Tetsu-to-Hagane
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Cavitation Phenomena in Ultrasonic Casting and Their Industrial Application
Sergey Komarov
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2016 Volume 102 Issue 3 Pages 179-185

Details
Synopsis:

Although the effect of ultrasonic vibrations on the structure of solidifying metals has been known for long time, the practical application of ultrasound to casting technology still remains a big challenge. Ultrasonic casting exploits cavitation in molten metal to disperse particles of grain refiners or to break dendrites during solidification. Therefore, care must be taken to control the passage of melt through the cavitation zone. There is still, however, a lack of data in this area.

The present study consisted of two parts. In the first one, intensity and spectral characteristics of cavitation noise generated during radiation of high-intense ultrasonic vibrations into water and molten aluminum alloys were investigated by using a high temperature cavitometer. Based on these data, a measure for evaluating the cavitation intensity was established and verified for relatively low and high vibration amplitudes. The second part presents results on the application of ultrasonic vibrations to a DC caster to refine the primary silicon grains of a model Al-17Si-0.01P alloy during the casting of 178-mm billets. High amplitude ultrasonic vibrations were radiated into a specially designed hot-top unit of a DC caster to allow a better control of the melt flow through the cavitation zone as compared, for example, to ultrasonic treatment in launder. It was shown that refinement effect of ultrasonic vibrations and structure uniformity can be significantly improved by optimizing the amplitudes of horn tip vibration and horn position in the unit.

1. 緒論

金属鋳造技術では,溶融金属に超音波振動または電磁的振動の印加により凝固組織が改善できることが古くから知られており,これまで基礎および応用の分野において研究がなされてきた1,2)。超音波振動と電磁的振動が性質的に大きく異なるにもかかわらず,溶融金属中を伝播するときには同様の線形および/または非線形の現象を引き起こす。線形現象の一例として,溶融金属における振動伝播に伴う溶融金属の流体粒子の振動が挙げられる。このような振動が溶融金属中を伝播することで流体混合および物質移動が促進されることによって溶融金属の温度と成分の均一化および凝固組織の改善が可能となる。振動振幅があるしきい値を超えるとキャビテーションという非線形現象が発生する。超音波で誘発されるキャビテーションについて,特にソノケミストリー(超音波化学)の分野ではこれまで多くの研究がなされてきた3,4)。この際,キャビテーションは物質移動やラジカル生成や化学反応促進の原因となり,様々な工学分野において重要な役割を果たしている。溶融金属においても溶湯に超音波を照射することで溶湯中にキャビテーションが発生し,これにより溶湯脱ガス,凝固組織制御等の効果が得られることがよく知られている5)。しかし,溶融金属中におけるキャビテーション特性に関する実験も精密な測定も極めて困難であるためにほとんど研究がなされてこなかった。

超音波を流体中に照射するときに,音響流と呼ばれるもう一つの非線形現象が起きる6)。音響流は超音波振動が流体中を伝播する時の粘性摩擦,不可逆的熱吸収により超音波エネルギー消散によって生じる定常流であり,流動のパターンと超音波の波長λに基づく空間スケールLによって3つのタイプに分類される。1つ目は,ビーム状の超音波の伝播方向に向かうEckart型の大規模音響流(L≫λ)である7)。2つ目は,2枚の平行な平板の間または管内の定在音波の発生によって生じる中規模定常流(L≈λ)であり,定在音波の半波長あたり1対の循環流(渦)をつくるRayleigh型の音響流である8)。3つ目の音響流は,固気・固液界面近傍に形成される境界層内の超音波エネルギーの減衰によって発生される小規模定常流(L≪λ)であり,Schlichtingの音響流とも呼ばれる8)。これら3つの音響流の効果により流体のマクロ的な攪拌混合とミクロ的な拡散混合,熱・物質移動が促進されることが以前より知られており,特に流体がガスの場合に報告が多い9,10)。しかしながら,流体が液体の場合には,音響流とキャビテーションが同時に起こるため,その相互作用機構に不明な点が多く,研究成果も少ない。溶融金属の場合,それとは別に高温により更に複雑な様相が加わり,特殊な実験技術が必要であるため,研究が全く進展していないのが現状である。

