2024 Volume 73 Issue 2 Pages 223-229
2017年6月14日に公布された医療法等の一部を改正する法律に伴い,臨床検査技師等に関する法律が改正され検体検査業務を行う医療機関や登録衛生検査所等における精度管理基準が明確化された。生化学検査を実施している施設の9割以上が内部精度管理(internal quality control; IQC)を実施しており,既知濃度の管理試料を測定し,自施設で設定した精度管理幅(以下,管理幅)で精度を確認している。管理試料が新ロットに変更になる際には,新たな管理幅を設けるために1か月程度,現状および新ロットの管理試料を併行測定して標準偏差を取得する必要があり,時間と費用を要する。本研究では,管理試料が新ロットに変更となる際に,極力,時間と費用をかけず管理幅用の標準偏差の取得方法を考案した。管理幅を取得するための検証結果は,①ロットの異なるQAPトロールの精密度に差はなかった。②1か月間ごとのIQC測定値をBonferroni法で比較した結果,多くの群間で有意差を認めた。③6か月以上のIQC測定値の平均値を集計することでCVのバラツキは軽減した。これらから,最低6か月間のIQC測定値から算出したCVを用いて目標値に対するSDを算出する。IQCを実施しデータを蓄積している施設においては簡易的かつ費用をかけずに自施設の精密度を反映した管理幅を算出できるため,多くの施設で活用できる管理幅設定法と考える。
Act on Clinical Laboratory Technicians was amended by the Medical Care Act promulgated on June 14, 2017. This clarified the standards for accuracy control at medical institutions and registered health laboratories that provide specimen testing services. According to a 2017 report, more than 90% of facilities that perform biochemical testing have internal quality control (IQC). Therefore, each laboratory measures samples of known concentration for accuracy control and confirms their accuracy. When a control sample is changed to a new lot, it is usually necessary to measure the current and new lot control samples in parallel for about one month to set a new control range, which is time-consuming and costly. In this study, when a controlled sample is changed to a new lot, we devised a method to set a control width for the new lot without spending time and money. Methods and Results: (1) There was no difference in the precision of QAP trawls from different lots. (2) The Bonferroni method was used to compare monthly IQC measurements, and significant differences were found among most of the groups. (3) The CV variability was reduced by aggregating IQC measurements over 6 months. Based on the above, we believe that this method can be used at many facilities because it is relatively easy and cost-effective for facilities that have conducted IQC and accumulated IQC data to calculate the SD relative to the target value using the CV calculated from IQC measurements for a minimum of 6 months.
