Tetsu-to-Hagane
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Fundamental Study of Sn Removal from Hot Metal by NH3 Gas Blowing
Naotaka SasakiYu-Ichi UchidaYu-Ji MikiHidetoshi Matsuno
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2016 Volume 102 Issue 1 Pages 17-23

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Synopsis:

Development of a practical method of Sn removal in the steelmaking process is necessary from the viewpoints of promoting use of scrap procured in the market and reducing energy consumption. It is well known that Sn promotes surface cracks of billets in hot rolling by coexisting with Cu. Although various methods of Sn removal have been investigated in laboratory experiments, enough Sn removal efficiency for commercially use has not been obtained. In the present study, Sn removal from high-S hot metal by NH3 gas blowing was investigated in laboratory experiments as a new method of Sn removal. The laboratory experiment on Sn removal from hot metal was carried out using up to a 10 kg-scale vacuum induction melting furnace. Sn removal was accelerated while blowing NH3 gas, and the evolution of gas bubbles were observed at the hot metal surface. Within the ranges of these experiments, higher temperature and higher concentrations of S and N were advantageous for Sn removal. The mechanism of the acceleration of Sn removal by NH3 gas blowing could be estimated that oversaturated N or H in hot metal made small bubbles to increase the hot metal surface for SnS evaporation. In the estimation of Sn removal ratio in plant-scale operation, it could reach 40%. For further rapid Sn removal, it was necessary to maximize [N] of hot metal by optimizing the lance height or flow rate of NH3 gas.

1. 緒言

我が国の高炉操業は世界の鉄鋼業において最高水準のエネルギー効率であるが,更なる消費エネルギー削減を進めるには,鉄源としてスクラップの利用促進が必要である。製鋼プロセスにおいて鉄スクラップを溶解した場合,高炉で鉄鉱石中の酸化鉄を還元するために要するエネルギーの30%で同量の溶鉄を得ることが可能とされている1)

スクラップの中でも,一度製品として製鉄所外で使用された市中屑と呼ばれる低級スクラップの使用量を増大させることは,鉄源のリサイクル促進の観点からも重要といえる。低級スクラップの使用に際して問題となるのは,低級スクラップがトランプエレメントと呼ばれる不純物元素を含有していることである。トランプエレメントは酸素との親和性が鉄より低いため,溶鉄中に混入すると,現在の製鋼精錬プロセスにおいて主流である酸化精錬で除去することが困難とされている2)。従って,低級スクラップを循環利用するとトランプエレメントが次第に鋼材中に濃化することになる。

トランプエレメントの中でも錫(Sn)は鋼材への影響が大きい元素の一つであり,主に錫メッキ鋼板(ブリキ等)やハンダ部材から混入し,錫の混入による鋼材品質への悪影響として,錫と銅の共存による鋼材の熱間圧延時の赤熱脆化の助長などが知られている3)。鉄スクラップの発生量が増大し始めた1980年代から,錫の除去方法に関する様々な研究が行われている。

これまでに報告されている錫の除去方法は大きく二つのタイプに分類することが出来る。ひとつは固体スクラップから除去する方法,もうひとつは溶融したスクラップから除去する方法である。固体スクラップからの錫除去方法は,錫メッキ鋼板をロータリーキルンや竪型炉で加熱し,鋼材表面の錫相を除去する技術であり,錫は酸化錫(SnO2)4),硫化錫(SnS)5,6),塩化錫(SnCl2)7)の形態で除去されることが報告されている。しかしこれらの固体スクラップの脱錫処理では,鍍金などスクラップ表面上の錫を除去することは可能であるが,スクラップ母材中に混入した錫を除去することはできない。

