告しており,我々が求めた基準範囲118~397 U/‍mLと近似していた。さらにROC曲線から求めたCut Off値500 U/mLは健常群と間質性肺炎群を識別するのに問題ない感度,特異度を有していた。また,小林ら11)が酵素免疫測定法を用いて求めたCut Off値は500 U/mLであることからLZにおいて我々が求めたCut Off値は日常診療に用いることができると考えられる。

近年,分子標的薬や生物学的製剤の発展に伴い薬剤性肺疾患は増加傾向にある。薬剤性肺障害の診断フローチャートではKL-6の測定を推奨している12)。慢性関節リウマチにおいてもKL-6値の上昇が活動性の指標となる3)。そこで,間質性肺炎群と慢性関節リウマチや他の呼吸器疾患群とを比較したところ間質性肺炎群で有意に高値を示した。また,間質性肺炎群と非間質性肺炎群間でみた感度,特異度,正診率は85.7%,73.4%,78.7%であることから,KL-6は間質性肺炎と他の疾患群との鑑別に有用であると考える。

今回行った臨床性能評価において,新規KL-6測定試薬は既存試薬とほぼ同等の性能を有していた。本試薬はこれまでの試薬とは異なる新規の抗KL-6抗体を用いているが,我々の行った検討の結果,新規抗体も既存抗体と同一の抗原を認識していることが示唆された。

V  まとめ

ラテックス凝集免疫比濁法を測定原理としたLZテスト‘栄研’KL-6は新たに取得した新規の抗KL-6抗体を使用した汎用KL-6測定試薬である。日常臨床検査を行う上で問題の無い基礎性能を有し,間質性肺炎の診断・鑑別においても有用な測定試薬であると考えられる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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