The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Pneumatosis Cystoides Intestinalis with Intussusception in a Young Man
Takashi KomatsuKensuke KumamotoEiko ImaizumiMasatsugu IshiiSatoshi HatanoKeiichiro IshibashiNorihiro HagaHideyuki Ishida
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2012 Volume 45 Issue 7 Pages 778-784

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Abstract

症例は18歳の男性で,腹痛を主訴に前医受診し,精査加療目的に当科紹介入院となった.腹部所見では,右下腹部に軽度圧痛を認めたが,腹膜刺激症状は認めなかった.腹部単純X線で右上腹部から下腹部に集簇する異常ガス像を呈していた.造影CTで,右側結腸にmultiple concentric ring signを認め,腸重積の診断にて同日緊急手術を施行した.手術所見では順行性回結腸型の腸重積を認め,整復後,先進部の盲腸から上行結腸に多発する弾性軟の浮腫状の腫瘤を触知し,回盲部切除を行った.切除標本には,粘膜下に多発する含気性囊胞を認め,病理組織学的に腸管囊腫様気腫症と診断した.腸管囊腫様気腫症の発症にはさまざまな原因が報告されているが,本症に伴う腸重積は,若年世代での報告が散見され,実地臨床で念頭におく病態と考えられる.腸管囊腫様気腫症の臨床的特徴や腸重積との関連について文献的考察を加え報告する.

はじめに

腸管囊腫様気腫症(pneumatosis cystoides intestinalis;以下,PCIと略記)は,消化管壁の粘膜下や漿膜下に多数の含気性囊胞を生じる比較的まれな疾患で,さまざまな要因により発症することが報告されている1).特有の臨床症状に乏しいため,無症状のまま経過し,検診や他疾患の精査時に偶然発見されることも少なくない.今回,若年男子に発症した腸重積を契機に発見されたPCIを経験したので,文献的考察を加えて報告する.

症例

症例:18歳,男性

主訴:腹痛

既往歴:特記事項なし.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:突然の腹痛を主訴に前医を受診した.ブチルスコポラミン錠を処方され帰宅するも,その後も症状の改善が認められず,前医を再び受診した.腹部 CTで腸重積が疑われたため,精査加療目的に当科紹介入院となった.

入院時現症:身長172 cm,体重53 kg.意識清明.体温37.0°C,血圧130/72 mmHg,脈拍78回/分.腹部は平坦,軟で,下腹部に軽度の圧痛を認めたが,腹膜刺激症状は認められなかった.

入院時検査所見:血液一般検査では,白血球8500/μl,CRP 0.2 mg/dlと基準値範囲内であった.その他の検査所見にも異常所見は認められなかった.

腹部単純X線検査所見:右季肋部においてブドウの房状様の異常ガス像を認めた.

腹部造影CT所見:右側結腸領域にmultiple concentric ring signを認めた(Fig. 1a).またこの領域の結腸壁に多発する類円形あるいは線状の空気に一致した低吸収域を認めた(Fig. 1b).

Fig. 1 

a: Abdominal CT demonstrating a multiple concentric ring sign (arrows) in the transverse colon. b: Abdominal CT demonstrating multiple gaseous lesions (arrows) in the right-sided colon and the distal portion of the intussusception in the transverse colon.

以上の所見から,多発腫瘤についての質的診断はできなかったものの,これが原因と考えられる腸重積を疑い,同日緊急手術を施行した.

手術所見:ダグラス窩に少量の腹水を認めた.腸重積の状態は,回腸が横行結腸に5筒性に嵌入していた.用手的に慎重に重積を解除すると,先進部は盲腸と上行結腸で,腸管の壊死は認められなかった.右側結腸が後腹膜に固定されていない,いわゆる移動盲腸であった.盲腸~上行結腸に径2~3 cm大の多発する弾性軟な腫瘤を触知し,再発の可能性も考えられたため,腫瘤性病変を切除する方針とし回盲部切除を行った.

切除標本肉眼所見:盲腸~上行結腸に多発する柔らかい径2~3 cm大の腫瘤を認めた(Fig. 2a).また,回腸末端部および虫垂の粘膜面にリンパ濾胞の形成が顕著であった(Fig. 2a).割面像では,粘膜下に大小の多発する気腫様囊胞を認めた(Fig. 2b).

Fig. 2 

a: Macroscopic appearance of the resected specimen demonstrating multiple submucosal elevated lesions in the cecum and ascending colon (arrows), and multiple lymph follicles in the terminal ileum and vermiform appendix. b: Cut surface of the resected specimen demonstrating multiple gas-filled cystic lesions.

