Tetsu-to-Hagane
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Surface Treatment and Corrosion
Effect of Surface Textures of Steel Sheets on the Crystal Orientation of Electrodeposited Zinc
Honami KawanoSatoshi OueTakashi FutabaAkinobu KobayashiYasuto GotoHiroaki Nakano
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2018 Volume 104 Issue 4 Pages 227-234

Details
Synopsis:

Prior to electrodeposition, the steel sheets were polished with each method such as emery paper, buff and electrolytic polishing, and Zn deposition was performed galvanostatically at 1500 A/m2 in an agitated sulfate solution at 40 °C to investigate the effect of surface textures of steel sheets on the crystal orientation of Zn. The strain of steel surface and the degree of decrease in grain size of Fe by the strain were largest with emery paper polishing, and were larger in the order with buff polishing, polishing-free, and were smallest with electrolytic polishing. The preferred orientation of the {0001} Zn basal plane of the hcp structure was largest with electrolytic polishing, and was larger in the order with polishing-free, buff polishing, and was smallest with emery paper polishing. That is, the preferred orientation of the {0001} Zn increased with decreasing the strain of steel sheets and increasing the grain size of Fe. With electrolytic polishing, since the strain of steel sheets decreased and the grain size of Fe increased, the epitaxial growth of deposited Zn was easy to occur. The initial Zn deposits seems to grow epitaxially according to the orientation relationship of {111}Fe//{0001}Zn because the preferred orientation of the steel substrate used in this study is {111} Fe. The preferred orientation of the {0001} Zn seems to increase under the conditions where the epitaxial growth of deposited Zn is easy to occur.

1. 緒言

電気Znめっき鋼板は,薄膜有機被覆処理が施され,耐食性,耐指紋性等に優れた高機能化成処理鋼板として,家電分野において幅広く使用されている。Znめっき鋼板の明度,光沢度は,それぞれ拡散反射光,正反射光の強度に対応し,Zn皮膜表面のミクロな粗度により決まる。Zn結晶が{0001}面に優先配向すると,表面が平滑になるため,明度,光沢度ともに増加する13)。また,平面摺動試験により求めた電気Znめっき鋼板の摩擦係数は,{0001}Zn面の配向性が強まると低下する1,46)。これは,滑り面である{0001}Zn面の配向性が高いほど,引き抜き方向の剪断応力が低下するためと考えられている1)。ただし,高張力が加わる加工では,{0001}Zn面に優先配向すると,めっき膜が破壊され易く4,7),ピラミッド面[{1013},{1012},{1122},{1011}Zn面]に配向する方が,めっき膜の破壊は起こり難い7)。このように,Zn皮膜の結晶配向性は,めっき鋼板の特性と深く関係しており,特性を改善するためには,配向性を最適な範囲に制御することが重要である。そのため電析Znの結晶配向性に及ぼす電解条件811),電解液の種類12,13),電解液への微量無機1416),有機添加剤1719)の影響がこれまでに多数研究されている。しかし,電析Znの結晶配向性に及ぼす鋼板表面性状の影響については報告例20,21)が少なく,不明な点が多い。そこで本研究では,電析前の鋼板に,エメリー紙研磨,バフ研磨,電解研磨を行ない,鋼板の表面歪み,結晶粒径,結晶配向性,粗度を変化させ,電析Znの結晶配向性,結晶形態,明度に及ぼす鋼板の表面性状の影響について調査した。

