Tetsu-to-Hagane
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ISSN-L : 0021-1575
Special Issue on Friction Welding Technologies for Steel
Effect of Tilt Angle and Plunge Depth of Welding Tool on Friction Stir Lap Welding of Steel Sheet and Aluminum Alloy Sheet
Toshiaki Yasui Yuheng LiuToshiaki FukuharaShuhei YamaguchiKatashi HirosawaTatsuya Mori
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2022 Volume 108 Issue 12 Pages 979-990

Details
Abstract

Friction stir lap welding (FSLW) between SPC270 steel sheet and A6061 aluminum alloy sheet were investigated with the effect of tilt angle and plunge depth of the welding tool. Tilt angle of 3 degree improved the material flow and suppressed generation of defect in the weld. The weld strength with tilt angle increased with the plunge depth of the welding tool and achieved maximum value of 212 MPa at 0.15 mm of plunge depth. From the TEM observation, uniform reaction layer of 450 nm was formed on the weld interface. On the weld interface, probe rotation and movement fabricated weld bead like structure on the steel surface and formed hook like structure on the cross section. Although the weld without tilt angle had a groove like defect, the weld strength was 208 MPa at 0.06 mm of plunge depth. The weld interface was composed of laminated structures with different composition of aluminum and iron with 400 nm in each layer. This achieved by the mixing and pressurization by the probe on the weld interface.

1. 緒言

様々な異種材料を適材適所に配置して造られるマルチマテリアル構造が注目されている1)。なかでも自動車などの輸送機器では,軽量化による燃費低減はCO2の排出削減に有効な方法であり,その構造部材の大部分を占める鉄鋼材料の高強度化による薄肉化と合わせてアルミニウムなどの軽量材料への置換が進められている。その適用にあたっては,鉄鋼材料と軽量材料との接合が必要となるが,ボルトやリベットによる機械的締結では副資材による重量増加や作業時間が問題であり,接着接合はその接合品質の確保に難点があり,直接接合が求められている。一方,従来技術である溶融溶接は,その接合界面に脆弱な鉄とアルミニウムの金属間化合物層が厚く形成され,十分な接合強度が得られない。そこで,固相接合である摩擦攪拌接合(FSW: Friction Stir Welding)による異種金属接合が注目されている2,3)。FSWは,接合ツールを回転させながら被接合部材に挿入し,接合線に沿って移動することで,被接合部材を摩擦発熱により軟化させると共に攪拌混合して融点以下で接合する。その入熱量は,接合ツールの回転数に比例し,接合速度に反比例し,これを接合条件として適正な入熱条件が決定される。その接合法は,アルミニウムや銅を中心に従来の溶融溶接に代わる方法として利用が広がっているが,その多くは同種材の接合である。このFSWを用いた鉄とアルミニウムの突合せ接合において,鉄を接合ツールの前進側(接合方向とツール表面の回転方向が一致し,被接合材に対する接合ツール表面の相対速度が大きくなる方向;Advancing side: AS)に,アルミニウムを後退側(Retreating Side: RS)に配置し,接合ツールの押し込み位置を接合界面よりアルミニウム側にオフセットして挿入することにより接合が可能であることが見いだされた。これは接合ツールが鉄側の接合面をわずかに削ることにより新生面を創出し,そこで鉄とアルミニウムが数百nmの薄い反応層を生成するため,接合強度の高い接合体が得られることが明らかにされている48)。これと同様の原理で鉄とアルミニウムの重ね線接合912)や重ね点接合13,14)においても接合が可能なことが示されており,自動車部品への適用が進められている15,16)

FSWによる異種金属接合をさらに活用するためには厚さ1 mm以下の薄板の重ね線接合への適用が望まれているが,剛性低下による接合体の変形の増大17)や熱容量低下による接合条件の変化18)が問題となる。FSWでは,接合ツール形状と接合中の接合ツールの被接合材に対する挿入角度(前進角)が大きく材料流動に影響することが知られている19)。また,鉄とアルミのFSWによる異種金属接合では,接合界面の鉄表面に接合ツールを押し込んで新生面を創出することが必要とされている412)。そこで,本研究では厚さ1 mmの薄鋼板とアルミニウム合金薄板の摩擦攪拌重ね接合(FSLW: Friction Stir Lap welding)における接合ツールの前進角と押込み量の影響を調査すると共にその接合部組織や接合強度の違いを明らかにし,薄板への摩擦攪拌接合の適用の可能性について考察する。

