Tetsu-to-Hagane
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Dimensionless Parameters Characterizing Oscillating Flows of Molten Metal Driven by Electromagnetic Force
Kazuyuki UenoKazuhiko IwaiShin-ichi Shimasaki
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2016 Volume 102 Issue 3 Pages 134-140

Details
Synopsis:

Imposition of oscillation electromagnetic force during the solidification process has been expected to be an excellent technique to produce finer solidified structures. An alternating current and a static magnetic field are imposed to liquid metal in mutually orthogonal directions to generate oscillation flow driven by an electromagnetic force near solidification interface. It was reported that dendritic structures were experimentally changed into fine equi-axed structures by imposition of the electromagnetic oscillation under some particular conditions, however necessary conditions for such refinement by the electromagnetic oscillation have not yet been specified. In order to apply this technique to a real industrial process, mechanism of refinement by the electromagnetic oscillation should be understood, and suitable conditions to achieve effective refinement should be clarified. In the present study, theoretical solutions of oscillation flows driven by the electromagnetic forces were analyzed. It was found that the flows through dendrite primary arms could be characterized by several dimensionless parameters such as oscillation Stuart number,Nω, shielding parameter, Rω, Womersley number, Wo1, Reynolds number, Re1, and Péclet number, Pe1. Required conditions for refinement by the electromagnetic oscillation were investigated and estimated as follows: Nω<<1, Rω>>1, Wo1≥1, Re1>>1, Pe1≥1. The result corresponds reasonably well with the experimental date in previous research.

1. 諸言

精錬や凝固などのプロセスでは,スラグ−メタル界面,固液界面などの異相界面が存在し,そこでは溶質元素などが平衡分配に従って移動する。その移動速度を決定づける律速段階は,界面近傍での物質移動律速,あるいは界面に於ける反応律速等となるが,鉄鋼などの高温プロセスでは物質移動律速となる場合が多い。移流拡散方程式によれば,液相中における溶質輸送は拡散と対流によって行われる。仮に,液相中の溶質の拡散係数を10−8 m2/s,拡散距離を1 mmとすれば,対流による溶質輸送が拡散による溶質輸送に較べて支配的になる条件は,流速が10−5 m/s以上と推算される。これは自然対流として十分起こりえる流速である。従って,対流による輸送は拡散による輸送よりも遥かに大きいと考えることができる。すなわち,物質移動律速の条件下では,異相界面近傍で流動が励起可能ならば溶質輸送の高速化に繋がると予測される。また,溶質濃度が均一ではない液相を振動させることで,振動領域付近の液相攪拌効果による溶質濃度均一化が期待される。振動は,液相に対して局所的に周期的外力を印加することで生じるが,振動力の不均一分布,あるいは固液界面の非対称性等により,局所的な対流も生じる可能性が高い。すなわち,振動は異相界面近傍の溶質輸送の新たなツールとしての可能性を秘めている。

異相界面近傍で振動を励起する手法として,本研究では電磁力を用いることを想定している。導電性を有する液体金属に対して電磁場を用いることで外力を付与することが可能であり,これを利用して運動制御を行うプロセスは電磁ブレーキや電磁攪拌としてすでに実用化されている1)。一方,タンディッシュ加熱など,溶鋼への通電技術2)も確立されている。すなわち,磁場と電流を印加することによって異相界面近傍の液体金属に振動する電磁力を付与し,液相の振動を励起することは可能と考えられる。

固液界面の固相側を界面と平行に機械的に振動させると,液相に振動剪断流が発生する。この振動流は,粘性によって流れと直角な方向に伝わる。この現象は,流体力学においてストークス層として知られている3)。ストークス層の厚さは振動周波数の平方根に反比例するので,振動周波数よって液相の振動領域を制御することが可能である。静磁場と交流電流との重畳印加をすれば,ストークス層に類似した振動剪断流れを駆動することができる。交流電流の通電領域を固液界面近傍に限れば,バルク領域に過度の流動を起こさずに電磁振動流によって溶質輸送を促進できる可能性がある。Iwai and Kohamaはこのような考えにもとづいて,凝固中の金属に対して静磁場と交流電流を重畳印加する実験を行い,電磁振動を印加した凝固組織が樹枝状晶から微細な等軸晶に変化することを実験的に示している4,5)。しかしながら,磁場の強さや交流電流の周波数によっては微細化が生じないか,もしくは部分的なものにとどまることが観察されており,微細化に必要な条件は未だ十分に絞り込まれていないのが現状である。

