Japan Marketing Journal
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Special Issue / Invited Peer-Reviewed Article
Various Consumer Needs for “Facial” Product Designs:
Exploring New Customization Systems for Anthropomorphized Products
Akinori Ono
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2019 Volume 38 Issue 4 Pages 6-19

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Abstract

企業は,自社製品を物理的に擬人化することによって,消費者とのリレーションシップを強化することを目論むことがある。このとき,「製品の顔」に相当する部分は,擬人化製品にとって,パーソナリティ評価を左右する最も重要な部分である。このことに関する既存研究は,怒った目(vs. 笑った目)と笑った口(vs. 怒った口)の組合せが,最も選好される自動車の「顔」のデザインであると主張した。それに対して本研究は,4種類の目(怒った目,笑った目,四角い目,丸い目)と3種類の口(笑った口,怒った口,真っ直ぐの口)のデザイン,および,製品と自己(現実自己/理想自己)のイメージ適合を考慮に入れて分析を行う。その結果,12種類の擬人化製品は各々,固有の製品イメージと結びついており,それらと理想自己イメージとの適合度の高い消費者に選好されるということが見いだされた。このことは,選好度の高い唯一の「製品の顔」は存在せず,それゆえ,多様なニーズに合わせた「顔」にカスタマイズできる生産システムの構築を考慮に入れるべきことを含意している。

I. 問題意識

本研究の主題は,「製品の顔」である。製品は人ではないのだから,一般に,人を描いたり模ったりすることを主たる製品特性とする,偶像や人形,肖像のような一部の製品を除いては,製品に顔がデザインされているはずもない。しかし,そのような顔をもたないはずの製品にさえ,消費者は,あたかも人と接するかのように接し,それゆえに,製品のどこかに顔のような形状を見いだすことがある。あるいは,企業の側が,消費者に人と接するかのように自社製品と接することを通じて愛顧心を高めてもらうことを企図し,製品のどこかを顔のような形状にデザインしたりすることもあるであろう。本研究が扱う「製品の顔」とは,そのようなものを指す。

製品を人のように取り扱う消費者行動は,すでに多くの研究者によって注目され,彼らによる研究成果の一部は,極めて広く知られているところとなっている。その古典であり代表的な研究と言えば,「ブランド・パーソナリティ」研究であろう(Aaker, 1997; Plummer, 2000)。ブランドのパーソナリティをブランドの価値の一種として測定することを目論んだ同研究は,消費者がブランドに人のパーソナリティに似たパーソナリティを見いだすという前提に基礎づけられていた。より最近の「ブランド・アタッチメント」研究(Muniz & O’Guinn, 2000)も,人と接するかのように製品と接する消費者を前提にしている。すなわち,同研究の起源が,赤ん坊が母親にアタッチする感情に関する調査であったことに鑑みれば(cf. Bowlby, 1979; Van Lange et al., 1997),ブランド・アタッチメント研究は,製品擬人化の研究の一種であると言いうるであろう。

たったいま,製品擬人化という単語を引き合いに出した。この単語は,人ではない製品を人のように扱う行為を指す(cf. Guthrie, 1993)。そして,そう考えるならば,確かに,上述のブランド・パーソナリティやブランド・アタッチメントの研究は,製品擬人化研究に分類することができるだろう。より積極的に,製品擬人化の有効性を説く研究もある。Aggarwal and McGill(2007)は,ブランドを擬人化した消費者は,そうしなかった消費者に比して,当該ブランドに好意的であったと報告した。また,Aggarwal and McGill(2011)は,ブランドをパートナーとして擬人化させた場合の方が,しもべとして擬人化させた場合に比して,消費者は当該ブランドを選好すると主張したのに対して,Kim and Kramer(2015)は,物質主義的な消費者に限っては,しもべとして擬人化させたブランドをむしろ選好すると主張した。

このような製品擬人化の研究は盛んに行われているが,これらの研究は,物理的に人の形に模した製品を前提にしているわけではない。その一方において,まさに冒頭の「製品の顔」の話に関連する,物理的に人の形に模した製品を前提とした擬人化である。物理的な擬人化を伴わない擬人化が,ブランド・パーソナリティやブランド・アタッチメントをキーワードにして,盛んに研究されてきたのにもかかわらず,物理的な擬人化に関する研究は,ほとんど進んでいない。

物理的な擬人化に関する先端的な研究として挙げられるのは,Landwehr, McGill, and Hermann(2011)である。彼らは,自動車の前面が,ライトを目,グリルを口と見立てて,「顔」のように整形されていると指摘し,いかなる「顔」が,消費者にとって良い「顔」であるかについて議論した。そして,笑ってU字型になった口(vs. 怒って逆U字型になった口)に,怒って吊り上がった目(vs. 笑ってアーチ形になった目)を組み合わせた顔が,最善の顔であると主張した。

こうした研究の成果は,製品の顔,すなわち物理的な擬人化に関する先駆的な研究成果として,高く評価することができるであろう。しかしながら,世の中の全ての自動車の前面が,怒った目のようなライトと,笑った口のようなグリルを持った自動車ではないし,そうでないような自動車に好んで乗っている消費者も数多い。むしろ,消費者の好みは千差万別であり,それに対して,自動車メーカーおよびディーラーが提供している自動車の顔の種類は,むしろ過少であり,個々の消費者のニーズにぴったりと合致しているというわけではない,という考え方のほうが,直観に合致しているであろう。

問題の所在は,あらゆる消費者に選好されるような理想的な製品の顔が一つだけ存在するという非現実的な前提が暗黙裡に置かれてしまっているということにある。先端的な研究においてこのような前提が置かれているということは,古くから十人十色の顧客ニーズに対応しうるように製品を差別化してきたマーケティング実務に照らせば,驚くべきことであり,直ちに是正されるべきことであると指摘できるであろう。分析枠組をこの暗黙裡の前提から解放し,製品の顔に対する嗜好に消費者間差異を認める必要があるということである。