一方,溶融スクラップからの脱錫処理であれば,スクラップ母材中の錫も除去することが可能である。また,既存の製鋼プロセスの設備を流用できる可能性があることから,実用性の面でも有利である。しかし先述の通り,錫と酸素の親和性は鉄と酸素の親和性よりも低いため,現在の製鋼プロセスで主流となっている酸化精錬による脱錫は困難である。そこで,溶鉄を対象にした酸化精錬以外の脱錫方法に関するいくつかのラボ検討が行われている。高真空環境やプラズマを利用した蒸発脱錫方法8,9,10,11,12)や,硫化鉄(FeS)やカルシウムカーバイド(CaC2)などの硫黄やカルシウム化合物を含むフラックスによる脱錫方法13)が調査・検討されたが,いずれの方法についても工業的な実用化はされていない。

これらの方法に加えて,アンモニアガスを利用した精錬方法は,溶鉄からの脱錫にも適用できる可能性を持っている。例えば小野らの先駆的な報告では,溶融銅の蒸発がアンモニアガスの吹付けによって加速されることが示されている14)。また,Hidaniらの研究では,アンモニアガス吹付けによる溶鋼からの脱銅および溶融錫の蒸発促進について報告されている15)Table 1はいくつかの錫化合物の沸点と平衡蒸気圧を示しているが,錫化合物の平衡蒸気圧は単体の錫よりも高く,錫化合物の生成が錫の蒸発除去を促進する可能性がある。日谷らの報告におけるアンモニアガスによる錫の蒸発種は不明であるが,銅の場合と同様に,溶鉄からの錫の蒸発除去にもアンモニアガスが効果を奏することが期待される。

Table 1. Boiling temperatures and equilibrium vapor pressures of Sn compounds.
Sn CompoundsBoiling TemperatureEquilibrium Vapor Pressure (at 1673 K)
Sn (M)2873 K14 Pa
SnO2100 K2614 Pa
SnS1477 K> Atmospheric Pressure
SnCl2885 K> Atmospheric Pressure
SnH4221 K> Atmospheric Pressure
SnF21054 K> Atmospheric Pressure

本研究では,アンモニアガスによる蒸発脱錫効果を調査するとともに,そのメカニズムを解明することを目的として,10 kg規模の真空誘導溶解炉を使用したアンモニアガス吹付けによる溶銑脱錫のラボ実験を行った。

2. 蒸発による脱錫の原理

溶銑中の錫の酸化除去は熱力学的に困難であるが,錫や錫化合物の平衡蒸気圧は鉄の平衡蒸気圧より高位であることから,蒸発による脱錫は原理的に可能である17)Fig.1は,従来研究における雰囲気圧力と見かけの脱錫速度定数(kSn)の関係を示している。従来研究の多くでは,脱錫速度は(1)式のように記述されている。   

ln[Sn][Sn]0=kSnAVt(1)

Fig. 1.

 Apparent Sn removal rate constant (kSn) in previous reports.

ここで,[Sn]:処理中の溶銑中錫濃度[mass%],[Sn]0:処理前の溶銑中錫濃度[mass%],kSn:見かけの脱錫速度定数[cm/sec],A:反応界面積(溶鉄浴表面断面積)[cm2],V:溶鉄体積[cm3],t:処理時間[sec]である。

Fig.1に示されるように見かけの脱錫速度定数kSnは雰囲気圧力の低下に反比例して増大している。

一方,従来研究においては溶鉄中の硫黄(S)が錫の蒸発を促進させることが報告されており,これは(2)式に示される反応によって気液界面において硫化錫が生成するためであるとされている10)。   

Sn_+S_=SnS(g)(2)

Table 1に示したように,硫化錫は単体の錫に対して高い平衡蒸気圧を示しており,錫の蒸発除去を促進すると考えられる。Fig.2は見かけの脱錫速度定数kSnと溶鉄中S濃度の関係を示しているが,kSnは溶銑中S濃度の増加に比例して増大していることがわかる。

Fig. 2.

 Relations between kSn and [mass%S] in previous reports.

