Tetsu-to-Hagane
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Relation between Local Structural Environment of Iron Ions and FeO1.33 Activities in the FeOx-CaO-SiO2 slags
Miyuki HayashiYoshitaka Katahira
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2017 Volume 103 Issue 6 Pages 380-387

Details
Synopsis:

Oxidation states and coordination structures of iron ions in FeOx-CaO-SiO2 slags and their dependencies on the oxygen partial pressures and slag compositions have been measured by Mössbauer spectroscopy. The relationship between local structural environment of iron ions and FeO1.33 activities has also been investigated.

Variation in the slag composition causes Fe ions to have such a local structural environment that the degree of polymerization of the whole silicate network structure is retained. The ratio of the number of Fe3+ in the octahedral coordination to that of Fe3+ in the tetrahedral coordination (xFe3+(Oh) / xFe3+(Td)) converges to the range between 0.5 to 1.0 with decreasing the degree of polymerization of matrix silicate network structure. Since the xFe3+(Oh) / xFe3+(Td) values of Fe3O4 and Ca2Fe2O5 crystals are reported to be 0.5 and 1, respectively, it is considered that Fe ions tend to form microcrystalline clusters having the similar structures to those of Fe3O4 and/or Ca2Fe2O5 in the slags with xFe3+(Oh) / xFe3+(Td) of 0.5 to 1.0.

By comparing the oxidation states and coordination structures of iron ions with FeO1.33 activities measured by authors elsewhere, it has been found that FeO1.33 activities divided by FeOx concentraions (γFeO1.33) are the largest in the slags with xFe3+(Oh) / xFe3+(Td) of 0.5 to 1.0. The larger γFeO1.33 values correspond to the poorer affinity of iron oxides with matrix silicates. As a consequence, it is considered that the formation of microcrystalline clusters having the similar structures to those of Fe3O4 and/or Ca2Fe2O5 results in the increase in the γFeO1.33 values, i.e., the FeO1.33 activities.

1. 緒言

我が国の高炉の主要鉄源は焼結鉱であり,焼結鉱の主な原料はヘマタイト鉱石である。しかし,近年,産出されるヘマタイト鉱石中の脈石成分(SiO2やAl2O3)量は増加しており,現在よりもさらにヘマタイト鉱石中の脈石成分量が増加すれば,焼結鉱の製造が困難になるだけでなく,高炉の軟化融着帯において通気性が著しく悪化するものと考えられる。一方,フェリ磁性であるマグネタイト鉱石は,磁力選鉱により脈石成分量を減らすことが可能であるため,将来的に有望な鉄源である。このように,焼結鉱原料は,今後,劣質化・多様化が進むものと予想される。

焼結鉱は,粉鉱石,粉コークスおよび石灰石の混合造粒物を焼結機により自己焼結させ,融液の生成により原料粒子同士を結合させることにより製造されるが,焼結鉱原料が劣質化・多様化するのにともない組成や鉱物相が大幅に変化すれば,その度ごとに実験により焼結鉱製造条件を決定することになり非常にコストがかかり,時間も要する。もし実験を行う前に,ある程度理論的に製造条件を見積もることができればコスト削減につながる。焼結鉱製造の最適条件の予測には,状態図・活量等の熱力学データが有効である。特に,将来的に不純物除去のための選鉱が強化され,鉱石の微細化が進めば,粉体の体積に対する反応界面積の増加により焼結反応速度が上昇し,反応が平衡に達しやすくなるため,焼結鉱の組織形成が反応速度論よりもむしろ平衡論に支配されるであろう。焼結鉱の品質を向上させるためには,融液生成量や融液中からの晶出相を制御することが重要であるが,融液生成量の制御は液相の熱力学的安定領域(均一液相領域)を決定することにより行え,また,酸化鉄やカルシウムフェライト等の晶出相の制御には,融液中のFeOx活量の知見が重要である。著者らは,FeOx-CaO-SiO2系スラグおよびこれにAl2O3を最大5 mass%まで添加したスラグにおいて,温度1573 K,酸素分圧1.0×10−2,1.0×10−4および2.5×10−6 atmにおけるFe3O4固相と平衡する液相線組成を求め,均一液相領域を決定した1)。これらの酸素分圧は焼結ベッド内の酸素分圧を模擬したものである。焼結ベッド内の鉱石近傍の酸素分圧は,強還元状態である金属鉄共存下,または酸化状態である空気雰囲気下の酸素分圧の中間の値を取るはずであり,また場所により異なるものと予想されるため,これらの酸素分圧を採用した。実験の結果,mass%換算でCaO/SiO2比(C/S値)が0.6~2.0である広い組成範囲において液相がFe3O4固相のみと平衡し,2CaO∙SiO2とFe3O4の二固相が共存する組成域が存在しないこと,1.0×10−2~2.5×10−6 atmの酸素分圧範囲では液相線組成の酸素分圧依存性が無視できること,Al2O3濃度が増大するに従い液相線のFeOx濃度が低下し液相領域が縮小することを明らかにしている。また,求めた均一液相領域内においてFeO1.33活量を測定している2)