2017年6月14日に公布された医療法等の一部を改正する法律(平成29年法律第57号)が2018年12月1日に施行された1)。これに伴い,臨床検査技師等に関する法律(昭和33年法律第76号)が改正され,検体検査業務を行う医療機関や登録衛生検査所(以下,検査センター)における精度管理の基準が明確化された2),3)。内部精度管理(internal quality control; IQC)においては「検体検査の精度の確保のために努めるべき事項」の中で実施が努力義務とされた。2017年に実施された厚生労働行政推進調査事業費補助金(厚生労働科学特別研究事業)「臨床検査における品質・精度の確保に関する研究」の報告において,生化学検査を実施している病院や検査センターでは全施設,診療所では90%以上の施設がIQCを実施している4)。IQCは各検査室で行われ,検体検査の精度を確認するために既知濃度の管理試料を測定している5)。臨床検査室の国際規格であるISO 15189:2012年の要求事項では,5.6検査結果の品質の確保として,5.6.2精度管理内の5.6.2.1一般に「検査室は,結果が意図したとおりの品質を達成しているかについて検証する精度管理手順を構築しなければならない。」とされており6),自施設の検査結果の品質保証ができる方法でIQCを実施することが求められている。また,検体管理加算を算定するための施設基準には「定期的な臨床検査の精度管理を行っていること」が条件に含まれていることからも,品質保証には適切なIQCの実施が必要不可欠である。そのため各検査室は適正な精度管理幅(以下,管理幅)を設定し,管理試料の測定値から精度を評価する必要があり,多くの施設では日常のIQCの手法として目標値 ± 2SDを警告限界,± 3SDを管理限界とし,xbar管理図,xbar-R管理図にて精度を監視している。このようにIQCの重要性が理解され,多くの施設で実施されている中で,管理幅の設定方法は検査室の考え方により様々である。日本臨床衛生検査技師会から出版されている臨床検査精度保証教本ではxbar管理図,xbar-R管理図の管理幅の設定手順として,複数濃度の管理試料を日常検査と同じ測定回数(複数回)で20~30日間反復測定して得た管理試料測定値から,平均値,標準偏差(standard deviation; SD)を算出する方法が推奨されている7)。しかし,管理幅の設定に20~30日間の管理試料測定値の取得が必要であり,時間と費用を要する。また予備データを取得する期間中に機器の消耗品,試薬ロットなどに変化がなく安定した状態で測定された管理試料測定値で求めた管理幅は狭くなり,一方,変化があった場合は管理幅が広くなる場合がある。IQCを実施する中で,各施設が簡便かつ自施設の精密度を反映した管理幅を設定する方法を構築する必要がある。そこで本研究では,当検査室の過去の精度管理データを利用して,簡便かつ自施設の精密度を反映した管理幅の設定方法を考案したので報告する。
測定機器はLABOSPECT008(株式会社日立ハイテク),管理試料はQAPトロールIX,IIX(シスメックス株式会社)を用いた。測定項目は当院で不確かさを算出している21項目のうちLABOSPECT008で測定しているNa(株式会社日立ハイテク),K(株式会社日立ハイテク),Cl(株式会社日立ハイテク),TP(株式会社カイノス),ALB(株式会社カイノス),LD(株式会社シノテスト),AST(株式会社シノテスト),ALT(株式会社シノテスト),CK(株式会社シノテスト),AMY(株式会社シノテスト),ALP(株式会社シノテスト),γ-GT(株式会社シノテスト),UN(株式会社カイノス),CRE(株式会社カイノス),UA(株式会社カイノス),Ca(株式会社カイノス),Mg(株式会社カイノス),Glu(セキスイメディカル株式会社),TG(ミナリスメディカル株式会社),TC(ミナリスメディカル株式会社)の20項目とした。各項目の測定パラメータと校正物質は,メーカー指定の測定パラメータと校正物質を利用した。また,過去のIQC測定値から適正な管理幅を設定するために,5回/日測定しているIQC測定値のうち,始業時と終業時の測定値を用いた。