また,錫の活量に対して溶鉄中の他成分が与える影響として,炭素(C)や珪素(Si)は溶鉄中の錫の活量を増大させる。よって同一錫濃度であっても,これらの成分を多く含有する溶銑に対する処理が効果的であると考えられる。また,溶銑処理では溶鋼よりも低温処理となるため,設備負荷を軽減できると考えられる。以上の観点から,本研究では硫化錫蒸発による脱錫が進行することに加えて,アンモニアガスによる脱錫促進を期待して高硫黄,高炭素濃度の溶銑からの脱錫処理を対象とした。

3. 実験方法

溶銑からの脱錫実験は,ラボ溶解炉にて行った。実験の概要はFig.3に示す。Ar雰囲気の真空槽内で純鉄および炭材を高周波誘導溶解炉にて溶解し,10 kgの高[C]溶銑を溶製し,[Sn]および[S]を所定の成分に調整した。S源としては試薬のFeS(II)を使用した。るつぼにはMgOるつぼを使用した。処理中は溶銑温度を所定の温度に保持するため,溶解炉の出力調整を行った。

Fig. 3.

 Schematic image of Sn removal experiment in this work.

溶銑成分および温度の調整後,ロータリーポンプにて所定の炉内圧力となるように真空槽内の排気を行った。炉内圧力調整後,アンモニアガスを上吹きランスから溶銑表面へと吹付け,脱錫処理を行った。アンモニアガスのほかに,比較実験として窒素ガスを溶銑表面へ吹付ける脱錫処理も同様に行った。処理中は溶銑の成分推移を調査するため,化学分析用メタルサンプルの採取を行った。

主な実験水準はFig.3に示す。溶銑成分や溶銑温度,上吹きガス種等を変更した実験を行った。初期溶銑[S]濃度は0.02 mass%から0.14 mass%に調整し,溶銑[S]濃度と見かけの脱錫速度定数kSnの関係を調査した。また,初期溶銑[C]濃度は溶銑中錫の活量を増大させるため,3.8 mass%から4.2 mass%と高く調整した。溶銑温度は1723 Kから1923 Kに調整し,溶銑温度が脱錫速度定数へ与える影響を評価した。アンモニアガスおよび比較実験での窒素ガスの流量は,全ての水準で500 mL/min/溶銑tとした。

4. 実験結果および考察

4・1 アンモニアガス吹付けによる脱錫速度への影響

Fig.4は上吹きガス種および溶銑温度を変化させた場合のln[Sn]/[Sn]0の時間変化を示す。処理時間は約40分間とした。上吹きガスは処理を通じて継続的に供給した。溶銑中[Sn]濃度はいずれの処理においても減少しており,蒸発脱錫に関する従来知見と同様に本研究においても脱錫反応は一次反応で記述することができた。

Fig. 4.

 Change in ln[Sn]/[Sn]0 in top blowing with different combinations of gas species and hot metal temperature.

特に上吹きガスとしてアンモニアガスを供給した場合,窒素ガスを供給した場合よりも脱錫速度が向上していることが確認された。Table 2は各実験の処理条件と結果をまとめて示している。kSnの値は(1)式から計算されるが,蒸発の反応界面積Aは溶銑浴表面の断面積として評価を行った。実際の処理中は浴表面からの脱ガスのため,スプラッシュの発生も含めて激しく攪拌されており,蒸発の反応界面積を正確に見積もることが困難であった。よって本研究ではA=7.52×π[cm2](るつぼ内半径から算出される溶銑静止湯面の面積),V=104/7[cm3](溶鉄密度から算出される溶鉄体積)としてFig.4中の破線の傾きからkSnの値を算出した。また特にアンモニアガス供給中は,既往の研究で報告されたように脱ガス,スプラッシュ発生が激しいことが確認され15),本研究におけるkSnの増大は激しい脱ガスに伴う蒸発反応界面積の増大による影響も含んでいる。

Table 2. Summary of conditions and results of Sn removal experiments.
TemperatureNH3N2
1723 KInitial [mass%S]0.0290.038
Pressure [Torr]1510
kSn×104 [cm/sec]2712
1923 KInitial [mass%S]0.0480.056
Pressure [Torr]1510
kSn×104 [cm/sec]4728