ここで再浮上するのが,「ブランド・パーソナリティ」という概念である(Aaker, 1997; Plummer, 2000)。後述するように,Landwehr et al.(2011)は,製品の顔に関する既存研究は,理想の顔を議論するに際して,怒って吊り上がった目は「攻撃性(aggressiveness)」が高いというパーソナリティを含意し,笑ってU字型になった口は「友好性(friendliness)」が高いというパーソナリティを含意しており,両者を併せ持つ顔は,「快-覚醒理論(pleasure-arousal theory)」(Russell, 1980)に照らして理想的であると主張した。しかしながら,マーケティング研究には,独自に開発され人口に膾炙しているブランド・パーソナリティ尺度がある。同尺度は,「快-覚醒理論」に比して複雑で扱いづらいものの,2次元ではなく100を超える多次元のパーソナリティを考慮に入れているために,現実世界における人のパーソナリティの多様性をよりよく表現している点,および,それらの次元の各々のいずれの端点あるいは中間点が理想であるといった仕方で議論を展開してはいないために,各ブランドのブランド力の源泉が互いに異なりうることを暗示している点において,より注目に値するであろう。このような代替的な尺度を使用して,人のパーソナリティに対する嗜好が十人十色であるのと同じように,製品のパーソナリティに対しても嗜好が十人十色である様子を表現する必要がある。

既存研究は,副次的ではあるものの深刻な,別の問題を同時に抱えている。それは,どの顔が理想的であるかということを探究する上で,想定された選択肢が少なすぎるという問題である。具体的には,Landwehr et al.(2011)は,自動車の目として2種類(怒って吊り上がった目 vs. 笑ってアーチ形になった目)と,口として2種類(笑ってU字型になった口vs. 怒って逆U字型になった口)で,合計4種類(=2×2)の選択肢しか提供されていなかった。現実には,目に相当する自動車のフロントライトと,口に相当する自動車のフロントグリルには,もっと多くの種類が存在する。既存研究が扱った4種類に,丸型ライトと角形ライト,それに長方形グリルを加えてみよう。すると,既存研究が扱った種類の3倍に相当する合計12種類(=4×3)に改善される。

以上のような問題を解決しつつ,いかなる「製品の顔」が選好されるのか,ひいては,既存研究が主張するように理想の「製品の顔」が存在するのか,それとも「製品の顔」に対するニーズに多様性があるのか,ということを解明しようという目論見の研究を推進することによって,いかに新しいマーケティング実務への含意が提供されるか,ということについて予め言及しておくことは有用であろう。

上記のとおり,擬人化製品に関する既存研究の大半は,物理的な擬人化を伴わないケースに関して取り扱ってきた。そして,物理的な擬人化製品に関する既存研究もまた,あらゆる消費者に選好される唯一の「製品の顔」を示唆することによってニーズ多様性と製品差別化によって特徴づけられる現実を捨象してしまっていた。そうした既存研究とは異なり,多様な消費者ニーズに対応する多様な「顔」を持つ製品を提供することの有効性を見いだすことに成功すれば,それは,製品カスタマイゼーションの新たな可能性を示唆することに繋がるであろう。

製品カスタマイゼーションとは,十人十色のニーズを持つ消費者の求めに応じて,異なる製品を提供する製品戦略である。製品擬人化に関する既存研究が扱った自動車を例に挙げるならば,日本の消費者は,ディーラーを訪れて,そこに在庫されている,作り置きされた自動車を見て回り,その制限された数の選択肢の中から最善の選択肢を購買するというより,むしろ,ディーラーに自分のニーズを伝え,そのニーズのとおりの製品仕様を持つ選択肢を別所から取り寄せるか(replace-to-order),あるいは,もし在庫が存在しなければ,新しく組み立てるか(assemble-to-order)することによって,十人十色のニーズに合致した選択肢を購買することができる仕組みになっている(cf. Ono & Kubo, 2009)。

このようなカスタマイゼーション・システムは,夢のシステムというわけではなく,現実の企業によって既に開発・運用されるようになって久しい。しかしながら,売場の狭さの解消や,生産工程の合理化といった,経営組織上の問題の解決策として案出されてきた経緯があるため,十人十色の消費者ニーズを完璧に満たすためにという観点から展開されてはいない。具体的に言うならば,日本における多くの国産自動車の生産ライン上では,エンジンやシャーシのような大きなパーツから,シートやタイヤのような比較的小さなパーツまでの,多数のパーツについて,消費者は好みに応じて注文できるわけであるが,それにもかかわらず,「自動車の顔」に相当する前面部のデザインを消費者の好みに応じて変更することができるカスタマイゼーション・システムが,一般の消費者に提供されているような車種は,ほとんど全く存在しない(例外として,吊り上がった目のフロントライトと逆U字型の口のフロントグリルの組合せや,丸型ライトとU字型グリルの組合せという,異なる「顔」の中から選択でき,なおかつ気軽に着せ替えできるダイハツのコペンの「ドレスフォーメーション」というシステムもある。しかし,それでも,選択できる「顔」は3種類に留まっている)。

