Tetsu-to-Hagane
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Numerical Simulation of Microscopic Stress Distribution in Steel Weld Metal Considering Anisotropic Crystal Orientation
Yoshiki MikamiMasahito Mochizuki
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2014 Volume 100 Issue 10 Pages 1281-1288

Details
Synopsis:

Numerical simulation of microscopic stress distribution in weld metal considering anisotropy of crystal orientation observed in weld solidification microstructure was performed. A finite element model of columnar grain aggregate was generated and anisotropic crystal orientation considering the characteristics of austenitic stainless steel weld metal was defined. Microscopic stress distribution occurred in the columnar grain model under tensile loading was investigated by a series of numerical simulations incorporating crystal plasticity theory.

From the case where tensile displacement was applied perpendicular to the longitudinal direction of columnar grains, the following results were obtained: The maximum microscopic stress occurred in the columnar grain model was almost independent of the angle between the longitudinal direction of columnar grains and <1 0 0> direction, and it was 1.59 times to 1.75 times higher compared to the macroscopically applied stress. From the case where tensile displacement was applied parallel to the longitudinal direction of columnar grains, the following results were obtained: The maximum microscopic stress occurred in the columnar grain model increased with increasing angle between the longitudinal direction of columnar grains and <1 0 0> direction. The above two major simulation results showed that higher microscopic stress compared to the macroscopically applied stress could be observed when tensile load was applied perpendicular to the longitudinal direction of columnar grains.

1. 緒言

近年の溶接鋼構造物の製作においては,溶接部の安全性や信頼性を確保することを前提としつつも,経済性を追求することも必要であり,強度や安全性の評価の合理化や高度化が重要な課題として挙げられる。例えば,構造材料は微視的には不均質であり,破壊靭性のような破壊の限界値が位置によって異なるだけでなく,巨視的に一様な負荷を作用させた場合であっても微視的には不均一な応力場やひずみ場が形成されており,これが,強度試験結果や破壊試験結果のばらつきの一因にもなっていると考えられる。構造物を設計・評価する際には,このようなばらつきをふまえて安全率などの考え方が取られるが,「ばらつき」の評価をより詳細に行うことによって,安全率などをより合理的に決定することも可能になると考えられる。

さらには,鋼構造物の製作において溶接は不可欠な工程であり,溶接継手レベル程度の巨視的にも,材料組織レベルの微視的にも不均質をもたらす要因となる。そのため,溶接にともなって生じる変形,残留応力,溶接熱影響による材質変化などは継手の性能を支配する重要な因子であると考えられ多くの研究が行われている。中でも溶接熱サイクルに伴う微視組織変化は,材質的な不均質をもたらす主たる要因である。特に,溶接部には溶融・凝固組織が形成され,高度に制御された圧延・冷却プロセスによって造り込まれた鋼材の微視組織とは大きく異なる1,2,3,4,5,6,7)。例えばオーステナイト系ステンレス鋼の溶接金属は,優先成長方位を有し,溶融・凝固過程において,最大温度勾配方向に〈1 0 0〉方向が配向することが知られている1,3,7)。母材は比較的ランダムな結晶方位を有し,等方性の材料として取り扱っても差し支えない場合が多いが,上述のように結晶方位が特定の方向に配向した溶接金属では,異方性を考慮する必要がある可能性がある。結晶粒レベルの異方性は,微視的な応力分布にも当然影響するものと考えられ,その影響の程度を把握しておくことは,溶接部の微視的応力の評価において重要であると考えられる。そこで本研究においては,溶接金属の凝固組織が有する異方性を想定した微視的応力を数値解析により評価する手法を構築し,評価した。

2. 溶接部の結晶異方性を考慮した微視的応力分布の数値解析手法

2・1 本研究で用いる結晶塑性論の概要

本研究では,微視的応力分布を評価するために,結晶塑性論を導入した有限要素解析を行った。結晶塑性論においては,結晶の塑性変形はすべり変形によるものとして取り扱い,負荷方向と結晶方位によって決まるすべり系との関係に依存して変化する変形挙動を考慮することが可能である。したがって,本研究で対象とする結晶方位に異方性を有する溶接金属の微視的応力の数値解析に有効であると考えた。