Fig.5には従来知見と本研究における雰囲気圧力と見かけの脱錫速度定数kSnの関係を比較している。窒素ガスを吹付けた水準でも従来知見より高いkSnの値が得られている。これは気相におけるSnSの物質移動が窒素ガス吹付けによって促進されたことを反映していると考えられる。従来知見においても,例えば片山らの報告では,大気圧環境下でのアルゴンガス吹付けによって脱錫速度が向上したことが報告されている16)。また,アンモニアガス吹付けでは,雰囲気圧力が窒素ガス吹付けの水準よりもやや高い環境となっているが,窒素ガス吹付けよりもさらに高いkSnの値が得られている。

Fig. 5.

 Comparison of kSn between previous studies and present work.

アンモニアガス吹付けによる脱錫速度向上のメカニズムは,Fig.6に示すイメージ図のように考えることができる。日谷らの報告では,溶鉄に吹付けられたアンモニアガスは熱分解され,Nラジカル,Hラジカルが発生するとされている15)。これらのラジカル種は,通常のN2分子,H2分子よりも活性であるため,溶銑に作用した場合に溶銑中の溶存窒素濃度,溶存水素濃度が高くなると考えられる。溶銑中の高濃度の溶存窒素および溶存水素は,溶銑から離脱する際に多くの気泡を発生させて溶銑の表面積を増大させるとともに,溶銑表面近傍を攪拌することにより脱錫速度を向上させると考えられる。アンモニアガス吹付けによる脱錫速度向上のメカニズムを明らかにするため,kSnと[N]や[S]との関係を評価した。

Fig. 6.

 Schematic image of Sn removal by NH3 gas blowing.

4・2 溶銑中窒素濃度とkSnの関係

アンモニアガス吹付け時の溶銑中窒素濃度は高濃度となっていた。Fig.7は本研究における溶銑中窒素濃度の分析値および計算値を示す。各実験水準における計算値は(3)~(5)式によって算出した。   

log(aNPN2)=518T1.063(3)
  
aN=fN[N]104(4)
  
logfN0.13[mass%C](5)

Fig. 7.

 Analysis values and calculated values of [N] in present work.

ここで,aN:溶銑中窒素活量,PN2:気相の窒素分圧,T:溶銑温度(K),fN:ヘンリー基準の溶銑中窒素の活量係数,[N]:溶銑中窒素濃度(ppm)である。各処理における気相の窒素分圧PN2は,窒素ガス吹付け時には真空槽内圧力と同じとし,アンモニアガス吹付け時には分解ガスの組成を勘案して真空槽内圧力の0.25倍とした。

窒素ガス吹付けの場合,溶銑中窒素濃度の分析値は小さく,溶銑温度に依らず計算値とおおよそ一致していた。一方,アンモニアガス吹付けの場合,溶銑中窒素濃度の分析値は計算値よりも顕著に高くなっていた。溶銑中窒素濃度がこのように高くなったことが脱錫速度の向上と関係している可能性がある。

また,アンモニアガス吹付け時に,溶銑温度が低い1723 Kにおいて,溶銑中窒素濃度が顕著に高い点にも注目すべきである。熱力学的には(3)式で表されるように,気相の窒素分圧が同一であれば,高温環境ほど溶銑中窒素濃度は高くなる。アンモニアガス吹付け時に溶銑中窒素濃度がこのような傾向を示した要因を,Fig.8に模式的に示すように解釈することができる。上吹きランスから供給されたアンモニアガスは,ランス先端から溶銑湯面の間で熱分解し,窒素ラジカル,水素ラジカルを生成すると考えられる。アンモニアガスの熱分解が進行し,これらのラジカルが増えることで見かけの窒素分圧,水素分圧は高くなっていくと推定される。しかしこれらのラジカルは高い活性を示すとともに,非常に不安定な状態であるため,熱分解後は速やかに窒素分子,水素分子を生成すると考えられる。生成された窒素分子,水素分子はラジカルのように高い活性を持たないため,分子の生成が進行すると見かけの窒素分圧,水素分圧は低下して行くと推定される。このようなアンモニアガスの熱分解と窒素分子,水素分子の生成により,見かけの窒素分圧,水素分圧は上吹きランスと溶銑湯面間で極大値を示すと考えられる。溶銑温度が高い場合,アンモニアガスの熱分解が進行しやすく,Fig.8中の分圧が極大値を示す位置が,溶銑温度の低い場合に比べて溶銑湯面からランス先端側へ高い位置になり,相対的に見かけの窒素分圧,水素分圧が低かった可能性がある。

