2025 Volume 84 Issue 2 Pages 31-41
The interplay between dizziness, vertigo, and headache has been a subject of longstanding clinical debate. This review aims to provide a comprehensive overview of the current understanding regarding the classification, pathogenesis, and management of this complex clinical presentation. It focuses on the International Classification of Headache Disorders, Third Edition (ICHD-III), which provides a comprehensive framework for the classification of headache disorders. Particular attention is paid to “migraine with brainstem aura,” “vestibular migraine,” and “hemiplegic migraine,” as these subtypes are often challenging to differentiate clinically due to their overlapping symptomatology with dizziness and vertigo. The underlying pathophysiological mechanisms linking dizziness, vertigo, and headache are multifaceted and not yet fully elucidated. Emerging evidence suggests that shared neuroanatomical and neurochemical pathways may contribute to the co-occurrence of these symptoms. Detailed exploration of the underlying pathogenetic pathways is crucial for developing targeted therapeutic interventions. Various clinical assessment tools, including the Headache Diary, are discussed as valuable resources for accurate diagnosis and targeted treatment of headache disorders associated with dizziness and vertigo. These assessment measures can facilitate effective physician-patient communication and optimize clinical decision-making. The complex relationship between dizziness, vertigo, and headache requires a thorough understanding of the underlying pathophysiology and a systematic approach to clinical evaluation and management. Adoption of validated assessment tools can contribute to improved patient outcomes and strengthen the clinician’s ability to provide evidence-based care.