2. 実験方法

電解液組成および電解条件をTable 1に示す。電解液は市販の特級試薬を用い,ZnSO4・7H2O 1.2 mol/L,Na2SO4 0.56 mol/Lを純水に溶解させて作製した。pHは硫酸により2に調整した。めっき原板としては,鉄多結晶体である冷間圧延鋼板(JIS G 3141)(3×3 cm2)を使用した。原板は,電析前に320,600,1500,2000番のエメリー紙で研磨し,さらにバフ研磨,電解研磨により鏡面仕上げにした。エメリー紙研磨においては,研磨毎に研磨粒子,鉄粉を除去するためにエタノール中で超音波洗浄を行なった。また,バフ研磨は,粒径1,0.3,0.1 μmのアルミナを懸濁させた溶液を順次研磨剤として用いて行なった。電解研磨は,1.69 molのH2CrO4を含む室温のH3PO4 500 mL溶液中で,槽電圧4.4 Vの条件下で60分間行なった。本研究の供試材について,エメリー紙研磨とは,エメリー紙研磨のみ,バフ研磨とは,エメリー紙研磨+バフ研磨,電解研磨とは,エメリー紙研磨+バフ研磨+電解研磨のことを表す。電析は,定電流電解法により電流密度1500 A/m2,通電量3.3×103~6.6×104 C/m2,浴温40°Cにおいて,スターラー400 rpmの撹拌下で行なった。陽極には網目状のPt(8×12 cm2)を用いた。陰極電位は,参照電極としてAg/AgCl電極(飽和KCl,0.199 V vs. NHE,25°C)を用いて測定したが,電位は標準水素電極基準に換算して表示した。

Table 1. Electrolysis conditions.
Bath composition ZnSO4・7H2O (mol/L) 1.2
Na2SO4 (mol/L) 0.56
pH 2
Operating conditions Current density (A/m2) 1500
Amount of charge (C/m2) 3.3 × 103 ~ 6.6 × 104
Temperature (°C) 40
Cathode Fe (3 × 3 cm2)
Anode Pt (8 × 12 cm2)
Stirrer (rpm) 400

鋼板および電析Znの表面形態をSEMにより観察した。また,鋼板および電析Znの結晶配向性をX線回折装置(Cu-Kα,管電圧40 kV,管電流20 mA)により測定した。Fe,Znの結晶配向性は,それぞれ,110から222反射,0002から1122反射のX線回折強度を測定した後,WillsonとRogersの方法22)で求めた配向指数により表示した。電析Znの結晶子のサイズは,X線の0002反射の半値幅からScherrerの式23)を用いて算出した。また,鋼板および電析Znの表面粗度を表面粗さ形状測定機(東京精密(株)製SURFCOM1500DX-3DF)により,また,明度を分光測色計(コニカミノルタ(株)製CM-512m3)によりそれぞれ測定した。人間の目視に近い色を評価するために正反射光を除いた拡散反射光のみを測定するSCE方式と素材そのものの色を評価するために正反射光を含む全反射光を測定するSCI方式の両方式を採用した。電析前の鋼板断面の結晶方位を電子後方散乱回折像(Electron Back Scatter Diffraction Pattern,EBSD)法により調べた。EBSDの前処理として,鋼板表層を保護するために5 μmのNiめっきを行なった後,導電性樹脂に包埋した試料断面をアルミナ粉末(粒径1,0.3,0.1 μm)を用いて鏡面研磨し,その後Arイオンミリングによりエッチングを行なった。