本研究で用いた結晶塑性論の概要を以下に示す。前述のとおり,結晶塑性論においては,結晶性材料の非弾性変形は,すべり変形によってもたらされると考える。多結晶材料では,個々の結晶はそれぞれの結晶方位を有しており,負荷にともなって,負荷方向と結晶方位との関係により,それぞれの結晶粒が異なる変形を生じる。その結果,結晶組織レベルの微視的応力分布が形成される。結晶塑性論による構成式は,Taylor8)によって最初に提案された。その後,多くの研究がなされているが,本研究ではAsaro and Rice9),Asaro10),Peirceら11,12,13)による定式化を採用した。

本研究では,オーステナイト系ステンレス鋼やニッケル基合金のような面心立方(face-centered cubic, FCC)構造を対象として12のすべり系を考慮したモデル化を行った。すべり変形は,すべり面において,すべり方向に作用するせん断応力によって発生する。すべり変形に対しては,速度依存型のすべりモデルを採用した。すべり系αにおけるせん断ひずみ速度γ˙(α)は,分解せん断応力τ(α)に依存すると考える。   

τij(α)=Pij(α)Sij(1)

ここで,

Pij(α):Schmidテンソル

Sij:応力テンソル

すべり系αのせん断ひずみ速度は,次式の指数則により算出される。   

γ˙(α)=α˙(α)(τ(α)g(α))|τ(α)g(α)|n1(2)

ここで,

γ˙(α):すべり系αにおけるせん断ひずみ速度

α˙(α):すべり系αにおける参照ひずみ速度

τ(α):すべり系αに作用する分解せん断応力

g(α):すべり系αのすべり変形に対する抵抗

n:ひずみ速度依存性を記述する指数

式(2)は,せん断ひずみ速度が,α˙(α)であるときの,せん断応力τ(α)とすべり抵抗g(α)との関係を表す。nが∞に近づくと,速度依存性が小さくなる。g(α)はすべり変形に対する結晶の抵抗を表し,次式のように全すべり変形量γに依存する。   

g(α)=g(α)(γ)γ=α0t|γ˙(α)|dt(3)

これは,すべり系の加工硬化則に相当すると考えることができる。これは,g(α)の変化量g˙(α)によって定義されており,次式で表される。   

g˙(α)=βhαβγ˙(β)(4)

ここで,

hαβ:すべり硬化指数

式(4)は全すべり系に関する和の形で表されており,すべり系αの硬化は,他のすべり系のせん断ひずみ速度の影響を受けることとなる。ここで,係数hααおよびhαβ(α≠β)は,それぞれ,自己硬化係数,潜在硬化係数と呼ばれる。自己硬化係数は次式で表される。   

hαα=h(γ)=h0sech2|h0γτsτ0|(5)

ここで,

h0:初期硬化係数

τ0:初期せん断降伏応力

τs:飽和せん断降伏応力

式(5)は,他のすべり系の影響を受けない,すべり系αのみの硬化を表すものである。

一方,潜在硬化係数は,   

hαβ=qh(γ),forαβ(6)

で表される。係数qは自己硬化に対する潜在硬化の度合いを表す。つまり他のすべり系の硬化がどの程度,すべり系αの硬化に寄与するかを表している。本研究では,qを1とし,全すべり系において等しく硬化するものとした。

以上に要約したような結晶塑性論を市販の有限要素解析ソフトウェアAbaqusにユーザーサブルーチンUMATを使用して導入する手法がHuang,Kysarら14,15)によって開発されており,本研究ではそれを使用して数値解析を行った。