めまいと頭痛は,以前よりその関係性が議論されている。めまいから頭痛を来たす患者や,頭痛の後でめまいを来たす患者もいる。このような場合にどのようなことが起こっているのであろうか。めまいを専門とされている先生方には聞き慣れない病名や分類があるかもしれないが,本稿ではめまいと頭痛の病態を知り,頭痛の分類,頭痛の評価法を使用してめまいを伴った頭痛を診療する場合のことについて記載した。めまいと頭痛に関係する分類は,国際頭痛分類第3版(ICDH-III)が参考(表1)になる1)。今回は表1にあるめまいと1次性頭痛の関係を取り上げ,めまいと2次性頭痛の関係についてはICDH-IIIの原著を参考にしていただきたい。
A.1次性頭痛(片頭痛,群発頭痛,緊張型頭痛のように可逆性の頭痛を示すもの) |
1.脳幹性前兆を伴う片頭痛 |
2.前庭性片頭痛 |
3.片麻痺性片頭痛(特にCACNA1A遺伝子の変異を伴うもの) |
4.良性発作性めまい |
B.2次性頭痛(他の疾患に併発する新規の頭痛が生じ,2次疾患がめまい原因となるもの) |
5.頭頸部外傷・傷害による頭痛(特に,小脳,前庭部の外傷など) |
6.頭頸部血管障害による頭痛(特に,小脳,前庭部の出血や梗塞など) |
7.非血管性頭蓋内疾患による頭痛(特に,低髄液圧や脳髄液漏出など) |
8.物質またはその離脱による頭痛(特に,アルコールの誘発など) |
9.感染症による頭痛(特に,小脳,前庭部,内耳の感染症など) |
10.ホメオスターシス障害による頭痛(睡眠時無呼吸症候,潜水時頭痛など) |
11.頭蓋骨,頸,眼,耳,鼻,副鼻腔,歯,口あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛(特に内耳疾患など耳鼻科領域の疾患) |
12.精神疾患による頭痛 |
ICHD IIIでは,片頭痛を大きく「前兆のある片頭痛」と「前兆のない片頭痛」に分類する1)。その上で,めまいを伴う頭痛は,「前兆のある片頭痛」に分類された中の「脳幹性前兆を伴う頭痛」と「前庭性片頭痛」が知られている。「典型的前兆を伴う片頭痛」では皮質拡延性抑制(cortical spreading depression: CSD)が前兆と関連していること考えられているが,「脳幹性前兆を伴う頭痛」と「前庭性片頭痛」が,このCSDと関連しているかは不明である2)。また,「片麻痺性片頭痛」を来す場合に,めまいを伴うことも知られており,これらの各片頭痛の診断基準,病態を知ることが,めまいを伴う片頭痛の診療や治療に役立つ。
「脳幹前兆を伴う片頭痛」「脳幹前兆を伴う片頭痛」は,以前に,脳底型片頭痛と呼称されていたのものが,脳底動脈関与の可能性が低いためにICHD IIIから「脳幹性前兆を伴う片頭痛」と呼称が変更になった1)3)。ICHD IIIの診断基準(表2)における「脳幹前兆を伴う片頭痛」の約半数以上にめまい症状を認めるが,脳幹前兆を伴う片頭痛を診断するためには視覚前兆,感覚前兆または失語前兆に加えて2つ以上の脳幹症状が必要である。ただし,運動麻痺(脱力)症状は伴わないことが重要である。前兆症状の責任病巣が明らかに脳幹由来のものと考えられる片頭痛発作で,運動麻痺(脱力)は含まないため片麻痺性片頭痛は含まない4)5)。本疾患における診断で最も重要な点が上記の前兆であり,いかに問診で引き出せるかがポイントになる。診断基準では前兆症状として可逆性の構音障害,回転性めまい,耳鳴り,難聴,複視,運動失調,意識レベルの低下などがあげられる。前兆症状に関しては患者自身から訴えることは少なく,医療者からアンケートなどを用いて上手く前兆症状に関して問診することが重要である。大部分の患者で脳幹症状に加えて視覚症状,感覚症状などの典型的前兆を伴うことも多い。また本疾患は耳鳴り,めまい,頭痛などといった症状に加え,視覚症状などの典型的前兆が加わると,一見不定愁訴ともとらわれることが多く丁寧な問診が必要である。本疾患は診断基準にもある意識レベルの低下が挙げられており,実際には昏睡,昏迷,困惑,興奮,一過性全健忘などの様々な意識レベルの変容が知られている2)3)。このような様々な意識レベルの変容があり,神経救急における鑑別疾患の一つとして,知っておくことも重要も重要である。
■以前に使用された用語 |
脳底動脈片頭痛(basilar artery migraine),脳底片頭痛(basilar migraine),脳底型片頭痛(basi-lar-type migraine) |
■解説 |
片頭痛の前兆症状の責任病巣が明らかに脳幹と考えられるもの。運動麻痺(脱力)が前兆である場合は含まない。 |
■診断基準 |
A.B~Dを満たす頭痛発作が2回以上ある |