FeOx-CaO-SiO2系スラグ融液中のFeOx活量を制御するため,FeOx活量のスラグ組成依存性について考察する必要がある。スラグの粘度や熱伝導度などの熱物性値の組成依存性は,従来,スラグ構造の観点から解釈されてきたが,スラグの活量・活量係数などの熱化学的性質もその構造と密接に関係するものと考えられる。スラグの基本構造はFig.1(a)および(b)に示すように,Si四面体(SiO44–)が架橋酸素を介して鎖状またはリング状に結合した網目構造であり,Na+,Ca2+,Mg2+,Fe2+などの陽イオンがSi-O-Si共有結合を切断し,非架橋酸素Oや自由酸素O2–を生成している3)。スラグ融体の網目構造の解重合度はSiなど四面体網目構造を形成する原子数に対する非架橋酸素数の割合(NBO/T)で表すことができるが3),スラグの熱物性値はこのNBO/T値に大きく依存することが知られている。酸化鉄含有スラグの構造については,スラグ中のFeイオンは2価および3価の価数を取り,Fe3+はO2–を4つまたは6つ配位した構造を取り得る4)。また,Fe2+と6配位のFe3+はSi-O-Si共有結合を切断し非架橋酸素を生成する役割を担い,4配位のFe3+は電荷補償イオンを伴い四面体網目構造を形成する役割を担う5)。従来,スラグ融体中のFeイオンの価数および配位数は,溶融スラグを急冷固化したガラス中のFeイオンの局所構造を光学吸収6,7,8),メスバウアー分光分析9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20),X線吸収微細構造7)および広域X線吸収微細構造8,17,21,22)を用いて測定することにより調べられているが,Fe3+の局所構造においては一致した見解が得られていない。この理由の一つとして,過去の研究に用いられたスラグ中において,Fe2+/Fe3+比は溶融温度・酸素ポテンシャルと平衡しているが,Fe3+の局所構造は,必ずしも全ての試料において構造平衡の状態に達しているわけではないからであろう。著者らは,以前,Feイオンの価数および配位構造が平衡に達するまでの過程を,メスバウアー分光分析を用いて測定し,配位構造が平衡に達するのに要する時間が,価数が平衡に達するのに要する時間の実に3倍もの長時間を要することを明らかにしている23)。また,Feイオンの局所構造の緩和はO2–の再配列によるものであると考察している23)。配位子場理論によれば,結晶中では4配位のFe3+と6配位のFe3+は等しいエネルギー状態にあるが,融体中では配位子の非対称性によりこの2つのエネルギー状態がわずかに異なる。このわずかなエネルギー差が構造緩和の駆動力となっているため配位構造が平衡に達するのに長時間を要するのであろう。

Fig. 1.

 Schematic illustration of tetrahedral formed by Si etc. and oxygen atoms (a) and 2-dimensional structure of a silicate melt (b)3).

