Symposium on the Chemistry of Natural Products, symposium papers
Online ISSN : 2433-1856
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Screening of bioactive compounds from metagenomic library derived from marine sponge Halichondria okadai
takahiro abenatsuko shirakawakiyotaka akiyamakenji miyamotoyasubumi sakakibaratakashi naitodaisuke uemura
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クロイソカイメン由来メタゲノムライブラリー を用いた生理活性物質スクリーニング

カイメン等の無脊椎動物には多数の微生物が共在しており、それらが産生する生理活性物質の存在が報告されている1)。多量に存在する微生物種の代謝産物であればカイメンより直接の単離が可能であるが、稀少にしか存在しない微生物種の代謝産物を得ることは環境保全などの面から困難である。また自然界に存在している微生物のうち、培養が可能なものはわずかであり、カイメン内の微生物の代謝産物を従来の培養法により網羅的に探索することは難しい2)。一方、環境中の微生物叢を、分離・培養過程を経ずに、微生物の集団から直接ゲノムDNAを調製するメタゲノム手法は、新たな生理活性物質の単離に有効であると考えられる(Fig. 1)。

これまでhalichondrin Bやhalichonineなど様々な生理活性物質3)(Fig. 2)が単離・報告されているクロイソカイメンHalichondria okadaiから、演者らはすでにFosmidをベクターとした150,000クローンからなるライブラリーを構築し4)、色素生産株の単離に成功している(第53回天然物討論会)。さらに本色素生産株より新規化合物halichrome Aの単離、構造決定を達成し5)、本メタゲノム的アプローチが新規物質の探索に有効であることを示した。

一般に、ポリケチドや非リボソームペプチドなどの生合成遺伝子はクラスターを形成することが多く、100kb以上の長鎖を形成する場合もある。一方Fosmidベクターは25kbほどが最大であり、Fosmidライブラリーを用いて複雑な構造を持つ化合物の探索を行うことは困難である。そこで高分子量のゲノムDNAのクローニングが可能なバクテリア人工染色体(BAC)をベクターとして100kb以上のメタゲノムライブラリーを構築し、また、本BACベクターにT7 polymerase遺伝子を組み込むことで、より効率的なライブラリー構築を行った。

1.クロイソカイメンの採集とゲノムの抽出

 クロイソカイメンは神奈川県葉山周辺の海岸で採集した。クロイソカイメンは干潮時の岩場に張り付いて群棲している。これをできるだけ損傷が少ないように注意しながら採集した。こうして採集したクロイソカイメンは氷冷下で速やかに輸送した。持ち帰ったクロイソカイメンを乳鉢等で破砕し、破砕液を遠心分離してペレットを得た。ペレットの一部を液体窒素で凍結し乳鉢で粉砕後、グアニジンチオシアネートおよびCTAB(Cetyl Trimethyl Ammonium Bromide)存在下60℃で1時間加温し溶菌させた。これをフェノール・クロロホルム処理した後、アルコール沈殿を行った。さらにRNaseAで消化した後、再度フェノール・クロロホルム処理を行い精製した。各ペレットのゲノムDNAを抽出し、次の分離条件の検討に供した。

2.バクテリア画分の分離

カイメンなどの真核生物の遺伝子には、イントロンと呼ばれる遺伝子を分断する領域が含まれており

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カイメン等の無脊椎動物には多数の微生物が共在しており、それらが産生する生理活性物質の存在が報告されている1)。多量に存在する微生物種の代謝産物であればカイメンより直接の単離が可能であるが、稀少にしか存在しない微生物種の代謝産物を得ることは環境保全などの面から困難である。また自然界に存在している微生物のうち、培養が可能なものはわずかであり、カイメン内の微生物の代謝産物を従来の培養法により網羅的に探索することは難しい2)。一方、環境中の微生物叢を、分離・培養過程を経ずに、微生物の集団から直接ゲノムDNAを調製するメタゲノム手法は、新たな生理活性物質の単離に有効であると考えられる(Fig. 1)。

これまでhalichondrin Bやhalichonineなど様々な生理活性物質3)(Fig. 2)が単離・報告されているクロイソカイメンHalichondria okadaiから、演者らはすでにFosmidをベクターとした150,000クローンからなるライブラリーを構築し4)、色素生産株の単離に成功している(第53回天然物討論会)。さらに本色素生産株より新規化合物halichrome Aの単離、構造決定を達成し5)、本メタゲノム的アプローチが新規物質の探索に有効であることを示した。

一般に、ポリケチドや非リボソームペプチドなどの生合成遺伝子はクラスターを形成することが多く、100kb以上の長鎖を形成する場合もある。一方Fosmidベクターは25kbほどが最大であり、Fosmidライブラリーを用いて複雑な構造を持つ化合物の探索を行うことは困難である。そこで高分子量のゲノムDNAのクローニングが可能なバクテリア人工染色体(BAC)をベクターとして100kb以上のメタゲノムライブラリーを構築し、また、本BACベクターにT7 polymerase遺伝子を組み込むことで、より効率的なライブラリー構築を行った。

1.クロイソカイメンの採集とゲノムの抽出

 クロイソカイメンは神奈川県葉山周辺の海岸で採集した。クロイソカイメンは干潮時の岩場に張り付いて群棲している。これをできるだけ損傷が少ないように注意しながら採集した。こうして採集したクロイソカイメンは氷冷下で速やかに輸送した。持ち帰ったクロイソカイメンを乳鉢等で破砕し、破砕液を遠心分離してペレットを得た。ペレットの一部を液体窒素で凍結し乳鉢で粉砕後、グアニジンチオシアネートおよびCTAB(Cetyl Trimethyl Ammonium Bromide)存在下60℃で1時間加温し溶菌させた。これをフェノール・クロロホルム処理した後、アルコール沈殿を行った。さらにRNaseAで消化した後、再度フェノール・クロロホルム処理を行い精製した。各ペレットのゲノムDNAを抽出し、次の分離条件の検討に供した。