B.完全可逆性の視覚性,感覚性,言語性前兆があるが,運動麻痺(脱力)あるいは網膜(注1)症状は伴わない |
C.以下の脳幹症状のうち少なくとも2項目を満たす |
1.構音障害 |
2.回転性めまい |
3.耳鳴 |
4.難聴 |
5.複視 |
6.運動失調 |
7.意識レベルの低下 |
D.以下の4つの特徴の少なくとも2項目を満たす |
1.少なくとも1つの前兆症状は5分以上かけて徐々に進展するか,または2つ以上の前兆症状が引き続き生じる(あるいはその両方) |
2.それぞれの前兆症状は5~60分持続する(注2) |
3.少なくとも1つの前兆症状は片側性である(注3) |
4.前兆に伴って,あるいは前兆発現後60分以内に頭痛が発現する |
E.ほかに最適なICHD-3の診断がない,また,一過性脳虚血発作が除外されている |
■注 |
1.運動症状を有する場合は1.2.3「片麻痺性片頭痛」にコード化する。 |
2.例えば,1回の前兆の間に3つの症状が発現する場合には,前兆の許容最長持続時間は3 × 60分間である。 |
3.失語は常に片側性症状とみなされるが,構音障害は片側性の場合もそうでない場合もありうる。 |
■コメント |
元来は,「脳底動脈片頭痛(basilar artery migraine)」「脳底片頭痛(basilar migraine)」という用語が使われていたが,脳底動脈関与の可能性は低いため,「脳幹性前兆を伴う片頭痛」という用語が選択された。 |
ほとんどの頭痛発作中に脳幹症状に加えて典型的な前兆症状が認められる。脳幹性前兆を伴う頭痛発作を有する患者の多くが,典型的前兆を伴う頭痛発作も訴えており,これらの患者は1.2.1「典型的前兆を伴う片頭痛」と1.2.2「脳幹性前兆を伴う片頭痛」の両方にコード化されるべきである。 |
診断基準Cに列記した症状の多くは,不安や過換気により生じる場合があり,誤った解釈がなされやすい。 |
「前庭性片頭痛」は,以前から片頭痛とめまいとの関係について議論されてきた項目が,ICHD IIIの付録A1.6.6の項にまとめられた。これまで本邦では片頭痛関連めまい等として扱われ,ICHD IIでは「脳底型片頭痛」や小児の「良性発作性めまい」として分類されていた1)。「前庭性片頭痛」の診断基準(表3)には,重度の前庭症状があると記載されており,その内容は,Bárány平衡医学会による前庭疾患の国際分類に準拠したものと記載がある。すなわち,その症状は,自発性めまい,頭位性めまいを含む。ICHD III付録A1.6.6のコメントにて一時的な耳鳴り,吐き気,嘔吐などは,前庭性片頭痛と関連する可能性がある。
■以前に使用された用語 |
片頭痛関連めまい(migraine-associated vertigo/dizziness),片頭痛関連前庭障害(migraine-related vestibulopathy),片頭痛性めまい(migrainous vertigo) |
■診断基準 |
A.CとDを満たす発作が5回以上ある |
B.現在または過去に1.1「前兆のない片頭痛」または1.2「前兆のある片頭痛」の確かな病歴がある(注1) |
C.5分~72時間(注2)の間で持続する中等度または重度(注3)の前庭症状(注4)がある |
D.発作の少なくとも50%は以下の3つの片頭痛の特徴のうち少なくとも1つを伴う |
1.頭痛は以下の4つの特徴のうち少なくとも2項目を満たす |
a)片側性 |
b)拍動性 |
c)中等度または重度 |
d)日常的な動作により頭痛が増悪する |
2.光過敏と音過敏(注6) |
3.視覚性前兆(注7) |
E.ほかに最適なICHD-IIIの診断がない,または他の前庭疾患によらない(注8) |
■注 |
1.発作持続期間はきわめて多様である。患者の約30%は数分程度,30%は数時間,30%は数日に及ぶ。残りの10%は持続はほんの数秒程度で,頭位変換中や視覚刺激時または頭位変換後に繰り返し起こる傾向がある。これらの患者では,短時間の発作が繰り返して認められる期間全体を発作期間とする。その範囲のもう一方では,完全回復するまで4週かかるかもしれない患者もいるが,中核となる発作はめったに72時間を超えない。 |
2.前庭症状は日常活動に支障はあるが,阻まれてしまうほどではないときは中等度,日常生活が続けられないときは重度と評価される。 |
3.Bárány Society(国際平衡医学会)の分類によって定義され,かつA1.6.6「前庭性片頭痛」の診断に適合する前庭症状で,以下を含む。 |
a)自発性めまい |