著者らは,FeOx-CaO-SiO2系スラグの均一液相領域内においてFeO1.33活量測定を行ったが2),その時スラグは,所定の温度・酸素分圧下で,Feイオンの価数および配位構造が平衡に達するのに十分と考えられる72 h溶融した後,活量測定に供している2)。本研究では,FeO1.33活量測定に用いたものと同一試料において,メスバウアー分光分析によりFeイオンの価数・配位数を測定し,その酸素分圧およびスラグ組成依存性を調査することにより,Feイオンの価数・配位数とFeO1.33活量との関係を求めるとともに,FeOx-CaO-SiO2系スラグのFeO1.33活量の支配因子についてスラグ構造の観点から考察する。

2. 実験方法

試料組成は,以下の通りである。

35(mass%)Fe2O3−65aCaO−65(1-a)SiO2

ここで,a/(1-a)=0.5, 0.65, 1, 1.2, 1.35, 1.5, and 1.87

b(mass%)Fe2O3−0.48(100-b)CaO−0.52(100-b)SiO2

ここで,b=20, 35, 40, 60, and 80

35(mass%)Fe2O3−(65-c)dCaO−(65-c)(1-d)SiO2cAl2O3

ここで,c=2 or 5, and d/(1-d)=0.5, 0.65, 1, and 1.2

試料は,Fe2O3,SiO2およびAl2O3試薬粉末とCaCO3試薬粉末を空気中,1373 Kで12 h加熱して得たCaO粉末を用いて作製した。これらを所定の組成となるように量りとり,Al2O3乳鉢と乳棒を用いて混合した。Pt箔(12 mm×35 mm×0.02 mm)を2つ折りにして作製したPtるつぼに混合粉末約0.4 gを入れ,Pt線を用いてSiC発熱体電気炉の均熱部に吊るした。電気炉の反応管の内径は42 mm,Ptるつぼ中の試料と気相の接触面積は約30 mm2である。試料の溶融は,ArとO2の混合比が異なる3種類のAr-O2混合ガス気流中(50 mL/min)で行った。Ar-O2混合ガス中の酸素分圧(PO2)は,電気炉から排出されたガスを酸素センサーで測定し,それぞれ2.5×10−6 atm,1.0×10−4 atmおよび1.0×10−2 atmと決定した。溶融温度は1573 Kとし,溶融時間は72 hとした。その後,試料を氷水中に落下し急冷した。試料がガラス化していることをX線回折により確認した。

試料の化学組成は,電子線マイクロアナライザ(EPMA)により測定した。加速電圧は15 kVとし,プローブ電流は20 nAとした。EPMAの定量分析の標準試料として,24.58 mass%Fe,25.53 mass%Ca,12.84 mass%Si,1.06 mass%Alおよび35.98 mass%Oの均一組成を持つガラス試料を用いた。標準試料の組成は,Fe2O3,CaO,SiO2およびAl2O3試薬粉末の混合割合,およびメスバウアー分光分析により決定したFe2+/Fe3+比から計算により求めた。試料の組成は異なる5か所で測定した。測定誤差は±2%以内であった。

室温におけるメスバウアー分光分析により,(i)全Feイオンに対するFe2+(またはFe3+)の割合,および(ii)全Fe3+に対する4配位(または6配位)のFe3+の割合を測定した。横軸のドップラー速度はα-Fe箔のメスバウアースペクトルを用いて較正した。

3. 結果

メスバウアースペクトルの例として,Fig.2(a)~(c)に,初期組成(粉末混合組成)が35(mass%)Fe2O3-32.5CaO-32.5SiO2の混合粉末を2.5×10−6 atm,1.0×10−4 atmおよび1.0×10−2 atmの酸素分圧下で溶融した試料(それぞれ,A06,C10およびB04)のスペクトルを示す。Fig.2に示すように,本実験で得られたメスバウアースペクトルは,ローレンツ関数をもとに3組の対称な四極子分裂に分解できる。これらのスペクトルのメスバウアーパラメータ(アイソマーシフトと四極子分裂)と文献値24)の比較から,3組の四極子分裂がFe2+および,4配位と6配位のFe3+(それぞれFe3+(Td)およびFe3+(Oh))であることが分かる。Table 1に,2.5×10−6 atm,1.0×10−4 atmおよび1.0×10−2 atm(logPO2=−5.6,−4.0および−2.0)の酸素分圧下で溶融した試料のFe2+,Fe3+(Oh)およびFe3+(Td)のアイソマーシフト(IS)と四極子分裂(QS)の値の範囲を示す。

Fig. 2.