3. 実験結果

3・1 鋼板の表面性状に及ぼす前処理の影響

Fig.1に各前処理を行なった鋼板断面のEBSDによる結晶方位解析像を示す。研磨無しの鋼板(a)には,部分的に結晶粒が微細化した箇所が見られ,また,最表面側の結晶方位を示す色にグラデーションが見られることから,鋼板表層に若干歪みが残存していることが分かる。エメリー紙研磨を行なった鋼板(b)は,表層に変形,微細化した結晶が多数見られ,研磨無し材に比べ,強い歪みが残存していることがうかがわれる。エメリー紙研磨を行なうと,表面の加工変質層は除去されるが,その研磨により新たに残留応力が発生する。本研究では,エメリー紙研磨を行なうと歪みが増加していることから,研磨無し材では,元々,表面の加工変質層が少なく,エメリー研磨により新たに導入される歪み増加の影響が大きいと考えられる。バフ研磨を行なった鋼板(c)においても,エメリー紙研磨を行なった鋼板と同様に表層に変形,微細化した結晶が多数見られ強い歪みが残存している。結晶粒の変形,微細化の程度は,バフ研磨の方が,エメリー紙研磨に比べると若干小さく,表層の歪みは,バフ研磨の方がやや小さいと予想される。バフ研磨を行なうと,表面の加工変質層が除去されるため,エメリー紙研磨により導入された歪みが,若干減少したと考えられる。しかし,バフ研磨後も強い歪みが残存しており,これは,エメリー紙研磨により導入された歪みが残存し,さらにバフ研磨により新たに歪みが導入されるためと考えられる。それに対して,電解研磨を行なった鋼板(d)の表層には,結晶粒の微細化,結晶方位を示す色のグラデーションが見られず,歪みが小さいことが分かる。以上の結果から,鋼板表面の歪みの大きさおよびそれに伴う結晶粒微細化の程度は,エメリー紙研磨を行なった場合が最も大きく,その次に,バフ研磨,研磨無しの順で大きく,電解研磨を行なった場合が最も小さかった。

Fig. 1.

Crystal orientation mapping images by EBSD of cross section of steel sheet polished with each method. (Online version in color.)

Fig.2に各前処理を行なった鋼板表面のSEMによる観察像を示す。研磨無しの鋼板(a)には結晶粒界が見られたが,エメリー紙研磨(b),バフ研磨(c)を行なうと,鋼板の粒界が不明瞭となり,クラック状の凹部が見られ,(a)~(c)の供試材においては,平滑部には,微細な凹凸が存在した。それに対して,電解研磨を行なった鋼板(d)の表面は平滑であり,また結晶粒界が確認された。

Fig. 2.

SEM images of surface of steel sheet polished with each method.

Fig.3に各前処理を行なった鋼板表面におけるFeの結晶配向性を示す。前処理にかかわらずFeは,{111}面に優先配向しており,特に電解研磨を行なった場合,その傾向が顕著となった。エメリー研磨,バフ研磨を行なった場合は,研磨無しの場合に比べて,{111}面への優先配向がやや小さくなった。

Fig. 3.

Crystal orientation of Fe surface of steel sheet polished with each method. [● 222, ▲ 211, ■ 200, ◇ 110, × 310]

3・2 電析Znの表面性状に及ぼす前処理の影響

Fig.4に各前処理を行なった鋼板にZnを2 g/m2電析させた表面のSEM観察像を示す。研磨無しの鋼板(a),エメリー紙研磨(b),バフ研磨(c)を行なった鋼板上には,微細な粒状のZn電析物が,全面に見られた。また,鋼板に由来するクラック状の凹部が一部見られた。一方,電解研磨を行なった鋼板(d)上の電析Znは,平滑であった。電析ZnがZn六方稠密晶の基底面[{0001}Zn面]に優先配向するとZnの板面が鋼板と平行になる。電解研磨を行なった場合,Znの表面形態から電析Znは{0001}面に優先配向している様子がうかがえる。

Fig. 4.

SEM images of surface of Zn deposited with a coating mass of 2 g/m2 on steel sheet polished with each method.

Fig.5に各前処理を行なった鋼板にZnを10 g/m2電析させた表面のSEM観察像を示す。研磨無しの鋼板(a),エメリー紙研磨(b),バフ研磨(c)を行なった鋼板上には,六角板状のZn電析物が,ランダムに積層して成長した。また,Zn六方稠密晶の基底面が鋼板とほぼ平行になっており,電析Znは{0001}面に優先配向していると予想された。それに対して,電解研磨を行なった鋼板(d)上では,Znの板状結晶が鋼板とほぼ平行に大きく成長し,場所毎に,規則的に積層していることが分かる。エピタキシャル成長している電析Znは,鋼板の結晶粒毎に,薄い六角板状結晶の積層から成り,鋼板の結晶粒界で積層方向が変化することが報告されている11)。本研究において,場所毎にZnの板状結晶が規則的に積層しているのは,Znがエピタキシャル成長しているためと考えられる。すなわち,電解研磨を行なった場合,Znの表面形態から電析Znは{0001}面に優先配向してエピタキシャル成長していると予想される。

Fig. 5.