そこで本研究では,電磁力によって駆動される振動流が凝固組織に及ぼす影響を検討することを目的として,岩井らの実験的研究を参考にして理論的な検討を行う。凝固界面近傍の電磁振動流の解析を行い,その流れを特徴付ける無次元パラメータを抽出してその役割を明らかにする。さらにこの振動流中での溶質の輸送についても同様にして検討を加える。これらの過程においていくつかの解析解を示し,その特徴を理解することを通じて,電磁振動流の効果が顕著になる条件を半定量的に考察する。

2. 振動電磁力に対抗する圧力

密閉容器内の導電性流体のバルク領域に電磁力を作用させると,それに対抗する圧力が自然に発生する。これは,流体は容器壁面を突き抜けないという制約条件からの帰結である。実験的にも容易に確かめることのできる現象であり,流体内部の力の釣り合いを説明するために必要不可欠な要素である。電磁力はしばしば保存力になる。その場合に密閉容器内の流体に作用する電磁力は対抗する圧力勾配によって完全に打ち消されてしまい,流動はまったく発生しない。電磁力の分布を工夫して非保存力になるようにすれば流動を起こすことができるが,その場合であっても電磁力のかなりの部分は圧力勾配で打ち消される。従って,密閉容器内のバルク駆動流れを予測する場合には対抗的圧力を考慮することが必要不可欠である。

振動電磁力を局所的に作用させた場合は,液のごく一部のみが左右に駆動される(ミクロ流動)。ミクロ流動が駆動されている領域の厚さをδ[m]とする(Fig.1)。駆動領域の運動方程式の主要項は   

ρuyt=py+Fy

Fig. 1.

 Schematic illustration of a micro flow driven by a local electromagnetic force in the vicinity of a vessel bottom.

ここでρ[kg/m3]は密度,uy[m/s]は流速のy方向(電磁力と同じ方向)成分,p[Pa]は圧力,Fy[N/m3]は単位体積あたりの振動電磁力のy方向成分(主成分),t[s]は時間である。この厚さδの駆動領域の流量をQ0 sin ωt[m3/s]とする。この流れは,上方の深さLzδの領域を通過して循環する。循環領域では電磁力が作用しないので,運動方程式の主要項は   

ρuyt=py

駆動領域で0δ0Lx uy dx dz=Q0 sin ωtであることおよび循環領域でδLz0Lx uy dx dz=−Q0 sin ωtであることを考慮すると,圧力勾配∂p/∂yFig.1中の圧力上昇Δpは次のようにオーダー評価することができる。   

py~FyδLz,Δp~12FyLyδLz

このためδ<<Lzであるなら,ミクロ流動によって自然発生する対抗的な圧力勾配は駆動力Fyに比べて無視して構わない程度になると予測される。すなわち,局所的振動電磁力は,流動に対する対抗圧力を小さく抑え,ミクロ流動を効率良く発生させる駆動方法であるといえる。

以上のような考察から,次の章以降の理論解析では対抗的圧力勾配を無視する。ミクロ振動流の駆動が固液界面近傍に限定されることを想定して,この固液界面以外の遠方にある壁面や自由液面なども考慮しない。このような取り扱いは,ミクロ振動流の場合には適切であると考える。

3. ストークス層とハルトマン層の競合

交流電磁場の表皮厚さがハルトマン層厚さよりも充分に厚い場合を考える。一様な静磁場が外部から印加されており,その向きにz軸をとる。z=0に平らな凝固界面があるものとしてz>0の半無限領域を解析の対象とする。電場がx方向に印加されており,これによってx方向の電流が生じる。この電流と外部印加磁場によってy方向の電磁力が流体に作用して流れが発生する。

この章では電場は空間的に一様であると考える。   

Ex=2E0xcosωt[V/m](1)

ここで,E0xは交流電場の実効値を示す定数である。ω[rad/s]は交流電場の角周波数を表し,t[s]は時間である。電流密度jxはオームの法則によって次のように与えられる。   

jx=σ(ExuyB0z)[A/m2](2)

ここで,σ[S/m]は導電率を表す定数であり,B0z[T]は外部印加磁場の磁束密度を表す定数である。この式で流速uy[m/s]を含む項がどのような場合に重要となるかを見極めることがこの章の主な話題のひとつである。対抗的圧力勾配が発生しない場合の運動方程式のy成分は以下のとおりである。   