 Mössbauer spectra for the samples having the initial composition of 35(mass%) Fe2O3-32.5CaO-32.5SiO2 equilibrated at PO2=2.5×10–6 atm (a), 1.0×10–4 atm (b), and 1.0×10–2 atm (c).

Table 1.  Ranges of Mössbauer parameters for the samples equilibrated at PO2=2.5×10–6 atm, 1.0×10–4 atm and 1.0×10–2 atm (logPO2=–5.6, –4.0 and –2.0). IS and QS represent the isomer shift (mm/s) and the quadrupole splitting (mm/s), respectively.
logPO2 Fe2+ Fe3+(Oh) Fe3+(Td)
IS QS IS QS IS QS
– 5.6 0.37 – 0.72 2.17 – 2.58 0.17 – 0.27 0.62 – 0.85 0.14 – 0.25 1.29 – 1.60
– 4.0 0.54 – 0.64 2.43 – 2.67 0.18 – 0.23 0.72 – 0.90 0.15 – 0.23 1.33 – 1.50
– 2.0 0.39 – 0.66 2.41 – 2.71 0.14 – 0.22 0.74 – 0.93 0.13 – 0.23 1.31 – 1.49

Table 24に,2.5×10−6 atm,1.0×10−4 atmおよび1.0×10−2 atm(logPO2=−5.6,−4.0および−2.0)の酸素分圧下で溶融した試料の組成と全Feイオンに対するFe2+,Fe3+(Oh)およびFe3+(Td)の割合(%)を示す2)。それぞれのイオンの割合はメスバウアースペクトルの面積の割合から求めた。

Table 2.  Chemical compositions (mol%) and the percentages (%) of Fe2+, Fe3+(Oh) and Fe3+(Td) for the samples equilibrated at PO2=2.5×10–6 atm (logPO2=–5.6).
No. logPO2 Compositions (mol%) Percentages (%) aFeO1.33 γFeO1.33
FeO1.5 FeO CaO SiO2 Al2O3 Fe2+ Fe3+(Oh) Fe3+(Td)
A06 –5.6 29.3 4.2 34.4 32.2 12 42 45 0.135 0.594
A07 –5.6 32.5 2.5 40.2 24.9 7 45 48 0.071 0.288
A08 –5.6 24.0 1.8 41.1 33.1 7 36 57 0.110 0.571
A10 –5.6 18.2 5.0 33.0 43.8 21 45 34 0.017 0.114
A21 –5.6 29.8 2.0 41.4 26.8 6 46 48 * *
A19 –5.6 24.2 9.4 24.4 42.1 28 52 20 0.019 0.098
A15 –5.6 27.6 4.3 27.9 37.8 2.3 14 48 38 0.010 0.035
A17 –5.6 29.4 1.9 38.2 28.5 2.0 6 31 62 0.020 0.067
A16 –5.6 27.2 4.0 26.7 36.4 5.8 13 41 46 0.005 0.017
A20 –5.6 21.9 9.9 21.8 38.9 7.6 31 54 15 0.023 0.104
A18 –5.6 29.6 1.4 36.2 27.3 5.5 4 43 52 0.010 0.034