2.バクテリア画分の分離

カイメンなどの真核生物の遺伝子には、イントロンと呼ばれる遺伝子を分断する領域が含まれており、遺伝子のプロモーターも異なるために、大腸菌などの宿主に組み込みライブラリー化しても遺伝子を発現させることはできない。またカイメンのゲノム量は、バクテリアよりもはるかに大きいため、カイメン細胞の混入はライブラリーの作製において支障となる。そこでより厳密にカイメン細胞とバクテリアを分離する必要があるため、採集したカイメンと内部の共在微生物の分離条件の検討を行った。カイメン破砕液を先ず、低速(500G)で遠心分離し、その上澄みをより高速(1000G)で遠心分離する。同様に遠心速度を段階的に(3000G、5000G、8000G)上げていく。各ペレットよりゲノムDNAを調整し、クロイソカイメンの18S rRNA遺伝子4)やカルモジュリン遺伝子配列をもとにRTQ-PCRによって遠心分離した各画分中のクロイソカイメン由来のゲノムDNA量を測定した(Fig.4)。結果、8000Gの画分をバクテリア画分とした。次世代シーケンサーによる解析により、この8000G画分のゲノムDNAにおける真核生物由来ゲノムDNAの割合が極わずかであることを確認している。

3Halichrome Aの構造決定

 既に第53回天然物討論会にて報告しているが、本バクテリア画分より構築したFosmidライブラリーより色素生産株を単離した。さらに、本クローンをLB培地で培養し、培養液を酢酸エチル抽出した。さらに抽出液を減圧濃縮後、ODSカラムを用いたHPLC分取等の各種クロマトグラフィーで精製し、黄色色素を単離した。本色素はB16メラノーマ細胞に対してIC50=30.9を示した。そこで、NMRを主とした機器分析を行い、構造解析を試みた結果、本物質は、Fig. 5 に示すように分子式C18H16N2Oの四級炭素にエチル基が付加しビスインドール様の新規化合物であることが明らかとなった。比旋光度は -0.9 (C 0.03; MeOH) であった。現在、合成研究を進めつつあり、立体構造を明らかにする。

4BACライブラリおよび改良型BACライブラリの構築

メタゲノムライブラリーを作成するには、宿主細胞へと共在微生物の遺伝子断片を導入する適当なベクターが必要である。ベクターとしてはプラスミドやコスミド、フォスミドなどがあるが、長鎖のDNAを保持できるベクターを選定する必要がある。また遺伝子を発現させ、物質生産に繋げる本研究の目的のためには、シングルコピーよりもマルチコピーの方が優れているが、一方でマルチコピーのベクターには、遺伝子の安定な保存性に問題がある。プラスミドは非常にコピー数が多いが1~3 kbしかインサートが入らない。一方、コスミドは40 kbと比較的大きいインサートが導入できるが、安定性は低いという問題点がある。Epicentre社のBAC vectorは100 kb以上のインサートを挿入でき、また通常はシングルコピーである一方、誘導剤でマルチコピー化も可能であり、本研究に適していると考え使用することにした。

定法にもとづいて、バクテリア画分を低融点ゲルで固めてplugをつくり、このplugを制限酵素で部分消化し、パルスフィールド電気泳動にて100~150 kb付近のDNA断片を回収した。得られたDNA断片をベクターpCC1BAC (Epicentre)に組み込み、大腸菌に形質転換し37℃にて培養した。結果、BACライブラリーを構築することに成功した。

また、これまでメタゲノムライブラリーのクローンに遺伝子を発現させるには、メタゲノム由来のプロモーターが宿主に認識される必要があった。そこでT7プロモーターをBACベクターに導入し、強制的に転写させることでスクリーニングの効率を大幅に上げることを目的として、Fig. 6に示す改良BAC vectorを構築した。pCC1BACのβ-galactosidaseとlacプロモーターの間にT7 RNA polymerase遺伝子を挿入することで、IPTG存在下でT7 RNAポリメラーゼが発現し、マルチクローニングサイト内のT7プロモーターを認識する。既に本改良型BACベクターを用いたメタゲノムライブラリーの構築に成功しており、現在抗菌活性等を指標に新規化合物のスクリーニングを進めている。

謝辞

CD測定を行っていただいた慶應義塾大学末永聖武准教授及び神奈川大学西本右子教授に深く感謝をいたします。

参考文献

1. C.A. Bewley, N.D. Holland, D.J. Faulkner, Experientia. 1996, 52, 716.

2. R. I. Amann, W. Ludwig, K. H. Schleifer, Microbiol. Rev., 1995, 59, 143

3. a) D.Uemura, K. Takahashi, T. Yamamoto, C. Katayama, J. Tanaka, Y. Okuyama, Y. Hirata, J. Am. Chem. Soc. 1985, 107, 4796.:b) O. Ohno, T. Chiba, S. Todoroki, H.Yoshimura, N. Maru, K. Maekawa, H. Imagawa, K. Yamada, A. Wakamiya, K. Suenaga, D. Uemura, Chem. Commun. 2011, 47,12453.

4. T. Abe, F. P. Sahin, K. Akiyama, T. Naito, M. Kishigami, K. Miyamoto, Y. Sakakibara, and D. Uemura, Biosci. Biotechnol. Biochem.2012, 76, 633-639.

5. T. Abe, A. Kukita, K. Akiyama, T. Naito, D. Uemura, Chem. Lett. 2012, 41, 728-729.

 
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