ρuyt=η2uyz2jxB0z(3)

ux=0,uz=0を仮定して対流項を無視した。この問題は,x微分とy微分がゼロになる非定常空間1次元問題である。流体の連続の式は自動的に満足される。

境界条件と上方遠方条件を次のように与える。   

uy=0atz=0(4)
  
uyz0forz(5)

上方遠方でuy≠0なので注意を要する。この遠方状態は,マクロ流動とミクロ流動との違いをわかりにくくするが,それに関する説明は次の章で与えられる。

式(1)−(5)を満足する解を次のように得た。   

uy=2σE0xB0zρω11+Nω2{sinωt+eszsin(kzωt)}2σE0xB0zρωNω1+Nω2{cosωteszcos(kzωt)}(6)

ここで   

Nω=σB0z2ρω(7)

この論文中ではこの無次元パラメータを振動スチュアート数とよぶ。振動スチュアート数は,振動周期とジュール時間6)(渦の運動エネルギーがジュール熱に散逸される時間スケール)との比を表す。また,式(6)中のskは次のような定数である。   

s2=k02(Nω+1+Nω2),k2=k02(Nω+1+Nω2)(8)

ここで   

k02=ρω2η(9)

まず,Nω<<1の場合について考える。ジュール時間よりも振動周期が充分に短い場合に対応する。この場合,s2k2k02となる。式(6)でΟ(Nω)の微小項を無視すると次の流速分布が得られる。   

uy=2σE0xB0zρω{sinωt+ek0zsin(k0zωt)}(10)

括弧内の第2項はストークス層と同じであり3),場所によって振動の位相が違う流れとなる。境界層の厚さもストークス層と同様にk0−1[m]程度である。括弧内の第1項によって壁面粘着条件が満足される。それと同時に遠方では振動流となる(ストークス層のような静止流体にはならない)。Nω<<1のときの振動流速の実効値は   

U0=σE0xB0zρω[m/s](11)

程度の大きさと評価できる。

次に,Nω>>1の場合について考える。振動周期よりもジュール時間が短い場合に対応する。この場合,s2σB0z2/ηk2≅(σB0z2/η)Nω−2/4となる。式(6)でΟ(Nω−1)の微小項を無視すると次のような流速分布が得られる。   

uy=2E0xB0zcosωt(1es0z)(12)

ここで,s02σB0z2/ηである。場所によらず位相のそろった振動流となる。この流れの空間分布はハルトマン層と同じ指数関数タイプであり,境界層の厚さもハルトマン層と同様にs0−1[m]程度である7)Nω>>1の場合の振動流速の実効値はE0x/B0z[m/s]程度の大きさと評価できる。

以上のように,振動スチュワート数Nωが1よりも小さい場合と大きい場合とで,流速の大きさや分布が大きく変化する。この研究のターゲットとしているミクロ振動流はNω<<1の場合に発生するストークス層タイプの流れである。式(7)を考慮すると角周波数の下限は次の式で与えられる。   

ω>>σB0z2ρ(13)

また,このときの流速の大きさは式(11)で評価できる。

振動スチュワート数Nωが1よりも充分に小さい場合,オームの法則(2)の右辺括弧内第2項は,第1項に比べてΟ(Nω)の微小項として無視される。次の章ではそのことを前提として議論を行う。

4. 効果的な電磁振動流の下限周波数

この章では交流電磁場の表皮厚さがハルトマン層よりも厚いという制約を取り除いて考える。ただし,研究対象であるNω<<1の場合の流れに限定して議論する。この場合,オームの法則(2)は次のように簡単化できる。   

jx=σEx(14)

また,前章では電場Exを一様と考えたが,この章では空間分布があるものとして解析する。

アンペールの法則のx成分とファラデーの法則のy成分は   

z(Byμ0)=jx(15)
  
Exz=Byt(16)

ここで,By[T]は磁束密度を示す関数で,μ0=4π×10−7 H/mは真空透磁率を示す定数である。式(14)−(16)をまとめて整理すると   

Ext=1σμ02Exz2(17)

前の章では式(1)のような一様電場が与えられると考えたが,この章では式(1)をz=0での境界条件と考える。式(17)および境界条件(1)を満足する解8)はよく知られていて   