* No data

Table 3.  Chemical compositions (mol%) and the percentages (%) of Fe2+, Fe3+(Oh) and Fe3+(Td) for the samples equilibrated at PO2=1.0×10–4 atm (logPO2=–4.0).
No. logPO2 Compositions (mol%) Percentages (%) aFeO1.33 γFeO1.33
FeO1.5 FeO CaO SiO2 Al2O3 Fe2+ Fe3+(Oh) Fe3+(Td)
C05 –4.0 26.7 0.7 44.8 27.7 3 43 55 0.184 0.874
C06 –4.0 22.2 2.8 42.1 32.9 11 38 51 0.214 1.179
C10 –4.0 27.0 2.6 33.4 37.1 9 40 51 0.052 0.245
C21 –4.0 24.1 5.9 24.6 45.3 20 52 29 0.048 0.246
C26 –4.0 33.3 3.3 33.7 29.7 9 36 55 0.310 1.241
C15 –4.0 26.0 4.5 28.0 38.4 3.1 15 58 28 0.052 0.202
C17 –4.0 29.0 3.2 38.7 26.5 2.6 10 45 45 0.137 0.474
C14 –4.0 25.8 3.2 33.8 30.0 7.1 11 33 56 0.040 0.154
C16 –4.0 25.7 4.0 27.5 36.1 6.7 14 48 38 0.031 0.120
C18 –4.0 29.1 2.6 37.0 25.6 5.8 8 31 61 0.131 0.451
Table 4.  Chemical compositions (mol%) and the percentages (%) of Fe2+, Fe3+(Oh) and Fe3+(Td) for the samples equilibrated at PO2=1.0×10–2 atm (logPO2=–2.0).
No. logPO2 Compositions (mol%) Percentages (%) aFeO1.33 γFeO1.33
FeO1.5 FeO CaO SiO2 Al2O3 Fe2+ Fe3+(Oh) Fe3+(Td)
B01 –2.0 30.4 3.2 35.2 31.2 10 60 31 0.893 3.836
B03 –2.0 19.2 2.2 35.1 43.4 10 49 41 0.131 0.814
B04 –2.0 22.9 2.6 36.6 37.9 10 53 37 0.394 2.112
B07 –2.0 25.8 4.2 26.6 43.4 14 49 37 0.560 2.726
B10 –2.0 29.2 0.4 43.1 27.3 1 53 46 0.422 1.864
B12 –2.0 29.4 0.3 42.8 27.4 1 54 45 0.438 1.928
B21 –2.0 27.8 3.9 22.8 45.5 12 39 49 0.484 2.224
B13 –2.0 28.2 3.0 36.2 29.9 2.8 10 42 48 0.635 2.255
B15 –2.0 26.7 4.7 28.6 37.3 2.8 15 41 44 0.726 2.721
B17 –2.0 28.8 1.5 39.2 28.1 2.5 5 38 57 0.621 2.156
B14 –2.0 27.2 2.9 33.7 29.1 7.1 10 41 50 0.546 2.009
B16 –2.0 25.7 4.1 27.0 37.2 6.1 14 37 49 0.655 2.554
B18 –2.0 33.1 1.2 33.2 26.1 6.3 4 54 42 0.554 1.673
B22 –2.0 30.1 4.8 19.5 40.3 5.3 14 29 57 0.840 2.791

Fe2+,Fe3+(Oh)およびFe3+(Td)の割合とシリカ網目構造との関係を求めるために,四面体網目構造を形成する原子数に対する非架橋酸素数の割合(NBO/T)を計算する3)。スラグ試料を構成するSiO2,AlO1.5,Fe3+が4配位を取るFeO1.5(FeO1.5(Td)),CaO,FeOおよびFe3+が6配位を取るFeO1.5(FeO1.5(Oh))のモル数を,それぞれxSiO2xAlO1.5xFeO1.5(Td)xCaOxFeOおよびxFeO1.5(Oh)とすると,四面体網目構造を形成する原子のモル数xTは網目形成酸化物のモル数の総和((1)式)となり,次式で表される。   

x T = x SiO 2 + x AlO 1.5 + x FeO 1.5 ( Td ) (1)

また,非架橋酸素数yNBは,網目修飾酸化物のモル数に陽イオンの価数を乗じたものから,電荷補償イオンを必要とする網目形成酸化物のモル数を差し引くことにより計算でき((2)式),   

y NB = 2 x CaO + 2 x FeO + 3 x FeO 1.5 ( Oh ) x AlO 1.5 x FeO 1.5 ( Td ) (2)

