Africa Report
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2022 Volume 60 Pages 44

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低所得のアフリカ諸国でも中間所得層が形成されてきており、都市部に居住するかれらを対象とした研究もみられるようになってきた。本書もそうした研究に位置づけられるが、大学を卒業したばかりの若者たちが中間所得層へと変化していく過程を追っている点、さらに、それに付随する都市間の移動(urban-to-urban migration)の役割について検討している点に特徴がある。

中間層のほとんどは都市での経済活動で収入を得ていることを考えると、都市間の移動は必然であり、そこにさほど目新しさは感じられない。より大きな都市に憧れ、個人主義的な都市生活を享受する一方で、大都市での競争に悩まされ地方都市へと移動するものがいたり、伝統的な親族関係をおろそかにすることに後ろめたさを感じるなど、本書で紹介される若者たちのエピソードには既視感がある。しかし、都市間移動に注目する意義はエチオピアのコンテクストにあると感じた。まず、エチオピアでは海外の出稼ぎに注目が集まりがちであるので、著者は、中間層の形成には国内移動を観察することが重要だと繰り返し主張している。さらに、民族に基づく連邦制という統治制度のもとでは、州を越えた都市間移動によって、若者たちは多民族社会を実感し、そこで成功するスキルを得ている。とくに、エチオピアでは大学入学に際して他州の大学を割り当てて、大学の民族構成を多様化させる政策をとっており、大学教育を受けた中間層の卵たちは、他民族が中心の都市にある多民族のキャンパスで暮らすという共通の経験を有している。この経験の共有が、中間層という明確なメンバーシップがない集団において一体性の醸成に貢献していることを、著者は指摘している。

本書の研究対象の多くは北部のティグライ州の出身者であり、他州では中央政府の庇護を受けた民族として反感を買うことも多い。人生で初めての都市間移動となる大学時代に、他民族の人々と付き合う術を身につけ、民族を越えたネットワークの基盤を作ることで優位性を得ている。著者によるフィールドワークは、こうした点を明らかにしながら終了するのだが、その後に発生したエチオピア北部を中心とした紛争は、ティグライの若年中間層の基盤を破壊してしまう。あとがきでは、フィールドワークの後日談として、紛争下の若者たちの状況が説明される。

本編における若者たちの描写は軽く、現実離れした若者像が描かれた小説を読んでいるような感覚すら感じる。しかし、彼らの成功は平和のもとでのみ可能であり、紛争下では都市間移動はおろか、事業の継続、資本の保全すらかなわないという現実が、最後の数ページで示される。本書を手に取る方は、あとがきまで読了していただきたい。

福西 隆弘(ふくにし・たかひろ/アジア経済研究所)

 
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