Africa Report
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2023 Volume 61 Pages 49

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開発のために必要な財源の欠如に悩む多くの発展途上国が、自国内に有望な資源を発見して、これを有効利用することにより、経済発展の道を歩み出そうとするが、その資源が当該国の政治経済を大混乱に陥し入れ、発展の阻害の原因になってしまう事例が多くみられる。これを指して「資源の呪い」という言葉が生まれてからすでに久しい。しかしなぜこのような事態に陥るかについての実証的研究は多くはない。本書は、長らくアフリカの大国ナイジェリア連邦共和国を研究してきた著者による研究の集大成であり、この難問に取り組んだ研究がその中心となる。  

著者はナイジェリアについて「なにゆえに石油大国になったにもかかわらず、貧困問題が緩和,解消されないのであろうか」、また「国民的統合が実現されないのはなぜか」という疑問を、現地で手に入れた歴史資料を詳細に分析して、その理由を解き明かす。

ナイジェリアの原油輸出は1965年に始まり、1974年には輸出額の90%、連邦歳入に占める石油収入の比率は80%前後に達した。連邦政府の石油収入の配分をめぐる争奪戦が展開され、独立から今日に至る半世紀の間に、実に7回に及ぶ軍事クーデターを誘発することになった。石油はナイジャー・デルタに偏在しているが、この地域には、「少数部族」が居住している(著者は注記で、集団のカテゴリーとして部族という用語を使う理由を説明しているが、その成員を指すときには、「イジョ人」というように使うとしている)。石油収入の争奪戦は、少数部族による自治権、石油収入の正当な配分の要求としても現われた。本書がとくに力点をおいて分析しているのが、歳入発生地域への優先的利益配分システムをめぐり、連邦内の政治諸勢力との合意がとれなかった経緯である。さらにこれらの困難に拍車をかけて事態を悪化させていったのが、頻繁に行われた政権担当者の公金横領問題であった。

本書の後半は、第II部「財政連邦主義の歴史的展開」と題して、1900年の植民地時代から現在も続く第四共和政時代までの歴史をたどって、政府収入の配分の変遷を詳しく説明している。ナイジェリアの36の州と774の地方政府からなる連邦国家が、歴史的にどのように歳出配分政策をおこなってきたのかという問題が、数字をあげて詳しく説明されており、それは精度の高い分析となっている。

吉田 昌夫(よしだ・まさお/アジア経済研究所名誉研究員)

 
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