超音波鋳造では,金属溶湯の超音波処理は溶湯が鋳型に供給する間に行われる。特に,超音波ホーンを溶湯中に浸漬させ,超音波照射によりホーン直下でキャビテーション場を形成させ,溶湯がその場を通るようにする方法が用いられる1)。その際,超音波による組織改善効果は溶湯のキャビテーション場の通過時間によって著しく変化すると考えられる。従って,超音波鋳造においてはキャビテーション場における流動パターンとキャビテーション強度を同時に制御することが重要な課題である。著者は,以前の研究で水実験と溶融アルミニウム実験を行い,Eckart型の大規模音響流の特性について調べた結果を報告した11,12)

以上の背景から,本研究では,まず,水とアルミニウム溶湯への超音波照射におけるキャビテーション特性を明らかにすることを目的として,水槽実験および坩堝実験を行い,安定なキャビテーションの発生が開始する閾値振幅およびキャビテーション強度に対するホーン先端の振動振幅の影響について調査を行った。次に,その結果に基づき,著者が以前に提案した絞りヘッダー内超音波処理13)を利用したDC鋳造プロセスにおいてAl-17Si-0.01P合金の鋳造を行い,超音波ホーン直下にキャビテーション強度と溶湯流動パターンを制御することにより微細かつ均一な組織を有するφ178ビレットを鋳造可能にした。

2. キャビテーション特性についての調査

先ずはキャビテーションについて,一般的に知られることを説明する。超音波キャビテーションとは液体に超音波振動を与えるときに,振動振幅Aに比例する音圧Pがあるしきい値Pcを超えると,液体中で無数の気泡が発生し,膨張,圧縮を繰り返し,ある条件で崩壊する現象である。キャビテーションは,液体中に通常存在する微小気泡または液体により濡れないため微粒子鏡面に形成されるガスポケットにおいて開始する。このような微細気泡・ガスポケットはキャビテーション核と呼ばれる。他のパラメータが一定に保たれるならば超音波振動振幅が大きければ大きいほどより細かい気泡・ガスポケットがキャビテーション核の役割を果たす。

キャビテーション気泡挙動は少なくとも二つのタイプがある2)

1.超音波の周波数での脈動。 超音波振動振幅がAcを超えると一部の気泡はキャビテーション運動を起こし,崩壊する前に超音波の周波数において一周期または数周期で振動を行う。

2.気泡崩壊。気泡崩壊が液体中で高速マイクロジェットと衝撃波の発生を引き起こす。これらが様々なプロセスに対して,超音波照射効果の原因であると考えられる。衝撃波の減衰の結果,液体中では二次高周波超音波が発生される。しかも,衝撃波エネルギーが高いほど,二次超音波によって発生される周波数は高くなる14)

3. 実験装置および方法

本研究では大型(Table 1に示すA, B)と小型(C)の超音波発生装置を用いて,高温実験および水実験を行った。高温実験において,電気炉を用い,メタル2 kgを溶解した。メタルとして純Al(3N)およびAl-Si系合金を使用した。超音波は湯面より10 mmの深さに浸漬させたホーンから溶湯中に照射した。水を用いた比較実験において,常温条件下でアクリル製水槽内の10 L水中に超音波を照射した。

Table 1. 超音波発生装置特徴
装置周波数
kHz
最大出力
kW
ホーン使用媒体
材質振動幅,
μm (p-p)
直径,
mm
A19 ~ 212Si3N416 ~ 5048溶融Al
Ti alloy12 ~ 4448
B18 ~ 200.2Si3N40 ~ 2024水・溶融Al

キャビテーション特性の測定には上述のキャビテーション特徴を考慮してロシア科学アカデミーが開発したキャビテーションレベル測定装置を用いた。本装置により次のような測定が可能であった。1)0.3 MHz以下の周波数において,音圧を含めた雑音信号。2)0.3 MHz以下の周波数において,周期的に脈動する気泡から発生される雑音信号。3)気泡の崩壊時にそれぞれ0.3~0.6,0.6~1.5,1.5~5.0,5.0~10.0 MHzの周波数範囲で発生される雑音信号。実験ではキャビテーション強度測定装置のプローブ(タングステン,長さ500 mm, 直径4 mm)のチップ先端部を超音波ホーン先端の下で25~60 mmの距離に固定し,様々な超音波強度で測定を行った。各実験において,データ集録システムを適用し,500 kHzのサンプリングレートで測定データを収集した。