2. 実験方法

2・1 供試材および接合装置

薄鋼板としてSPC270 (200×60×t1)をアルミニウム合金薄板としてA6063-T6 (200×60×t1)を供試材とし,それぞれを接合実験では上板と下板として用いた。Table 1に示す各材料の化学組成を示す。

Table 1. Chemical composition of weld materials (mass%).
MaterialMgSiFeCuCrMnCZnTiSPAlFe
A6061-T61.000.670.290.280.180.050.030.02Bal.
SPC2700.60.150.0500.50Bal.

接合実験で使用した接合ツールをFig.1に示す。接合ツールは被接合材の内部に挿入されるプローブ部と被接合材表面に押し当てるショルダー部から構成され,本実験では薄鋼板と接するプローブは超硬合金製とし,アルミニウム板のみと接するショルダーは高速度工具鋼製とし,両者を組み合わせて実験に使用した。プローブはM5の左ねじが切られたものを使用し,ショルダーはφ15 mmの平らな面をもつフラットショルダーを用いた(Fig.1)。すべての実験でプローブ先端のショルダー面からの突き出し量を0.8 mmで固定とした。

Fig. 1.

Composition of welding tool with (a) probe and (b) flat shoulder.

接合実験にはコンピュータによるX・Y・Z軸の3軸制御が可能な工作機械(Okuma MP-46V-HT)を使用した。本機は接合ツールの回転軸である主軸を傾斜することができないため,Fig.2(a)に示すように回転させた接合ツールを被接合材に垂直に挿入後,接合方向へ平行に移動することにより前進角なしのFSLWを行う。一方,FSW専用機では主軸を傾斜させる機構を有しており,Fig.2(b)に示すように接合ツールに1~3°の前進角(接合方向に対して接合ツールの前縁を被接合材から浮かし,接合ツールの後縁を被接合材に押し込む傾斜角)を与えたまま接合方向に平行移動してFSWを行う。FSWでは,前進角を与えることにより接合体内の材料流動を制御して接合欠陥の生成を防ぐため,良好な接合体が形成できる接合条件(接合ツール回転数,接合速度)範囲が広くなることが知られている19)。しかしながら,汎用の3軸制御の工作機械では主軸を傾斜させる機能がない。そこで本研究では,Fig.3に示すように被接合材の裏当て板に接合方向に対する傾斜角を予め付与し,接合ツールをこの傾きに合わせて接合方向に移動させることにより,前進角を与えたFSLWを行うこととした。

Fig. 2.

FSLW between A6061 and SPC270 (a) without tilt angle and (b) with tilt angle.

Fig. 3.

FSLW between A6061 and SPC270 by backing plate with tilt angle.

本実験の接合条件をTable 2に示す。すべての実験で接合ツール回転数と接合速度を一定とした。前進角を付与した接合実験では接合ツールの押込み量を変化させて適正な接合条件を求めた。また,接合ツールの前進角や押込み量の影響を明らかにするために,接合中の接合界面の温度と被接合部材に加わる荷重の変化を測定した(Fig.4)。接合界面の温度測定では,接合ツールのプローブ中心に測定用の孔を設けK型シース熱電対によりプローブ先端に測温点を設けた。測定したデータはツールホルダーに内蔵した無線式データロガー(SysCom, BL100-TC4)のリアルタイム送信によりデータを記録した。

Table 2. Welding conditions.
Shape of welding toolShoulderϕ15 Flat
ProbeM5-LH
Plunge depth of probe (mm)−0.05~0.15
Tool rotation (min−1)2000
Welding speed (mm/min)500
Fig. 4.

Tensile shear strength test for FSLW between A6061 and SPC270.