なお,論文内の統計解析には統計解析ソフトEZR(Ver. 1.41)を使用し,統計解析ソフトR,RコマンダーはそれぞれVer. 3.6.1,Ver. 2.6-1を使用した8)。また,p < 0.05を統計学的に有意と判断した。
2. 方法本研究では,管理試料が新ロットあるいは変更となる際に,①予備データの取得に時間と費用がかかること,②予備データの取得タイミングにより精密度に差があること,③自施設の精密度を反映した管理幅を設定する必要があること,の3つの課題があり,これらを解決するために,過去のIQCにおける変動係数(coefficient of variation; CV)や平均値からSDを算出し,このSDを管理幅とする方法を検証した。
1) 予備データの比較現状課題の①に対して旧ロットのIQC測定値のCVが利用できるか検証した。そこでロットの異なる管理試料の精密度を比較して,ロット間のCV値に差がなければ旧ロットのCV値が利用できると判断した。ロットの異なるQAPトロールIX,IIX(以下,古いロットをO,Oより新しいロットをNとした。)を1日2回,30日間同時測定した各項目の測定値(n = 60)を用いた。この期間は毎日ブランク校正のみを実施した。ロット変更時を想定し,ロットNは臨床検査精度保証教本で推奨されているロット変更時の方法に基づき,平均値とロットNのSDとしてSDNを算出した。それに対して,旧ロットのIQC測定値から算出したCVを用いる方法として,ロットOの過去の測定値から算出したCVとロットNの平均値からSDOを算出した。SDNとSDOの精密度を比較するために,校正物質の認証値と拡張不確かさから算出したBタイプの標準不確かさ9)と各項目のロットNの平均値を用いてSD(SDB)を算出することでロットNが取りうる最小限のバラツキを求めた。SDBを管理試料のバラツキの最小幅と仮定し,SDNとSDOの差の絶対値が,SDB相当の値よりも低く,|SDN-SDO| < SDBの式が成り立つ場合に両試料間には意味のあるバラツキはなく精密度に差がないと判断した。Bタイプの標準不確かさは当院で測定している各項目の校正物質の不確かさの情報を用いた。
2) データ取得のタイミングによる影響②の課題に対して,6か月間のIQC測定値を用いて1か月間ごと6群に分け,各項目のIQC測定値の平均値を比較した。また各項目1か月ごとのCVの最大値,最小値を求め,精密度への影響をみた。各項目でWelchの一元配置分散分析法を行い,有意差を認めた項目は群間の平均値に差があると判断し,Bonferroni法により多重比較を実施した10)。Bonferroni法による多重比較で有意差を認めた場合はデータを取得するタイミングにより差があると判断した。ロット差により生じる影響を考慮し,この期間に用いたQAPトロールIX,IIXは同一ロットで統一したが,消耗品(反応セル,ランプ,サンプルプローブ等)の交換,試薬ロット,保守メンテナンス実施の如何に関係なくIQC測定値を抽出した。
3) 過去データの取得期間の検証③の課題に対して,IQC測定値の取得期間を3か月間,6か月間,9か月間,12か月間としてCVを算出し,取得期間の違いによるCVを比較した。各項目のCVを二乗した不偏分散を用いてそれぞれの期間でF検定を行い,有意差が認められた場合は取得期間によりCVに差があると判断した。IQC測定値の取得期間内にQAPトロールIX,IIXのロットが変更した場合はロットごとにCVを算出し,それらを平均したものを取得期間内のCVとした。この期間のIQC測定値はQAPトロールIX,IIXや試薬ロットの変更,消耗品(反応セル,ランプ,サンプルプローブ等)の交換,試薬ロット,保守メンテナンスの実施の如何に関係なく抽出した。
QAPトロールIX,IIXの全ての項目で,ロットNのSDNとロットNの平均値に対してロットOのCVから算出したSDOの差は,評価基準としたロットNの平均値に対するBタイプの標準不確かさ(相対値)から算出した平均値の取りうるSDBよりも低かった(Table 1)。例としてNaのQAPトロールIXでは,SDNは0.59 mmol/L,SDOは0.52 mmol/Lとなり差の絶対値は0.07 mmol/LとなりSDBの0.85 mmol/Lよりも低く,QAPトロールIIXでは,SDNは0.73 mmol/L,SDOは0.52 mmol/Lとなり差の絶対値は0.21 mmol/LとなりSDBの0.97 mmol/Lよりも低いため,差がないと判断した。
A QAPトロールIX | B QAPトロールIIX | |||||||||