擬人化製品に関する既存研究が主張するように,消費者が,製品を擬人化し,人と接するかのように接することを通じて愛顧心を高めるのであれば,「製品の顔」のデザインは極めて重要である。さらに,もし,製品の顔に関する既存研究が主張するように,いかなる消費者にとっても理想的な顔が一意に決まるというのであれば,どの製品の顔も一様に,研究が含意するとおりのデザインを採用するだけでよいが,上記のように消費者の嗜好が十人十色であって,理想的な顔が一意に決まりえないならば,様々な目や様々な口を組み合わせた「製品の顔」のデザインについて選択肢を用意することが有用であるということになる。本研究は,この点に対する学術研究を飛躍的に前進させ,現実において未だ本格的には採用されていない製品戦略に道筋をつけることによって,マーケティング実務にも貢献を成そうとする研究である。

II. 既存研究

1. 製品カスタマイゼーション

現代的な産業の多くは,マスプロダクションによって特徴づけられ,それゆえ,多少の製品差別化が行われていたとしても,多様なニーズを満たしうるには程遠い,画一的な製品を供給している。しかし,マスプロダクションの枠組においても,組み立てを延期するなどした上で顧客の注文を聞き,パーツを変更したり,塗布する色を変更したりすることによって,多様なニーズを満たすカスタム製品を供給しようとする試みがある。このように,十人十色のニーズを持つ消費者の求めに応じて,異なる製品を提供する製品戦略が,製品カスタマイゼーションである。

製品カスタマイゼーションに関する研究は,これまで,それが消費者にもたらす便益――すなわち,ニーズに合致していたり,稀少性が高かったりする製品を入手しうることと,それと引き換えに消費者が被る費用――すなわち,割高であることや,注文が面倒であること,さらには,パーツの組合せが生む爆発的に多種多様な選択肢が困惑や不満を生じさせるということについて論じてきた(cf. Dellaert & Stremersch, 2005; Huffman & Kahn, 1998; Simonson, 2005; Zipkin, 2001)。とりわけ,意図せざる副作用である消費者費用については大きく取り扱われ,近年においては,それを軽減するための方策――具体的には,パーツを組み合わせて無から完製品を生み出すことを消費者に要求する代わりに,パーツを仮組みしたものを提示してパーツの微修正によってよりよい製品を生み出すことを消費者に要求するようなカスタマイゼーション・システムの提案(Hildebrand, Häubl, & Herrmann, 2014)や,消費者がパーツを組み合わせていく過程を解析してその先の組合せ方を企業が推奨するようなカスタマイゼーション・システムの開発(Ono, Matsuura, Endo, & Nakagawa, 2016)等の取り組みが,盛んに行われている。

しかしながら,人のパーソナリティに関する嗜好の個人差に基づいて「製品の顔」のデザインをカスタマイズするというアイディアに関連した製品カスタマイゼーション研究は,著者の知りうる限り皆無である。

2. 製品の顔

「製品の顔」の研究,すなわち,物理的な擬人化に関する代表的な研究は,おそらく,Aggarwal and McGill(2007)Windhager et al.(2008),およびLandwehr et al.(2011)の3本の研究である。Aggarwal and McGill(2007)が,笑った顔の自動車が消費者にとって好ましいと主張したのに対して,Windhager et al.(2008)は,怒って吊り上がった目のような形のフロントライトの自動車のほうが人気であると反論した。すると,そうした矛盾を仲裁する形で,Landwehr et al.(2011)は,Aggarwal and McGill(2007)が良い顔の要素であると主張した,笑ってU字型になった口(vs. 怒って逆U字型になった口)のフロントグリルを,Windhager et al.(2008)がよい顔の要素であると主張した,怒って吊り上がった目(vs. 笑ってアーチ形になった目)のフロントライトに組み合わせた顔が,最も良い顔であると主張した。

Landwehr et al.(2011)の主張の基盤には,心理学における「快-覚醒理論」(Russell, 1980)が存在する。同理論は,何らかの外的刺激に露出した人の表情は,快・不快と覚醒・睡眠の2次元で捉えられると想定した上で,快状態と覚醒状態が,各次元の対極である不快状態と睡眠状態より望ましいと主張した理論である。Windhager et al.(2008)は,この理論を人の顔から製品の顔へと援用し,「友好性」の高い,笑ってアーチ形になった口(フロントグリル)のデザインが快状態を,また,「攻撃性」の高い,怒って吊り上がった目(フロントライト)のデザインが覚醒状態を,それぞれ表現するからこそ,その組み合わせが最善な「製品の顔」のデザインだと結論づけたのである。

しかしながら,万人にとって最善の「製品の顔」のデザインが存在するという考えは,直観に反するだけでなく,製品差別化というキーワードの下で十人十色の消費者ニーズに合致した多彩な製品を生み出してきたマーケティング実務の歴史に照らせば,非現実である可能性が高そうだということは,先述の指摘のとおりである。

3. 製品のパーソナリティ

たとえ「製品の顔」のように製品デザイン上の物理的な擬人化が行われない場合であっても,消費者はしばしば製品を擬人化し,人と接するかのように製品と接する。このことに注目したPlummer(2000)は,ブランド・パーソナリティという概念を提唱した。彼によると,ブランド・パーソナリティとは,消費者が抱くブランドのイメージの一種であり,ブランドと結びついた人的特性群であるという。

ブランド・パーソナリティ研究の力点は,事前に知識を有する実在のブランドに対して,消費者がいかなるパーソナリティを知覚するかということを,測定することにある。Aaker(1997)は,心理学およびマーケティング論の関連研究から309種類の形容詞を抽出し,それを114種類に絞り込んだうえで,37種類の有名ブランドに対する消費者サーベイに基づいて,さらに少数の因子へと絞り込む,という作業を行った。そして,その結果として,「誠実性(sincerity)」,「刺激性(excitement)」,「有能性(competence)」,「洗練性(sophistication)」,および「堅牢性(ruggedness)」の5種類の因子が識別されたと報告した。