2・2 評価試験

接合体の評価試験として,接合体の外観観察と断面観察,引張せん断強度試験,断面硬さ試験を実施した。引張せん断試験では,1本の接合体よりFig.5に示す幅10 mmの短冊状の試験片を接合線と垂直方向に5本切り出し,万能試験機(Shimazu AGS-H10kN)を用いてクロスヘッドスピード1 mm/minで強度測定を実施した。得られたデータより最大値と最小値を除いた3本の試験片の平均値として接合強度を求めると共に,最大値と最小値をエラーバーで示した。接合断面組織の変化を調査するため,接合断面を鏡面研磨後,濃度0.75 w%のフッ化水素酸でエッチングし,光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡(SEM, JEOL JSM-6390A)により観察を行った。また,鉄とアルミニウムの接合界面状態を調査するために集束イオンビーム加工観察装置(FIB, HITACHI FB2200)により試験片を採取し,透過電子顕微鏡(TEM, JEOL JEM-2100F)とエネルギー分散型X線分析装置(EDS, JEOL JED-2300T)により接合界面の構造観察と元素分析を行った。また,接合ツールのプローブ先端を下板に押し込むことによる下板の表面状態の変化を調査するため,接合体を0.75 wt%のNaOH水溶液に浸漬してアルミニウムを溶解除去し,下板表面状態をSEMにより観察した。

Fig. 5.

Measurement of temperature at weld interface and triaxial force acting on the weld workpieces during FSLW between A6061 and SPC270.

3. 実験結果

3・1 接合状態と接合強度

前進角なしで接合した接合体の外観の例をFig.6 (a)に,前進角ありで接合した接合体の外観をFig.6(b)に示す。接合後に接合体を固定治具から取り外すといずれの接合体においても変形が見られたが,接合部の剥離などはなかった。前進角なしの接合体では,その変形は小さいが,前進角ありの接合体ではより大きな変形が見られたが押込み量による違いは少なかった。Fig.7に押込み量を変化させた接合体の接合面の外観を示す。いずれの押込み量の条件でも接合体を得ることができた。しかし,前進角なしの接合体では,接合体表面の前進側に溝状の接合欠陥が発生した。一方,前進角ありの接合体では,いずれの接合体においても表面に欠陥は確認されなかった。接合ツールの前進角により接合体内部の材料流動が改善し,接合欠陥の生成が抑制されたものと考えられる19)。しかし,押込み量が大きくなるに従い後退側においてバリが連続して発生した。接合ツールの押込み量の増加は,ショルダーによる上板の攪拌を促進すると共に,接合ツールのプローブと下板の薄鋼板の接触により発熱量の増加がすることが考えられる。Fig.8に接合中の接合界面温度を測定した結果を示す。前進角なしの条件で接合中の最高到達温度は560.5°Cであった。前進角ありでは,押込み量0.1 mmで接合中の最高到達温度は551.8°Cとなり,押込み量-0.05 mmで接合中の最高到達温度は504.4°Cと一番低くなった。押込み量の増加と共に下板の鋼板との接触に伴う発熱で接合界面温度は増加する傾向にある。しかし,押込み量0.15 mmで接合中の最高温度は540.7°Cと押込み量0.1 mmより低くなっており,Fig.7における接合面におけるバリ発生に影響した可能性がある。

Fig. 6.

Typical welded specimens by FSLW between A6061 and SPC270 (a) without tilt angle at 0.06 mm of plunge depth, and (b) with tilt angle at 0.1 mm of plunge depth.

Fig. 7.

Appearance of weld surface by FSLW between A6061 and SPC270. (Online version in color.)

Fig. 8.

Measured temperature at the weld interface during FSLW between A6061 and SPC270.

