Tetsu-to-Hagane
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Influence of Magnetic Anisotropy on Hysteresis Loss of Non-oriented Electrical Steel Sheet
Hirotoshi TadaHiroshi FujimuraHiroyoshi Yashiki
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2015 Volume 101 Issue 4 Pages 269-273

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Synopsis:

To reveal the influence of magnetic anisotropy on hysteresis loss of electrical steel sheet, hysteresis loss of non-oriented electrical steel sheet with various Si and Al contents and same grain diameter, 100 μm, was analyzed by the hysteresis loss model we advanced in other times. In the result, the influence of magnetic anisotropy was be able to evaluated in isolation from the influence of inner stress or texture etc. on hysteresis loss. Hysteresis loss was proportional to magnetic anisotropy constant. This reason was inferred that as the magnetic anisotropy constant decreases, the energy of magnetic wall decreases, then the magnetic wall was difficult to be pinned by precipitates or grain boundaries.

1. 緒言

変圧器やモータの効率向上のため,鉄心材料である電磁鋼板の鉄損低減が要求されている。鉄損は渦電流損とヒステリシス損の和であり,それぞれに低減する手段がある。渦電流損は交流で磁化された鋼板内で発生する渦電流によって生じるジュール熱であり,その低減には板厚低減,SiやAlなどの合金含有量増加による比抵抗増加および磁区幅の減少が有効である。一方,ヒステリシス損は交番磁界の増減に伴う磁束密度の増減の軌跡が異なることによって生じるエネルギー損失であり,その低減には結晶粒径の大径化,析出物や介在物の低減および集合組織制御などが有効である。

渦電流損は,電磁鋼板内の磁化変化が均質であれば,板厚の2乗に比例し比抵抗に反比例するいわゆる古典的モデル1)で表すことができ,磁区幅が大きく,磁化変化が不均一な場合には磁壁近傍の局所的な磁化変化を考慮した渦電流損モデル2)でおおよそ記述できる。一方,ヒステリシス損への影響因子としては,粒径,析出物および集合組織など冶金的な要因に加え,飽和磁歪定数,結晶磁気異方性および応力などがある。従来個々の影響因子について検討した例は多数報告されている3,4,5,6,7,8,9,10)。例えば,Steinmetzはヒステリシス損が磁束密度の1.6乗に比例するというモデル11)を,Kerstenは保磁力が結晶磁気異方性や非磁性不純物の存在率に比例し,非磁性不純物の直径に反比例するというモデル12)を提唱している。しかしながら,Steinmetzのモデルはヒステリシス損と磁束密度の関係の経験則に基づいたモデルであり,それ以外の影響因子を分離して評価できない。また,Kerstenのモデルは,析出物のサイズや存在比率および結晶磁気異方性の影響を取り入れたモデルであるが,結晶粒径,集合組織や応力などの影響は考慮していない。

筆者らは,交番磁化過程において磁壁が移動した部分の体積とヒステリシス損の間に相関がある13)ことに着目し,ヒステリシス損の各影響因子が,磁壁が移動した部分の体積に寄与するものと,その移動の阻害因子に寄与するものに分類できると考えた。筆者らが提案するモデルでは,磁壁が移動した部分の体積V[m3]は180°磁壁と90°磁壁が移動した部分の体積の和として式(1)のように表される。この式(1)を用いて,ヒステリシス損は式(2)のように記述できる。   

V=c×(1+λpp×Bsλ100×Bm)BmBscosθ(1)
  
Wh=(V/c)1.6/M(2)

ここで,式(1)のc[m3]は磁気測定サンプルサイズなどによって変化する定数,λp-p[−]は磁気歪み量,λ100[−]は飽和磁歪定数,Bs[T]は飽和磁束密度,Bm[T]は励磁磁束密度,θ[°]は励磁方向と励磁方向に最も近い[100]のなす角である。ここで,λ100とBsは成分によって決まる定数,θは結晶方位によって決まる定数,Bmは磁気測定条件であるため,式 (2)におけるV/cはλp-pを測定することで算出できる。また,式(2)における1/Mは,(V/c)1.6に対してWhをプロットした際の傾きに相当する。V/cが無次元であるため,1/Mの単位はヒスリシス損と同じ [W/m3]である。つまり,1/Mは,磁壁が移動した部分の体積が一定値(V/c=1)に達するために必要なエネルギーに相当し,1/Mが小さくなるほど磁壁が移動し易くなることを意味する。以下ではMを磁壁易動度と表記する。

式(1)に示すように,励磁磁束密度,結晶方位および磁気歪み量に影響を及ぼす応力は,磁壁が移動した部分の体積に影響を及ぼすと考えられ,前報13)にてこの点を検証した。一方,磁壁易動度Mは結晶粒径,析出物,介在物,結晶磁気異方性の影響を受けると考えられるが,前報では,これらの条件は揃えて実験しており,未検証である。そこで本検討では,磁壁易動度Mへの影響因子として結晶磁気異方性に着目した。

