Africa Report
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2014 Volume 52 Pages 99

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著者が仮面結社の研究を続けてきたザンビア・チェワ社会で、1990年代に入り突如としてキリスト教信仰が広がった。仮面結社のメンバーからも、ズィオン聖霊教会と呼ばれる教会に加わって、仮面舞踏をやめる者が続出する。いわば研究対象消滅の危機ともいえる状況に接して、著者は急成長する聖霊教会に関心を抱き、南部アフリカにおけるその広がりと淵源を探り始める。こうして行われた、足かけ20年にわたる調査をもとに書かれたのが本書である。

著者自身が「アカデミック・ルポルタージュ」(p.3)と呼ぶように、本書は聖霊教会をめぐる謎の探求過程を一人称のドキュメンタリー・タッチで描いている。多くの文献を引用しつつも学術書の形をとらなかったのは、機能的な説明に陥りがちな学術研究、あるいは科学の作法からあえて距離をおき、聖霊による治癒体験を含む人びとの宗教体験に内在的に迫ることによって、「宗教の始原」をなるべくそのままの形で提示したいとの考えからだろうか。治療儀礼を重視する聖霊教会は、人びとにとって教会というよりも病院に近い存在であり、教会の各地への拡散も病院の新規開業のようなもの、との著者の指摘には目を開かされた。ただ、カトリック教会から破門された元大司教ミリンゴによる、悪魔祓い(エクソシズム)によりHIVを含む病を取り除こうとする儀礼は、「治癒」体験として素直に受けとるのに評者は抵抗を感じざるを得なかった。

本書では、聖霊に憑依された霊媒による治療儀礼や、旧約聖書の記述を忠実に再現した「焼き尽くす捧げ物」をはじめとする各種儀礼の様子が、事細かに、臨場感にあふれる形で記録されている。さらに、著者が観察した儀礼がいつ、どこからもたらされたのかを見極めるために、霊媒たちの師匠・弟子関係の系譜を遡り、ザンビアから南アフリカ、ジンバブウェ、マラウィなど南部アフリカ各地を旅する様子が描かれている。念入りに裏とりを重ねながら真相に迫る著者のフィールドワークは、さながら名探偵の推理のようである。儀礼を録音したテープを何度も聞いているうちに霊媒が発する異言の内容を理解できるようになり(!)、異言に混ざる外来語を手がかりとして、聖霊教会の伝播を南部アフリカの人口移動・文化接触の歴史と重ね合わせてみせる著者の力量には脱帽である。

牧野 久美子(まきの・くみこ/アジア経済研究所)

 
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