Japanese Journal of Medical Technology
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
Materials
Reference ranges for serum immunoglobulins (IgG, IgA, and IgM) in early neonatal period
Nobuhisa TANAKADaiki JINGU
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 70 Issue 3 Pages 525-528

Details
Abstract

小児期は免疫グロブリン(IgG,IgA,IgM)値が大きく変化する時期であり,基準範囲の設定には細分化した年齢区分が必要である。小児期の中でも新生児期は,特に免疫グロブリンの変化が著しいため,今回,当院のneonatal intensive care unitまたは,growing care unitに入院した早期新生児期(生後0~6日)の患者データを用いて,各免疫グロブリン(IgG,IgA,IgM)の設定を試みた。基準範囲の設定は,児の在胎週数により「21~27週」,「28~36週」,「37~42週」の3群に分け行った。IgGでは在胎週数による差が明らかであり,在胎週数を考慮した基準範囲の設定は意義がある。一方,IgAとIgMは胎盤通過性がないこともあり,在胎週数を考慮する必要性は認められなかった。

Translated Abstract

The levels of serum immunoglobulins vary depending on age, particularly in children. Therefore, an age-related reference range of individuals must be used when evaluating a patient’s immunoglobulin levels. We determined reference ranges for serum immunoglobulins (IgG, IgA, and IgM) in the early neonatal period (0–6 days after birth). Data were from patients in the early neonatal period admitted to our Neonatal Intensive Care Unit and Growing Care Unit. Our subjects were divided into three groups on the basis of gestational age (GA): 21–27 weeks, 28–36 weeks, and 37–42 weeks. There was a significant difference in the serum IgG level among the three groups. Thus, for IgG, considering the effect of GA is useful for estimating the reference range for infants in the early neonatal period. On the other hand, there was no correlation among the three groups in terms of serum IgA and IgM levels; thus, it was not necessary to consider the effect of GA in these groups.

I  はじめに

小児では自覚症状が把握しにくいことから,臨床検査による評価は,客観的指標として重要である。値の評価には基準範囲が不可欠であるが,小児科領域では未だ確立された基準範囲がない。この理由としては,設定対象となる健常児の検体(分析値)を多数集めることの困難さが挙げられる。そこで我々は現実的な対応として,臼井が考案した患者データを利用し,反復切断補正法により基準範囲を推定するプログラムを用いて参考基準範囲1)を設定,活用している2),3)

小児では検査項目ごとの年齢区分が特に重要であり,免疫グロブリン(IgG,IgA,IgM)値も小児期に変動が大きいものの一つである4)~6)。小児の免疫グロブリン基準値設定では,生後1ヵ月で区分したものが多くみられるが6)~8),出生直後の数日間に限局して設定されたものは少ない5),9)。生後1ヵ月のうちでも,特に出生直後の数日は児にとって環境が一変する極めて特異な時期であり,この期間を分けて基準範囲を設定することは意義がある。また,出生直後のIgG値は在胎週数と相関することが知られているが10)~12),在胎週数は新生児期には極めて重要な背景因子であり,基準範囲の設定に当たり考慮すべきものと考える3)

今回我々は,上述した背景から,早期新生児期(出生後0~6日)におけるIgG,IgA,IgMの参考基準範囲を,在胎週数「21~27週」(超早産児),「28~36週」(早産児),「37~42週」(正規産児)の3群13)に分けて設定した。

II  方法

1. 対象

2015年1月~2020年6月に当院のneonatal intensive care unit(NICU)またはgrowing care unit(GCU)に入院し,在胎週数が確認できた新生児1,367例を対象とし,生後6日まで(早期新生児期)のIgG値,IgA値,IgM値について解析した。なお,溶血や乳び,参考値,再検済といった何らかのコメントが付いたデータは除外した。

2. 基準範囲の設定

NICUマニュアルの新生児の分類13)に従い,在胎週数「21~27週」,「28~36週」,「37~42週」の3群に区分した。IgG,IgA,IgM各測定値の3群における参考基準範囲は白井法をベースとした基準範囲計算プログラムMCP-STAT Ver. 6(シスメックス)で計算した1)。対象症例数はIgGが1,358例,IgAが1,352例,IgMが1,362例であった。

3. 免疫グロブリンの測定法

測定試薬はいずれも免疫比濁法を原理としたN-アッセイTIA IgG-SHニットーボー,N-アッセイTIA IgA-SHニットーボー,N-アッセイTIA IgM-SHニットーボー(ニットーボーメディカル)を用いた。測定には,2018年9月までは生化学自動分析装置BM6050(日本電子)を用い,2018年10月以降はZS050(日本電子)を使用した。