NBO/Tは(3)式で表される3)。   

NBO / T = y NB / x T (3)

本研究では,Feイオンの局所構造とそれ以外のイオンから成る構造との関係を明らかにするため,(3)式のNBO/T値を,(4)式に示すFeイオンを除いた母相シリケートスラグのNBO/T値(NBO/T(slag))と,(5)式で示すFeイオンの寄与によるNBO/T値(NBO/T(Fe))に分けて考える。   

NBO / T ( slag ) = ( 2 x CaO x AlO 1.5 ) / ( x SiO 2 + x AlO 1.5 ) (4)
  
NBO / T ( Fe ) = ( 2 x FeO + 3 x FeO 1.5 ( Oh ) x FeO 1.5 ( Td ) ) / x FeO 1.5 ( Td ) (5)

Fig.3(a)~(c)に,それぞれPO2が2.5×10−6 atm,1.0×10−4 atmおよび1.0×10−2 atmで溶融した試料におけるFe2+,Fe3+(Oh)およびFe3+(Td)の全Feイオンに対する割合(%)とNBO/T(slag)値の関係を示す。いずれの酸素分圧においてもFe2+は30%以下と少なく,またNBO/T(slag)値が大きくなるに従いFe2+が減少する。これは,鉄共存で行われた多くの既往の研究結果と一致する25,26,27,28)。また,Fig.4(a)~(c)に,それぞれmass%換算でCaO/SiO2比(C/S値)が0.5,1.0および1.5である試料における全Feイオンに対するFe2+,Fe3+(Oh)およびFe3+(Td)の割合(%)とPO2の関係を示す。酸素分圧が高くなるに従いFe2+が減少している。Fig.5(a)~(c)に,PO2が1.0×10−4 atmで溶融した試料における全Feイオンに対するFe2+,Fe3+(Oh)およびFe3+(Td)の割合(%)とNBO/T(slag)値の関係に及ぼすAl2O3濃度の影響を示す。Al2O3を最大5 mass%まで添加したスラグ組成範囲内においては,Feイオンの局所構造とシリカ網目構造の解重合度依存性との関係におけるAl2O3添加の影響は見られなかった。

Fig. 3.

 Percentages (%) of Fe2+, Fe3+(Oh) and Fe3+(Td) as a function of NBO/T(slag) for the samples equilibrated at PO2=2.5×10–6 atm (a), 1.0×10–4 atm (b), and 1.0×10–2 atm (c).

Fig. 4.

 Percentages (%) of Fe2+, Fe3+(Oh) and Fe3+(Td) as a function of logPO2 for the samples with C/S=0.5 (a), 1.0 (b), and 1.5 (c).

Fig. 5.

 Effect of Al2O3 content on the relation between percentages (%) of Fe2+ (a), Fe3+(Oh) (b) and Fe3+(Td) (c) and NBO/T(slag) for the samples equilibrated at PO2=1.0×10–4 atm.

4. 考察

4・1 Feイオンの価数・配位数とシリカ網目構造との関係

Fig.6にFeイオンによる網目構造の解重合度(NBO/T(Fe)値)とFeイオンを除いた母相シリケートスラグの網目構造の解重合度(NBO/T(slag)値)との関係を示す。NBO/T(Fe)はNBO/T(slag)に対して負の依存性を持つが,これは母相シリケートスラグの網目構造の形成(または切断)に対し,Feイオンは逆に網目構造を切断(または形成)するような局所構造を取り,全体の網目構造の重合度を維持することを示している。

Fig. 6.

 Relation between NBO/T(Fe) and NBO/T(slag).