Fig. 8.

 Schematic image of thermal decomposition of NH3 gas.

Fig.9は溶銑中窒素濃度とkSnの関係を示す。図から,本実験におけるkSnの溶銑中窒素濃度に対する依存性として,1723 K,1923 Kでそれぞれ(6),(7)式を得た。   

logkSn=49.0×[N]×1043.3(6)
  
logkSn=53.6×[N]×1042.8(7)

Fig. 9.

 Relations between kSn and [N].

上式に示されるように,二つの温度水準においてkSnは溶銑中窒素濃度に対してほぼ同等の依存性を示した。この結果は,アンモニアガス吹付けは錫化合物を蒸発させる溶銑表面積を増大させる,溶銑表面近傍の攪拌動力が増大させる,あるいは窒化錫,水素化錫の蒸発を促進させることによって脱錫を促進させることを示している。

4・3 溶銑中硫黄濃度とkSnの関係

Fig.10は溶銑中硫黄濃度とkSnの関係を示す。図から,アンモニアガス吹付け実験におけるkSnの溶銑中硫黄濃度に対する依存性として,1723 K,1923 Kでそれぞれ(8),(9)式を得た。   

logkSn=1.10×log[mass%S]0.91(8)
  
logkSn=1.03×log[mass%S]0.94(9)

Fig. 10.

 Relations between kSn and [S].

上式に示されるように,二つの温度水準においてkSnは溶銑中硫黄濃度に対してほぼ同等の依存性を示した。

Fig.10はTokumitsu and Hirata10),Katayamaら16),松尾ら19)による従来研究の結果も示している。これらの従来研究では,硫黄を含有した溶鉄からの脱錫は,主に(2)式で示される硫化錫の蒸発によって進行すると結論付けられている。各研究においてkSnの値は溶鉄中硫黄濃度の増大に対してほぼ比例して増大することが示されている。

Table 3は従来研究および本研究の実験条件,Fig.10中の近似直線の傾きをまとめて示す。本研究における直線の傾きは従来研究と良く一致している。この結果は,アンモニアガス吹付けによる脱錫においても主な蒸発種が硫化錫であることを示唆している。もし窒化錫や水素化錫といった硫化錫以外の蒸発種が脱錫に大きく寄与しているならば,これらの蒸発種の蒸発速度の総和で得られる見かけの脱錫速度定数kSnに占める硫化錫の寄与は小さくなり,溶銑中硫黄濃度に対するkSnの依存性を示す近似直線の傾きは,従来研究のものより小さくなると推測される。

Table 3. Summary of gradients of approximate lines in Fig.10.
TreatmentPressure [Torr]Temperature [K]Gradient
NH3 Blowing1517231.10
NH3 Blowing1519231.03
High Vacuum10)0.0418331.08
Ar Blowing16)76017230.92
SiO2 Blasting19)119130.80