病理組織学的検査所見:漿膜面の変化は目立たず,粘膜下層に多発する囊胞性病変を認めた(Fig. 3a).囊胞壁は薄い線維性結合織からなり,囊胞壁内には多核巨細胞がみられた(Fig. 3b).以上の所見から,病理組織学的にPCIと診断した.

Fig. 3 

a: Histopathological findings showing the pneumatosis in the submucosal layer (HE staining, ×40). b: Histopathological findings showing the cyst lined by multinucleated giant cells (arrows) (HE staining, ×100).

術後経過は良好で,第10病日に退院した.術後1年経過した現在,再発の兆候は認められていない.

考察

PCIは,基礎疾患合併の有無に関係なく腸管壁の粘膜下または,漿膜下に多発する含気性囊胞状の腫瘤性病変を形成する疾患で,その病態は1730年にDu Vernoi2)により報告されて以来,まれな疾患として国内外から経時的に多数報告されている.本邦では,1901年に三輪3)が最初の報告をしているが,かなり以前より存在した疾患であると考えられる.疾患の概念や疫学,病因,診断,治療に関しては,これまでの症例の集積により確立されつつあるが,いまだ不明な点もあり,実地臨床で経験する機会が必ずしも多いとは言えないのでこの疾患について,さらなる理解が必要と思われる.今回,自験例を含め過去の報告例を検討した.

2000年から2010年の期間,医学中央雑誌で「腸管囊腫様気腫症」で検索し,原著論文として報告されている176例を対象に,性差や発症年齢,発生部位および原因と考えられる基礎疾患の有無について解析した.176例の内訳は男性89例,女性87例であった.疫学的調査では,1952年にKoss4)がPCIの213例を報告しており,男性147例,女性45例,不明21例であったことや,1979年にJamart5)がPCIの919例を統計解析した報告でも男性が女性の約2倍程度の頻度であったことから,女性より男性に多い傾向があるとされている.本邦においては,古くは1957年に河田ら6)が1944年までに報告された79例について解析しており,男性50例,女性24例(不明5例)と記述されている.1984年に大西ら7)は,PCIの81例を解析し,男性21例,女性39例(不明21例)と,また1980年から1991年までの126例の報告8)でも男性54例,女性62例と女性の割合が増えてきていることを報告している.今回,2000年以降の報告例の集計では,性差は認められなかったことから,性別と疾患の特異性はないものと考えられる.また,発症年齢に関しても,幅広い年代にわたって罹患しているものの,60歳から80歳で86例(49%)と全体の約半数を占めていた.前述のKoss4)はPCIの213例の年齢分布は30歳から50歳が約半数を占めていたと報告している.本邦では,1944年以前は20歳代と30歳代で約3分の2を占めていた6)が,時代背景の変遷に伴い,最近では40歳代以降に多く,特に60歳以上の罹患率が非常に高いことがわかった.発生部位は,小腸が多いという報告4)6)がある一方大腸の割合が多いという報告7)~9)もあり,今回の集計結果では,重複例も含めて小腸病変は97例,大腸病変は95例とほぼ同じ割合であった.大腸病変のうち主座が右半結腸は53例,左半結腸は22例であり,右半結腸の割合が多かった.発症原因については,因果関係のある基礎疾患を有せずPCIを発症する特発性PCIの割合が約15%程度であったと報告4)されているように,PCIの発症には何らかの因果関係のある基礎疾患がある続発性PCIがほとんどである.本集計では,特発性PCIが41例(23.3%),続発性PCIが135例(76.7%)であった.坂下ら8)の本邦PCI126例の報告でも特発性PCIが33例(26.2%)で,特発性PCIの割合は全体の4分の1程度であった.続発性PCIの基礎疾患では,全身性エリテマトーデス,多発性筋炎,結節性動脈炎などの膠原病が22例と多く,こうした基礎疾患の治療にも使われるステロイドの投与との関連性のあるものが23例認められた.その他,糖尿病に対し投与されたα-グルコシダーゼ阻害剤との関連は21例に認められている.閉塞性疾患や呼吸器疾患との関連が示唆されるものは14例に認めた.従来,PCIとの関連性が高いと報告されていた消化管潰瘍や幽門狭窄は6例,トリクロルエチレン暴露は4例と非常に少なく,最近では,ステロイドやα-グルコシダーゼ阻害剤による薬剤性と考えられる症例が多い傾向にあった.さまざまな基礎疾患からPCIの発症機序が関連付けられたことにより,発症の要因には,機械説,肺原説,細菌説,化学説などが提唱されている1)10)11)