(i)内部性めまい(自分自身の内部が動いているように感じる) |
(ii)外部性めまい〔周囲(自分の外)が回ったり揺れたりしているように感じる〕 |
b)頭位変換後に起こる頭位性めまい |
c)複雑または大きな動きの視覚刺激により誘発される視覚誘発性めまい |
d)頭位変換時に起こる頭位変換性めまい |
e)悪心を伴う頭位変換によって誘発されるめまい感(空間認知障害の感覚に特徴づけられるめまい感であり,その他のめまい感は一般に前庭性片頭痛には含まない) |
実臨床では,「脳幹性前兆を伴う片頭痛」と「前庭性片頭痛」のめまい症状を明確に区別することは困難で,脳幹症状なのか前庭症状なのか迷う場合もある。ICHD IIIの1.6.2「良性発作性めまい」の項目では,「後頭蓋窩腫瘍,痙攣発作および前庭障害は必ず除外されるべきである。」とのコメントもある。さらに図1に示したように「前庭性片頭痛」の患者の少数が5~60分にわたる前兆症候として,頭痛発作の前に回転性めまいを自覚することが考えられ,典型的前兆につづく片頭痛に一致するような,頭痛開始直前から前庭症状を自覚するものは約30%程度と考えられる6)7)。この点で「前庭性片頭痛」の発作が反復する前庭症状は,片頭痛前兆には含めない。また「脳幹前兆を伴う片頭痛」の約半数以上にめまい症状を認めるが,「脳幹前兆を伴う片頭痛」を診断するためには,視覚前兆,感覚前兆または失語前兆に加えて2つ以上の脳幹症状が必要である点が鑑別点となる。従って「前庭性片頭痛」と「脳幹前兆を伴う片頭痛」の両方の診断基準を満たす症例も存在するかもしれないが,これらの疾患名は同義ではない。
めまいと伴う片頭痛として忘れてならないものに片麻痺性片頭痛がある。前兆を伴う頭痛の特殊型として片頭痛の前兆時に片側性の脱力感や感覚障害を自覚する疾患で,家族歴のあるものを家族性片麻痺性片頭痛(Familial Hemiplegic Migraine: FHM),家族歴のないものを弧発性片麻痺性片頭痛(Sporadic Hemiplegic Migraine: SHM)という。FHMについては,その遺伝子の病的バリアントによって,それぞれFHM1型(CACNA1A遺伝子),FHM2型(ATP1A2),FHM3型(SCN1A)の病的バリアントによって3型に分類されている。臨床的には,視覚症状,感覚症状,言語症状などの典型的前兆,さらには完全可逆性の脱力感などの運動症状の前兆から60分以内に片頭痛を呈する疾患であり,表4にその診断基準を示す。病名に片麻痺とあるが,完全麻痺などに至ることではなく,大多数の症例で脱力感といった運動症状を呈する。本疾患はFHMと診断される患者の半数は10歳代と若年で発症する傾向にあり,女性に多いと報告されている。また,運動症状の持続時間は6時間前後であるのと比較して視覚症状の持続時間は2時間前後と短いことが知られている4)。しかしながら,常に片麻痺を伴う片頭痛発作を起こすわけではなく,典型的前兆を伴う片頭痛の事もあるため,臨床的にも詳細な問診が必要である。FMHでは脳幹機能障害も呈することも多く,様々な神経症状を呈するため,てんかんなどと誤診されていることもある。FMHの中でもCACNA1Aの病的バリアントが証明されているFHM1型においては,その半数で,めまいを伴う慢性進行性の小脳性運動失調や小脳萎縮を認めることもあり診断上,重要なポイントである5)。
片麻痺性片頭痛(注1) |
■解説 運動麻痺(脱力)を含む前兆のある片頭痛。 |
■診断基準 |
A.BおよびCを満たす発作が2回以上ある |
B.前兆として以下の2項目の両方を認める |
1.完全可逆性運動麻痺(脱力) |
2.完全可逆性視覚症状,感覚症状,言語症状のいずれか1つ以上 |
C.以下の4つの特徴の少なくとも2項目を満たす |
1.少なくとも1つの前兆症状は5分以上かけて徐々に進展するか,または2つ以上の前兆症状が引き続き生じる(あるいはその両方) |
2.運動症状以外の前兆はそれぞれ5~60分持続する。運動症状については72時間未満(注2) |
3.少なくとも1つの前兆症状は片側性である(注3) |
4.前兆に伴って,あるいは前兆発現後60分以内に頭痛が発現する |
D.ほかに最適なICHD-3の診断がない,また,一過性脳虚血発作や脳梗塞が除外されている |
■注 |
1.片麻痺(plegic)という用語は多くの国の言語で完全な麻痺を意味するが,ほとんどの発作は脱力(不全麻痺)を特徴とする。 |