4. 測定結果

4・1 キャビテーション開始の閾値振幅

まず,装置と測定方法の妥当性を確認するために,装置Bを用い,振動幅が低い条件下で20.6 kHzの超音波を水中に照射し測定を行った。Fig.1に,振動幅Aがそれぞれ0.9 μm,3 μmと7 μmにおいて測定した総雑音信号Uoutの経時変化を示す。縦軸は振動周期Tで無次元化した時間である。Fig.1から分かるように,A=0.9 μmにおいてはUoutが正弦曲線と近似しており,その周期が超音波振動と同じである。このときに,キャビテーション発生の可視または可聴徴候が全くなかったことからUoutの変化はプローブ近傍を通過する超音波が引き起こす音圧変動によるものであると推定される。振幅を3 μmに増加させると,Uoutが大きくなり,その経時変化はまだ正弦的であるが,Uoutの信号に高調波成分も見られ,キャビテーション発生時に特徴的な音が発生しはじめた。しかしながら,この音がしたりしなかったりと不安定であった。振幅をさらに7 μmまで大きくすると,高調波成分が多く発生したために総雑音信号Uoutが著しく増加した。それに加えて,超音波によるキャビテーション雑音が安定になり,超音波ホーン先端近傍には多数のキャビテーション気泡の生成を確認された。

Fig. 1.

 Time variation of cavitometer output voltage in the range of small vibration amplitudes.

本研究の目的は溶融アルミニウム中のキャビテーション評価に定量的な基準を確立するということである。キャビテーション特性について重要な情報は高速フーリエ変換(FFT)解析から得られる。Fig.23に,異なる振動振幅条件でそれぞれ水中と溶融アルミニウム中で測定されたFFTスペクトルの代表的な測定データを示す。横軸は各条件におけるホーンの振動周波数f0で無次元化したキャビテーション雑音の周波数,縦軸は電圧Uoutで表したスペクトル強度を示す。ただし,各条件で得られたデータの比較の便宜上,測定データの一部のみ,すなわちf/f0が0.85から2.15までの周波数帯域のFFT解析データを示す。まず,水中のキャビテーション実験において上述の観察結果をFFT解析データと比較する。Fig.2に示すように,いずれの振動振幅(A=0.9 μmと5.3 μm)においても周波数f0と同じ周波数をもつ基本的な成分(fundamental harmonics)のピーク(白丸)と周波数f0の2倍の周波数をもつ高調波成分(higher harmonics)のピーク(黒丸)がよく見られる。しかしながら,ホーンの振動振幅Aが5.3 μmになると,f0の1.5倍の周波数をもつ超高調波成分(ultraharmonics)の小さなピーク(矢印)も見えてくる。この振幅は上述の視聴観察で確認された,キャビテーションが安定して発生しはじめる振幅とほぼ同じである。従って,本研究では,超高調波成分のピーク発生に相当する振動振幅A*をキャビテーション閾値として使うことにした。なお,以前にLauterbornら15)とFrohlyら16)も水への超音波照射実験を行った結果,超高調波成分のピークがキャビテーション強度を評価する基準として利用できることを示唆した。同様に,Fig.3に示すデータをもとにして,溶融アルミニウム中のキャビテーション閾値が11 μmであることを確認した。

Fig. 2.

 FFT results for water.

Fig. 3.

 FFT results for Al melt.

キャビテーション閾値については超高調波成分のピークの高さIuと基本的な成分のピークの高さIfの比較から,より明らかになるだろう。Fig.4に,水または溶融アルミニウムの両方の実験で測定したIu/Ifを振動振幅Aの関数として示す。いずれの場合においてもIu/Ifは比較的低振幅範囲では振動振幅Aが増加するにつれて若干増えるか変わらない。しかし,Aが4 μm(水の場合)または10 μm(溶融Alの場合)より大きくなるとIu/Ifは急激に増加する。それは安定なキャビテーションの発生が開始するためと考えられる。これらに相当する閾値振幅をFig.4において矢印により示す。よって,上の結果より,閾値振幅は水の場合に4~5 μm,溶融アルミニウムの場合に10~11 μmであることが明らかになった。

Fig. 4.

 Effect of vibration amplitude on ratio of peak amplitudes.

