Africa Report
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2023 Volume 61 Pages 54

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本書は、アフリカの農業・農村を自然社会の農という視点でとらえ、そのさまざまな特性について論じたものである。編者による第1章序論によれば、サハラ以南アフリカの農業・農村は、古代農業革命を経験していないため、集権的な国家権力によって農業生産が支配されるような社会(=農業社会、本書ではアグラリアン社会とも表記される)とはなっておらず、自然社会の状態にある。よって、農業社会を基盤とする近代農学にはアフリカの農業・農村の特性を理解し評価することも、その発展の道筋を提示することもできない。近代農学とは異なる自然社会の農学を理念化・体系化する必要があり、本書の第4部でその試みがなされている。

自然社会の営みとしてのアフリカの農業・農村の特性は、第2部の5つの章で説明される。各章のタイトルには特性を表わすキーワード(「流動性と開放性」、「生業の複合性と多様性」、「農法や作物の非画一性」、「分与の経済と食の安定」、「富の蓄積と再生産」)が用いられ、各章の導入部で農業社会の特性との対比が示されるため、農学を専門としない読者にとっても分かりやすい。たとえば、コンゴ盆地の熱帯雨林に住む農耕民は移動性が非常に高く、世帯の一部または全体の移住に伴い、耕作地も移動する。これは、ひとつの場所に定住し、決められた土地を何年にもわたり耕作する定住農業とは異なる。また、多様な作物をひとつの畑に植え、一年中、何らかの作物の収穫ができる混作という栽培方法は、単一の作物を整然と栽培して収量増大を目指す農業とは異なる。ザンビア北部のベンバ農村にみられる「分かち合い」の慣行には、生産の共同体ではなく消費の共同体としての農村社会の組織論理が表れている。

本書にはアフリカの農業・農村の魅力的な姿がたくさん描かれている。アフリカの農業・農村の特性を把握したうえで、発展について考えるべきとの主張ももっともなものである。他方で、本書に描かれているようなアフリカの農業・農村は、人口密度が低く、未利用地が十分に存在することを前提に成立しているようにも感じられた。アフリカには土地不足が深刻で土地紛争が起こっているような国もあるし、国家と農民の関係性も国により異なるかもしれない。とはいえ、近代農学の前提を克服することによってこそアフリカ農業・農村の特性を正当に評価できる、との本書の主張は示唆に富むものであり、開発学を学ぶ人や実務家など多くの方々にぜひお薦めしたい一冊である。

佐藤 千鶴子(さとう・ちづこ/アジア経済研究所)

 
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