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項目(単位) | ロットN平均値 | SDN | SDO | SDN-SDO | SDB | ロットN平均値 | SDN | SDO | SDN-SDO | SDB |
Na(mmol/L) | 132.5 | 0.59 | 0.52 | 0.07 | 0.85 | 152.1 | 0.73 | 0.52 | 0.21 | 0.97 |
K(mmol/L) | 4.0 | 0.02 | 0.02 | 0.00 | 0.03 | 6.0 | 0.02 | 0.02 | 0.00 | 0.05 |
Cl(mmol/L) | 91.6 | 0.58 | 0.91 | 0.33 | 0.76 | 109.8 | 0.61 | 0.66 | 0.05 | 0.91 |
TP(g/dL) | 4.8 | 0.05 | 0.05 | 0.00 | 0.07 | 7.3 | 0.05 | 0.05 | 0.00 | 0.10 |
ALB(g/dL) | 2.9 | 0.05 | 0.05 | 0.00 | 0.05 | 4.4 | 0.05 | 0.05 | 0.00 | 0.07 |
LD(U/L) | 157.3 | 1.70 | 1.52 | 0.18 | 2.06 | 393.9 | 3.19 | 3.19 | 0.00 | 5.16 |
AST(U/L) | 38.7 | 0.71 | 0.58 | 0.13 | 0.50 | 104.6 | 0.87 | 0.76 | 0.11 | 1.36 |
ALT(U/L) | 28.4 | 1.01 | 1.14 | 0.13 | 0.38 | 91.8 | 1.25 | 1.28 | 0.03 | 1.24 |
CK(U/L) | 153.4 | 1.37 | 1.65 | 0.28 | 1.89 | 321.5 | 2.12 | 2.59 | 0.47 | 3.97 |
AMY(U/L) | 102.8 | 0.81 | 0.75 | 0.06 | 1.35 | 250.2 | 1.29 | 1.53 | 0.24 | 3.28 |
ALP(U/L) | 71.8 | 0.60 | 0.68 | 0.28 | 1.43 | 180.8 | 1.19 | 1.48 | 0.29 | 3.61 |
γ-GT(U/L) | 25.0 | 0.65 | 0.48 | 0.17 | 0.41 | 93.7 | 1.06 | 0.75 | 0.31 | 1.54 |
UN(mg/dL) | 15.1 | 0.50 | 0.36 | 0.14 | 0.16 | 41.9 | 0.54 | 0.42 | 0.12 | 0.43 |
CRE(mg/dL) | 1.0 | 0.01 | 0.02 | 0.01 | 0.01 | 4.3 | 0.04 | 0.03 | 0.01 | 0.06 |
UA(mg/dL) | 5.4 | 0.04 | 0.05 | 0.01 | 0.04 | 8.4 | 0.04 | 0.04 | 0.00 | 0.06 |
Ca(mg/dL) | 9.4 | 0.12 | 0.11 | 0.01 | 0.07 | 11.7 | 0.13 | 0.10 | 0.03 | 0.09 |
Mg(mg/dL) | 2.1 | 0.02 | 0.01 | 0.01 | 0.02 | 4.8 | 0.05 | 0.05 | 0.00 | 0.04 |
Glu(mg/dL) | 92.1 | 0.69 | 0.67 | 0.02 | 0.37 | 234.8 | 1.10 | 1.58 | 0.48 | 0.94 |
TG(mg/dL) | 100.2 | 1.16 | 0.98 | 0.18 | 1.41 | 252.6 | 1.98 | 1.65 | 0.33 | 3.55 |
TC(mg/dL) | 107.2 | 0.72 | 0.93 | 0.21 | 0.97 | 256.0 | 1.34 | 1.54 | 0.20 | 2.30 |
QAPトロールIX,IIXの全ての項目で,SDNとSDOの差は,SDBよりも低かった。
Welchの一元配置分散分析の結果QAPトロールIX,IIXの全ての項目でIQC測定値の平均値に有意差を認めたため,全項目に対してBonferroni法による多重比較を実施した。Bonferroni法では1~6か月の全ての群間(1か月vs 2~6か月,2か月vs 3~6か月,3か月vs 4~6か月,4か月vs 5~6か月,5か月vs 6か月)を比較するため,各項目でQAPトロールIX,IIXを合わせて30通りの比較を実施した。項目により有意差の認めた群間数は異なるが12から25の群間の組み合わせで有意差を認めた。また1か月ごとの最大CVと最小CVの差はQAPトロールIXで0.13%から1.43%(平均0.58%),QAPトロールIIXで0.07%から0.89%(平均0.36%)であった(Table 2)。