4. 統計学的解析

統計学的検定はStatcel3(オーエムエス)を用い,有意水準を5%とした。

本研究は群馬県立小児医療センター倫理委員会の承認(GCMC2020-28)を得て実施した。

III  結果

得られた参考基準範囲をTable 1に示した。IgGの設定値は「21~27週」(超早産児)が98–462 mg/dL,「28~36週」(早産児)が386–1,228 mg/dL,「37~42週」(正規産児)が650–1,492 mg/dLであった。同じくIgMでは,< 3–20 mg/dL,< 3–19 mg/dL,5–23 mg/dL,IgAでは一律に< 2–9 mg/dLであった。

Table 1  Serum reference ranges for immunoglobulin in early neo-natal period
Analyte, Unit Gestational age (weeks) No. of samples Lower Upper
IgG (mg/dL) 21–27 138 98 462
28–36 607 386 1,228
37–42 613 650 1,492
IgA (mg/dL) 21–27 138 < 2 9
28–36 604 < 2 9
37–42 610 < 2 9
IgM (mg/dL) 21–27 138 < 3 20
28–36 607 < 3 19
37–42 617 5 23

In IgG, considering the gestational age is significant for estimating the reference range.

在胎週数とIgG値の関係をFigure 1に示した。IgGと在胎週数間には正の相関(相関係数r = 0.78)がみられ,さらに,在胎週数で区分した3群では,IgGの分布に有意差を認めた(Figure 2)。一方IgAとIgMでは在胎週数との関連はみられなかった。

Figure 1 Relationship between serum IgG 4 levels and the gestational age

The distribution of IgG levels at each gestational age of newborn infants is shown. It was found a positive correlation between IgG levels and gestational age.

Figure 2 Comparison of serum IgG levels of the three groups divided according to gestational age

Serum IgG levels were significantly different among the three groups.

IV  考察

IgGは,免疫グロブリンの中で唯一胎盤通過性を持つアイソタイプであり,出生直後の児のIgG値は在胎週数と相関することが知られている10)~12)。これは胎児のIgG産生能が低く,児の血中IgGは母体からの移行IgGの量に依存するため,在胎週数が短いほど母親側からの移行量が少ないものと考えられている14)。当院のように多数の早産児に対応している場合,正期産児(在胎37~42週)から設定した基準範囲を用いると,大半が異常低値と表示されてしまうため,在胎週数を考慮した基準範囲の設定が必要となる。新生児におけるIgG値と在胎週数の相関性については過去の論文でも述べられており,在胎週数の少ない新生児の感染対策の必要性が提案されるが,IgG値と感染リスクについては未だ不明な点が多く,今後の課題であり14),臨床面からの検証が不可欠である。

IgAとIgMについては胎盤を通過しないこともあり,在胎週数による差を認めず,在胎週数による区別は不要であった。一方で両者は,出生直後はごく低値であるが,後に上昇することが知られている4)~7)。報告により数値には幅が認められるが,成人値の半分に達するのは,IgAでは3歳から8歳ほど,IgMは生後6ヵ月から1歳ほど5)~7)と推測される。北川5)の報告では,生後2~7日の平均値は,IgAが極めて少量のため測定不能,IgMが9.9 ± 4.6 mg/dLであり,生後10~12ヵ月ではIgAが53.1 ± 18.9 mg/dL(成人値の21.2%),IgMが72.5 ± 25.3 mg/dL(成人値の76.3%)である。仮に生後0~12ヵ月の区分で基準範囲を設定すると,IgAやIgMの上限値はかなり高くなるはずである。早期新生児期(生後0~6日)では本来異常高値であるにもかかわらず,基準範囲内と誤認されるリスクがあり,新生児期を区分した基準範囲は必要である。

なお,今回,これまで設定されなかった早期新生児期の基準範囲が設定でき,その有用性を評価できた一つの要因として測定技術の進歩も関与している。すなわち,北川5)が算出した値は,用手法による免疫寒天平板法で得たデータ40例を材料としたものである。一方,今回は自動分析装置による免疫比濁法による1,300例のデータから算出した基準範囲であり,より信頼性が高いと考える。

V  結語

免疫グロブリン(IgG,IgA,IgM)について,早期新生児期(生後0~6日)の基準値設定の有用性を検討した。IgG値は在胎週数と相関するため在胎週数による群分けが必要であり,IgAやIgMは生後急速に変化するため早期新生児期の基準値を設定する必要がある。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

貴重な資料を提供いただいた群馬県立小児医療センター・丸山憲一総合周産期母子医療センター長に感謝します。

文献
 
© 2021 Japanese Association of Medical Technologists
feedback
Top