SEM images of surface of Zn deposited with a coating mass of 10 g/m2 on steel sheet polished with each method.

Fig.67に各前処理を行なった鋼板に電析させたZnの結晶配向性を示す。電析Znは,鋼板の前処理にかかわらず{0001}面に優先配向した。しかし,{0001}面への配向の程度は,鋼板の前処理により異なった。研磨無しの場合[Fig.6(a)],電析初期から{0001}面への配向が大きく,Zn付着量が増加すると,{0001}面への優先配向はさらに大きくなった。エメリー紙研磨[Fig.6(b)],バフ研磨[Fig.7(c)]を行なうと,電析初期における{0001}面への優先配向が,研磨無しの場合より,やや小さくなった。エメリー紙研磨とバフ研磨材をZnの付着量毎に比較すると,総じてバフ研磨を行なった方が,{0001}面への優先配向は大きかった。一方,電解研磨[Fig.7(d)]を行なった場合は,電析初期より,他の前処理材に比べて{0001}面への配向がかなり大きくなった。

Fig. 6.

Crystal orientation of Zn deposited on steel sheet without polishing (a) and with emery paper polishing (b). [● 0002, △ 1013, □ 1011, ◇ 1010, × 1120]

Fig. 7.

Crystal orientation of Zn deposited on steel sheet with buff (c) and electrolytic polishing (d). [● 0002, △ 1013, □ 1011, ◇ 1010, × 1120]

鋼板上での電析Znの結晶配向性は,電析過電圧に依存することが報告8,10)されているため,電析過電圧に及ぼす鋼板前処理の影響を調査した。Fig.8に各前処理を行なった鋼板にZn電析を行なった際の陰極電位の経時変化を示す。陰極電位が卑側に移行するほど,電析過電圧は大きくなることを表している。鋼板の前処理毎に陰極電位を5回測定したところ,5~10 mVのバラツキが生じたため,その中間のプロファイルをFig.8(a),(b)に表示した。Fig.8(b)に示すように,鋼板の前処理によるZn電析電位の差は,5 mV以内であり,これは測定のバラツキの範囲内であった。すなわち,鋼板前処理によるZn電析電位の優位な差は特に認められなかった。

Fig. 8.

Normal (a) and magnified (b) changes in the cathode potential with time during Zn deposition for steel sheet polished with each method. (Online version in color.)

Fig.9に各前処理を行なった鋼板に電析させたZnの結晶子径を示す。電析Znの結晶子径は,鋼板の前処理にかかわらずZnの付着量の増加に伴い大きくなった。Zn付着量20 g/m2では,前処理による差がやや見られたが,Zn 10g/m2以下の領域では,Znの結晶子径に及ぼす鋼板前処理の影響はほとんど見られなかった。ところで,ここで測定した結晶子径は,30~80 nm程度であるのに対して,Zn板状結晶のサイズはFig.5に示すように数μmであり,両者は明らかに一致しない。Znの六角板状結晶は多数の数十nmの粒状結晶から形成されていることが報告されており24),本研究のX線回折ピークの半値幅から測定した結晶子径は,この板状結晶を形成している粒状結晶のサイズに相当するためと考えられる。Fig.5に示すように,鋼板に電解研磨を行なうと,Zn板状結晶のサイズは大きくなったが,Zn結晶子径は増加しておらず,Zn結晶子径とZn板状結晶のサイズには相関が見られなかった。鋼板の電解研磨によりZn板状結晶のサイズが大きくなったのは,Znがエピタキシャル成長をしたためであり,板状結晶を構成する個々の結晶子は電解研磨により大きくなっていないことが分かる。

Fig. 9.