腸重積を併発したPCIの本邦報告例を,1983年から2010年の期間,医学中央雑誌で「腸重積」と「腸管囊腫様気腫」あるいは「気腫」で検索したところ,会議録を含めて16例の報告12)~27)があり,これに自験例を加えた17例について検討を行った(Table 1).年齢は10~23歳(中央値17歳),男女比は13:4であった.PCIの発症部位は,盲腸,上行結腸のいずれかもしくは両方の右側結腸がほとんどであり,1例のみ下行結腸であった.特発性PCIは,12例であり,続発性PCIは5例で,喘息2例,SLE 1例,脳性麻痺2例であった.以上から,腸重積を併発したPCIは,一般的なPCIと比較し,特発性で,若年発症,男性に多く,右側結腸に発症するという特徴を有していることが判明した.治療について,6例では非観血的治療にて腸重積を整復し,PCIに対して酸素吸入療法や経過観察を行い,いずれも改善が認められていた.自験例を含めて11例には手術療法が施行されていた.これらの成績から,PCIによる腸重積と確実に診断されれば,まずは非観血的に整復を図り,続けて酸素療法を施行することが標準治療になると考えられた.ただし,一般的に成人腸重積の治療28)29)は,器質的病変が腸重積の原因となっている場合が多いので手術療法を第一選択とするべきであり,術前に器質的病変がPCI と確定診断できなければ,手術療法による腸重積の解除と原因疾患の同定も許容されると考えられる.本症例は,術前のCT画像からPCIと診断し腸重積との関連をよく認識していれば保存的治療も可能であったと考えられ,自戒の念を込めてPCIに伴う腸重積という病態について総括した.

Table 1  Case reports of PCI with intussusception in Japan (1983–2010)
No. Author Year Age (years) Gender Location Associated disorder Treatment
1 Komuro12) 1983 21 male Ascending colon None Right hemicolectomy
2 Miyasaka13) 1988 15 female Cecum None Manipulative reduction
3 Shiroiwa14) 1995 17 male Cecum~ascending colon Cerebral palsy Right hemicolectomy
4 Imamura15) 1998 10 male Ascending colon
~sigmoid colon
Cerebral palsy Left hemicolectomy
5 Yanaihara16) 1999 12 female Ascending colon Systemic lupus erythematosus Enema reduction
6 Oyama17) 2000 12 female Cecum Asthma Hyperbaric enema
7 Tamaki18) 2006 21 male Ascending colon Asthma Right hemicolectomy
8 Watanabe19) 2008 22 male Ascending colon None 1st; colonoscopy, 2nd; right colectomy
9 Kunisue20) 2008 16 male Cecum~ascending colon None Ileocecal resection
10 Nishi21) 2009 20 male Ascending colon None Enema reduction, oxygen
11 Kida22) 2009 17 male Ascending colon~transverse colon None Operation (reduction)
12 Komatsubara23) 2009 15 male Ascending colon None Ileocecal resection
13 Kimizu24) 2010 14 male Cecum None Hyperbaric enema, oxygen
14 Sato25) 2010 19 female Cecum~ascending colon None Right hemicolectomy
15 Nagata26) 2010 23 male Ascending colon None Colonoscopy, partial ascending colectomy
16 Osumi27) 2010 20 male Ascending colon None Right hemicolectomy
17 Our case 18 male Cecum~ascending colon None Ileocecal resection

今回,Table 1に示したように最近のPCIに伴う腸重積の報告例において,20歳前後の発症が多いことから,この世代において,腸重積の原因となる疾患について検索した.15歳から25歳に限定して腫瘤性病変による腸重積について,1983年から2010年の期間,医学中央雑誌で「腸重積」と「腫瘤」で検索したところ,27例の報告(会議録は除く)が認められた.男性14例,女性13例であった.腸重積の原因となった腫瘤性病変は,11例が小腸病変で悪性リンパ腫が4例と多く,Peutz-Jeghers型ポリープ2例などであった.16例は,右側結腸病変で,PCIが4例,リンパ管腫3例,細菌性腸炎3例,特発性2例と続いており,PCIはこの世代の腸重積の主たる器質的疾患の一つであることが示唆された.

以上より,若年発症,特に20歳前後の男性で右側結腸の腫瘤性病変による回結腸型もしくは結腸結腸型腸重積を起こしていると判断した場合には,PCIを念頭におき慎重に対処すべきと考えられた.

利益相反:なし

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