Fig.7に4配位を取るFe3+の割合に対する6配位を取るFe3+の割合の比(xFe3+(Oh)/xFe3+(Td))とNBO/T(slag)値の関係を示す。PO2が2.5×10−6 atmおよび1.0×10−4 atmで溶融したスラグにおいては,NBO/T(slag)値が低い試料においてxFe3+(Oh)/xFe3+(Td)が1より大きい値を示しており,これは母相シリケートスラグの網目構造のNBO/T(slag)値が低い,すなわち重合度が高いスラグ組成では,網目構造を切断し非架橋酸素を生成する役割を持つ6配位のFe3+のモル分率が大きくなることを意味している。一方,NBO/T(slag)値が高い試料においては,xFe3+(Oh)/xFe3+(Td)が0.5~1.0の範囲に収束している。以前,著者らは29)PO2=9.08×10−8 atm~1 atmの異なる6種類の酸素分圧下において20(mol%)Fe2O3-40CaO-40SiO2スラグを6 h溶融した後,水焼き入れし急冷して得たFeOx-CaO-SiO2スラグの磁化率測定の比較から,Feイオンはいくつかの組成の急冷ガラス中で均一に分散しておらず,Feイオンの一部が微細な酸化鉄クラスターを形成すること,また,クラスターを形成するFeイオンの割合が最大となるのは,PO2=4.44×10−3 atmで作製した,全Feイオンに対するFe3+の割合が0.73のガラスであることを報告している。0.73とは,Fe3O4の値(0.67)に近い値である。この結果は,ガラス中にFe3O4に近い構造を持つクラスターが形成される可能性を示唆している。Fe3O4は逆スピネル構造を持ち,xFe3+(Oh)/xFe3+(Td)は0.5である。本研究のスラグ中においても,NBO/T(slag)値が高い組成では,Feイオンの局所構造がFe3O4に近い構造を持つクラスターを形成するものと考えられる。一方,空気雰囲気下のFe2O3-CaO-SiO2系状態図によれば30),C/S値が6より大きい組成域において,Ca2Fe2O5の初晶域が存在する。Whitfieldは31),Ca2Fe2O5固相中のFeイオンの局所構造をメスバウアー分光分析により測定し,xFe3+(Oh)/xFe3+(Td)が1であることを報告している。従って,Feイオンの局所構造がCa2Fe2O5に近い構造を持つクラスターを形成する可能性も示唆される。

Fig. 7.

 Relation betweenxFe3+(Oh)/xFe3+(Td) and NBO/T(slag).

もし,xFe3+(Oh)/xFe3+(Td)が0.5~1.0の範囲にあることが,FeイオンがFe3O4またはCa2Fe2O5に近い構造を持つクラスターを形成することに対応するのであれば,xFe3+(Oh)/xFe3+(Td)が0.5~1.0の範囲にあるスラグ組成では酸化鉄と母相シリケートスラグの親和性が乏しく,スラグ中の酸化鉄の活量がより大きい値を取るはずである。そこで,この仮説を検証するために,次節において,著者らが前報において報告したFeO1.33活量2)と本研究において測定したFeイオンの局所構造との関係を論じる。

4・2 Feイオンの電荷・配位構造とFeO1.33活量との関係

著者らは本研究で用いた試料と同一試料においてFeO1.33活量(aFeO1.33)を測定しており,その結果をTable 2~4に示す。本研究では,異なるFeOx濃度のスラグにおいてaFeO1.33を比較するために,aFeO1.33をFeOxのモル分率で除した値(γFeO1.33),すなわちFeOx濃度で規格化したaFeO1.33を用いる。γFeO1.33は(6)式により計算される。   

γ FeO 1.33 = a FeO 1.33 / ( x FeO + x FeO 1.5 ( Oh ) + x FeO 1.5 ( Td ) ) (6)