有意差を認めた 群間数 |
QAPトロールIX 最大CVと最小CVの差(%) |
QAPトロールIIX 最大CVと最小CVの差(%) |
|
---|---|---|---|
Na | 15 | 0.19(0.32–0.51) | 0.20(0.32–0.52) |
K | 16 | 0.17(0.36–0.53) | 0.30(0.29–0.59) |
Cl | 20 | 0.30(0.49–0.79) | 0.27(0.43–0.70) |
TP | 12 | 0.20(0.81–1.01) | 0.07(0.70–0.77) |
ALB | 16 | 0.74(1.11–1.85) | 0.31(1.17–1.48) |
LD | 13 | 0.68(0.88–1.56) | 0.44(0.63–1.07) |
AST | 18 | 0.75(1.60–2.35) | 0.16(0.92–1.08) |
ALT | 16 | 1.43(2.52–3.95) | 0.34(1.10–1.44) |
CK | 23 | 0.39(0.88–1.27) | 0.49(0.57–1.06) |
AMY | 24 | 0.38(0.60–0.98) | 0.25(0.55–0.80) |
ALP | 16 | 0.20(0.99–1.19) | 0.43(0.60–1.03) |
γ-GT | 15 | 0.99(2.05–3.04) | 0.30(0.75–1.05) |
UN | 17 | 0.95(1.95–2.90) | 0.73(0.93–1.66) |
CRE | 18 | 1.05(1.39–2.44) | 0.29(0.78–1.07) |
UA | 15 | 0.13(0.90–1.03) | 0.13(0.53–0.66) |
Ca | 13 | 0.35(1.02–1.37) | 0.32(0.82–1.14) |
Mg | 25 | 0.92(1.44–2.36) | 0.89(1.08–1.97) |
Glu | 17 | 0.82(0.53–1.35) | 0.81(0.43–1.24) |
TG | 23 | 0.75(0.74–1.49) | 0.29(0.60–0.89) |
TC | 17 | 0.32(0.68–1.00) | 0.16(0.54–0.70) |
Bonferroni法では12から25の群間の組み合わせで有意差を認めた。6か月間の最大CVと最小CVの差はQAPトロールIXで0.13%から1.43%,QAPトロールIIXで0.07%から0.89%であった。
QAPトロールIX,IIXのデータ取得期間ごとの各項目のCVをTable 3に示す。全ての項目で期間ごとの分散をF検定で比較した結果,有意差を認めた項目,期間はなかった。各期間での最大CVと最小CVの差はQAPトロールIXで0.01%から0.34%(平均0.15%),QAPトロールIIXで0.03%から0.22%(平均0.07%)であった。「2.データ取得のタイミングによる影響」で算出した,6か月間の1か月ごとの最大CVと最小CVの差はQAPトロールIXで0.10%から1.43%(平均0.58%),QAPトロールIIXで0.06%から0.89%(平均0.36%)と比較してバラツキの差は小さかった。
A QAPトロールIX | B QAPトロールIIX | |||||||||
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項目(単位) | 3か月間平均CV | 6か月間平均CV | 9か月間平均CV | 12か月間平均CV | 最大CV-最小CV | 3か月間平均CV | 6か月間平均CV | 9か月間平均CV | 12か月間平均CV | 最大CV-最小CV |
Na(mmol/L) | 0.41 | 0.39 | 0.41 | 0.43 | 0.04 | 0.45 | 0.41 | 0.43 | 0.44 | 0.04 |
K(mmol/L) | 0.43 | 0.43 | 0.43 | 0.43 | 0.01 | 0.46 | 0.42 | 0.45 | 0.47 | 0.05 |
Cl(mmol/L) | 0.56 | 0.62 | 0.68 | 0.68 | 0.13 | 0.54 | 0.54 | 0.58 | 0.59 | 0.05 |
