Africa Report
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2023 Volume 61 Pages 19

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変動期にあるアフリカ社会におけるメディアの重要性は、先行研究において共通の認識になっている。本書は、人々が民主化という変動をどう捉えてきたのかを、ベナン共和国のラジオをめぐる人々の具体的な語りのなかから明らかにする。

本書は全8章で構成される。序章では、先行研究を整理し本書のねらいを示す。第一章は、1990年代の民主化を背景とした民営放送の開始によるメディアの歴史を整理する。民営局が音楽や娯楽を取り入れたり、独自の視点をもつ個性的なジャーナリストの出演、リスナー参加型の多彩な番組内容を提供したりすることによって聞き手の市場を拡大するなか、国営局もこれに対応して多様化した。第二章は、2000年以降の大統領選挙とその報道に焦点をあて、メディアを積極的に動員し、新たな情報流通を活用する選挙戦略に転換してゆく状況を考察する。第三章は、ジャーナリストへのインタビューをとおし、民主化を進める変動期において、彼らが自由な言論・表現活動のために自律的であろうとする一方で、生活環境などの厳しさから金銭に惑わされ特定の政治家と結託する危険も抱えていることを考察する。第四章は、日々の生活の不満を電話で述べるリスナー参加型番組のリスナーをとりあげる。常連参加者たちの語る不満は水道や電気、道路といった暮らしのなかの困りごとから、給与や物価などの経済問題、不正や汚職といった行政への批判など多様である。それは同じ不満を抱える他のリスナーたちと共有され、共感する人々が集まることによって現状の変化につながる契機が生まれる。常連参加者のなかには、能動的にメディアにかかわり、そこから積極的に社会参加を行うようになった者たちもいる。第五章は、隣国トーゴと比較してベナンのメディア事情が論じられる。第六章は、宗教的表象がメディアをとおして多くの人々に届くようになり、公共性をもつにいたったこと、そして宗教がつねにメディアを必要としている状況が指摘される。終章では、各章の議論を簡潔にまとめるとともに、社会再生産論とデモクラシー論のなかに本書を位置づけ、その意義をまとめている。

従来の先行研究は、メディア機関に焦点をおいており必ずしも個々の人々の暮らしに焦点をあててこなかった。本書はそこに焦点をあて、生活に広く浸透するラジオを通じた人々の社会や政治への参加のあり方を詳細かつ丁寧に描く。綿密な実地調査と聞き取り調査にもとづくきわめて優れたアフリカのメディア論である。

岸 真由美(きし・まゆみ/アジア経済研究所)

 
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