4・2 高振幅時のキャビテーション特性

近年の研究結果によると,アルミニウム合金の鋳造工程において超音波振動による組織微細化効果を得るためには,アルミニウム溶湯中にかなり強いキャビテーション場を生成させる必要がある。もちろん,これがアルミニウム溶湯の処理量,温度,化学成分などに依存するが,ホーンの振動振幅が20 μm(p-p)を超えない限り,組織微細化に対し超音波の有意な効果は得られないという報告もいくつかなされている。その値が上記のキャビテーション閾値に比べて2倍程度の高い値であり,発生されるキャビテーションは完全発達状態に達すると考えられる。このような条件下でキャビテーション特性とそれに与える振動振幅の影響について調べるためにはホーン先端の振幅を22~48 μm(p-p)範囲内で変化させ実験を行った。その結果を以下に述べる。

振幅が大きくなるにつれてキャビテーションによって発生される総雑音信号が段々複雑なっていき,このFFTスペクトルは不等間隔に配列したピークとそれらに重ね合わせた背景雑音から構成されることが分かった。そのために,高振幅領域ではスペクトルにおけるピークの同定が不可能であった。一方,様々な周波数帯域における雑音信号の測定値を比較することによってキャビテーション特性について重要なデータを得ることができた。具体的に,0~10 MHz範囲の総雑音信号UTotalおよびそれぞれ0.3~0.6,0.6~1.5,1.5~5.0と5.0~10.0 MHzの範囲の高周波雑音信号Uoutの測定を行い,それらに対する振動振幅の影響を調べた。測定データの一例をFig.5に示す。UoutはUTotalに対する相対値として示す。溶融アルミニウム中と水中で測定した値を比較するとUTotalとUout/UTotalの両方で溶融アルミニウムの方が大きいことが明らかになる。いずれの場合においても総雑音信号は振動振幅の増加に伴い減少する。この傾向は特に水中キャビテーションで顕著である。高周波雑音信号の相対値は逆に振動振幅とともに増加する。

Fig. 5.

 Change in cavitometer out signal with vibration amplitude (open dots - water, solid dots - Al melt).

これらの結果は以下のように説明することができる。弾性媒体によって伝搬される音響パワーPAは,(1)式の通り,音響抵抗値R,そして振動速度振幅V0の2乗に比例することが一般的に知られている1)。   

PA=12SRV02=2π2SRA2f2(1)

ここでSはホーン端面積,fは周波数,Aはホーン先端振動振幅である。音響抵抗値は音響インピーダンスの実成分であり,媒体特性,特に密度と音速に強く依存する。弾性媒体が液体である場合は,音響抵抗がキャビテーションの開始とともに急激に減少することが報告されている1,17)。その結果,所定の測定ポイントに対して,UTotal信号の主成分である音圧と振動振幅との関係が複雑になる。キャビテーションがまだ発生しないような低振幅領域では音圧とそれに対応する音響パワーが振動振幅とともに増加する。この傾向は,キャビテーションが開始した後にも一定の振幅範囲で見られる。しかし,振幅Aが一定の値を超えるとキャビテーションが激しくなり,音響抵抗Rが急激に減少する。そのため,音圧は振動振幅の増加に従って,最初に増加し,最大値に達した後,減少する。このような理由で,UTotalが高振幅領域ではAの増加に伴い減少する。それと同時に,振動振幅が大きくなるとキャビテーション気泡の個数が著しく増加して,気泡崩壊時にまず強力な衝撃波が起こり,次に,二次高周波超音波が発生するため,総雑音信号UTotalに含まれる高周波成分の割合が大きくなると考えられる。

また,Fig.5に示す水実験と溶融アルミニウム実験における振動振幅の効果の相違は次のように説明することができる。上述の通り,溶融アルミニウム中のキャビテーシン閾値が水中の値と比べて2倍大きい。つまり,溶融アルミニウム中ではキャビテーションが起こりにくいものである。従って,高振幅領域においても同じ振動振幅で発生するキャビテーション気泡の数密度が相対的に低く,音圧(or UTotal)への振幅の依存性も少ない結果になっている。しかし,溶融アルミニウム中のキャビテーション気泡は一度生成すると,崩壊時に水中より強い衝撃波が発生するものと推定される。その理由は次の通りである。キャビテーション気泡の崩壊の最終段階においては気泡の挙動が表面張力σに比例するラプラス圧力(ΔP=2 σ/r)と気泡中に含まれる蒸気圧によって決定され,すなわち気泡崩壊の促進要因である表面張力が大きい場合,および気泡崩壊の阻害要因である蒸気圧が低い場合,気泡の崩壊が著しく加速する。そのために溶融アルミニウムの場合では,キャビテーション気泡周囲の液でより激しい衝撃波が発生し,高周波雑音の割合が増加すると考えられる。

