Africa Report
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2022 Volume 60 Pages 43

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独裁政権には制度化によって指導者の権力が制限される場合と、制度化されずに権力が維持される場合があるが、なぜそのような違いが生まれるのか。本書はこの問いを発端として、サハラ以南アフリカ(以下、アフリカ)諸国の指導者らが、どのような条件下で制度化して他のエリートに権限の一部を委譲し、その支持を得ようとするのかを論じている。本書の「制度化」は、エリート間の権力と財の分配に関する規則や仕組みを設けることを指し、制度化のなかでもとくに指導者の交代手続きと閣僚任命の仕組みの導入に着目している。本書には、指導者の制度化に関するゲーム理論(第2章)、カメルーンとコートジボワールの初代大統領の事例の比較(第3章)、1960~2010年のアフリカ46カ国における独自のデータを用いた3つの実証分析の結果がまとめられている(第5~7章)。このように本書はさまざまな研究手法を組み合わせて、独裁政権の制度化について多角的に分析している。

本書では3つの結論が導き出されている。第1に、就任当初、弱い指導者は強い指導者より制度化する(具体的には大統領任期および後継者について憲法で定める)可能性が高いということである。第2に、制度化する弱い指導者は制度化しない弱い指導者よりも長期政権を築く傾向がみられ、クーデタによる政権転覆の可能性が低いということである(ただし、就任当初、強い指導者は制度化の影響をほとんど受けない)。第3に、後継者が憲法で定められている方が定められていない場合よりも大統領の交代が平和的に行われ、体制が安定的に継続することである。このなかで最も重要な議論は、弱い指導者による統治は一見、不安定であり、制度化はその権力をさらに弱めてしまうように思われるが、実際には制度化することによって安定し、長期政権を築くことができるということであろう。

先行研究では指導者の権限を抑制しうる制度として、政党、議会等が取り上げられているが、本書は大統領任期および大統領の後継者に関する憲法上の規定に焦点をあてている点が革新的である。その有効性は先行研究と本書の違いを論じた第4章でも明らかにされており、本書はアフリカの政治体制と制度化についての新たな知見を提供している。ただし、2つめの実証分析で、初代大統領を強い指導者、2代目以降の大統領を弱い指導者とみなして、政権の長さやクーデタ発生の可能性を比較しており、その妥当性に疑問が残った。今後の研究によってその妥当性が検証され、理論が精緻化されることを期待したい。

粒良 麻知子(つぶら・まちこ/アジア経済研究所)

 
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