このブランド・パーソナリティ概念は,ブランド力を評価するための有用なツールとしてマーケティング学界の大きな注目を浴びたわけであるが,注意するべき点が2点ある。第1に,Aaker(1997)によるパーソナリティの測定方法,具体的には,消費者に有名ブランドのブランド名を見せてパーソナリティを評価させるという方法によっては,そのブランドの名の下に過去に蓄積されてきた資産たるパーソナリティ因子の集計水準を測定することしかできない。そのような測定方法に替えて,初見の製品デザインのパーソナリティを消費者に評価してもらうという方法を採用すれば,製品のデザインとパーソナリティの直接的な関係を分析することができる。要するに,名前だけを見せて,どんなパーソナリティの人物/製品であったと思っていたかということについての記憶を再生するように依頼すると,過去のあらゆるマーケティング施策の累積効果を漠然と評価することしかできないわけであるが,その代わりに,初見の「製品の顔」を見せて,どのようなパーソナリティの製品であると感じるかを回答するように依頼すれば,「製品の顔」をデザインするという一種のマーケティング施策の効果を,直接的に分析することができ,それゆえ,マーケティング施策に対するフィードバックを得ることもできるということである。

第2に,Aaker(1997)は,ブランド・パーソナリティは,ブランド・マネジャーが自身が担当する製品を競合製品から差別化するのに寄与するがゆえに重要である,と指摘している。この点は,「製品の顔」に関する既存研究が,先述のとおり,製品差別化の余地なく,快状態かつ覚醒状態のパーソナリティを具現化したような形状の「顔」こそが,全ての製品にとって最善の「顔」であると主張したのとは,対極的である。ある形状の顔,ひいては,ある特定のパーソナリティの人が好みだという人もいれば,別の形状の顔,ひいては,別のパーソナリティの人が好みだという人もいるわけであるから,製品のパーソナリティ,ひいては「顔」の好みが消費者ごとに多様ではないかと主張することは,理にかなったことだと考えられるであろう。しかしながら,これまでのブランド・パーソナリティ研究の力点は,パーソナリティ次元の識別に置かれており,それらの次元がいかなる水準にあるようなブランドが,いかなる消費者に選好されるかということや,あるブランドがあるパーソナリティ次元についてある水準を有すると知覚されているのは,そのブランドのいかなる特性によってであるのかということについては,彼女たちによる分析の範囲外であった。

4. 自己とブランドの適合性

いかなるパーソナリティのブランドがいかなる消費者に好まれるかということについては,むしろブランド・パーソナリティ概念が提唱されて盛んに分析されるようになる以前から,研究対象として取り扱われてきた研究課題であった。そして,この課題に挑戦した既存研究が注目したのは,自己概念であった。古くは,Grubb and Grathwohl(1967)が,消費者は,自己を防衛したり向上させたりするように動機付けられて,自己概念を象徴化したような製品を選好すると指摘した。この古典的な主張に基づいて,Sigry(1982)は,自己に関するイメージと製品に関するイメージの適合性が,当該製品への選好度の決定要因であると主張した。

さらに,Sigry(1985)は,自己に関するイメージには,現実イメージと理想イメージの2種類があり,消費者は,あらゆる自分の行動を自己整合的にしたいと動機付けられることによって,前者,すなわち現実イメージとの適合度が高い製品を選好する一方,理想的なイメージを獲得して自尊感情を満たしたいと動機付けられることによって,後者,すなわち理想イメージとの適合度が高い製品をも選好する,と主張した。

こうしたSigryの主張を学者が実証したり実務家が援用したりするには,消費者が知覚する現実イメージないし理想イメージと製品イメージとの差を計算することによって,両者間の適合性を測定しなくてはならない。これは,人と物は根本的に異なるという視点を前提にすると極めて困難な課題である。しかし,物を人と等しく人間的なパーソナリティを有する存在と見なすという擬人化行動を想定し,後に開発されたブランド・パーソナリティ概念を援用しさえすれば,簡単に解消しうる課題でもある。すなわち,ブランド・パーソナリティ概念を,単体で測定してブランド力の一指標として活用するというのではなく,個々の製品に対して消費者が抱く製品イメージを,ブランド・パーソナリティ尺度を用いて測定するのと同時に,彼ら自身の自己イメージを同一尺度を用いて測定すれば,両者間の差分を計算するだけで,個々の製品の自己適合度(厳密には,非類似度)の値が得られ,ひいては,製品選好度との因果的関係を吟味することができる,ということである。

本研究の文脈においてこの手続きを採用すれば,いかなる「製品の顔」を持つ製品が,いかなるパーソナリティを持つ製品として,消費者に知覚されるかということを測定することができるだけでなく,消費者自身の現実イメージないし理想イメージを同一のパーソナリティ尺度によって測定することを通じて,自己適合度の値を得て,当該製品の選好度を予測したり説明したりすることが可能になると期待されるであろう。

III. 実験1:製品の顔とパーソナリティ

1. 実験の目的

「製品の顔」に関する既存研究は,先述のとおり,自動車の前面部を顔として知覚する擬人化行動に注目した。そして,笑ってU字型になった口(vs. 怒って逆U字型になった口)のフロントグリルを,怒って吊り上がった目(vs. 笑ってアーチ形になった目)のフロントライトに組み合わせた「顔」が,「友好性」の高さ(快状態)と,「攻撃性」の高さ(覚醒状態)を併せ持つがゆえに,理想的であると主張した。これに対して,本研究は,ここでは,いかなる「顔」が個々人にとって理想的であるかという問いへの回答を先送りにし,消費者はいかなるパーソナリティ次元を用いて「製品の顔」を評価しようとするのか,そして,いかなる「製品の顔」のデザインに露出した消費者が,当該製品をいかなるパーソナリティを持つ製品だと知覚するのか,という2つの問いへの回答を試みる。