Ex=2E0xeαzcos(αzωt)(18)

ここで   

α2=σμ0ω2(19)

α−1[m]は電磁場の表皮厚さを示す。

電場の解(18)を式(14)に代入すると電流密度が得られる。それを運動方程式(3)に代入して解くと,次のような解を得た。   

uy=2σE0xB0zρω11Prm{ek0zsin(k0zωt)eαzsin(αzωt)}(20)

ここで   

Prm=α2k02=σμ0ηρ(21)

これは磁気プラントル数とよばれる無次元パラメータであり,溶鋼の場合Prm≈10−6である。溶融金属では常にPrm<<1なので,1/(1−Prm)は1で近似して差し支えない。このとき,振動流速の実効値は式(11)で与えられるU0に一致する。

電磁場の表皮厚さα−1はストークス層の厚さk0−1の1,000倍程度に厚いので,2種類の境界層は領域ごとに分離して考えることができる。z<<α−1の領域では式(19)は前の章で示したストークス層の解(10)に帰着する。一方,z>>k0−1の領域では次のように近似できる。   

uy=2σE0xB0zρωeαzsin(αzωt)(22)

さらに,もっと壁から遠いz>>α−1の領域では静止流体となる。

電磁場の表皮厚さα−1に比べて容器の代表寸法L[m]が充分に大きければ,上述の静止流体領域が容器内の大部分を占めることになる。この研究ではそのような状態をミクロ流動とよぶことにする。ミクロ流動を発生させるための条件は,シールディングパラメータとよばれる無次元数Rωを使って次のように表現できる。   

Rω=σμ0L2ω=2(αL)2>>1(23)

式(13)と(23)を合わせて考えると,ストークス層タイプのミクロ流動を発生させるためには,磁束密度で場合分けした次のような条件が要求される。   

ω>>2σμ0L2whenB0z<<1σLρμ0ω>>2σμ0L2σB0z2ρwhenB0z1σLρμ0ω>>σB0z2ρwhenB0z>>1σLρμ0(24)

第1式は1<<Rω<<Nω−1に対応し,第3式は1<<Nω−1<<Rωに対応する。第3式で表される外部印加磁場が強い場合には,ハルトマン層タイプの境界層にならないように周波数をよりいっそう上げる必要がある。

5. デンドライトまわり流れと溶質輸送に関する考察

前の章まででは,溶質輸送を促進する電磁振動流の必要条件を議論した。しかし,それらの条件だけでは充分ではない。追加の条件を議論するにあたって,デンドライトの1次アーム間隔λ1[m]を導入する。1次アームに平行な方向についてもλ1程度の距離を電磁振動流による溶質輸送領域と考える。

もしもストークス層の厚さk0−1λ1よりもはるかに厚いとしたなら,デンドライトアーム間に流れが入り込めず溶質輸送が促進できない可能性が高い9)。そこで,ストークス層の厚さはデンドライト1次アーム間隔と同じ程度かそれよりも薄くする必要がある。   

Wo1=λ1k0=ρωλ122η1(25)

ここで,Wo1はデンドライト1次アーム間隔を基準にしたウオマスリー数である。この式の不等号は厳密な下限を示すのではなく,1程度またはそれ以上という意味である。

もしも振動流の対称性が非常に高い場合,半周期の間に流れによって輸送された溶質は次の半周期で元の場所に戻されてしまう。その結果,実質的な溶質輸送促進がなくなってしまう可能性がある。これを避けるためには流体力学特有の非線形効果(例えば渦の放出)を発現させるのが有効であると予想する。その場合,流れの対称性が破れ,最初の半周期の流体の移動経路と次の半周期の移動経路が不一致になるため,溶質輸送が促進される。流れの非線形性を特徴づける無次元パラメータはデンドライト1次アームを基準にしたレイノルズ数Re1であり,それが1より十分大きいときに非線形効果が発現すると予想される。   

Re1=ρU0λ1η=σE0xB0zλ1ωη>>1(26)

以上の考察から,電磁振動流で溶質輸送を促進するためのWo1Re1の条件を予測した。しかし,これらは必要条件の予測なので,十分条件または最適条件を求めるためには実験または数値解析で探索しなければならない。