4・4 アンモニアガスによる脱錫促進原理の推定

溶銑中窒素濃度および硫黄濃度と の関係から,アンモニアガス吹付けによる脱錫促進の原理はFig.11に示すように推定される。まず上吹きランスから吹付けられたアンモニアガスは熱分解により溶銑湯面との間で窒素ラジカル,水素ラジカルを生成する。一部のラジカル種は互いに反応して窒素分子,水素分子を生成すると考えられるが,湯面に到達したラジカル種は高い活性を示すため,高速で溶銑中に溶解する。これにより,溶銑中窒素濃度(おそらく溶銑中水素濃度も)は非常に高濃度となるが,前述の通り窒化錫や水素化錫といった化合物は生成しないか,あるいは生成しても脱錫速度向上には大きく寄与していないと考えられる。高濃度となった溶銑中窒素(おそらく溶銑中水素も)は,溶銑表面から離脱する。このとき生成する窒素や水素ガスからなる微細な気泡や破泡に伴うスプラッシュが,硫化錫が蒸発する溶銑表面積を増大させ,脱錫速度を向上させると考えられる。

Fig. 11.

 Schematic image of estimated mechanism of Sn removal by NH3 gas blowing.

また本研究では,アンモニアガス吹付け中の溶銑中水素濃度は実験装置の制約上,正確に評価することが出来なかったため,今後の評価が望まれる。

4・5 工業規模における脱錫率の推定

(6)~(9)式を用いて,工業規模における脱錫率の推定を試みた。Fig.12はいくつかの溶銑中窒素濃度において算出された溶銑中硫黄濃度とkSnの関係を示す。本研究におけるラボ実験で得られた結果と同様に,溶銑中窒素濃度を0.014 mass%にすることができれば,アンモニアガス吹付け時の見かけの脱錫速度定数は,窒素ガス吹付け時の4.1倍に増大すると見積もられる。

Fig. 12.

 Estimated value of kSn in case of NH3 gas blowing onto hot metal.

Fig.13は,種々の溶銑中硫黄濃度において算出された工業規模での処理中の溶銑中錫濃度推移を示している。この推定では,鍋の内径4 m,溶銑量100トン,雰囲気圧力15 Torr,溶銑中炭素濃度4.5 mass%としている。溶銑中硫黄濃度が0.5 mass%のとき,20分間の処理で脱錫率は40%に達する。脱錫処理後の硫黄濃度を低減するためには,雰囲気圧力をさらに低くする,溶銑中窒素濃度を高めるといった対応が必要となる。溶銑中窒素濃度を高めるためには,アンモニアガス吹付けによる溶銑浴面近傍でのラジカル種の活性を最大化させるためランス高さの調整等が有効であると考えられる。

Fig. 13.

 Estimated change of [Sn] by NH3 gas blowing in plant-scale operation.

4. 結言

溶銑からの新たな脱錫方法として,真空環境下での溶銑へのアンモニアガス吹付けの基礎検討を行い,以下の知見を得た。

−溶銑に窒素ガスおよびアンモニアガスを吹き付けると溶銑中錫濃度は低下した。

−見かけの脱錫速度定数kSnは,アンモニアガス吹付け時の方が窒素ガス吹付け時よりも高く,1723 Kにおいて2.3倍,1923 Kにおいて1.7倍となった。

−溶銑中窒素濃度は,アンモニアガス吹付け時に高位であり,さらに溶銑温度が1923 Kよりも1723 Kのときに高くなった。

kSnの値は1723 Kおよび1923 Kのいずれの温度においても溶銑中窒素濃度の増大に伴い増大した。

kSnの値は溶銑温度に依らず溶銑中硫黄濃度に比例し,硫化錫蒸発による脱錫に関する従来知見と一致した。

−アンモニアガスによる脱錫機構として,アンモニアガスの熱分解で生じる窒素や水素のラジカルによる溶銑への過飽和溶解と,その後の溶銑表面からのガス離脱による蒸発界面積と撹拌力の増大効果が推定された。

−実験結果をもとに工業規模での脱錫率を試算し,[S]=0.5 masssの高炭素溶銑100トンの減圧下でのアンモニアガス吹き付け処理により,20分で脱錫率40%に達すると試算された。更なる脱錫速度向上には熱分解で生成される窒素や水素のラジカル種の活性が最大となるようなランス高さの最適化等が必要である。

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