前者,すなわち,消費者はいかなるパーソナリティ次元を用いて「製品の顔」を評価しようとするのか,という第1の問いへの回答の試みは,既存研究が,消費者は「製品の顔」を「友好性」(快・不快)と「攻撃性」(覚醒・睡眠)の2種類のパーソナリティによって評価しようとする,と無批判に想定したのとは,対照を成す試みである。この試みに際して使用するのは,114種類のブランド・パーソナリティ尺度である。

他方,後者,すなわち,具体的にいかなる「製品の顔」のデザインに露出した消費者が,当該製品をいかなるパーソナリティを持つ製品だと知覚するのか,という問いへの回答の試みもまた,「製品の顔」に関する既存研究の取り組みとは異なる仕方で行う。すなわち,既存研究が,怒って吊り上がった目が「攻撃性」という次元に関連している一方,笑ってU字型の口が「友好性」という次元に関連していると主張したのに対して,本研究は,顔の各パーツが個別に,消費者に様々なパーソナリティ次元群のうちの1次元に対応しているという考え方より,むしろ,組み合わせられたパーツの全体,すなわち顔全体が総体として,消費者にパーソナリティ次元群を双発的に知覚させるという考え方を採用する。なぜなら,そうすることによって,例えば,笑った目と怒った口を持つ顔と,怒った目と笑った口を持つ顔は,大きく異なる顔であるから,異なったパーソナリティ評価を得るであろうことが明白であるのにもかかわらず,両者とも「友好性」と「攻撃性」に関連する顔のパーツを併せ持つからという理由で,パーソナリティ評価は等しいという誤った結論が導出されることを防ぐことができると,期待されるからである。

これに加えて,本研究は,副次的な目的として,「製品の顔」の多様性を現実に近づけるべく,既存研究が設定したU字型の口(笑った口)と逆U字型の口(怒った口)という2種類の口の他に,水平線の口(喜怒のない口)を,選択可能なカスタマイゼーション・パーツとして追加する。また,同じく,吊り上がった目(怒った目)とアーチ形の目(笑った目)という2種類の目の他に,真円の目と長方形の目(喜怒のない無表情な目)を,選択可能なカスタマイゼーション・パーツとして追加する。これによって,既存研究が,合計4種類の顔しか分析対象にしなかったのに対して,本研究は,その3倍に相当する12種類の顔を分析対象にすることが可能になる。実際,2018年末現在に日本の自動車メーカーが日本国内で新車として販売している自動車に対して,大学生男女1組を調査員とした簡単な調査を実施したところ,彼らが国産メーカー各社の全カタログから識別した互いに異なる顔を持つ167車種の普通乗用車,小型乗用車,軽四輪乗用車のうち,4種類の顔のいずれかに該当すると判定されたのは,103車種(61.7%)に留まったのに対して,選択肢として水平線の口,および,真円の目と長方形の目を新たに含む,9種類の顔に拡張すると,167車種全て(100%)がそのいずれかに該当すると判定された(なお,車種の識別および顔の判定は,調査員2名に単独で実施してもらった後,一致しなかった点について討議を行って結論を下してもらうという方法を採用した)。その意味において,現実に即した分析を行うためには,選択肢を増やすことは有意義なことだと言いうるであろう。

2. 実験の手順

実験に際して,既存研究は,4種類の「製品の顔」のデザインを有する実在の自動車を探してきて,それらを実験財として使用するというのではなく,4種類の「製品の顔」のデザインを有する仮想の自動車の絵を描いて,その絵に被験者を露出させる方式によって実験を実施した。本研究も,これに倣って,フロントライト(目)とフロントグリル(口)の形状が異なる12種類の自動車の絵を描いて,それを実験に使用した。実在の自動車ないしその写真を使用すると,「製品の顔」を構成するフロントライトとフロントグリルの形状以外の製品デザイン要素が,パーソナリティ評価に影響を及ぼし,大きな測定誤差が生じる危険性がある。さらに,製品デザイン要素だけでなく,その自動車に関する品質や広告などに関する事前知識が,パーソナリティ評価に影響を及ぼす危険性もある。仮想の自動車の絵を描いて実験に使用したのは,そうした様々な影響を統制するためであった。

パーソナリティ要素として被験者に評価するように依頼したのは,上述のとおり,Aaker(1997)によって提供された114変数であった。彼女は,これらの変数を基準にして,有名ブランドを評価するように依頼した。これに類似して,本研究においては,事前知識,ひいては,すでに構築されたブランド力の影響を排除するために,ブランド名が判らない仮想の自動車のフロント部分の絵に被験者を露出させ,それらの「顔」に関する評価を,上記の変数を基準にして行うように,被験者に依頼した。なお,1車種につき114問という膨大な数の質問群に回答してもらう必要があるため,被験者が回答に取り組むうちに疲弊することが懸念された。そこで,被験者1人につき,全12車種について回答するように依頼することは控え,ランダムに抽出された2車種についてのみ回答するように依頼した。

被験者は,首都圏在住在学の大学生男女227名であり,実験に先立って,自動車の前面部の絵を見せて,それが人の顔のようにはどうしても見えないと回答した被験者を除く,216(95.15%)が,有効回答であった。彼らには,Aaker(1997)がブランド名に対して依頼したのと同じように,自動車の部分の絵に対して,それが人の顔であるかのように考えたうえで,Aaker(1997)の質問群に回答するように依頼した。なお,「1.全く当てはまらない」と「5.非常に当てはまる」を端点とする,5点リッカート尺度法を採用した。

