Africa Report
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2024 Volume 62 Pages 24

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本書は、開発経済学の入門書である。新書の体裁で気軽に読みやすい内容となっている。新型コロナウイルス対策や「持続可能な開発目標」(SDGs)など最近の話も網羅されており、興味深く読み進めることができる。アフリカのみを対象とした本ではないが、事例としてアフリカの国々が取り上げられている。

本書は4章構成となっている。まず、第1章「開発経済学の始まりと終わり?」は、20世紀初頭の開発経済学の最初の理論(二重経済論)の紹介から始まる。発展途上国の経済成長のための試行錯誤の歴史を21世紀初頭のミレニアム開発目標まで一気に概観している。第2章「21世紀の貧困――開発の成果と課題」では、より脆弱な存在である女性、難民、障害者などをとりあげ、21世紀の貧困問題を解説している。第3章「より豊かになるために――経済成長とイノベーションのメカニズム」では、経済成長についての議論を示したのち、開発途上国の人々の生活、特に保健分野に影響を与える技術革新について紹介している。HIV/エイズや新型コロナウイルスに対する薬やワクチンの開発における国際協力のあり方についての解説は興味深い。特に最近のトピックである新型コロナウイルスのワクチン開発や開発途上国へのワクチン供給についてコンパクトに経緯がまとめられている。第4章「国際社会と開発途上国――援助と国際目標」では、第二次世界大戦後に、政府開発援助においてどのような援助政策が採用されてきたかを紹介している。内容は盛りだくさんであり、援助の抱える問題点を指摘するとともに、援助評価のさまざまな方法を紹介し、さらには急拡大している中国による開発途上国援助についても紙幅を割いている。加えて現在進行中のSDGsを批判的に取り上げて、その前身であるミレニアム開発目標と比較して「内向き」志向であり、開発途上国を支援するという側面が薄まっていることを指摘している。そして最後に日本による開発援助のあり方についての問題提起を行っている。

経済理論と援助政策の区別が若干曖昧なまま話が進んでいく点が気になるものの、開発経済学の理論の解説だけでなく、最近のトピックに関する援助政策も取り上げられていて、開発経済学をより身近に感じることができる。注記や参考文献が巻末にあり、さらに詳しく学びたい読者にとって有益な情報を提供してくれる。多岐にわたる内容を取り上げており、開発学に興味のある学生や社会人の方々にとって、良い出発点となる本といえよう。

児玉 由佳(こだま・ゆか/アジア経済研究所)

 
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