2・2 数値解析モデルおよび数値解析条件

本研究で使用した有限要素モデルをFig.1に示す。溶接金属に生じる柱状晶を模擬している。Fig.1は有限要素モデルに柱状晶の形状を重ねて描いたものである。この有限要素モデルはyz面の結晶粒形状をボロノイ分割により生成し,これをx方向に伸張することによって作成した。yz面には137個の結晶粒が存在し,平均結晶粒径は27 μmである。なお,結晶方位をランダムに与えた場合には,この程度の数の結晶粒が含まれていれば,巨視的な応力ひずみ関係は与える結晶方位の影響をほとんど受けないことを予備解析により確認している。使用した有限要素は三次元6節点ソリッド要素(有限要素解析ソフトウェアAbaqusにおける要素タイプC3D6)であり,178500節点,333100要素により構成される。

Fig. 1.

 Finite element model of columnar grain aggregate.

溶接金属の凝固組織の異方性を考慮するために,この有限要素モデル中の各柱状晶について,結晶方位を定義した。オーステナイト系ステンレス鋼の溶接金属では,最高温度勾配方向に柱状晶が成長し,〈1 0 0〉方向が優先的に配向するという特徴がある1,3,7)ことから,その最も理想的な状態として,Fig.1におけるx方向と〈1 0 0〉方向とが完全に一致するように柱状晶の結晶方位を定義したモデルを作成した。ただし,実際の溶接金属においては〈1 0 0〉方向が完全に同一方向に配向するわけではないため,Fig.1におけるx方向と〈1 0 0〉方向とがなす角度を変化させ,その影響についても検討した。具体的には,Fig.1におけるx方向と〈1 0 0〉方向とがなす角度が15°以下の場合,30°以下の場合と変化させた。また,〈1 0 0〉方向が完全にランダムに配向した場合についても数値解析を行った。したがって,Fig.1におけるx方向と〈1 0 0〉方向とがなす角度については,0°の場合,15°以下の場合,30°以下の場合,ランダムの場合の4条件を検討した。

さらに溶接金属では,Fig.2に示すように溶接条件によって継手に対する優先成長方向が変化する。そのため,溶接継手に負荷が作用した場合,柱状晶の成長方向によって,〈1 0 0〉方向と負荷方向との関係が変化することが予想される。このことから,Fig.1に示した数値解析モデルに対する負荷方向を変化させたときに生じる微視的応力分布を検討した。負荷方向はFig.3に示すように,柱状晶の長手方向(x方向)に垂直な方向(z方向)に負荷した場合と柱状晶の長手方向(x方向)に平行な方向(x方向)に負荷した場合の2条件を考えた。境界条件は,Fig.3に示したように,負荷する面の平面を保持したまま引張変位を付与した。側面については簡易的に自由境界とした。

Fig. 2.

 Schematics of weld solidification microstructure1).

Fig. 3.

 Loading conditions for columnar grain model.

以上のように,柱状晶の長手方向に対する結晶方位の〈1 0 0〉方向の分布に関して4条件,柱状晶に対する引張負荷方向に関して2条件の計8条件について数値解析を行った。

数値解析に用いる材料特性として,2・1節で示した結晶塑性論におけるパラメータが必要となる。本研究で用いた結晶塑性論におけるパラメータをTable 1に示す。異方性弾性定数C11C12C44,硬化指数n,参照ひずみ速度αは文献値14,15,16)を用いた。初期硬化係数h0,すべり抵抗の初期値τ0,すべり抵抗の飽和値τsは,巨視的な応力ひずみ曲線において降伏点以降の特性を支配するパラメータであり,引張試験によって得られる応力ひずみ曲線を再現できるように決定するといった方法が考えられる。ただし,本研究では,結晶方位の配向による微視的応力分布の変化を検討することを目的としているため,オーステナイト系ステンレス鋼を想定した仮想的な値として,Table 1に示した値を用いた。