3. 分析の結果

収集されたデータを用いて,まず,Aaker(1997)と同じく探索的因子分析を実施して,因子次元の抽出を試みた。なお,因子は主因子法によって生成し,(1)因子負荷量(>1.0),(2)スクリープロットの形状,および,(3)累積寄与率(73.59%),および(4)共通性(>0.4)を確認しつつ,4つの因子を抽出した。その際,いずれの因子との共通性も極端に低い8変数を除去した。抽出された因子次元の軸は,ハリス・カイザー法によるプロマックス回転法によって回転した。因子負荷量その他の情報は,表1にまとめられているとおりである。

表1

因子負荷量

第1因子は,主として,「活動的な(active)」や,「大胆な(confident)」,「攻撃的な(aggressive)」といった,心身の活力を示唆するパーソナリティ要素との関連が強い因子であった。それゆえ,この因子を「攻撃性(aggressiveness)」と名付けたい。第2因子は,「友好的な(friendly)」や,「円滑な(smooth)」,「協調的な(corporate)」,「温和な(gentle)」といった,愛想の良さを示唆するパーソナリティ要素との関連が強い因子であった。それゆえ,この因子を「友好性(friendliness)」と名付けたい。第3因子は,「知的な(intelligent)」や「責任ある(responsible)」といった,知性や洗練さを示唆するパーソナリティ要素との関連が強い因子であった。それゆえ,この因子を「知性(intelligence)」と名付けたい。そして,第4因子は,「驚くべき(surprising)」や「独特な(unique)」といった,独創性を示唆するパーソナリティ要素との関連が強い因子であった。それゆえ,この因子を「独自性(uniqueness)」と名付けたい。

注意するべきことに,これらの4因子は,Aaker(1997)が同一の114種類のパーソナリティ要素を使用して分析した結果として得た5因子とは,さほど類似していない。この非類似性は,初見の「製品の顔」に対するパーソナリティ評価と,既知のブランド名のみを見せて記憶から再生されるパーソナリティ評価の間の差異に起因すると考えられるため,理にかなっていると言いうるであろう。反対に,今回の4因子のうちの第1因子と第2因子,すなわち,「攻撃性」および「友好性」は,「製品の顔」に関する既存研究が取り扱った2次元と同一の名称を与えられた因子であり,既存研究とは因子抽出方法が異なるものの,名称だけでなく性質も酷似している。このことは,これら2つのパーソナリティ次元が,少なくともフロントライトとフロントグリルを目と口に見立てた自動車の顔の範囲内で,多くの消費者によって知覚される傾向のある普遍性の高いパーソナリティ次元であるということを含意していると見なしうるであろう。一方,第3因子と第4因子,すなわち,「知性」および「独自性」は,今回,既存研究が捨象した多くの種類の「製品の顔」を分析の対象とし,かつ,114種類ものパーソナリティ要素を分析に使用したがゆえに新たに見いだされた,新たな次元であると見なしうるであろう。

さて,消費者はいかなるパーソナリティ次元を用いて「製品の顔」を評価しようとするのか,という第1の問いへの回答を導出した後には,いかなる「製品の顔」のデザインに露出した消費者が,当該製品をいかなるパーソナリティを持つ製品だと知覚するか,という第2の問いへの回答を試みることが可能になる。その試みのために,全12種類の「製品の顔」のデザインに対する,4つのパーソナリティ次元に関する消費者評価の平均値をまとめたのが,表2である。

表2

因子得点平均値(標準偏差)

同表に示されているとおり,目(フロントライト)のデザインの影響は,口(フロントグリル)のデザインに比して強く,笑ってアーチ形になった目は「独自性」次元,怒って吊り上がった目は「攻撃性」次元,真円の目は「友好性」次元,そして,四角の目は「知性」次元の各次元について,口がいかなる形状にデザインされていようとも高水準であった。また,既存研究の主張に一致して,怒って吊り上がった目は,他のどのような形状の目に比べても「攻撃性」次元について高水準であったものの,既存研究の主張とは異なり,笑ってアーチ形になった目は「友好性」次元について,新たに識別された真円の目ほど高水準ではなかった。既存研究は怒り顔と笑い顔を各々象徴する吊り上がった目とアーチ型の目を比較したわけであるが,少なくとも自動車の「顔」のデザインとしては,アーチ形の目(フロントライト)は現実には採用されてこなかった形状であるため,「独自性」次元について高く評価されるばかりで,「友好性」次元について高くは評価されなかったのであろう。一方,真円の目(フロントライト)は,主として軽自動車(正式には,軽四輪乗用車)に広く採用されており,かわいらしい印象があるため,「友好性」次元について高く評価されたのかもしれない。

そして,最も注目するべき点は,真円の目(フロントライト)が,笑ってU字型になった口(フロントグリル)以上に「友好性」次元に対する高い評価に対して強い影響を及ぼすため,既存研究が主張したように「攻撃性」と「友好性」の評価が共に最高値に達するような顔は存在しえないということである。その意味において,「快-覚醒理論」に基づいて理想的な顔であると言いうる顔はないということが,次なる実験を待たずして指摘しうるであろう。

