Africa Report
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2020 Volume 58 Pages 28

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戦時において、ラジオ放送は一般大衆の戦意を高揚させる手段として利用されてきた。ルワンダの紛争では、トゥチへの攻撃を訴えるラジオ放送が暴力の拡大に重要な役割を果たしたことが統計的にも示されている。では逆に、ラジオ放送は紛争を抑制することもできるのか、このことを検討したのが本論文である。

1988年にウガンダ北部で結成された反政府勢力「神の抵抗軍(LRA)」は、その後、ウガンダ国境に近いコンゴ民主共和国、南スーダンなどで紛争を継続し、地元住民に対する襲撃や略奪、誘拐を繰り返している。ウガンダ政府は投降した兵士に対して恩赦を適用する方針を示し、2000年代に、LRAの活動地域では兵士に向けて投降を呼びかけるメッセージを流すラジオ局があらわれた。本論文では、このメッセージの効果について、LRAの活動に関する詳細なデータとメッセージを発信する19のラジオ局の電波出力の情報を利用して検討している。具体的には、対象地域を14km四方のグリッドに分割し、メッセージを発する番組を受信できる区域と困難な区域でLRAの活動を比較するのだが、この方法には問題がある。例えば、LRA兵士の士気が低い区域に放送局がアンテナを設置する傾向があれば、アンテナに近くラジオ番組を良好に受信できる区域はメッセージに関係なく投降兵士が多くなり、メッセージの効果が過大に推定される。幸いなことに、地形の影響からアンテナに近くても受信できない区域があり、著者らは地形も考慮して受信状態を推定することでアンテナ位置の問題に対処している。また、投降メッセージの放送時間も考慮し、メッセージそのものが作用しているのかという疑問にも答えている。

推定の結果は、投降メッセージを頻繁に聞ける区域では、LRA兵士の投降が多く、LRAによる襲撃件数と死亡者数が減ることを示している。そして、2008-15年の間で、メッセージにより投降兵は297人増え、死亡者は1151人減ったと推測している。本質的な効果の理解には、なぜメッセージが投降を促すのかを検討する必要があるが、この点は未完である。ただし、メッセージの効果は農産品価格の影響を受けること、特に綿花の価格上昇はメッセージ効果を増幅(投降が増加)させ、落花生の価格上昇は効果を減衰させることや、アチョリ語のメッセージは効果が小さいことなど、メッセージの作用についてうかがわせる結果が示されている。本論文は、武装解除の手段としてラジオの有効性を明らかにしており、政策的な貢献も大きい。

福西 隆弘(ふくにし・たかひろ/アジア経済研究所)

 
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