装置設計においては最初にWo1Re1の値を与えてスタートすることが予想される。その次に,ターゲットにするデンドライトのλ1を決めると式(25)から必要な角周波数の値がω=2ηWo12/(ρλ12)で定まる。続いて,このωを式(24)に代入する。多くの場合第3式が適用されて,磁束密度に関する条件B0z<<Wo12η/(λ1σ) が得られる。次に,ターゲットのλ1と得られたωを式(26)に代入すると,必要な電場がE0x=2η2Wo12Re1/(σρλ13B0z)と得られる。ただし,右辺のB0zは範囲が与えられているだけで定まっていない。これを使うと交流電源装置に要求される電圧は22Wo12Re1/(σρλ13B0z)と評価できる。また,電源装置から供給される交流電流の実効値I[A]は,式(18)を式(14)に代入して得られる電流密度jxの積分からIσE0xL2/(σμ0ω)=LWo1Re12η3/(λ12B0zσρμ0)と評価できる。磁場発生装置と交流電源装置の仕様やコストを検討して,B0zの条件範囲を満たしつつ所要の電圧と電流が得られる装置を導入することになるであろう。

最後に溶質の拡散について考える。結晶成長が進んでいるとき,固液界面で溶質が排出され界面近傍液相側の溶質が濃化する。このとき固相から液相に向かう溶質質量流束は   

SSL=ρ(1kp)CLUgr[kg/m2s](27)

ここで,kpUgr[m/s]はそれぞれ平衡分配係数と結晶成長速度である。一方,液相中の溶質の拡散は,拡散係数をD[m2/s]を使ってDρCL/λ1と評価できる。両者の比をとると   

Pe1=(1kp)Ugrλ1D(28)

これを1次アームペクレ数とよぶことにする。Pe1<<1のとき,排出された溶質は拡散によって速やかに輸送されるので,濃度境界層はできない。この場合,電磁振動流は必要とされない。1次アームペクレ数が1程度のとき,デンドライト1次アーム間隔λ1と同程度の厚さの濃度境界層が発生する。Pe1>>1のとき,濃度境界層はλ1よりも薄くなり,デンドライトの凹凸に沿った形状になる。電磁振動流による溶質輸送が期待されるのはPe1~1の場合とPe1>>1の場合である。

以上の無次元パラメータが特徴づける流れの特性をTable 1にまとめた。電磁振動流による溶質輸送効果をあげるためには,すべての無次元パラメータについて必要条件を満足する必要がある。岩井らの実験研究4)を参考にして,溶鋼の凝固プロセスに対して電磁振動を印加することを想定した場合の物性値や実験条件をTable 2に例示する。また,この条件において計算された無次元パラメータをTable 3に示す。すべての無次元パラメータが,この論文で示した条件を満足している。従って,この条件では電磁振動流による顕著な溶質輸送促進が得られると予想する。

Table 1. Dimensionless parameters for characterization of an oscillating flow driven by an electromagnetic force.
Dimensionless parameterNecessary condition for solute transportIneffective case
Oscillation Stewart number
Nω=σB0z2ρω
Nω<<1
Stokes type layer
Nω>>1
Hartmann type layer
Magnetic Prandtl number
Prm=σμ0ηρ
Prm<<1
Electromagnetic skin depth is much greater than thickness of Stokes type layer
Prm ≥ 1
(Non-metal case)
Shielding parameter
Rω = σμ0L2ω
Rω>>1
Microscopic flow
Rω ≤ 1
Bulk flow
Womerseley number
Wo1=ρωλ12 2η
Wo1 ≥ 1
Thin boundary layer compared with the primary arm distance of the dendrite
Wo1<<1
Dendrite is immersed in thick boundary layer
Reynolds number
Re1=ρU0λ1η=σE0xB0zλ1ωη
Re1>>1
Nonlinear asymmetric flow
Re1 ≤ 1
Symmetric flow
Péclet number
Pe1=(1kp)Ugrλ1D
Pe1 ≥ 1
Solute transport due to oscillating flow
Pe1<<1
Solute transport due to diffusion
Table 2. Physical properties and operating conditions of the experimental research4).
Physical property/operation conditionValue
Liquid density ρ [kg/m3]7 × 103
Viscosity η [Pa·s]6 × 10–3
Solute diffusion coefficient D [m2/s]2 × 10–8
Electric conductivity of liquid σ [S/m]7 × 105
Magnetic flux density B0z [T]1
Effective value of electric field E0x [V/m]15
Frequency f [Hz] (Angular frequency ω [rad/s])2 × 103 (1.265 × 104)
Distance between primary arms λ1 [m]1 × 10–4
Representative value of vessel size L [m]2 × 10–2
Effective value of oscillation velocity U0=σE0xB0zρω [m/s]0.12
Crystal growth rate Ugr [m/s]0.001
Table 3. Estimated dimensionless parameters.
Dimensionless parameterValue
Oscillation Stewart number Nω=σB0z2ρω8.0 × 10–3
Magnetic Prandtl number Prm=σμ0ηρ7.5 × 10–7
Shielding parameter Rω = σμ0L2ω110
Womerseley number Wo1=ρωλ12 2η8.6
Reynolds number Re1=ρU0λ1η=σE0xB0zλ1ωη14
Péclet number Pe1=(1kp)Ugrλ1D4.2