接合体の引張せん断強度を測定した結果をFig.9に示す。前進角なしの条件では溝状の欠陥はあるが,2.08 kNの引張せん断強度が得られた。一方,前進角ありの条件では押込み量の増加とともに引張せん断強度は増加し,最大2.12 kNの接合強度が得られた。また,接合ツールが下板に押し込まれていない押込み量-0.05 mmの条件においても1.88 kNと比較的高い接合強度が得られている。すべての接合条件で引張せん断強度のばらつきの少なく安定した接合強度が得られている。Fig.10に引張せん断試験後の試験片の破断面を示す。Fig.10(a)に示す前進角なしの試験片では前進側の溝状欠陥の部分ではなく,後退側のA6061母材で破断した。前進角ありの押込み量0.05 mmの試験片5本のうち,1本は後退側のA6061母材破断で他の4本はFig.10(b)に示すように界面破断となった。界面破断では,SPC270側の接合面にアルミニウムの付着物の残留は見られなかった。一方,前進角ありの押込み量0.15 mmの試験片ではFig.10(c)に示すように後退側の止端部近傍のA6061母材で破断した。同様に前進角ありの押込み量0.10 mmの試験片もすべて後退側のA6061母材破断となった。一方,前進角ありの押込み量0, -0.05 mmの試験片はすべて界面破断となった。

Fig. 9.

Tensile shear strength of weld specimen by FSLW between A6061 and SPC270.

Fig. 10.

Fractured patterns of tensile shear tested specimens by FSLW between A6061 and SPC270 (a) without tilt angle at 0.06 mm of plunge depth, (b) with tilt angle at 0.05mm of plunge depth, and (c) with tilt angle at 0.15 mm of plunge depth. (Online version in color.)

3・2 接合断面観察

前進角なし,押込み量0.06 mmの条件で接合した接合体を接合方向に対して垂直な横断面を観察した結果をFig.11に示す。白い破線で接合ツールのプローブ部が通過した領域を示す。Fig.7で示された前進側の溝状の接合欠陥を接合断面においても確認された。また,その近傍の接合界面には空洞欠陥も存在した。一方,接合ツールの中心が通過した接合中心から後退側にかけて接合欠陥は確認されなかった。プローブが下板に0.06 mm押し込まれているが,中心部の接合界面は平坦な構造を示している。プローブ通過後の端部の後退側には接合界面の鉄の除去に伴うフック構造を形成し,その一部が切片として接合体内部に分散していた。しかし,接合中心の接合界面の拡大像からは接合界面で反応層の生成を示す領域は確認できなかった。

Fig. 11.

Cross sectional observation of weld by FSLW between A6061 and SPC270 without tilt angle at 0.06 mm of plunge depth.

前進角あり,押込み量0.05 mmの条件で接合した接合体の断面観察結果をFig.12に示す。接合体内部には巨視的な接合欠陥は観察されなかった。接合体表面には,接合中心から前進側と後退側に向かう小さな波状の表面構造が周期的に生成されていた。接合体表面のビート構造に由来するものと考えられる。接合界面にはプローブの押込みに伴うフック構造の形成や鉄の切片の分布などはなく,反応層の生成も確認できなかった。

Fig. 12.

Cross sectional observation of weld by FSLW between A6061 and SPC2070 with tilt angle at 0.05 mm of plunge depth.

一方,前進角あり,押込み量0.15 mmの条件で接合した接合体の断面観察結果をFig.13に示す。接合体内部には巨視的な欠陥は観察されなかったが,鉄の切片がアルミニウム内に分散していることが確認された。接合界面に波打った構造とその外側に微小なフック構造の形成が確認された。フック構造の一部にコントラストの違う領域は存在するが,接合界面に厚い反応層は確認されなかった。

Fig. 13.

Cross sectional observation of weld by FSLW between A6061 and SPC2070 with tilt angle at 0.15 mm of plunge depth.

接合断面観察では接合界面構造を明らかにすることができなかったため,上記の3条件の接合体について透過電子顕微鏡による高分解能観察を行った。観察部は接合中心の接合界面とした。Fig.14に前進角なし,押込み量0.06 mmの条件の接合体の観察結果を示す。Fig.14(a)に明視野像,Fig.14(b)に暗視野像,Fig.14(c)Fig.14(b)に示した測定線でのEDS線分析結果,Fig.14(d)アルミニウム側の電子線回折像,Fig.14(e)にアルミニウムと鉄の間の反応層の回折像,Fig.14(f)に鉄側の回折像を示す。Fig.14(a),(b)より,鉄側の接合界面近傍に接合界面に平行な縞状組織の生成を確認した。Fig.14(c)に示す原子組成の線分析結果より,この縞状組織はアルミニウムと鉄の混在した領域で400 nm以下のアルミニウムリッチな層と鉄リッチな層が交互に積層されて形成された構造であることが明らかとなった。Fig.14(e)に反応層の回折像より,Fig.14(d)と同じ位置の環状の回折像が得られたことからアルミニウムの多結晶構造を含むことが示されたが,鉄や金属間化合物を示す回折像は確認できなかった。

Fig. 14.