結晶磁気異方性を低下させることで,透磁率などの磁気特性が向上することが知られている。例えば,4%程度のSiが含有された無方向性電磁鋼板の透磁率は純鉄の透磁率よりも優れている14)。これは,Si含有量増加による結晶磁気異方性定数の低下が一因であると考えられる。また,センダスト,Fe-10% Si-5%Al,は結晶磁気異方性定数K1と飽和磁歪定数λ100を共にほぼゼロとした軟磁性材料であり,その透磁率は120000にも達する14)

本研究では,磁壁移動度Mに影響を及ぼすと想定される結晶磁気異方性を取り上げ,電磁鋼板のヒステリシス損と結晶磁気異方性の関係を,提案モデルを用いて解析した。

2. 実験方法

ラボの真空溶解炉にてTable 1に示す成分のSi,Al含有量が異なるインゴッドを作製した。以下では,Table 1に示すように,それぞれ0Si-4Al鋼,4Si-0.3Al鋼,5Si-0.3Al鋼と表記する。これらのインゴッドを1150°Cに加熱した後,熱間圧延によって板厚2.0 mmの熱延板とした。熱延板に酸洗および800°Cで4時間保持する熱延板焼鈍を施した後,冷間圧延によって板厚0.30 mmとした。冷延板に1100°Cで1秒保持する仕上げ焼鈍を施して,結晶粒径を約100 μmに揃えた。その後,圧延方向が長手となるよう30 mm×150 mmの単板磁気測定用サンプルに打抜き加工した。これらのサンプルを用いて,−5~+5 MPaの応力下で,励磁磁束密度Bmが1.0 T,周波数が50,400 Hzでの圧延方向の鉄損およびBmが1.0 T,周波数が400 Hzでの圧延方向の磁気歪み量λp-pを測定した。400 Hzと50 Hzの鉄損を用いた2周波法により,400 Hzでのヒステリシス損(Wh10/400)を算出した。

Table 1. Chemical composition of NOs (mass%).
MarkCSiMnSAlN
0Si-4Al0.00200.20.0034.00.002
4Si-0.3Al0.0024.30.20.0030.30.002
5Si-0.3Al0.0025.20.20.0030.30.002

3. V/cの算出

磁壁が移動した部分の体積V/cを算出するためには,Si,Al含有量に応じて変化する飽和磁歪定数λ100,飽和磁束密度Bs,励磁方向と励磁方向に最も近い[100]のなす角θを与える必要がある。以下では,これらの算出方法について述べる。

3・1 λ100

Fig.1に示すように,λ100はSi,Al含有量の影響を受けることが知られている15,16)。本検討では,SiとAlの相互作用がないと仮定し,式(3)に示すように,Fe のλ100(20.7×10−6)にSi,Al含有量増加によるλ100の変化量⊿λSi,⊿λAlを加えることで,Table 1に示す成分の鋼のλ100を算出した。   

λ100=20.7×106+ΔλSi+ΔλAl(3)

Fig. 1.

 Influence of Si and Al content on λ100.

3・2 Bs

Fig.2に示すように,BsはSi,Al含有量が多くなるほど低下することが知られている17,18)。本検討では,SiとAlの相互作用がないと仮定し,式(4)に示すように,FeのBs(2.16 T)にSi,Al含有量増加によるBsの変化量⊿BSi,⊿BAlを加えることで,Table 1に示す成分の鋼のBsを算出した。   

BS=2.16+ΔBSi+ΔBAl(4)

Fig. 2.

 Influence of Si and Al content on Bs.

3・3 cosθ

前述の通り,方向性電磁鋼板を用いた検討では,θは,励磁方向と,励磁方向に最も近い磁化容易軸[100]のなす角とした。方向性電磁鋼板はGoss方位と呼ばれる{011}〈100〉方位の単結晶に近い組織を有するため,θを容易に決定できる。例えば,方向性電磁鋼板を圧延方向に平行に磁化する場合は,励磁方向が[100]と平行であるのでθは0°となる。しかし,本検討で用いた無方向性電磁鋼板には様々な方位,つまりθの結晶粒が存在するため,集合組織からはθを決定できない。そこで本検討では,以下のような手段でθを決定した。

集合組織の評価指標として,磁化力5000 A/mで磁化した際の磁束密度B50をBsで規格化した値(B50/Bs)に着目した。なお,B50/Bsが1に近いほど磁気特性に有利な集合組織であることを意味する。

方向性電磁鋼板のB50/Bsとcosθの関係をFig.2に示す19)。ただし,方向性電磁鋼板のBsは,方向性電磁鋼板を圧延方向に平行に,磁化力10000 A/mで磁化した際の磁束密度B100(2.02 T)を代用した。Fig.3に示すように,cosθが増加するほどB50/Bsは増加する。本検討で用いた無方向性電磁鋼板の圧延方向のB50/BsはSi,Al含有量にかかわらず約0.88であったため,Fig.3 に示すように,本検討にて使用した無方向性電磁鋼板のcosθは成分にかかわらず0.9とした。なお,これは,本検討にて使用した無方向性電磁鋼板を圧延方向に磁化する場合の,各結晶粒のcosθの平均値が 0.9であったことを意味していると考えられる。

Fig. 3.