IV. 実験2:製品の顔から知覚されるパーソナリティに対する嗜好の異質性

1. 実験の目的

前節における実験の結果として示されたことは,消費者は,様々な「製品の顔」のデザインに対して,それぞれ異なるパーソナリティを知覚するということである。これを受け,本節における新たな実験によって回答を試みたいのは,いかなる「製品の顔」が個々人にとって理想的であるかという第3の問いである。これに関して既存研究は,先述のとおり,いかなる消費者によっても,怒って吊り上がった目で「攻撃性」を示し,笑ってU字型になった口で「友好性」の高さを示した「製品の顔」が理想的であると主張した。この点について,前節において見いだされたように,そもそも,「友好性」はU字型の口より真円の目と強く結びついており,吊り上がった目と真円の目を両立させることはできないがために,「攻撃性」と「友好性」を併せ持つ理想的な顔をデザインすることは難しいわけであるが,それとは別に,「攻撃性」と「友好性」は,全ての個人にとって理想的な顔のパーソナリティ次元であるのかどうかということについて探究するのが,本節の主旨である。実際には,攻撃的な顔が好みの人もいれば,友好的な顔が好みの人もいるだろう。また,知的な顔が好みの人もいれば,独特な顔が好みの人もいるだろう。そのように人のニーズは多様であるという意味においても,全ての人にとって理想的な顔のパーソナリティ次元というものは存在しないと直観されるところである。

2. 実験の手順

本節の実験に際しては,前節の実験において使用した絵に描かれた12種類の自動車を再度使用し,前節の実験の結果として見いだされた4つのパーソナリティ次元,すなわち「攻撃性」,「友好性」,「知性」,および「独自性」について,被験者に「あなたは,この自動車に対して,〇〇の高さを感じる」という質問(7点リッカート尺度)に回答するように依頼した。また,それとは別に,同一のパーソナリティ次元について,被験者に「あなたは,自分は〇〇の高い人物だと感じる」という質問,および,「あなたは,将来〇〇の高い人物になりたいと希望している」という質問にも,回答するように依頼した。さらに,12種類の全ての自動車の各々に対する「好き・嫌い」に関する質問にも,7点SD尺度で回答するように依頼した。被験者は,実験1とは異なる首都圏在住在学の大学生男女59名であり,有効回答は58(98.31%)であった。1車種につき114問もの質問項目があった先の実験と違って,今回は1車種につき4問のみであり,回答負荷が軽いため,被験者には,全12車種中2車種ではなく,全車種について回答するように依頼した。

3. 分析の結果

前項に記述した手順によって収集されたデータは,(1)特定の「顔」を持つ自動車に対して知覚したパーソナリティと,(2)被験者自身に対して知覚したパーソナリティと,被験者自身が理想とするパーソナリティ,および,(3)当該の顔の自動車に対する好意度である。Sigry(1985)の主張に基づけば,現実ないし理想の自己イメージと製品イメージとの適合度(非類似度)が,当該ブランドの選好度の決定要因であり,ひいては,異なる自己イメージを持つ消費者は,異なるイメージを持つ製品を選好するはずである。そこで,4つのパーソナリティ次元の各々について(1)と(2)の差分をとった適合度(非類似度)の絶対値の総和を説明変数,好意度を非説明変数としてOLS推計による回帰分析を行った。その結果は,表3にまとめられているとおりであった。

表3

回帰係数推定結果

同表のとおり,自己適合度,すなわち,製品イメージが現実の自己イメージと適合している程度は,当該製品に対する好意度に対して有意な影響を与えていなかった(b=0.04,t=0.81,p>0.05)ものの,理想適合度,すなわち,製品イメージが理想の自己イメージと適合している程度は,当該製品に対する好意度に対して有意な影響を与えていた(b=0.49,t=10.53,p<0.01)。このことは,4つのパーソナリティ次元の理想適合度の点において理想的な「顔」を持つ製品が,そうでない製品より選好されるということを示唆している。

V. 結語

1. 学術的貢献

消費者は,自身が保有する製品を愛顧する時,あたかも人と接するかのようにその製品と接することがある。あるいは,企業の側が,消費者に人と接するかのように自社製品と接することを通じて愛顧心を高めてもらおうとすることがある。これに呼応して,これまで,人間関係ならぬ,ブランドないし製品とのリレーションシップを構築しようとする消費者行動に関する学術研究が,ブランド・パーソナリティやブランド・アタッチメントのような概念をキーワードとして展開されてきた。しかし,これらの研究は,精神的な製品擬人化に関する研究に留まる傾向にあり,物理的な製品擬人化,すなわち,消費者が人と接するかのように製品と接することを補助する目的で,人の顔のようなデザインを製品に施すという意味での製品の擬人化に関する研究は,これまで立ち遅れてきた。本研究は,この真空地帯を埋めるために行われた。

物理的な製品擬人化に関する一連の既存研究は,自動車の顔を構成するフロントライトの目とフロントグリルの口が,いかなる形状のデザインであれば,消費者にとって理想的であるかということを議論の対象とし,2種類の目と2種類の口の組合せの中で,怒って吊り上がって「攻撃性」の高い目と,笑ってU字型で「友好性」の高い口の組合せが,理想的であると結論づけてきた。それに対して,本研究は,4種類の目と3種類の口の組合せに拡張すると共に,ブランド・パーソナリティ研究から援用した114種類のパーソナリティ要素からパーソナリティ次元を抽出しなおすことによって,「攻撃性」と「友好性」の2種類に加えて,「知性」と「独自性」を識別した。さらに,合計4次元のパーソナリティの各々が知覚されやすいフロントライトとフロントグリルの形状を探究した。そのうえで,多様なパーソナリティを知覚させる多様な自動車の「顔」に対する消費者のニーズは,吊り上がった目とU字型の口の組合せにのみ落着するというよりも,むしろ消費者自身の理想イメージと合致するようなパーソナリティを表出した顔にこそあり,それゆえ,「製品の顔」に関する消費者ニーズは多様であるということを見いだすことに成功した。