TEM observation of weld interface by FSLW between A6061 and SPC270 with tilt angle at 0.06 mm of plunge depth. (a) Bright field image, (b) Dark field image, (c) EDS line analysis across the weld interface depicted in (b), (d) Diffraction pattern of Al side, (e) Diffraction pattern of IMC layer, and (f) Diffraction pattern of steel side.

Fig.15に前進角あり,押込み量0.05 mmの条件の接合体の観察結果を示す。Fig.15(a)(b)より接合界面にアルミニウムと鉄のコントラストとは異なる厚さ400 nm以下の反応層の存在が確認された。厚さは均一ではなく,場所によっては非常に薄くなっていた。Fig.15(c)の原子組成の線分析結果よりアルミニウムと鉄の組成比が階段状となっている領域から金属間化合物としてAl13Fe4の生成が示唆された。しかし,Fig.15(e)の回折像では金属間化合物を示す回折像は確認できなかった。

Fig. 15.

TEM observation of weld interface by FSLW between A6061 and SPC2070 with tilt angle at 0.05 mm of plunge depth. (a) Bright field image, (b) Dark field image, (c) EDS line analysis across the weld interface depicted in (b), (d) Diffraction pattern of Al side, (e) Diffraction pattern of IMC layer, and (f) Diffraction pattern of steel side.

Fig.16に前進角あり,押込み量0.15 mmの条件の接合体の観察結果を示す。Fig.16(a)(b)より接合界面にアルミニウムと鉄のコントラストとは異なる厚さ約450 nmの反応層の存在が確認された。接合界面に沿って均一な厚さで形成されていた。Fig.16(c)の原子組成の線分析結果より,反応層内は一定の原子組成比ではなく,その内部で緩やかに変化していることが示された。Fig.16(e)の回折像からもアルミニウム以外には明確な回折像は確認できなかったが,その回折像はFig.14(c)と類似したものであった。このため,Fig.14(c)のように組成比の異なるものが混在している可能性が示唆された。

Fig. 16.

TEM observation of weld interface by FSLW between A6061 and SPC270 with tilt angle at 0.15 mm of plunge depth. (a) Bright field image, (b) Dark field image, (c) EDS line analysis across the weld interface depicted in (b), (d) Diffraction pattern of Al side, (e) Diffraction pattern of IMC layer, (f) Diffraction pattern of steel side.

3・3 接合界面構造の観察

接合断面の観察の結果,接合ツールのプローブが浅い押込み量の条件では接合界面の新生面が創出されていない可能性があることや,押込みに伴い形成されるフック構造も前進角で異なることが示された。一方,TEM観察では反応層の生成を確認しているが,その接合界面状態が不明である。そこで接合界面状態を明らかにするために,接合体からアルミニウムを溶解除去し,鉄側の接合界面構造の調査を行った。Fig.17に前進角なし/押込み量0.06 mmの条件,前進角あり/押込み量0.05 mmの条件,前進角あり/押込み量0.15 mmの条件での鉄側の接合界面構造を観察した結果を示す。前進角なし/押込み量0.06 mmと前進角あり/押込み量0.15 mmの2条件では,鉄側の接合界面に接合ツールのプローブの押込みに伴い生成された加工痕が残されていた。その構造は接合面に接合ツールの回転移動に伴って生じるビート形状と同じ痕跡であった。接合体の接合面には接合ツール1回転あたりの移動量として定義される回転ピッチ(mm/r)に一致した周期的な加工痕が形成される。拡大像の鉄側の接合界面における加工痕の山間の間隔は本実験の回転ピッチである0.25 mm/rと一致した。しかし,前進角なし/押込み量0.06 mmの条件では,押込み量が小さいためその凹凸は後退側の端部を除き明確ではなかった。Fig.11の断面観察でも接合界面の中央部では凹凸が確認されず,前進側でフック構造が形成されていたことと一致している。一方,前進角あり/押込み量0.15 mmの条件では,押込み量が大きいためにはっきりとした凹凸構造を示しており,特に前進側でその凹凸は大きくなっていた。この凹凸構造は,Fig.13の断面観察で見られた接合界面に沿う波打った構造とその外側の微小なフック構造と合致している。

Fig. 17.

