Africa Report
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2020 Volume 58 Pages 27

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近年アフリカの多くの水域で、資源管理や環境保全をめぐる深刻な問題が顕在化している。その背景には、都市化やグローバル化のなかで、水産資源が従来と異なるナショナル、グローバルなサプライチェーンに組み込まれたことが指摘できる。水産資源には明確な所有権が設定されておらず、「コモンズの悲劇」が起こりやすい。この問題にどう対処するかは、喫緊のグローバルな課題である。

こうした状況下、本書はタイムリーかつ貴重な研究成果である。漁民文化を「漁業を核として形成される、漁民の知恵や技術、水産物の加工と流通、物質文化や食文化、さらに信仰や世界観、歴史・自然環境までも含む総合的な文化」(p.10)と定義したうえで、そのアクターとして、漁師のみならず、水産物加工に携わる人々、水産物流通に関わる仲買人や商人、さらに水産企業や政府、国際機関まで視野に入れる。資源管理や環境保全に関わる問題を考えようとすれば、こうした視角は不可欠であろう。

本書は序章に加え10の章から構成されるが、いずれも充実した人類学的調査を踏まえて、信頼の置ける記述がなされている。魚の種類、漁具の製作法、漁業の方法、漁業従事者や商人の数、取引による利益など、詳細なデータが提示される。このあたりは日本の人類学者のお家芸だと思う。

多くの章で漁獲量の減少や漁獲圧の増加が指摘され、アフリカにおける現状の水産資源管理が持続性の面で問題を抱えていることが理解できる。一方で、それにいかなる対応策がありうるのか、また現実にどんな工夫がなされているのか、という点についての記述は、残念ながら厚くない。本書が今後の研究の基礎作りを目的にしている以上、これはないものねだりかも知れない。ただし、資源管理の課題に直面した住民が自ら規制策を打ち出した事例(10章)など、興味深い記述は本書に散見される。

グローバルな課題への対応策は、ローカルな実践を踏まえなければ有効であり得ない。その意味で、ローカルな実践の解明に主眼を置いた本書のアプローチは意義深い。

武内 進一(たけうち・しんいち/アジア経済研究所・東京外国語大学)

 
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