Table 1. Parameters used in crystal plasticity simulation.
Anisotropic elastic constants16)C11 = 198 GPa, C12 = 125 GPa, C44 = 122 GPa
Hardening exponent14,15)n = 10
Reference strain rate14,15)α = 0.001 s–1
Initial hardening modulih0 = 300 MPa
Initial slip strengthτ0 = 200 MPa
Saturation slip strengthτs = 400 MPa

以上のようにして定義した柱状晶を想定した数値解析モデルは結晶方位の異方性を有し,その結果,強度的にも異方性も生じている。そこで,付与する引張変位は,理想的な柱状晶である〈1 0 0〉方向が同一方向に配向した数値解析モデルにおいて巨視的な負荷応力が降伏応力程度となるまでを目安とした。その引張変位に達した段階での微視的応力分布を評価した。

3. 溶接金属を想定した柱状晶モデルに生じる微視的応力分布

3・1 柱状晶モデルの巨視的な応力ひずみ関係と微視的応力分布

まず,柱状晶モデルに付与した引張変位と節点反力から算出した応力ひずみ曲線をFig.4に示す。応力は節点反力を柱状晶モデルの初期断面積(300 μm×300 μm)で除して算出し,ひずみは引張変位を初期寸法(300 μm)で除して算出した。柱状晶の長手方向と垂直に引張変位を付与した場合をFig.4(a)に,柱状晶の長手方向と平行に引張変位を付与した場合をFig.4(b)に示す。柱状晶の長手方向と〈1 0 0〉方向とがなす角度が,0°,15°以下,30°以下,ランダムと変化すると,巨視的な応力ひずみ関係が変化することが確認できる。これは,モデルに含まれる結晶粒の方位と負荷方向の関係が変化するためである。

Fig. 4.

 Macroscopic stress-strain relationships of columnar grain model.

巨視的な負荷応力が降伏応力程度となった段階での微視的応力分布をFig.5に示す。注目した付与ひずみは,柱状晶の長手方向と垂直に引張変位を付与した場合は0.32%であり,そのときの微視的応力分布をFig.5に,柱状晶の長手方向と平行に引張変位を付与した場合は0.5%であり,そのときの微視的応力分布をFig.6に示す。ここでは,ミーゼスの相当応力を示した。このように,端部に一様な変位を付与したとしても,結晶方位や結晶粒形状によって不均一な微視的応力分布が形成され,負荷応力よりも高い微視的応力が発生する可能性があることが分かる。これを,溶接鋼構造物の設計や評価との関係で考えた場合,巨視的な負荷応力に基づく評価では許容される応力値に達していなくとも,微視的には高い応力が生じており,そこが破壊の起点となりうるということが予想される。その程度を明らかにすることができれば,設計や評価に有用な知見となり,安全率などをより合理的に決定することも可能になると考えられる。そこで数値解析結果に基づき,巨視的な負荷応力に対してどの程度の微視的応力が発生する可能性があるかを整理した。

Fig. 5.

 Microscopic stress distribution of columnar grain models (tension perpendicular to longitudinal direction of columnar grains).

Fig. 6.

 Microscopic stress distribution of columnar grain models (tension parallel to longitudinal direction of columnar grains).

3・2 微視的応力分布の評価手順

異方性によって生じる不均一な微視的応力分布は以下のようにして整理する。まず,数値解析モデルを構成する要素を,その応力値によって分類する。本研究ではミーゼスの相当応力の値を用い,20 MPaごとに区分して分類した。続いて各階級に属する要素の体積の総和を計算し,数値解析モデル全体に占める体積率を算出する。これにより,どの程度の大きさの微視的応力がどの程度の範囲で生じているかを明らかにすることができる。

3・3 微視的応力分布に及ぼす結晶方位の影響

3・2節に示した手順で整理を行った結果をヒストグラム状のグラフにしてFig.7およびFig.8に示す。柱状晶の長手方向と垂直に引張変位を付与した場合をFig.7に,柱状晶の長手方向と平行に引張変位を付与した場合をFig.8に示す。柱状晶の長手方向と〈1 0 0〉方向とがなす角度が,0°,15°以下,30°以下,ランダムと変化した場合について示し,それぞれについて巨視的な負荷応力がどの程度かも合わせて示している。

Fig. 7.