Crystallite size of Zn deposited on steel sheet polished with each method.

Fig.10に各前処理を行なった鋼板に電析させたZnの表面粗度を示す。電析Znの表面粗度は,鋼板の前処理にかかわらずZnの付着量の増加に伴い大きくなった。Zn付着量の増加に伴う粗度増加の程度は,鋼板前処理にかかわらずほぼ同一であり,電析Znの表面粗度は,鋼板の粗度に大きく依存することが分かる。鋼板の粗度は,エメリー紙研磨により大きく低下し,更にバフ研磨を行なうと若干低下した。バフ研磨後,電解研磨を行なうと更に粗度は低下しており,Fig.2に示す鋼板の表面SEM像の結果と一致した。電析Znの表面粗度は,{0001}Zn面の配向指数,Zn板状結晶のサイズに依存するが8,20,21),本研究においては,鋼板の粗度の影響が大きいことが分かる。

Fig. 10.

Surface roughness of Zn deposited on steel sheet polished with each method.

Fig.11に各前処理を行なった鋼板に電析させたZnの明度を示す。素材そのものの明度を評価するSCI方式(正反射光+拡散反射光)による評価では,電解研磨を行なった場合に,明度が高くなったが,Znの付着量が多くなると,他の処理材との差が小さくなった。一方,人間の目視に近いSCE方式(正反射光を除く拡散反射光のみ)による評価では,電析Znの明度はZn付着量の増加に伴い高くなり,Zn 5 g/m2以下の領域では,研磨無しの場合が最も高く,また,何れのZn付着量においても電解研磨を行なった場合が最も小さくなった。電解研磨を行なうと表面粗度が小さくなるため,正反射光の強度が強くなる。このため,電解研磨を行なうと明度は,SCI方式による評価では最も高くなり,SCE方式による評価では最も小さくなったと考えられる。電析Znの明度は,{0001}Zn面の配向指数,Zn板状結晶のサイズに依存するが1,20,21),本研究においては,鋼板粗度の影響がより大きいと考えられる。

Fig. 11.

Lightness evaluated by SCI (a) and SCE (b) methods of Zn deposited on steel sheet polished with each method.

4. 考察

Znめっき鋼板の外観,加工性は,{0001}面への配向性に依存するので17),ここでは,{0001}面への配向性と鋼板の表面性状の関係について考察する。Table 2に本研究で得られた鋼板の前処理による表面性状と電析Znの{0001}面への配向性の関係をまとめた。鋼板にエメリー紙研磨を行なうと,表面の歪みおよびそれに伴う結晶粒微細化の程度が最も大きくなり,次にバフ研磨,研磨無しの順で大きく,電解研磨を行なうと歪みは最も小さくなった。電析Znの{0001}面への優先配向は,電解研磨を行なうと最も大きくなり,次に,研磨無し,バフ研磨の順で大きく,エメリー紙研磨を行なった場合が最も小さくなった。このように,電析Znは,鋼板表面の歪みが小さくFeの結晶粒が大きくなるほど,{0001}面へ配向し易くなった。Fig.5に示す電析Zn表面のSEM像より,電解研磨を行なうと,Znがエピタキシャル成長し易くなることが分かる。Zn/鋼板のエピタキシーが低下するような条件下では,{0001}Zn面の配向指数は減少することが報告されている10)。これは,電析Znは鋼板面に対するZn基底面の傾斜が小さい時,すなわち{0001}面に配向している時の方がよりエピタキシャル成長し易いためである。これは,言い換えると,電析Znがエピタキシャル成長し易い条件下では,{0001}面に配向し易いことを表している。α-Fe上へのZn電析では,Znは初期,バーガースの方位関係〔{110}Fe//{0001}Zn,[111]Fe//[1120]Zn〕に従いエピタキシャル成長することが知られている12,25)が,{111}Fe//{0001}Znの方位関係に従いエピタキシャル成長することも報告されている26)。{0001}Znと{110}Feのミスフィット率は,10.4%と小さいが,{0001}Znと{111}Feのミスフィット率も13.9%と小さいことが報告されている26)。本研究においては,鋼板のFeは,{111}面に優先配向していることから,電析Znは,初期,{111}Fe//{0001}Znの方位関係に従いエピタキシャル成長していると考えられる。鋼板にエメリー紙研磨,バフ研磨を行なうと表面に歪みが発生し,Feの結晶粒が微細化することから,Znのエピタキシャル成長が抑制されると考えられる。エピタキシャル成長は,エメリー紙研磨の場合が最も抑制され,その次が,バフ研磨,研磨無しの順で抑制され,電解研磨の場合が最も抑制が小さいと予想される。このため,エメリー紙研磨,バフ研磨を行なうと{0001}Zn面への優先配向が低下すると考えられる。