SEM image of steel surface after removal of aluminum sheet from the weld by NaOH solution.

前進角あり/押込み量0.05 mmの条件では,接合界面に明確な加工痕は確認できなかった。しかしながら,TEM観察で反応層が生成していたことや高い接合強度が得られていることから,鉄側接合界面の表面構造は大きく変化していないが,アルミニウムの摩擦攪拌による材料流動で鉄の表面酸化物が除去され接合界面に薄く不均一な反応層を形成したものと考えられる。また,Fig.8に示した接合界面の温度測定の結果より,接合ツールによる鉄側への押込みによる温度上昇が接合界面での反応を促進して均一な厚さの反応層を生成したものと考えられる。押込み量の小さい条件では,均一な厚さの反応層が生成できないため接合界面強度は低く,引張せん断試験では界面破断(Fig.10(b))となったものと考えられる。

4. 考察

初めに接合界面温度に与える前進角(θ)と押込み量(d)の影響について考察する。プローブを円柱形状として考えた場合のプローブの鉄側への押込み状態のモデル図をFig,18に示す。プローブ端面中心の測温点の接合界面からのアルミニウム側への距離をy,プローブで削り取られる鉄の幅をwr,プローブで削り取られた鉄の接合方向から見た面積をSr,プローブと鉄の接触する面積をScとする。Table 3に各前進角と押込み量における上記値と共に接合界面温度を示す。前進角ありの条件では,プローブが鉄側への押し込む量の増加により,測温点が接合界面に近づくと共にプローブが鉄を削る幅やプローブの鉄との接触面積が増大し接合界面温度が上昇する。しかし,押込み量0.15 mmの接合界面温度は,押込み量0.1 mmより低下する。押込み量0.15 mmではyがマイナスとなり,測温点の位置が鉄の内部にあることを示す。測温点の位置が鉄内部にある時はアルミによる摩擦攪拌が起こらず,プローブ先端に鉄の構成刃先が形成されて測温位置が摩擦界面から遠ざかることにより温度が低下した可能性が考えられる。一方,前進角のない条件では,測温点の位置は鉄の内部にある。鉄を削る幅や面積は大きいが鉄切片はプローブ先端面には入り込まずプローブ外周へ排除されるためプローブ中心の測温部では構成刃先を形成せず,プローブ先端面は常に鉄と接触した状態で摩擦界面を形成し,プローブと鉄の接触面積も大きく,接合界面温度が上昇したものと考えられる。このプローブ端面部に排除された鉄切片は,プローブ端部のRSに大きなフックを形成したと考えられる。

Table 3. Effect of tool tilt angle (θ) and plunge depth (d) on probe center (y) steel removal width (wr), steel removal area (Sr) steel contact area (Sc), and steel contact area ratio (ηSc) and probe temperature (T).
θ (°)d (mm)y (mm)wr (mm)Sr (mm2)Sc (mm2)ηSc (%)T (°C)
00.06−0.0650.3019100560.5
3−0.050.180000512.2
30.000.130000527.1
30.050.084.00.142.714550.0
30.100.034.90.376.936551.8
30.15−0.0250.611159540.7