 Histogram of microscopic stress occurred in columnar grain model (tension perpendicular to longitudinal direction of columnar grains).

Fig. 8.

 Histogram of microscopic stress occurred in columnar grain model (tension parallel to longitudinal direction of columnar grains).

Fig.7に示した,柱状晶の長手方向と垂直に引張変位を付与した場合,柱状晶の長手方向と〈1 0 0〉方向とがなす角度が0°,15°,30°,ランダムと変化するにつれて,巨視的な負荷応力と同程度の微視的応力が比較的高い体積分率で生じている状態から,広範囲の微視的応力が生じる状態に変化していくことが分かる。

Fig.8に示した,柱状晶の長手方向と平行に引張変位を付与した場合,柱状晶の長手方向と〈1 0 0〉方向とがなす角度が0°のときは,柱状晶モデル全体で一様な応力が発生している。そして,柱状晶の長手方向と〈1 0 0〉方向とがなす角度が15°以下,30°以下,ランダムと変化するにつれて,柱状晶に垂直な方向に引張変位を付与した場合と同様に広範囲の微視的応力が生じる状態に変化していくことが分かる。

3・4 柱状晶モデルに生じる微視的応力分布の特性

Fig.7およびFig.8に示した微視的応力分布の特徴を明確にするため,柱状晶モデル内部に生じている微視的応力の最大値,最小値,平均値,中央値を取り出し,柱状晶の長手方向と垂直に引張変位を付与した場合をFig.9に,柱状晶の長手方向と平行に引張変位を付与した場合をFig.10に示す。また,Fig.7およびFig.8で示した巨視的な負荷応力についても示した。

Fig. 9.

 Characteristic values of microscopic stress distribution occurred in columnar grain model (tension perpendicular to longitudinal direction of columnar grains).

Fig. 10.

 Characteristic values of microscopic stress distribution occurred in columnar grain model (tension parallel to longitudinal direction of columnar grains).

まず,柱状晶の長手方向と垂直に引張変位を付与した場合について考える。Fig.9より,微視的応力の平均値や中央値は,概ね負荷応力と同程度であり,微視的応力分布に対応する巨視的な応力として,柱状晶モデル全体に対する負荷応力を用いることが妥当であることが確認できる。微視的応力分布の最大値に注目すると,柱状晶の長手方向と垂直に引張変位を付与した場合,生じる微視的応力の最大値は,柱状晶の長手方向と〈1 0 0〉方向とがなす角度によらずほぼ同じであることが分かる。次に,柱状晶の長手方向と平行に引張変位を付与した場合について考える。この場合も,Fig.10より微視的応力の平均値や中央値は,概ね負荷応力と同程度であり,微視的応力分布に対応する巨視的な応力として,柱状晶モデル全体に対する負荷応力を用いることが妥当であることが確認できる。微視的応力分布の最大値に注目すると,柱状晶の長手方向と〈1 0 0〉方向とがなす角度が大きくなるほど,生じる微視的応力の最大値が大きくなることが分かる。

以上の結果に基づき,負荷応力に対して,どの程度の大きさの微視的応力が生じているかを明確にするために,微視的応力の最大値および最小値を負荷応力で除した値を,柱状晶の長手方向と垂直に引張変位を付与した場合をFig.11に,柱状晶の長手方向と平行に引張変位を付与した場合をFig.12に示す。ここでは,Fig.9およびFig.10に示した,負荷応力と微視的応力の平均値または中央値とがほぼ同程度であったことを参考に,柱状晶モデルに作用する巨視的な応力値として負荷応力を採用した。

Fig. 11.

 Ratio of microscopic stress occurred in columnar grain model to macroscopically applied stress (tension perpendicular to longitudinal direction of columnar grains).

Fig. 12.

 Ratio of microscopic stress occurred in columnar grain model to macroscopically applied stress (tension parallel to longitudinal direction of columnar grains).