6. 結言

電磁振動流の基本的な流れの解析解を求め,その特徴を理解した。さらに,デンドライトの1次アームを考慮した考察を行い,電磁振動流を特徴づける無次元パラメータとその役割を明らかにした。それらの結果から,電磁振動流の効果が顕著になるための必要条件を次のように得た:Nω<<1,Rω>>1,Wo1≥1,Re1>>1,Pe1≥1。ただし,1次アームウオマスリー数Wo1と1次アームペクレ数Pe1の不等号は1程度またはそれ以上という意味である。これらのうち,1次アームペクレ数についてはPe1<<1のときは拡散だけで十分に溶質が輸送されるので電磁振動流は必要ない。一方,それ以外の無次元パラメータが条件を満たさない場合は電磁振動流の効果が得られなくなると予想される。

装置設計において最初にWo1の値を与えてスタートするとしたなら,角周波数の値はω=2ηWo12/(ρλ12)で定めることになる。この場合,周波数はターゲットにするデンドライトのアーム間隔λ1の2乗に反比例する値になる。微細なデンドライトには高い周波数の電磁力が必要になる。

使用記号

B[T]:磁束密度

B0[T]:外部印加磁場の磁束密度

CL[−]:溶質質量分率

D[m2/s]:溶質の拡散係数

E[V/m]:電場

E0[V/m]:電場の実効値

f[Hz]:周波数

F[N/m3]:単位体積あたりの振動電磁力

g[m/s2]:重力加速度

I[A]:電流の実効値

j[A/m2]:電流密度

k[1/m]:定数,k2=k02(Nω+1+Nω2)

k0[1/m]:ストークス層厚さの逆数,k02=ρω/2η

kp[−]:平衡分配係数

L[m]:代表長さ

p[Pa]:圧力

p0[Pa]:大気圧

Δp[Pa]:対抗的圧力上昇

Q0[m3/s]:流量振幅

s[1/m]:定数,s2=k02(Nω+1+Nω2)

s0[1/m]:定数,s02σB0z2/η

SSL[kg/m2s]:溶質質量流束

t[s]:時間

u[m/s]:流速

U0[m/s]:振動流速の実効値

Ugr[m/s]:結晶成長速度

x,y, z[m]:空間座標

無次元数

Nω[−]:振動スチュアート数,Nω=σB0z2/ρω

Pe1[−]:1次アームペクレ数,Pe1=(1kp)Ugrλ1D

Prm[−]:磁気プラントル数,Prm=α2/k02=σμ0η/ρ

Rω[−]:シールディングパラメータ,Rω=σμ0L2ω=2(αL)2

Re1[−]:1次アームレイノルズ数,Re1=ρU0λ1η=σE0xB0zλ1ωη

Wo1[−]:1次アームウオマスリー数,Wo1=λ1k0=ρωλ12/2η

ギリシャ文字

α[1/m]:電磁場の表皮厚さの逆数,α2=σμ0ω/2

δ[m]:ミクロ流動駆動領域の厚さスケール,δ=α−1

λ1[m]:デンドライトの1次アーム間隔

η[Pa s]:粘性係数

μ0[H/m]:真空の透磁率,μ0=4π×10−7 H/m

ρ[kg/m3]:密度

σ[S/m]:電気伝導率

ω[rad/s]:角周波数

謝辞

本研究の一部は日本鉄鋼協会「電磁振動印加時の物理現象解明」研究会に対する助成によるものである。ここに記して感謝の意を表す。

文献
 
© 2016 The Iron and Steel Institute of Japan

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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