Tetsu-to-Hagane
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Non-Destructive Inspection of Under-Film Corroded Steels using A Compact Neutron Source
Masako YamadaYoshie OtakeAtsushi TaketaniHideyuki SunagaYutaka YamagataTakumi WakabayashiKenji KonoTakenori Nakayama
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2014 Volume 100 Issue 3 Pages 429-431

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1. 緒言

非破壊検査の手段としてX線の歴史は古く高度な測定技術が確立している。しかし,鉄系材料に対する透過率が低いため,X線を使った分厚い材料の測定や金属中の軽元素の情報を取り出すことには限界がある。一方中性子の物質との相互作用はX線のそれと異なり,多くの金属において中性子の透過能力が高く1),中性子線を用いた非破壊検査に期待が高まっている2)。理研では普及型の小型中性子源システムRIKEN Accelerator-driven Neutron Source(RANS)を開発しており,2013年1月には中性子ビームが取り出された。現在中性子イメージング3)装置が構築され,利用可能となっている。鉄鋼業界における中性子線の有用性を評価する日本鉄鋼協会I型研究会が2013年に発足し,その活動の一環として,RANSにおいて種々の鉄系サンプルに対しイメージング実験を行なっている4)。RANSは産業利用や人材育成を主目的とした小型中性子源システムであり,「手元で使える,役に立つプローブ」を基本理念として開発・高度化を行っている。

鋼材はさびやすい弱点があり,防食手段として塗装が広く用いられている。社会インフラなどでは維持管理コスト縮減が求められており,塗装腐食寿命の延長が重要課題であるため,橋梁向けに塗膜下のさび進行を遅らせる重防食塗装5)や合金鋼6)の開発などが行われている。それらの有効利用やさらなる塗装寿命の延長には腐食メカニズムの究明が必要であるが,塗膜下で生ずる腐食現象であることから従来手段では得られる情報に限界があった。そこで透過能が高く,腐食と密接に関係する水の検出能にも優れた中性子を使ったイメージング法の利用が期待されている。本稿では,水の出入りとの関連で塗膜下腐食した普通鋼と合金鋼に対してRANSを利用して行なった中性子イメージング観察結果について報告する。

2. 理研小型中性子源装置RANS概要

2・1 RANSの構成概要

理研小型中性子源装置RANSの外観をFig.1に示す。イオン源で発生した陽子(H+)を,中性子収率が高まる7 MeV7)まで線形加速器で加速し,耐久性の良いBeターゲットに照射して,低エネルギー核反応により高速中性子(エネルギー中心値約2 MeV)を発生する。ターゲット直後に置かれた減速材により構造解析のプローブとして用いられる熱中性子(25 meV)までエネルギーを下げた中性子をイメージング実験に用いる。発生する熱中性子束の最大値はターゲットより約5 m離れたイメージング測定位置で104 n/cm2/s程度であり,国内の小規模中性子発生施設に匹敵する性能を有している。現在は,最高性能のおよそ1/10のビーム強度で中性子イメージング実験を行なっている。

Fig. 1.

 Panoramic view of RIKEN Accelerator-driven Neutron Source.

2・2 中性子イメージング装置概要

ターゲットステーションで発生する熱中性子は,中性子ビームダクトを通って約5 m下流に設置されるサンプルに照射される。中性子シンチレータ(6LiF/ZnS(Ag)厚さ0.4 mm)を用いてその透過像を可視光に変換し,それを1100万画素の冷却CCDを用いて検出する。CCDの1ピクセルは約40 μm四方である。ビーム強度を重視し,減速材の下段に設けたø130 mmのスリットを光源としているためビーム平行度は低いが,上述のようにイメージングに用いる熱中性子数は測定位置で最大104 n/cm2/s程度であり,数分程度の撮影で実用的な画像が得られる。中性子シンチレータサイズによりサンプルサイズは最大150×150(mm)まで可能である。