 Relation between B50/Bs and cosθ of grain oriented electrical steel sheet.

4. 実験結果

Fig.4,5にヒステリシス損と磁気歪み量に及ぼす応力の影響を示す。なお,応力が負の値の場合は圧縮応力を意味し,正の場合は引張応力を意味する。圧縮応力によってヒステリシス損と磁気歪み量が増加し,引張応力によって減少した。

Fig. 4.

 Inflence of stress on hysteresis loss.

Fig. 5.

 Inflence of stress on magnetostriction.

Fig.6にヒステリシス損と磁壁が移動した部分の体積の関係を示す。なお,切片をゼロとして直線近似したのは,磁壁移動距離V/cがゼロの場合,ヒステリシス損もゼロとなると考えられるためである。また,同じ形状のプロットが5点ずつあるのは,印加した応力が異なるためであり,圧縮応力によってヒステリシス損が増加し,引張応力によって減少するのをV/cの変化で説明できた。Fig.6の傾きが磁壁易動度の逆数1/M,言い換えると,磁壁が移動した部分の体積が一定(V/c=1)の場合に必要なエネルギーに相当し,0Si-4Al鋼の傾きが最も大きく,5Si-0.3Al鋼の傾きが最も小さかった。

Fig. 6.

 Relation between hysteresis loss and V/c.

Fig.6に示した傾き1/Mと各成分のK1の関係をFig.7に示す。なお,Fig.8に示すK1に及ぼすSiとAl含有量の影響20)をもとに,式(5)に示すように,SiとAlの相互作用がないと仮定して各成分のK1を算出した。Fig.7に示すように,K1が低下するほど1/Mが減少した。これは,K1の低下によって磁壁が移動し易くなったことを意味していると考えられる。   

K1=47.5+ΔKSi+ΔKAl(5)

Fig. 7.

 Relation between 1/M and K1.

Fig. 8.

 Influence of Si and Al content on K1.

5. 考察

磁壁易動度が結晶磁気異方性との相関があったメカニズムを考察する。

磁壁移動は,磁壁が非磁性の析出物などによってピンニングされることによって阻害される。これは磁壁が析出物などの非磁性体上に存在することで磁壁エネルギーもしくは静磁エネルギーが低減されることに起因する。したがって,磁壁エネルギーおよび静磁エネルギーが低いほど磁壁がピンニングされ難くなる,言い換えると,磁壁が動き易くなる。磁壁エネルギーγは,式(6)に示すように,K1とBsの積の0.5乗に比例することが知られている21)。一方,静磁エネルギーUは式(7)に示すように,Bsの2乗に比例する22)。   

γK1×BS(6)
  
UBS2(7)

Fig.6に示した傾き1/MとK1×BSの関係をFig.9に示す。Fig.9に示すように,K1×BSが減少するほど1/Mが減少した。一方,傾き1/Mと静磁エネルギーの間には,Fig.10に示すように,相関がなかった。これより,SiおよびAl含有量を変化させたことによる磁壁易動度の変化は,K1の変化による磁壁エネルギーの変化に起因すると推察された。

Fig. 9.

 Relation between 1/M and magnetic wall energy.

Fig. 10.

 Relation between 1/M and magnetic energy.

磁壁移動度と静磁エネルギーの間に相関がなかったのは,本検討で用いたサンプルのK1は26~41 kJ/m3と,最大で60%程度の差があったのに対し,Bsは1.88~1.94 Tと最大で3%程度しか差がなかったためであると考えられる。したがって,K1が一定で,Bsだけが異なる供試材を用いれば,磁壁易動度の変化が静磁エネルギーの変化に起因するようになると予想される。しかし,電磁鋼板の実用的な成分の範囲では,成分を変化させることによるK1の変化の方が,Bsの変化よりも大きくなる。したがって,実質的には静磁エネルギーの変化は考慮する必要はなく,本検討結果は妥当であると推察される。

6. 結言

磁壁移動によって生じるヒステリシス損は,磁壁が移動した部分の体積に比例し磁壁易動度に反比例するというモデルを用いて,種々のSi,Al含有量の無方向性電磁鋼板の磁壁移動によって生じるヒステリシス損と結晶磁気異方性の関係を解析した。結果,結晶磁気異方性定数が低下するほど磁壁が移動し易くなることを定量的に評価できた。

文献
 
© 2015 The Iron and Steel Institute of Japan

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