2. 実務的含意

本研究の知見に基づくならば,「製品の顔」のデザインが表現するべきパーソナリティは,「攻撃性」と「友好性」の2次元にとどまらず,「知性」や「独自性」などの他の次元を表現することもあり,目(自動車においてはフロントライト)によって「攻撃性」,口(自動車においてはフロントグリル)によって「友好性」を表現することが最善であるとは限らない。企業が自社製品の「顔」をデザインする時には,顧客が理想とする顔はどのような顔であるかということを調査することなく,吊り上がった目とU字型の口の顔をデザインしようとするのは得策ではない。例えば,「攻撃性」を示す吊り上がった目より,「友好性」を強調した丸い目や,「知性」を強調した四角い目のほうが,選好される可能性がある。顧客自身が理想とするパーソナリティを調査し,それと適合した「製品の顔」をデザインするように心がけるべきであろう。このとき,消費者の理想イメージは十人十色であるから,「製品の顔」へのニーズも多様であろう。それゆえ,企業は「製品の顔」を一意に決めてしまわず,他のパーツと同じように,カスタマイゼーションの対象として取り扱うことによって,多様性を担保するべきであろう。

カスタマイゼーション・プロセスは,消費者が独力で行う注文過程である場合もあれば,企業側との対話を通じて進めていく場合もある。自動車産業のように後者に重きが置かれるような産業ならば,接客員は,顧客から自身が理想とする顔のイメージを聞き出し,その理想のイメージに適合した「製品の顔」を仮組みして提案してみせるとよいであろう。そのデザイン案は,おそらく顧客ニーズに近似しているであろうから,顧客は,提案されたデザインをベースにして微調整するという簡単なステップを経るだけで,容易に理想のデザインに到達することができるであろう。

3. 本研究の限界

本研究の分析結果は,普遍的であるとは限らない。いかなる「製品」を念頭に置き,いかなる「顔」と「パーソナリティ要素」を分析対象として含めるかによって,分析結果は可変的であろう。本研究は,既存研究に倣って自動車を実験に用いたが,自動車以外の製品の顔については,今回見いだされた4つのパーソナリティ次元とは別の次元が抽出される可能性がある。また,たとえ分析対象を自動車のままに留めたとしても,本研究より多くの顔とパーソナリティ要素を分析対象として含めたならば,本研究とは異なるパーソナリティ次元が抽出されたかもしれない。また,いかなるデザインが現実の市場に出回っているかということも,分析結果を左右するであろう。たとえば,笑ってアーチ形になった目(フロントライト)の自動車は,「友好性」が高いというより「独自性」という別のパーソナリティ次元が高い自動車であると消費者に評価される傾向にあったが,この傾向は,現実の市場にはあまり出回っていない珍しいデザインであることに起因すると考えられ,もし普及したデザインであったならば,同じデザインであったとしてもパーソナリティ評価は異なっていたかもしれない。それゆえに,以上のような諸点について,継続的な調査が必要であろう。

4. 今後の課題

上記のとおり,いかなる「製品の顔」のデザインが,いかなるパーソナリティ評価をもたらし,さらには,どの程度の製品好意度に帰着するか,ということに関する研究は,いま始まったばかりである。それゆえ,上述のとおり,様々な製品,様々な顔,様々なパーソナリティ要素を分析対象として継続的な調査を実施し,経験的証拠を蓄積することが,直近の課題として指摘することができるであろう。それに加えて,次のようなより大きな課題もある。すなわち,多様な「製品の顔」の中から好みの顔を選択できるカスタマイゼーション・システムを構築することによって,「製品の顔」に対する消費者ニーズの多様性に対応しようとする際に問題となる,一意に定まった「顔」を持たない製品ライン,ひいてはブランド全体に対する消費者評価を分析することである。企業は一般的に,ブランド・アイデンティティを構築するために,慎重に製品をデザインするであろうが,パーソナリティに深くかかわる「製品の顔」という最も重要なデザイン要素を,消費者の注文に合わせて変更するとなると,ブランド評価は大きく変化し,場合によっては棄損してしまう恐れもある。なぜなら,自信に満ちた顔や,優しい顔などの様々な顔の製品が,同一ブランドの下で市場に出回ることになり,ブランド・パーソナリティが希釈化する可能性があるからである。しかし他方においては,人が様々な表情を見せるのと同じように,製品にも単一ではなく様々な表情があったほうが「人間味」が増すことによって,好意度が増す可能性もあって,一長一短である。今後の研究においては,特定の「製品の顔」を有する製品に対して消費者が抱く好意の程度に及ぼす影響だけでなく,様々な表情の「製品の顔」を売り出した時に,そのブランド全体に対して消費者が抱く好意の程度に及ぼす影響を対象にして,研究に取り組むことが望まれるであろう。そのような取り組みを通じて,好意度の最大化という観点から,「製品の顔」に関するカスタマイゼーション・システムにおいて消費者が注文できる「製品の顔」のパーツの組合せ範囲の最適化が図られることが期待されるであろう。

本論は,国際学会2014 KSMS International Marketing Conferenceにおいて口頭報告した研究 “ "Your Car Looks Like You" Consumer Evaluation of Anthropomorphized Products”(The Best Symposium Paper Award)のために著者が案出したアイディアに着想を得て,今回の投稿のために再分析のうえ本文を書き下ろした論文である。当時の共著者,Kenya R. Hirashima,Rey Arai,Shingo Kajita,Daiki Itoの四氏に謝意を表したい。また,今回,招待してくださった編集者の石井裕明先生,および匿名審査員の先生方に,心から深謝いたしたい。なお,本研究はJSPS科研費 JP16K03940の助成を受けている。

小野 晃典(おの あきのり)

慶應義塾大学商学部教授。1995年 慶應義塾大学商学部卒業,同大学院商学研究科修士課程・後期博士課程修了。博士(商学)。慶應義塾大学商学部助手,専任講師,助教授,准教授を経て2010年より現職。

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