3. 実験方法

供試材は,厚さ6 mm×幅70 mm×長さ150 mm寸法の普通鋼板(JIS-SM400相当)と0.8Cu-0.4Ni-0.05Ti(mass%)を主成分とする塗装用合金鋼板6)を用いた。両鋼板について,市販の変性エポキシ樹脂塗料を用いて,膜厚240 μmの塗装を施し,養生後にJIS-K-5600-7-9:2006(塗料一般試験方法)7.5b(切り込みきずの付け方)に準じ中央に単刃の切り込み具を用いて鋼板に達するカット(人工塗膜欠陥)を1本付与した。塗装耐食性試験は,実環境での屋外曝露試験との相関が公表されている促進試験8)として,JIS-K-5600-7-9:2006附属書1(規定)サイクルDに準拠した複合サイクル(CCT)試験(塩水噴霧5%NaCl,30°C,0.5 h⇒湿潤95%RH,30°C,1.5 h⇒熱風乾燥20%RH,50°C,2.0 h⇒温風乾燥20%RH,30°C,2.0 hの繰り返し)を,720サイクル(6カ月)行った。このようにして,両鋼ともに,人工塗膜欠陥部を起点に,塗膜下でのさびを進行させて,塗膜ふくれを生じさせた。

これら試料について,前述の理研RANSを用いて,中性子イメージング実験を行った。中性子シンチレータより約30 mm上流に設置した両試料の状況(ビーム上流側からの写真)をFig.2(Left)に示す。左(E16)が合金鋼,右(S18)が普通鋼であり,後者は前者に比べて,塗膜ふくれの程度が大きいことが明らかである。中性子イメージング実験は,まずCCT試験後1ヶ月間室内保管した状態で実施した。次に試料を蒸留水に110分浸漬し取り出した直後の状態と,その後にファンでエアーブロー30分乾燥させた状態において実施し,水の出入りについて比較した。いずれの測定もRANS最高性能のおよそ1/10のビーム強度で,10分間行なった。統計精度を向上するため2×2(ch)の画像ピクセルを1 chにまとめ,CCDカメラ上で約80 μmの空間分解能で測定を行なった。

Fig. 2.

 (Left) Sample photo of neutron imaging. Two samples were set in front of the neutron detector. Alloy steel, E16 at left side and normal steel, S18 were measured simultaneously. The point of views of all coming images are the same as this photo. (Right) Neutron imaging picture of E16 and S18 before immersion in distilled water. Shadows at both ends were come from metal fixtures.

4. 実験結果と考察

Fig.2(Right)は室内保管状態(水浸漬処理前)試料の中性子透過像であり,ダイレクトビームの2次元強度分布は各ピクセル毎にその測定値を用いて較正されている。透過画像における各ピクセルの輝度は到着する中性子数に比例しており,暗い場所は物質により散乱又は吸収され中性子数の減衰が大きいことを意味する。ここで,塗膜ふくれは塗膜下腐食によってさび生成が進行し,その体積膨張で塗膜が押し上げられて形成すると考えられている6)。また,鋼材さびは,α-FeOOH,β-FeOOH,γ-FeOOH,Fe3O4などから構成される9)とともに,さび層中には,クラックや空隙などの欠陥が存在することが知られている10,11)。また一方で,塗膜ふくれによる塗膜押し上げ作用によって,ふくれ周辺で塗膜剥離を生じ,塗膜/鋼板界面に隙間が形成する可能性も考えられる。測定された暗色位置は,両鋼ともに,Fig.2(Left)に観察される塗膜ふくれの位置と一致している。中性子は水素に対する反応断面積が大きいことから,両鋼ともに塗膜ふくれ内に生成した含水さび成分であるFeOOHや,さび層中の欠陥あるいは塗膜/鋼板界面の隙間部の残存水の存在および量を反映した暗色像が得られたと考えられる。

次に,水浸漬処理試料とその後に乾燥処理した試料の中性子透過像をそれぞれFig.3(Left, Center)に示す。いずれもダイレクトビームの2次元強度分布はFig.2(Right)同様較正されている。両画像ともに水浸漬処理前の画像(Fig.2(Right))よりも塗膜ふくれ位置がより暗くなっているが,その程度は水浸漬処理直後に著しく,乾燥後弱くなっている。この明るさの変化は,塗膜内への水出入りによる水分の存在量の変化を反映したものであるが,水が出入りすれば新たな腐食反応やさび層内の電気化学的酸化還元反応に伴うさびの含水状態の変化が生じ得る12)ので,それらの変化も重畳していると考えられる。

Fig. 3.

 (Left) After water immersion treatment for 110 minutes. (Center) After drying treatment by air blower for 30 minutes followed by the water immersion treatment. (Right) Neutron intensity ratio of after water immersion treatment and after drying treatment.