上記のことから, 次のようなことが推定できる。ホーン先端の振動振幅が大きい場合には,先端の直下で強力なキャビテーション場が形成されるが,その場内で超音波エネルギーが大きく減衰するために,ホーン先端から離れるとキャビテーション強度が急激に低下する。つまり,高振幅の超音波振動を利用した鋳造プロセスにおける組織改善などの超音波効果に必要とされる強力なキャビテーション領域は振幅の増加に伴い短くなる。また,上述のように,超音波を流体中に照射すると音響流が発生し,その速度は振動振幅が大きいほど速くなるbb)。これらの現象は超音波照射を利用したプロセスの設計時に意外と考慮されていないのが現状である。しかしながら,特に工業的に広く適用されている展伸用アルミニウム合金の連続鋳造(以下にDC鋳造と称される)で溶融アルミニウムが溶湯移送樋または鋳型内を流れる時にキャビテーション場を1回だけ通過する。このような条件下では,キャビテーション領域と音響流に関する正しい知識・情報を持つことは非常に重要である。例えば,溶融アルミニウムの一部がキャビテーション領域を通らずに鋳型内に流入するようになると超音波処理の効率がかなり低下する。

4・3 凝固組織に対する超音波振動の効果

以上のことを実際に確かめるためには,φ178ビレットのDC鋳造において,液相線温度以上の温度でAl-17%Si溶湯を用い,通常ホットトップ鋳造(超音波なし)と2つの超音波鋳造,すなわち樋処理と絞ヘッダー内処理を利用した鋳造を行い,初晶Siの微細化効果について調べてきた。一般的に,Al-Si過共晶合金の鋳造では,リン含有Al基母合金を微細化剤として溶湯に添加する。リンがAlP化合物を形成し,AlP粒子がSiの異質核として機能することで初晶Siの微細化効果が得られる。しかしながら,AlP粒子は溶湯中に凝集を形成するためAlPの微細化能力が劣る。さらに,AlP粒子の表面に水素などの吸着物が吸着するため溶湯との濡れ性が悪くなり,AlPの核生成機能が失われる可能性がある。このような溶湯に超音波を照射すると,AlP粒子の凝集体が高速マイクロジェットと衝撃波の影響を受けて,溶湯中に効率よく分散される。また,AlP粒子に吸着された水素が粒子表面から除去され,溶湯との濡れ性が向上される。この2つの現象は初晶Siの微細化機能を果たすAlP異質核の数が劇的に増え微細化効果が促進される原因であると推定される。従って,溶湯がすべてキャビテーション場を通過させることは極めて重要である。この目的のために,本研究では,ホーン先端直下におけるキャビテーション場と溶湯の流動場を同時に制御するという新しい概念に基づき,絞りヘッダー内超音波処理法の開発を行ってきた。その中で提案された絞りヘッダーの構造はFig.6に示す。鋳造鋳型上部にヘッダー部(1)を設け,その内部と鋳型(2)内部を中心部に出湯口(3)を有する仕切り板(4)によって分けている。ヘッダー内部を流れる溶湯中に浸漬させた超音波ホーン(5)により超音波を照射し,ホーン先端の直下でキャビテーション場(6)を形成する。鋳造では所定量のPを含有するAl-17%Siの合金を溶解し,超音波DC鋳造法により鋳造速度150~200 mm/minと水量110 L/minの条件でφ178ビレットを製造した。超音波処理において,周波数が20 kHz,振動振幅Aが24~57 μm(p-p)のセラミックホーン(直径48 mm)を採用し,ホーン先端面と仕切り板間の距離Hを25~60 mm範囲内で変化させた。超音波処理槽の温度は,液相線温度に対して40~60°C以上高い温度とした。全試験のビレットにおいて,ビレットの半径方向に4箇所(表層,3R/4,R/2,中心部)でミクロ組織観察を行った。初晶Si径の測定には画像解析ソフトウェアーを使用した。

Fig. 6.

 A schematic representation of ultrasonic treatment in bounded hot-top.

それぞれの鋳造方法で得られたミクロ組織の写真をFig.7(a, b, c)に示す。濃い灰色の粒子は初晶Si結晶である。超音波樋処理では,通常鋳造に比べて初晶Si結晶粒が微細化するが,微細化程度がビレット中の位置によって大きく変化する。すなわち,ビレットの表層部では超音波処理によって初晶Si粒子の顕著な微細化が達成されてきたが,中心部では初晶Si粒子の大きさはほとんど変わっていない。

Fig. 7.

 Microstructure images of samples taken as (a) the center, (b) half-radius and (c) surface of a 178-mm billet produced by (1) conventional casting, (2) launder UST casting and (3) hot-top casting (H=40 mm).