TP(g/dL) | 0.98 | 0.96 | 0.98 | 1.00 | 0.04 | 0.72 | 0.72 | 0.75 | 0.74 | 0.03 |
ALB(g/dL) | 1.55 | 1.42 | 1.50 | 1.48 | 0.14 | 1.30 | 1.26 | 1.30 | 1.26 | 0.04 |
LD(U/L) | 1.28 | 1.13 | 1.18 | 1.15 | 0.14 | 0.92 | 0.82 | 0.82 | 0.83 | 0.10 |
AST(U/L) | 2.24 | 1.96 | 1.91 | 1.94 | 0.34 | 1.02 | 0.98 | 0.94 | 0.96 | 0.08 |
ALT(U/L) | 3.46 | 3.41 | 3.41 | 3.50 | 0.10 | 1.25 | 1.28 | 1.23 | 1.26 | 0.05 |
CK(U/L) | 1.12 | 1.10 | 1.07 | 1.06 | 0.05 | 0.77 | 0.79 | 0.78 | 0.81 | 0.04 |
AMY(U/L) | 0.86 | 0.80 | 0.83 | 0.84 | 0.05 | 0.67 | 0.66 | 0.70 | 0.69 | 0.04 |
ALP(U/L) | 1.07 | 1.09 | 1.08 | 1.11 | 0.05 | 0.95 | 0.89 | 0.87 | 0.91 | 0.08 |
γ-GT(U/L) | 2.59 | 2.47 | 2.43 | 2.43 | 0.16 | 0.98 | 0.93 | 0.92 | 0.90 | 0.08 |
UN(mg/dL) | 2.42 | 2.54 | 2.62 | 2.60 | 0.21 | 1.15 | 1.17 | 1.31 | 1.29 | 0.16 |
CRE(mg/dL) | 1.62 | 1.79 | 1.75 | 1.68 | 0.17 | 0.86 | 0.89 | 0.87 | 0.85 | 0.04 |
UA(mg/dL) | 0.94 | 0.94 | 0.85 | 0.74 | 0.20 | 0.59 | 0.60 | 0.61 | 0.57 | 0.04 |
Ca(mg/dL) | 1.27 | 1.17 | 1.13 | 1.11 | 0.16 | 1.09 | 1.00 | 1.09 | 1.11 | 0.11 |
Mg(mg/dL) | 1.97 | 1.51 | 1.44 | 1.53 | 0.53 | 1.58 | 1.52 | 1.45 | 1.45 | 0.13 |
Glu(mg/dL) | 0.65 | 0.86 | 0.78 | 0.75 | 0.21 | 0.56 | 0.77 | 0.69 | 0.64 | 0.22 |
TG(mg/dL) | 1.11 | 0.97 | 0.97 | 1.00 | 0.14 | 0.82 | 0.76 | 0.78 | 0.79 | 0.07 |
TC(mg/dL) | 0.84 | 0.80 | 0.79 | 0.79 | 0.06 | 0.66 | 0.61 | 0.61 | 0.61 | 0.06 |
各期間での最大CVと最小CVの差はQAPトロールIXで0.01%から0.34%(平均0.15%),QAPトロールIIXで0.03%から0.22%(平均0.07%)であった。
新たに予備データを取得せずに,過去のIQC測定値を用いて管理幅を設定する方法を検証した。ロットの異なるQAPトロールIX,IIXを同時に測定した結果,全ての項目でロットNのSDNとロットOのCVを用いてロットNの平均値から算出したSDOにBタイプの不確かさ以上の差は認めなかった。このことから,ロットが異なっても精密度には大きな差がないと考える。臨床・検査標準協会(Clinical and Laboratory Standards Institute; CLSI)のC24では,使用される管理試料のロットに関わらずCVは同等であり,過去データのCVを用いてSDを推定することができるとされている11)。単回の検証であったが,管理試料のロット変更時に予備データを取得することなく新ロットの平均値と過去ロットのCVを用いたSDの算出により管理幅の設定が可能であると思われる。この方法では,日常実施している精度管理データを用いることから,①の課題である「予備データの取得に費用がかかること」は解決できる。