2.一部の患者では脱力は何週間も続くことがある。 |
3.失語は常に片側性症状とみなされるが,構音障害は片側性の場合もそうでない場合もありうる。 |
■コメント |
脱力と感覚消失の厳密な区別は時に困難である。 |
1.2.3.1 家族性片麻痺性片頭痛(FHM) |
■解説 |
運動麻痺(脱力)を含む前兆のある片頭痛で,第1度近親者または第2度近親者の少なくとも1人が運動麻痺(脱力)を含む片頭痛前兆を有する。 |
■診断基準 |
A.1.2.3「片麻痺性片頭痛」の診断基準を満たす |
B.第1度近親者または第2度近親者の少なくとも1人が1.2.3「片麻痺性片頭痛」の診断基準を満たす発作を有する |
■コメント |
新たな遺伝的研究成果により,以前よりも正確に1.2.3.1「家族性片麻痺性片頭痛(FHM)」を定義することが可能になった。特定の遺伝子サブタイプが同定された。FHM1では19番染色体上の(カルシウムチャネルをコードしている)CACNA1A遺伝子の変異が,FHM2では1番染色体上の(K+/Na+-ATPaseをコードしている)ATP1A2遺伝子の変異が,FHM3では2番染色体上の(ナトリウムチャネルをコードしている)SCN1A遺伝子の変異が明らかになった。いまだ同定されていないほかの遺伝子座も存在する可能性がある。遺伝子検査が実施され,遺伝子サブタイプが明らかになった場合は,第5桁目として規定する。 |
1.2.3.1「家族性片麻痺性片頭痛(FHM)」は,典型的前兆症状に加えて,脳幹症状を示すことがきわめて多く,発作時にはほぼ毎回頭痛が発現することが知られている。まれに,FHMの発作中に意識障害(時に昏睡を含む),錯乱,発熱,髄液細胞増多などが起こることがある。 |
1.2.3.1「家族性片麻痺性片頭痛(FHM)」はてんかんと誤診され,(無効な)治療をされていることがある。FHMの発作は,(軽度の)頭部外傷によって誘発されうる。FHM家系の約50%において,慢性進行性の小脳失調が片頭痛発作とは別に発生する。 |
1.2.3.1.1 家族性片麻痺性片頭痛1型(FHM1) |
■診断基準 |
A.1.2.3.1「家族性片麻痺性片頭痛」の診断基準を満たす |
B.CACNA1A遺伝子の病原性変異が証明されている |
1.2.3.1.2 家族性片麻痺性片頭痛2型(FHM2) |
■診断基準 |
A.1.2.3.1「家族性片麻痺性片頭痛」の診断基準を満たす |
B.ATP1A2遺伝子の病原性変異が証明されている |
「良性発作性めまい」は,ICHD IIIにおいて小児期に起こると記載されている1)。前兆や予兆のないめまいで数分から数時間で自然消失し,診断にはこのようなめまいが5回必要である。一方,診断基準(表5)と照らし合わせると「前庭性片頭痛」との鑑別は容易である。発作中の神経学的検査や聴覚前庭機能,脳波は正常である。国際頭痛分類の「良性発作性めまい」は片頭痛の前駆症状の1つとして認識されているので,発作前の片頭痛の有無は問わないし,「前庭性片頭痛」の診断基準に合致すれば小児期でも「前庭性片頭痛」と診断される。
■解説 |
繰り返し起こる短時間の回転性めまい発作が特徴の疾患で,発作は前触れなしに起こり自然に軽減する。それ以外には健康上問題がない小児に起こる。 |
■診断基準 |
A.BおよびCを満たす発作が5回以上ある |
B.前触れなく生じ,発現時の症状が最強で,意識消失を伴うことなく数分~数時間で自然寛解する回転性めまい発作(注1) |
C.下記の随伴症状・徴候のうち少なくとも1項目を満たす |
1.眼振 |
2.運動失調 |
3.嘔吐 |
4.顔面蒼白 |
5.恐怖 |
D.発作間欠期には神経所見および聴力・平衡機能は正常 |
E.その他の疾患によらない |
■注 |
1.回転性めまいをもつ年少児が,ぐるぐる回る症状を説明することは難しいかもしれない。発作的な落ち着きのなさが親によって観察される場合,これが年少児の回転性めまい発作を説明しうることがある。 |
■コメント |
後頭蓋窩腫瘍,痙攣発作および前庭障害は必ず除外されるべきである。 |
1.6.2「良性発作性めまい」とA1.6.6「前庭性片頭痛」(付録参照)との関連については,さらなる検討が必要である。 |