超音波樋処理法における組織の不均一の原因については以下のように考えられる。上述のように,AlP粒子を含有した溶湯に超音波を照射することにより,Siの異質核として作用するAlP粒子の量が増え,その結果,初晶Si結晶は著しく微細化される。しかしながら,凝固組織の微細化効果は異質核の生成促進の他に過冷度にも依存する。また,最大到着過冷度は冷却速度が高いほど大きくなるために凝固時間が短くなることが報告されている18)。このことは,冷却速度の高いビレット表層部では初晶Siの微細化効果が特に大きい原因である。一方,ビレット中心部では冷却速度が遅いため,Si結晶の異質核の粒子が多量にあるにもかかわらず微細化効果は比較的に小さいと考えられる。また,ビレット中心部において超音波処理から凝固完了までの時間が長く結晶核粒子の再凝集が進みやすい。これらの理由により,超音波樋処理では組織微細化程度がビレット中の位置によって大きく変化するようになる。

一方,Fig.7(c)に示すように,絞ヘッダー内処理を利用した超音波鋳造ではビレット中の位置と関係なく,全体に均一かつ微細な組織を得られた。それは,ホーン先端が凝固領域に近いことで,分散されたAlP粒子が音響流によってビレット中心部の凝固領域まで短時間で供給されるためと考えられる。さらに,出湯口直前に設置されたホーンにより,超音波の一部が出湯口を通って,AlP粒子の再凝集を防止することができると推定される。しかしながら,絞ヘッダー内処理では微細化効果が距離Hと振動振幅Aによって変化する。Fig.8(a, b)にはそれぞれの鋳造方法で得られた初晶Siの平均粒径分布を示す。通常鋳造では初晶Siの平均粒径DAが比較的に大きくかつ均一な分布となっている。超音波樋処理の下で鋳造されたビレットにおいてはDAがビレット中心からの距離とともに大きく減少する。それに対し,絞ヘッダー内処理では,距離Hが比較的に大きい(H=60 mm)場合には振動振幅が57 μmから42 μmまで下がると初晶Siの平均粒径分布が均一化される傾向が見られる。一方,距離Hが比較的に小さい(H=25 mm)場合,振動振幅が大きいほど均一な組織が形成されることが分かる。その理由については以下の通りである。絞りヘッダー内超音波処理では,振動振幅が大きい場合,距離Hを小さくすると,高強度のキャビテーション領域を通る溶湯の量が増え,AlP 粒子の分散が促進される。その結果,組織の微細化効果が良くなり均一性も改善する。振幅が比較的に低い場合はキャビテーション領域が長くなるため距離Hが大きいほど微細化効果も組織均一性も良くなる。

Fig. 8.

 Average size of Si particles measured at various location in billet.

5. 結言

本研究では,超音波エネルギーを利用した溶融金属鋳造の効率化を目指し,水とアルミニウム溶湯の実験を行い,凝固組織の改善の原因として考えられるキャビテーションとその特性に関する基礎研究を行ってきた。また,基礎研究の結果に基づき,著者らが以前提案した絞りヘッダー内超音波処理を利用したDC鋳造プロセスにおいて超音波処理条件の最適化を行うことにより微細かつ均一な組織を有するφ178ビレットを鋳造可能にした。具体的に,本研究において得られた結論は以下の4点である。

1)安定なキャビテーションの発生が開始する閾値振幅は水の場合に4~5 μm,溶融アルミニウムの場合に10~11 μmであることが明らかになった。

2)振動振幅が20 μmを超えると,水またはアルミニウム溶湯のいずれの場合においても,キャビテーション雑音スペクトル中の高周波成分の割合が増加する。これは,キャビテーション気泡崩壊時にまず強力な衝撃波が起こり,次に,二次高周波超音波が発生し,キャビテーション強度が強くなるためと考えられる。

3)振動振幅が大きくなるにつれて,ホーン先端の直下で強力なキャビテーション場が形成され,その場内で超音波エネルギーが大きく減衰するために,ホーン先端から離れるとキャビテーション強度が急激に低下し,キャビテーション場が短くなると推定される。

4)その結果に基づき,Al-17Si-0.01P合金のDC鋳造を行い,溶湯の絞りヘッダー内超音波処理においてキャビテーション場と流動場を同時に制御することにより,初晶Siの微細化と組織均一性に優れたφ178ビレットを鋳造可能にし,超音波DC鋳造プロセスの最適化を行った。

文献
 
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