ここで,水浸漬処理後と乾燥処理後で測定したピクセル毎の輝度の比を計算した。この輝度比の2次元分布(Fig.3(Right))から,塗膜ふくれ部における乾燥処理に伴う水分量あるいはさび状態の変化量が分る。合金鋼では人工塗膜欠陥に沿ってその変化が局在化している一方,普通鋼では右下の大きなふくれ部分での変化が顕著で,他の部分でも広い空間で散漫的に変化しているという大きな違いが見られる。

この変化の空間分布を以下のような方法で定量的に評価した。Fig.3(Right)のように測定されたピクセル毎の透過率を人工塗膜欠陥長に渡り積分して水平軸に射影し,合金鋼および普通鋼とも水浸漬後の乾燥処理前後で比を算出した。さらに水平軸に沿って24 chごとに移動平均をとった結果をFig.4に示す。合金鋼の場合,強度比は人工塗膜欠陥を中心として線幅の狭いピークを示し,水による包括的な変化が局在化していることがわかる。一方で,普通鋼での変化はより広範囲に散漫的に分布しているという結果が得られた。

Fig. 4.

 The ratio of projection into horizontal axis of neutron intensity taken after water immersion treatment and after drying treatment. Only artificial defect parts of E16 (open circle) and S18 (closed circle) were projected, respectively.

こうした両鋼における水の空間分布変化の違いは,両鋼のさび緻密性の違いによる塗装耐食性の差異を反映していると思われる。すなわち,合金鋼では合金元素の作用で塗膜下のさびが緻密化する6)ために,水濡れしてもさびがバリアとなって拡散し難いが,普通鋼では塗膜下のさびの緻密性(遮断性)が劣るため塗膜ふくれ全域で濡れ乾きのプロセスが起りやすいと思われる。その結果,両鋼において塗膜ふくれの程度に違いが出たものと考えられる。

5. 結論

理研小型中性子源装置RANSを用いて,人工塗膜欠陥を起点に塗膜ふくれを成長させた合金鋼および普通鋼について,中性子イメージング実験を行なった結果,両鋼ともに塗膜ふくれ位置に含水さび層に由来すると思われる暗色画像が観測された。その明暗比(コントラスト)は水浸漬処理後に強まり,その後乾燥処理することで弱まった。その変化の度合いは,合金鋼に比べて普通鋼において顕著であり,両鋼の水浸入挙動の違いによる塗装耐食性の差異が示唆された。今後,RANSにおいて包括的な中性子イメージング測定の高精度化が行なわれる予定である。また本実験の成功を受けて,中性子イメージングとX線イメージングおよびレーザー形状計測器を複合的に用いて,浸入する水分量の空間分布と,乾湿繰り返しに伴うさびの状態変化などの塗膜下腐食メカニズムに資する情報を独立して取り出すための実験を計画している。

文献
  • 1)   K.W.  Herwig: Neutron Imaging and Applications, eds. by I.S.Anderson et al., Springer, New York, (2009), 7.
  • 2)   Y.  Otake: J. Surf. Sci. Soc. Jpn., 33(2013), 296.
  • 3)  中性子イメージング技術の基礎と応用,(社)日本アイソトープ協会理工学部会日本イメージング専門委員会,東京,(2012), 29.
  • 4)   Y.  Yamagata,  Y.  Otake,  K.  Hirota and  S.  Wang: Radiation and Industries, 134(2013), 16.
  • 5)   K.  Yamada: Countermeasure for Long-life Steel Bridges, JSSC Technical Report, JSSC, Tokyo, (2002), No.57, 39.
  • 6)   T.  Nakayama,  F.  Yuse,  H.  Kawano,  K.  Ohe,  K.  Abe and  M.  Sakai: Kobe Steel Eng. Rep., 51(1999), 29.
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  • 9)   T.  Ishikawa and  T.  Nakayama: Zairyo-to-Kankyo, 52(2003), 140.
  • 10)   T.  Watanabe and  K.  Masuda: Bosei Kanri, (1989), 386.
  • 11)   T.  Nakayama: Proc. JSCE Technical Seminar, (2005), No.36, 1.
  • 12)   T.  Misawa: Zairyo-to-Kankyo, 50(2001), 538.
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

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