健常者よりも「メニエール病」患者に片頭痛はよく認められ,中年,高齢で発症する。影一方,「前庭性片頭痛」は通常若い年齢で発症し,女性でより多い報告がある8)。実際,「メニエール病」と「前庭性片頭痛」の両方の特徴をもった多くの患者が報告されているが,「前庭性片頭痛」では乗り物酔いの家族歴が認められることがある9)。変動する聴覚障害,耳鳴と耳閉感は「前庭性片頭痛」で認められるが,聴覚障害は重症化しない。同様に片頭痛と光過敏および片頭痛前兆はメニエール病の発作中にも認められる。現時点では,「メニエール病」の初期には前庭症状が単一の症候である場合があるので,発症初期では「前庭性片頭痛」と「メニエール病」を区別するのは困難であるとされている(表6)。しかしながら,「メニエール病」と「前庭性片頭痛」区別する理由は,その後の治療において,メニエール病の治療を選択するのか「前庭性片頭痛」の治療を中心に選択するのかによって,患者の予後に差が出てくる可能性があり,できるだけ正確な診断を心がける。近年,前庭誘発眼筋電位(oVEMP: Ocular Vestibular Evoked Myogenic Potential)がその鑑別に役立つとの報告がある10)。
臨床的特徴 | メニエール病 | 前庭性片頭痛 | |
---|---|---|---|
性別 | |||
女性 | 35~75% | 65~86% | |
男性 | 37~65% | 14~35% | |
発症年齢(平均値) | 47.6 | 42.2 | |
発作の持続時間 | 20分から数時間 | 数秒から数日 | |
頭痛 | |||
片頭痛 | 0~28% | 65~76% | |
非片頭痛 | 6~41% | 0~26% | |
めまい | 90~100% | 38~80% | |
蝸牛症状 | |||
耳鳴り | 72~98% | 0~61% | |
耳閉感 | 37~81% | 6~51% | |
難聴 | 54~100% | 0~79% | |
腹部症状,その他 | |||
吐き気 | 20~91% | 72~97% | |
嘔吐 | 20~74% | 50~72% | |
光過敏 | 40~52% | 53~86% | |
音過敏 | 54~63% | 10~82% | |
既往歴・家族歴 | |||
乗り物酔いの既往歴 | 20~30% | 33~62% | |
片頭痛の家族歴 | 16~26% | 47~61% |
文献8より引用
頭痛の診療には問診が重要であるが,多忙な診療時間に患者から十分な情報を得ることは困難である。一次性頭痛の日常診療をサポートし,的確な診断および治療,医師-患者の効果的なコミュニケーションの実現を目指して,各種問診票,スクリーナーがある。現在の代表的なものをここに紹介する。頭痛の問診票には,生活支障度・QOL・治療効果・満足度を問うものや,片頭痛の診断スクリーナーがある。患者-医師間のコミュニケーションの向上をはかり,簡便で迅速な診断および治療効果を客観的に評価するためにこれらの問診票,スクリーナーの利用は日常診療の一助となる。ここに紹介したものは,参考文献,頭痛学会のホームページ,各種団体,企業の患者用ツールとして入手することができる。
3a)頭痛ダイアリー頭痛ダイアリーは頭痛日数,服薬日数,治療効果など,頭痛診療を行ううえで,多くの情報を得ることができる頭痛診療の基本となる評価方法である。頭痛日数,服薬日数,月経との関連などの頭痛情報は,我々医師にとっては,重要な情報として毎回のように患者に問診する。しかし,患者自身が正確に覚えていないことが多く,医師への情報の伝達がしばしば困難なことが多い。よって頭痛ダイアリーの目的は,患者が自分自身の頭痛の状況を把握し,正確な情報を効率よく医師に伝えることにより,適切な頭痛医療につなげることである11)12)。具体的には,①頭痛日数,②頭痛の性状,③痛みの強さ,④持続時間,⑤随伴症状,⑥誘発因子,⑦薬剤使用状況,⑧生活支障度などを具体的に確認できる11)。実際の頭痛ダイアリーは,英語用のもの12)や日本語用13)に作成されたものである。近年ではデバイスを用いた電子ダイアリーの有用性や頭痛記録アプリの開発についての報告14)もある。
3b)MIDAS(支障度・重症度の問診票)MIDAS(Migraine Disability Assessment questionnaire)15)は,頭痛の支障度・重症度を評価し,頭痛ケアの改善を目的として作られた簡便な問診票である。これまでの質問票は,アンケート項目が多く,患者の負担もあり,その改善を目的として作成された。日常生活を①仕事/学校,②家事,③余暇の3つの領域に分類してその支障度を評価する16)。日本を含めた各国で翻訳されて信頼性,妥当性が検証されている。また思春期までの小児を対象とした小児用MIDAS(PedMIDAS)など,いろいろ就職されたものの報告もあり,頭痛学会のホームページでダウンロードできる。MIDASは片頭痛患者の支障度を評価する問診票であるが,治療の前後に行うことでスコアおよびグレードの変動から治療の有効性を推察することが可能である。