柱状晶の長手方向と垂直に引張変位を付与した場合には,微視的応力の最大値の負荷応力に対する比は,柱状晶の長手方向と〈1 0 0〉方向とがなす角度が0°のときに最も大きい。柱状晶の長手方向と〈1 0 0〉方向とがなす角度が小さくなる,すなわち,異方性が顕著な方が負荷応力に対して生じる微視的応力は大きくなる。これは,柱状晶モデルに生じる微視的応力の最大値はあまり変化しないのに対して,巨視的な負荷応力は,柱状晶の長手方向と〈1 0 0〉方向とがなす角度によって変化するためであると考えられる。ただし,微視的応力の最大値の負荷応力に対する比は,柱状晶の長手方向と〈1 0 0〉方向とがなす角度が0°のときに1.75倍であり,〈1 0 0〉方向がランダムなときの1.59倍と比較して,それほど大きいわけではない。

一方,柱状晶の長手方向と平行に引張変位を付与した場合には,微視的応力の最大値の負荷応力に対する比は,柱状晶の長手方向と〈1 0 0〉方向とがなす角度が0°のときに1であり,柱状晶の長手方向と〈1 0 0〉方向とがなす角度が大きくなるとともに,負荷応力に対して生じる微視的応力は大きくなる。微視的応力の最大値の負荷応力に対する比は,柱状晶の長手方向と〈1 0 0〉方向とがなす角度が30°のときに1.72倍で,柱状晶の長手方向と〈1 0 0〉方向とがなす角度がランダムのときの1.63倍と同程度に達する。

以上より,溶接金属に見られるような柱状晶に負荷が作用することを考えると,Fig.3(a)に示したように柱状晶の長手方向に対して垂直に負荷が作用する場合に,負荷応力よりも高い微視的応力が発生する可能性が高いといえる。これは,例えば,Fig.2(b)に示したような溶接金属の凝固組織において,巨視的な溶接線方向の残留応力場の下で生じうる状況であり,また,溶接線直角方向に外的な負荷が作用する場合には,Fig.2(a)に示したような溶接金属の凝固組織においても比較的近い状態となる部分がある。この他にも,ステンレス鋼クラッド溶接部などでは,最大温度勾配が溶接金属部表面方向となり,Fig.3(a)に示したような負荷状態になると予想される。このように,溶接金属の結晶方位の異方性を考慮して,負荷応力に対してどの程度の微視的応力が発生しうるかという本研究で得られた知見は有用なものであると考えられる。

4. 結言

本研究では,鋼溶接金属の凝固組織によって生じる結晶方位の異方性を考慮して微視的応力分布を検討した。柱状晶の長手方向とオーステナイト系ステンレス鋼の優先成長方位である〈1 0 0〉方向とがなす角度,ならびに,柱状晶の長手方向に対する引張負荷方向を変化させ,巨視的な負荷応力に対して,どのような微視的応力分布が生じるかを数値解析により明らかにした。

(1)柱状晶の長手方向と垂直に引張変位を付与した場合,生じる微視的応力の最大値は,柱状晶の長手方向と〈1 0 0〉方向とがなす角度によらずほぼ同程度で,負荷応力の1.59倍から1.75倍程度である。

(2)柱状晶の長手方向と平行に引張変位を付与した場合,生じる微視的応力の最大値は,柱状晶の長手方向と〈1 0 0〉方向とがなす角度が大きくなるほど,生じる微視的応力の最大値が大きくなり,最大で1.72倍程度に達する。

(3)以上2点より,溶接金属に見られるような柱状晶に負荷が作用する場合は,柱状晶の長手方向に対して垂直に負荷が作用する場合に,負荷応力よりも高い微視的応力が発生する可能性が高いといえる。

謝辞

なお,本研究は,一般社団法人日本鉄鋼協会鉄鋼研究振興助成の支援を受けて実施したものである。ここに記し,謝意を表す。

文献
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

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