Africa Report
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2023 Volume 61 Pages 47

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本書は、ケニアで蜂蜜の生産と販売をおこなうハニー・ケア・アフリカ(HCA)社を事例として、利潤獲得という経済的目的と貧困層支援などの社会的目的を同時に追求する「営利型社会的企業」の課題を探究した著者の博士論文を書籍化したものである。

本書は序章・終章を含め全8章から構成されている。社会的企業の営利企業化に関して問題提起する序章に続き、第1章では社会的企業に関する先行研究が検討される。第2章では、社会的企業が社会的目的を達成するには当事者の参加やエンパワーメントが不可欠であり、その鍵となる参加型統治を実現するには、一般的な事業コストに加えて追加的なコストがかかり、社会的企業が埋め込まれている制度的環境からも影響を受ける、という本書の分析視点が示される。続く第3章から第6章でHCA社の事例分析が行われる。そこでは2000年創業のHCA社が、経営陣とビジネスモデルの変化を重ねるなかで、近代的養蜂を通じて小規模農家の収入機会を創出するという当初の社会的目的を果たせぬまま営利企業化していった過程が、公開資料や関係者へのインタビューなどに基づき詳細に描かれる。企業としては存続していても、社会的目的を実質的に失うことになったHCA社を、著者は社会的企業の「挫折」の事例として位置づける。「挫折」の要因として著者が指摘するのは、競争的な市場環境におかれ、投資家から財務的成果を問われる社会的企業が、当事者参加を確保し、エンパワーメントを実現するために必要な追加的なコストを事業収入から負担することの困難さである。これらの議論を踏まえ、終章では途上国における社会的企業の発展の方向性が、法制度整備なども含めて検討される。

近年、途上国開発を推進する主役は開発援助機関よりも民間企業であるという見方が強まっている。なかでも、社会的な目的・使命を掲げる社会的企業には、市場からの事業収入獲得を通じて持続的に社会問題解決に貢献しうる存在として注目が集まってきた。しかし、経済的に自立して事業活動を継続しながら社会的目的を達成するのは容易ではないということを、本書は詳細な事例分析を通じて明らかにしている。市場メカニズムを通じた社会問題解決に過度な期待をかける社会的企業論に一石を投じる良書である。

牧野 久美子(まきの・くみこ/アジア経済研究所)

 
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