Africa Report
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2024 Volume 62 Pages 25

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アフリカ理解を押し上げる色彩豊かな論文集が公刊された。本書のタイトルには、「(本書に)広がるのはあたかも万華鏡(カレイドスコープ)を覗いているかのような、模様を次々と融通無碍に変転させつつ光彩陸離とした輝きを放つアフリカ潜在力の豊饒なる世界にほかならない」(p.iii)との編者の思いが込められている。ここでいう「アフリカ潜在力」とは、2010年代以来展開されてきた科研費による共同研究プロジェクトの中心テーマだった概念である。同プロジェクトでは、この「アフリカ潜在力」が果たして何であるかについて終始議論が交わされた。編者は、その議論の只中に身を置いた当事者としての理解に立ち、こうまとめている。「『アフリカ潜在力』とは、しばしば静態的なものとみなされる『伝統』とは一線を画すところの、アフリカの人びとが問題解決や福利増進のために動態的に採用・創造・蓄積・活用してきた『在来』の豊かな知識、制度、思想、価値観などのことを指す」(p.i)。

こうした視座に立ち、本書第1章は西ケニアの人びとに寄り添うことで、コロナ禍において日常的な極度の生活困難、ひいては生存の困難が生じていることを示し、そこにみられる従来の互助とそれを越える新たな技法の創発を解明する。同じケニアを取り上げた第6章は、伝統的であることを称賛されながら一方でそれを否定する「開発=発展」への参加を求められている牧畜民の人びとを活写し、その葛藤や柔軟性を社会の内部から捉え直す。また第3章は、20年以上にわたるカメルーンでの調査に基づき、インフォーマル・セクターに従事する人びとのシェアリング・エコノミーおよび他者と共存・共栄しようとする思想を炙り出す。ブルキナファソの若き国家元首、トマ・サンカラが残した債務演説を取り上げ、その意義を文化人類学的負債論の視座から捉え直して強い印象を残すのは第7章である。その他本書では、ガーナ南部の仕立屋女性たち(第2章)、南アフリカに住むコンゴ人ディアスポラたち(第4章)、日本在住ナイジェリア人ディアスポラたち(第5章)、西サヘル「農牧紛争」の「ホットスポット」(第8章)、植民地期ナイジェリア(英領)における現地コミュニティの人びと(第9章)が次々と描き出される。

編者の語る通り、このカレイドスコープを覗き込んだ読者は、著者たちの長年のフィールドワークや緻密な研究活動に裏打ちされた、新しいアフリカの人びとの姿と歴史に触れることができる。専門家向きだが、その含意は私たち一人ひとりに自省を促さずにはいない。アフリカに興味のある人にはもちろん、日本に暮らし、アフリカから縁遠い人たちにもぜひ手に取ってもらいたい一冊である。

津田 みわ(つだ・みわ/アジア経済研究所)

 
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