Table 2. Relationship between surface texture of steel sheets polished with each method and preferred orientation of {0001} plane of deposited Zn.
Fe Strain Electrolytic < Polishing-free < Buff < Emery
Grain size Electrolytic > Polishing-free > Buff > Emery
Roughness Electrolytic < Buff ≦ Emery < Polishing-free
{111} Electrolytic > Polishing-free > Emery ≒ Buff
Zn {0001} Electrolytic > Polishing-free > Buff > Emery
Epitaxy of Zn/Fe Electrolytic > Polishing-free Buff Emery
Overpotential Electrolytic ≒ Polishing-free ≒ Buff ≒ Emery

鋼板の表面粗度は,電解研磨を行なった場合が最も小さく,その次に,バフ研磨,エメリー紙研磨の順で小さく,研磨無しの場合が最も大きかった。この順番は,電析Znの{0001}面への優先配向の順番と一致しておらず,{0001}面への配向性に及ぼす鋼板粗度の影響は小さいと考えられる。また,鋼板上での電析Znの結晶配向性は,電析過電圧に依存し,過電圧が増加するほどPangarovの理論に従い{0001}面への配向が低下することが報告されている27)。しかし,本研究においては,Znの電析過電圧に及ぼす鋼板前処理の影響は,特に見られなかったことから,{0001}面への配向性と鋼板の表面性状の関係において,過電圧の影響は特にないと考えられる。また,Zn/鋼板のエピタキシーが低下するとZnの成長方向がランダムになるため,Zn結晶は微細になる。電解研磨を行なった場合,Znの板状結晶が大きくなったのは,エピタキシャル成長し易いためと考えられる。

5. 結言

電析前の鋼板に,エメリー紙研磨,バフ研磨,電解研磨を行ない,電析Znの結晶配向性に及ぼす鋼板の表面性状の影響について調査した。鋼板表面の歪みおよびそれに伴うFeの結晶粒微細化の程度は,エメリー紙研磨を行なった場合が最も大きく,その次に,バフ研磨,研磨無しの順で大きく,電解研磨を行なった場合が最も小さかった。電析Znの六方稠密晶の基底面[{0001}Zn面]への優先配向は,電解研磨を行なうと最も大きくなり,次に,研磨無し,バフ研磨の順で大きく,エメリー紙研磨を行なった場合が最も小さくなった。すなわち,電析Znは,鋼板表面の歪みが小さくFeの結晶粒が大きくなるほど{0001}面へ配向し易くなった。電解研磨を行なうと,鋼板の歪みが減少し,Feの結晶粒が粗大となるため,電析Znがエピタキシャル成長し易くなった。鋼板のFeは,{111}面に優先配向していることから,電析Znは,初期,{111}Fe//{0001}Znの方位関係に従いエピタキシャル成長していると考えられる。電析Znがエピタキシャル成長し易い条件下では,{0001}面に配向し易いことが予想された。

文献
 
© 2018 The Iron and Steel Institute of Japan

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