Fig.8~10に,それぞれPO2が2.5×10−6 atm,1.0×10−4 atmおよび1.0×10−2 atmで溶融したスラグ中におけるFeイオンの価数・配位数とγFeO1.33との関係を示す。縦軸にFeイオンの電荷構造の指標としてlog(xFe3+/xFe2+)を,横軸にFe3+の配位構造の指標としてxFe3+(Oh)/xFe3+(Td)を取り,γFeO1.33の相対的な大きさを球の大きさで示している。Fig.8~10から分かるように,γFeO1.33のlog(xFe3+/xFe2+)に対する依存性は見られなかった。一方,Fig.8Fig.9から,PO2が2.5×10−6 atmおよび1.0×10−4 atmで溶融したAl2O3を含まないスラグ中においては,xFe3+(Oh)/xFe3+(Td)が0.5~1.0の範囲でγFeO1.33が最大となる傾向が見られる。これは,xFe3+(Oh)/xFe3+(Td)が0.5~1.0の範囲にあるスラグ組成では酸化鉄と母相シリケートスラグの親和性が減少することを意味する。以上より,xFe3+(Oh)/xFe3+(Td)が0.5~1.0の範囲にあるスラグ組成ではFeイオンがFe3O4またはCa2Fe2O5に近い構造を持つクラスターを形成し,その結果,FeO1.33活量が増大するという仮説は正しいものと考えられる。一方,Al2O3を含むスラグのγFeO1.33においては上記の傾向が見られず,FeイオンがFe3O4またはCa2Fe2O5に近い構造を持つクラスターを形成していないものと考えられるが,その理由については今後の課題である。

Fig. 8.

 Effect of log(xFe3+/xFe2+) and xFe3+(Oh)/xFe3+(Td) values on γFeO1.33 for the samples equilibrated at PO2=2.5×10–6 atm.

Fig. 9.

 Effect of log(xFe3+/xFe2+) and xFe3+(Oh)/xFe3+(Td) values on γFeO1.33 for the samples equilibrated at PO2=1.0×10–4 atm.

Fig.10から,PO2が1.0×10−2 atmで溶融したスラグ中においては,γFeO1.33xFe3+(Oh)/xFe3+(Td)に対する依存性が顕著には見られなかった。これは,1.0×10−2 atmが1572 KにおけるFe2O3とFe3O4の平衡酸素分圧に近いためFeイオンがFe2O3に近い構造,すなわち,6配位のFe3+の構造をも取りやすくなるからであろう。

Fig. 10.

 Effect of log(xFe3+/xFe2+) and xFe3+(Oh)/xFe3+(Td) values on γFeO1.33 for the samples equilibrated at PO2=1.0×10–2 atm.

5. 結言

FeOx-CaO-SiO2系スラグにおいて,メスバウアー分光分析によりFeイオンの価数・配位数を測定し,その酸素分圧およびスラグ組成依存性を調査した。また,Feイオンの価数・配位数とFeO1.33活量との関係を求めた。

(1)母相シリケートスラグの網目構造が形成(または切断)するようなスラグ組成の変化に対し,Feイオンは網目構造を切断(または形成)するような局所構造に変化する。すなわち,Feイオンは,スラグ全体の網目構造の重合度を維持するような構造を取る。

(2)Fe3+の配位構造は,NBO/T(slag)値が小さい場合には,xFe3+(Oh)/xFe3+(Td)が1より大きくなり,NBO/T(slag)値が大きい場合には,xFe3+(Oh)/xFe3+(Td)が0.5~1.0の範囲に収束する。Fe3O4結晶およびCa2Fe2O5結晶ではxFe3+(Oh)/xFe3+(Td)がそれぞれ1.0と0.5となることを考慮することにより,xFe3+(Oh)/xFe3+(Td)が0.5~1.0の範囲を取るのは,FeイオンによるFe3O4およびCa2Fe2O5に近い構造を持つクラスターの形成に対応するものであると考えられる。

(3)aFeO1.33をFeOxのモル分率で除した値(γFeO1.33)のFeイオン価数依存性は見られなかった。一方,γFeO1.33のFeイオン配位数依存性については,PO2が2.5×10−6 atmおよび1.0×10−4 atmで溶融したスラグ中においては,xFe3+(Oh)/xFe3+(Td)が0.5~1.0の範囲でγFeO1.33が最大となる。xFe3+(Oh)/xFe3+(Td)が0.5~1.0の範囲にある,NBO/T(slag)値の大きいスラグ組成では,FeイオンがFe3O4またはCa2Fe2O5に近い構造を持つクラスターを形成し,その結果FeO1.33活量がより大きい値を取るものと考えられる。

文献
 
© 2017 The Iron and Steel Institute of Japan

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