3c)HIT6(支障度・重症度の問診票)HIT(headache impact test)6は広範に用られ,日常生活支障度評価スケールであるHeadache Disability Inventory(HDI),Headache Impact Questionnaire(HIQ),MIDAS,Migraine-Specific Quality of Life Questionnaire(MSQ)などの質問項目内容を検討し,より簡便な質問票として,6つの質問で構成されている17)18)。①ひどい痛みの出る頻度,②日常生活の支障度,③頭痛のために横になりたいか,④いつもの活動ができるかなどの社会生活社への影響,⑤頭痛によってイライラするかなどの精神的負担,⑥仕事で集中できないことがあるかどうかなどの質問に対し,5段階(0点:全くない,8点:ほとんどない,10点:時々あった,11点:しばしばあった,13点:いつもそうだった)に評価して,合計点を以下の4つに分類[日常支障なし(49点以下),軽度(50~55点以下),中等度(56~59点以下),重度(60点以上)]する。HIT-6も治療の使用前後に実施することで,スコアの変動から治療の有効性を推察することが可能である19)。
3d)MIBS4(片頭痛発作間欠期の生活負担スケール)MIBS4(Migraine Interictal Burden Scale)は,発作間欠期(頭痛が起きていない時)を評価するために最近注目されている20)21)。今まで片頭痛の片頭痛治療は頭痛の発作時に注目されてきた歴史がある。しかし最近は,片頭痛は発作と発作間欠期の両方に支障があるという認識が高まっている。MIBS-4は,片頭痛の発作のない日の過去4週間における患者の疾病負担を簡便に評価する4項目の質問項目からなる。具体的には頭痛発作のない時における,①仕事や学校における負担,②家族や社会生活,レジャー活動を計画することへの不安,③自分の計画に影響,④やる気の阻害,などの影響について6段階(0点:わからない/非該当,0点:全くない,1点:ほとんどない,2点:一部の時間,3点:ほとんどの時間,4点:ほぼ常に)に評価して,合計点を以下の4つに分類[日常支障なし(0点),軽度(1~2点),中等度(3~4点),重度(5点以上)]する。
前述のように実際の臨床では,めまいを伴う片頭痛において,メニエール病と前庭性片頭痛を明確に鑑別することについて難しい点も残っている8)。近年,興味深い報告として前庭誘発筋電位(VEMP)の検査をもちいて,片頭痛患者の前庭機能を測定したところ,正常者と比較して潜時の延長を認めたという22)。この結果を考えると通常の片頭痛と診断されている患者の中にも,脳幹-前庭機能が低下している可能性がある。その障害が重度になっている場合に「前庭性片頭痛」や「脳幹性前兆を伴う片頭痛」の臨床症状を呈すると考えることもできる。今後も脳幹性前兆を伴う片頭痛,良性発作性めまいやメニエール病とのオーバーラップする症状など前庭性片頭痛との鑑別困難な症状などの取扱いにては,十分な症例の蓄積と診断技術の革新が待たれる。
脳MRI検査,頭部CTめまいと頭痛の鑑別で最も重要なものは,表1に示したように,2次性頭痛に伴うめまいや頭痛である。2次性頭痛の鑑別には頭部MRI,頭部CT検査を,直ちに実施できる準備と設備が必要であり,急性期のくも膜下出血や脳梗塞など,早急に治療すべき疾患を見落とさないことが重要である。
脳幹性前兆を伴う片頭痛や片麻痺性片頭痛の片頭痛治療は基本的に一般の片頭痛に準じて行う。しかし急性期(発作期)における,トリプタンの使用については,添付文書上に,片麻痺性片頭痛,脳底型片頭痛の患者には投与しないことと記載がある。これは,これらの疾患の中にくも膜下出血等の脳血管障害や他の原因による頭痛の可能性があるためである。よって,重篤な2次性疾患を除外した後で,片麻痺性片頭痛,脳底型片頭痛に対して,トリプタンを使用し効果があったとの報告もある23)24)。しかしながら,添付文書上に禁忌の記載があるため,近年は血管収縮作用が弱い5-HT1受容体作動薬を刺激するラスミジタンを使用することも多くなっている25)。
利益相反に該当する事項はない。