2. データ取得のタイミングによる影響データ取得のタイミングによりIQC測定値の平均値にどの程度影響するかを確認するために,6か月間のデータを1か月ごとに群分けしWelchの一元配置分散分析を実施し,QAPトロールIX,IIXともに全項目でIQC測定値の平均値に有意差を認めた。その後,Bonferroni法による多重比較を実施し,項目により異なるが,12から25の群間において有意差があった。また,1か月ごとの最大CVと最小CVの差は,1%を超える項目もあり,測定期間が短いことで機器の状態や消耗品の劣化やメンテナンスの状況を反映し,IQC測定値のバラツキが大きくなると考える。CLSIのC24では,20回の予備データを使用し初期設定したSDを十分なIQC測定値が累積した段階で長期変動を反映させられるSDに更新する必要があるとしており11),必要に応じてCLSIのEP15に記載されている一元配置分散分析を用いて評価することを推奨している12)。このことから20~30日間の予備データでは長期変動を反映させることは難しく,取得のタイミングにより精密度に影響を与える可能性があるため,データ取得期間としては適していないと考える。②の課題を解決するためにはデータ取得時の精密度への影響を軽減するために,取得期間をある程度長期間にする必要性を考える。そこで,過去の長期間のIQC測定値からCVおよびSDを算出することは容易にできることから,②の課題である「予備データの取得タイミングにより精密度に差があること」を解決するためには,過去の精度管理測定値から長期間集計する必要があると考える。
3. 過去データの取得期間の検証過去のIQC測定値の取得期間を検証するために,3か月,6か月,9か月,12か月の期間のCVを算出した。算出した項目ごとのCVをそれぞれの期間ごとにF検定により比較した結果は全ての項目,期間で有意差を認めなかった。このため3か月以上の期間の予備データを取得することで安定したCVが得られると考えた。また,各項目の最大CVと最小CVの差はQAPトロールIXで0.01%から0.34%(平均0.15%),QAPトロールIIXで0.03%から0.22%(平均0.07%)であった。1か月ごと算出した場合の最大CVと最小CVの差はQAPトロールIXで0.10%から1.43%(平均0.58%),QAPトロールIIXで0.06%から0.89%(平均0.36%)であり長期間集計することで,CVのバラツキは小さくなった。しかし,Table 3から一部の項目は3か月間では他の期間に比べて統計的には有意差はないが,差が大きくなった。この原因として,短期間では消耗品(セル,ランプ,サンプルプローブ等)の交換,試薬ロット,保守メンテナンスの実施状況による影響を強く受ける。一方で,長期間集計することにより,精密度に影響を与える様々な要因を加味したうえでの管理幅の設定が可能となると考える。今回の検証結果からは,最低6か月のIQC測定値を用いることで,自施設の精密度を反映した管理幅を得られたことから,③の課題である「自施設の精密度を反映した管理幅を設定する必要があること。」は解決できる。
4. 過去のCVを用いた精度管理幅の算出CLSIのH26-A2では,過去のIQC測定値から求めたCVからSDを算出するには,複数ロットのIQC測定値のCVから加重平均で得られたCV(Total CV)を求めTotal CVからSDを算出する。と記載されているが13),生化学検査の場合は管理試料のロットに関わらずCVは同等であると考えられる。
以上から,最低6か月間のIQC測定値からTotal CVを求め,Total CVと平均値からSDを算出することで,簡便に自施設の精密度を反映した管理幅を設定できる。
①管理試料の複数ロットのCVからTotal CVを求める方法
②Total CVと管理試料の平均値からSDを求める方法
本研究で考案した過去のIQC測定値からSDを求め管理幅とする方法は,日常IQCを行っている全施設で使用できる方法と考える。ただし,施設の精度管理状況が悪い場合は管理幅が大きくなる場合があり,必ず,日本臨床化学会などが提示している精密さの許容誤差限界,CVAなどを参照して,自施設の精密度が妥当であることを確認する必要がある14),15)。
本研究では,簡便かつ自施設の精密度を反映したIQCの管理幅を算出する方法を考案した。過去6か月のIQC測定値から求めたTotal CVと新ロットの表示値あるいは目標値からSDを算出する方法はIQCを行っている多くの施設で使用可能な方法と考える。今後は生化学検査のみならず,他分野のIQCの管理幅設定に応用できるかを検証していきたい。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。