次に接合強度に与える押込み量の影響について考察する。本実験では,接合ツールの押込み量の高い接合条件において,アルミニウム母材近傍で破断する高い引張せん断強度が得られていることから,その接合強度を破断部の試験片断面積(10 mm×1 mm)により応力換算すると前進角なしで208 MPa,前進角ありで212 MPaの接合強度が得られた。A6061-T6母材の引張強度310 MPaよりその継手効率を評価すると,前進角なしの条件で最大67.1%,前進角ありの条件で最大68.3%となり,A6061-T6同士のFSW継手の継手効率20)とほぼ同等であった。FSWでは接合面の止端部の形状により応力集中が発生し,強度低下することが報告されている21)。また,攪拌部と熱影響部の境界付近の最軟化部が形成され破断することなども報告されている6)。本研究では,前進角ありの条件で接合ツールの押込み量の増加により接合界面の接合強度が向上したため接合界面で破断せず,A6061母材近傍のこれらの部位で破断したものと考えられる。鉄とアルミニウムの異種金属接合では,接合界面に生成される金属間化合物層が1 μmを超えると接合強度が低下することが示されている22,23)。本研究での接合界面強度の向上の要因としては,押込み量の増加に伴い接合界面に厚さ1 μm以下の金属間化合物を含む反応層が生成されているためだと考えられる。前進角ありの条件では接合界面構造にプローブに除去された鉄がプローブ後方で接合界面に積層され凹凸構造を持つビード形状を形成している。このビード形状は,接合面と同じような構造を持ち,接合面ではショルダー,接合界面ではプローブの回転移動に伴い形成されたものと考えられる。前進角ありの条件での接合界面での構造は前進角なしの条件とは異なり,アルミニウムと攪拌・混合されていないため縞状組織が形成されず,その表面に単一の反応層を形成したものと考えられる。一方,先行研究では,前進角ありで縞状組織が形成されている例が示されている12)。先行研究の接合条件は,回転ピッチ(接合速度/ツール回転数)が0.083と本研究の0.25よりも小さい入熱量の高い条件で実施されている。このため,接合界面温度やプローブ周りの塑性流動の影響も今後検討が必要である。

一方,前進角なしの条件では縞状組織で構成された1 μm以上の厚さの反応層をもちながら高い接合界面強度が得られている。TEM観察より縞状組織は,異なる原子組成の反応層が積層された構造であったことから,先行研究12)での報告されている圧着・強加圧のプロセスで形成されたものと考えられる。この縞状組織全体の厚さは1 μmを超えているが,一つ一つの縞の厚さは,400 nm以下であるため接合界面強度は高いまま維持されたと考えられる。接合界面構造の観察から,前進角なしでは前進角ありと比較して凹凸が少ない。前進角なしでは,接合方向側のプローブ前端で除去された鉄切片はプローブ先端面に入りこまずプローブ外周に沿ってRSへ排除される。排除された鉄切片は,プローブ周りのアルミニウムの塑性流動によりプローブ後方へ流動し,鉄とアルミニウムが混合して接合界面のビード部の山間の凹部に充填されることにより,縞状構造が形成されている可能性がある。

5. 結言

本研究では厚さ1 mmの薄鋼板とアルミニウム合金薄板のFSLWにおける接合ツールの前進角と押込み量の影響を調査すると共にその接合部組織や接合強度の違いを明らかにした。

(1)前進角ありでは接合欠陥のない接合体が得られるが,接合後に接合体の変形が認められた。その接合強度は押込み深さと共に増大し,押込み深さ0.15 mmの条件で最大の接合強度212 MPa,継手効率68.3%が得られた。

(2)前進角なしの条件では,接合界面に鉄とアルミニウムが異なる原子組成で積層する縞状組織がビート部に形成されるが,各縞の幅が400 nm以下であるため高い接合強度が得られた。

(3)前進角ありの条件では鉄により接合界面に接合面と同様の凹凸構造を持つビード形状を形成し,その表面に厚さ約450 nmの均一な反応層を形成することにより,高い接合強度が得られた。また,ビード形状の山部が接合界面においてフック上の構造を形成した。fig.18

Fig. 18.

Schematic view of effect of tool tilt angle and plunge depth on steel removal width (wr), steel removal area (Sr) and contact area (Sc).

謝辞

本研究は,知の拠点あいち重点研究プロジェクトIII期(革新的モノづくり技術開発プロジェクト「革新的マルチマテリアル接合による軽量・高性能モビリティの実現」)支援のもとに実施されました。

文献
 
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